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60年以上の謎「ディアトロフ峠事件」に物理学で迫った。2021年の"小さな雪崩"モデルとは

60年以上の謎「ディアトロフ峠事件」に物理学で迫った。2021年の"小さな雪崩"モデルとは

読む前に予想してみよう!

ディアトロフ峠事件の研究では、雪の動きを計算するのにアニメ映画のために作られた技術が参考にされた

研究カード(どんな研究?)
対象
1959年の事故現場の地形・気象・検視記録
規模
9人の事例
研究の種類
物理モデル・数値シミュレーション
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

1959年、旧ソ連の雪山で登山者9人が亡くなった事件。2021年、スイスの研究者が「テント設営の切り込み+風で積もった雪」による小さな雪崩の仕組みを示した。

ひとことで言うとなぞの雪山事件を、雪と風の物理で説明しようとした研究がある。

もくじ
  1. 雪崩説は「ありえない」とされてきた
  2. カギは「切り込み」と「吹きだまり」
  3. 「小さな雪崩」がなぜ重傷を?
  4. どんでん返し:これで「完全解決」ではない
  5. まとめ

1959年2月、旧ソ連・ウラル山脈北部の雪山で、経験豊富な9人の登山者が全員亡くなりました。リーダーの名前から、ディアトロフ峠事件と呼ばれています。

テントは内側から切り裂かれ、メンバーは厳しい寒さの中、十分な防寒着も靴もないまま斜面を下っていました。さらに数人には、骨折などの重いけががありました。

この不可解さから、軍の秘密実験説、宇宙人説、未知の獣説まで、60年以上さまざまな説がささやかれてきました。2021年、そこに雪の物理学で切り込んだ研究が登場します。

01雪崩説は「ありえない」とされてきた

実は、雪崩説は昔からありました。しかし、次のような理由で否定的に見られてきたのです。

  • テントのあった斜面はそれほど急ではなかった
  • 捜索隊が雪崩の跡をはっきり見つけていない
  • 雪崩がいつ、何をきっかけに起きたのか説明できない
  • 一部のけがが、普通の雪崩の被害と違って見える

2019年にはロシアの検察が調査を再開し、2019年にはロシアの検察が調査を再開し、2020年7月に雪崩が最も可能性の高い原因だと結論づけましたが、それでも多くの人は納得しませんでした。

02カギは「切り込み」と「吹きだまり」

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のゴームと、チューリッヒ校(ETH)のプズリンは、この4つの疑問に物理モデルで答えようとしました。

これなら、すぐに雪崩が起きなかった理由(時間差)も、ゆるい斜面でも起きた理由(人工の切り込みと、雪の下の地形の起伏)も説明できます。

斜面の切り込みの上に、風で雪が積もって「板」がはがれる――これが新しいモデルの核心
斜面の切り込みの上に、風で雪が積もって「板」がはがれる――これが新しいモデルの核心

03「小さな雪崩」がなぜ重傷を?

捜索隊が大きな雪崩跡を見つけられなかったのは、はがれた雪の塊が小さかったからだと考えられます。小さくても、固く締まった雪の板は相当な重さがあります。

2人は、雪の塊がテントの中で寝ている人にのしかかったときの衝撃を計算しました。ここで使われたのが、映画『アナと雪の女王』の雪の表現のために開発された計算手法をもとにしたシミュレーションと、かつての自動車の衝突安全研究のデータです。

結果、重い雪の塊が、命は奪わないが、骨折などの重いけがを起こしうることが示されました。検視で報告された「重いが即死ではないけが」とつじつまが合います。

登山者たちは雪崩に驚いてテントを内側から切って脱出し、下の森へ向かった、と考えられます。そして夜の極寒の中で、多くが低体温症で亡くなった――これは当時の検視で主な死因とされたものです。ただし、脱出後の行動まではこの研究では説明されていません。

04どんでん返し:これで「完全解決」ではない

研究者自身も、このモデルですべてが証明されたわけではないと述べています。示したのは「雪崩で説明がつきうる」という物理的な可能性です。

なぜ1.5km近くも離れた場所まで下ったのか、なぜ一部の人がテントから離れた場所でばらばらに見つかったのかなど、当時の人の判断や行動は、物理だけでは決められません。

その後、2人は現地調査を重ね、2022年には「この峠では雪崩は珍しくない」ことを現地で確かめたと報告しています。それでも、1959年のあの夜に何が起きたかを直接見た人はいません。

05まとめ

  • 1959年、9人の登山者が亡くなったディアトロフ峠事件は、長く「説明不能」とされてきた
  • 2021年、テント設営の切り込みと風による吹きだまりが、半日ほど後に小さな雪崩を起こすモデルが示された
  • 小さくても重い雪の板が、重いけがを説明しうる
  • ただし「可能性を示した」段階で、人の行動まですべて解明されたわけではない

怪しい陰謀説より、雪と風の物理のほうがずっと身近で、そして怖いのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn February 1959, nine skilled hikers died in the northern Ural Mountains, and their tent had been cut open… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In February 1959, nine skilled hikers died in the northern Ural Mountains, and their tent had been cut open from the inside. Because the slope was not very steep and searchers found no clear signs of an avalanche, this explanation was long rejected, and stranger theories became popular.

In 2021, however, the researchers Gaume and Puzrin offered a physical model. They suggested that the hikers had cut into the slope to set up their tent, and that strong winds later carried snow onto the slope above. As the weight increased, a small slab of snow broke away hours later. Using a computer method first developed for the snow in the film Frozen, they showed that such a slab could cause serious injuries.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1959年2月、ウラル山脈北部で9人の熟練した登山者が亡くなり、彼らのテントは内側から切り開かれていました。斜面はそれほど急ではなく、捜索隊が雪崩のはっきりした跡を見つけなかったため、雪崩という説明は長い間否定され、もっと奇妙な説が広まりました。

しかし2021年、研究者のゴームとプズリンが物理モデルを示しました。彼らは、登山者がテントを張るために斜面を削り、その後強い風が上の斜面に雪を運んだと考えました。重みが増すにつれ、何時間もたってから小さな板状の雪の塊がはがれ落ちたのです。映画『アナと雪の女王』の雪のために最初に開発されたコンピューターの手法を使って、彼らはそうした雪の板が重いけがを起こしうることを示しました。

4択リーディングクイズ

Q1. Why was the avalanche explanation rejected for a long time?

Q2. What did Gaume and Puzrin use to study the impact of the snow?

Q3. What can we infer about the cut the hikers made in the slope?

重要単語

  • avalancheB2
    名詞雪崩The avalanche was small but powerful. 比喩で an avalanche of ~「殺到する~」(an avalanche of emails など)としても使う。
  • slopeB1
    名詞斜面They set up their tent on a gentle slope. gentle slope(ゆるい斜面)⇔ steep slope(急な斜面)をセットで覚える。
  • slabC1
    名詞板状の塊A slab of hard snow slid down the mountain. a slab of concrete / stone など、厚い板状のもの全般に使う。slab avalanche は「表層雪崩の一種」。
  • katabatic windC1
    名詞(句)斜面を吹き下ろす冷たい風Strong katabatic winds carried snow onto the slope. kata-(下へ)はギリシャ語由来。catastrophe(大惨事)の cata- と同じ。
  • hypothermiaC1
    名詞低体温症Most of the hikers died of hypothermia. hypo-(下)+therm(熱)。反対は hyperthermia(高体温症)。thermometer(温度計)も同語源。
  • simulationB2
    名詞模擬計算・シミュレーションThe simulation showed how the snow could fall. simulate(模擬する)の名詞形。similar と同じ「似せる」が語源。
  • plausibleC1
    形容詞もっともらしい・ありうるThe model offers a plausible explanation. a plausible explanation「もっともらしい説明」は論説文の定番。反対は implausible。

動画でもっと知る

60年以上謎だったディアトロフ峠事件。2021年、スイスの研究者が「テント用に削った雪の段差+強風の吹きだまり」で半日ほど後に小さな雪崩が起きる物理モデルを示した。

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出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Gaume & Puzrin (2021) Mechanisms of slab avalanche release and impact in the Dyatlov Pass incident in 1959, Communications Earth & Environmentdoi.org
  2. Puzrin & Gaume (2022) Post-publication careers: follow-up expeditions reveal avalanches at Dyatlov Pass, Communications Earth & Environmentdoi.org
  3. Stomakhin et al. (2013) A material point method for snow simulation, ACM Transactions on Graphicsdoi.org