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脳と心理ホント

幽体離脱は脳で再現できた。電気刺激とVRゴーグルで「自分を後ろから見る」体外離脱体験の脳科学

幽体離脱は脳で再現できた。電気刺激とVRゴーグルで「自分を後ろから見る」体外離脱体験の脳科学

読む前に予想してみよう!

幽体離脱は、健康な人でも実験室で似た体験を起こすことができる

研究カード(どんな研究?)
対象
てんかん患者・健康な成人
規模
症例報告〜数十人規模の実験
研究の種類
症例研究・実験研究
確かさ
★★★☆☆
3秒でわかる

幽体離脱(体外離脱体験)に似た体験は、脳への電気刺激や、VRゴーグルを使った錯覚で起こせる。魂が抜けるのではなく、脳が「自分の位置」を計算しまちがえて起きるらしい。

ひとことで言うと幽体離脱は、脳が「自分はどこにいる?」を計算しまちがえて起きる!

もくじ
  1. 脳の一点を刺激したら「自分を上から見ている」感覚が起きた
  2. 幽体離脱の正体は「自分の位置」の計算ミス
  3. 健康な人でもVRで「体の外にいる感覚」が起きた
  4. 再現できても、すべてが解明されたわけではない
  5. まとめ

「寝ていたら、天井近くから自分の体を見下ろしていた」――いわゆる幽体離脱。科学では体外離脱体験(out-of-body experience)と呼ばれます。

結論から言うと、幽体離脱に似た体験は、実験で起こせることが分かっています。脳の特定の場所を刺激したり、VRゴーグルで感覚をだましたりする方法です。魂が体から抜け出しているのではありません。脳には「自分はいまどこにいるのか」を計算する仕組みがあり、それが一時的にズレて起きる現象だと考えられています。

01脳の一点を刺激したら「自分を上から見ている」感覚が起きた

同じグループは2004年、脳の病気がある患者6人を詳しく調べました。6人は、体外離脱体験や、自分の姿が目の前に見える体験(自己像幻視)をした人たちです。そのうち5人で、脳の側頭頭頂接合部(そくとうとうちょうせつごうぶ、TPJ)という場所に損傷や異常が見つかりました。患者たちは「浮いている」「回転している」といった平衡感覚の異常も感じていました。手足が縮んだように感じた人もいました。

02幽体離脱の正体は「自分の位置」の計算ミス

私たちは普段、「自分は自分の体の中にいる」と当たり前に感じています。でも実はこれ、脳が絶えずつくり出している感覚です。

脳は、次のような情報をまとめて、「自分はここにいて、こんな姿勢だ」と判断しています。

  • 目から入る映像
  • 皮膚の触覚
  • 体の傾きや動きを感じる平衡感覚(前庭感覚)
  • 筋肉や関節からの情報

側頭頭頂接合部は、こうした情報をまとめる働きをしていると考えられている場所です。

ここがうまく働かないと、「見ている位置」と「体の位置」がバラバラになります。その結果、「自分を外から見ている」感覚が生まれる――これが有力な説明です。

視覚・触覚・平衡感覚がそろわないと、「自分の居場所」がずれてしまう
視覚・触覚・平衡感覚がそろわないと、「自分の居場所」がずれてしまう

03健康な人でもVRで「体の外にいる感覚」が起きた

2007年、Science 誌に2つの研究が同時に発表されました。

ひとつは、当時ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ(UCL)にいたエールソンの実験です。参加者は頭にゴーグルをつけ、自分の2メートルほど後ろに置いたカメラの映像を見ます。実験者は参加者の胸を棒でつつき、同時にカメラのすぐ下でも棒を動かします。映像で見ると、そこは自分の胸があるはずの位置です。すると参加者は、「自分の体の後ろに座っている」ような感覚を報告しました。さらに、カメラの下をハンマーで叩くふりをすると、皮膚の汗の反応(ドキッとしたときの反応)が強く出ました。

もうひとつは、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のレンゲンハーガーとブランケらの実験です。参加者は、目の前に映し出された「自分の背中」がなでられる映像を見ます。同時に、本物の背中もなでられます。すると参加者は、自分の位置が映像の体のほうへ引き寄せられたように感じました。

つまり、目で見ている情報と体の感覚をずらすだけで、健康な人の「自分の居場所」は動いてしまうのです。

04再現できても、すべてが解明されたわけではない

ここまで読むと「幽体離脱の謎は解けた!」と思うかもしれません。でも話はそこまで単純ではありません。

電気刺激の研究は、ごく少数の患者での報告です。VR実験で起きるのも、「体の後ろにいるような気がする」程度の感覚です。臨死体験や睡眠中に語られる、鮮明で「本物そっくり」な体験と完全に同じとは言えません。また、なぜ一部の人だけが自然に体験しやすいのかも、まだよくわかっていません。

05まとめ

幽体離脱(体外離脱体験)は、脳の働きで起きる現象と考えられています。電気刺激でもVRでも、「自分はここにいる」という当たり前の感覚が、案外かんたんに動いてしまいます。

「自分はここにいる」という感覚は、最初から体の中に固定されているわけではありません。脳が絶えずつくり直している感覚なのかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerAn out-of-body experience is the feeling of seeing your own body from outside. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

An out-of-body experience is the feeling of seeing your own body from outside. In 2002, Swiss doctors were testing the brain of a patient with epilepsy before surgery. When they stimulated an area on the right side of the brain with weak electricity, the patient reported seeing their own body lying on the bed from above.

Later research pointed to a region called the temporoparietal junction, which is thought to combine information from vision, touch and the sense of balance. In 2007, two experiments showed that healthy people can have a similar illusion. Participants wore goggles that showed video from a camera behind them. When what they saw matched what they felt, they felt as if they were outside their own body.

122 words ・ CEFR B1

和訳を見る

体外離脱体験とは、自分の体を外から見ているように感じることです。2002年、スイスの医師たちは、てんかんの患者の脳を手術前に検査していました。脳の右側のある部分を弱い電気で刺激したところ、患者はベッドに横たわる自分の体を上から見ていると訴えました。

その後の研究では、側頭頭頂接合部と呼ばれる領域が注目されました。そこは視覚、触覚、平衡感覚からの情報をまとめる場所だと考えられています。2007年には、2つの実験によって、健康な人も似たような錯覚を体験できることが示されました。参加者は、自分の後ろに置いたカメラの映像を映すゴーグルをつけました。目で見ているものと体で感じるものが一致すると、参加者は自分の体の外にいるかのように感じたのです。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the main idea of the passage?

Q2. What is the temporoparietal junction thought to do?

Q3. What can we infer from the 2007 experiments?

重要単語

  • out-of-body experienceB2
    名詞(句)体外離脱体験(幽体離脱)She described an out-of-body experience during surgery. 略して OBE。near-death experience(臨死体験、NDE)とセットで出ることが多い。
  • illusionB2
    名詞錯覚The VR setup created a strong illusion. optical illusion「目の錯覚」が定番。be under the illusion that ~「~だと思い違いをしている」。
  • perspectiveB2
    名詞視点The camera changed his visual perspective. per-(通して)+spect(見る)。from a different perspective「別の観点から」は英作文で使える。
  • stimulateB2
    動詞刺激するDoctors stimulated a small area of the brain. 名詞は stimulation(刺激すること)と stimulus(刺激そのもの、複数形 stimuli)。stimulate the economy「景気を刺激する」。
  • self-consciousnessC1
    名詞自己意識Bodily self-consciousness depends on many senses. 日常語では「人目を気にすること」の意味が多い。研究では bodily self-consciousness(身体的自己意識)として使われる。
  • vestibularC1
    形容詞前庭の(平衡感覚の)Vestibular signals tell us which way is up. vestibule(玄関ホール)から。内耳の入り口にある平衡感覚の器官を指す。乗り物酔いの説明でも登場。

4コマでわかる

幽体離脱は脳で再現できた。電気刺激とVRゴーグルで「自分を後ろから見る」体外離脱体験の脳科学の4コマ漫画
幽体離脱は脳で再現できるらしい。てんかんの検査中の患者の脳の一点を電気で刺激したら、「ベッドに横たわる自分を上から見ている」と言った。VRゴーグルでも健康な人に“体の外にいる感覚”を作れた。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Blanke, Ortigue, Landis & Seeck (2002) Stimulating illusory own-body perceptions, Naturedoi.org
  2. Blanke, Landis, Spinelli & Seeck (2004) Out-of-body experience and autoscopy of neurological origin, Braindoi.org
  3. Ehrsson (2007) The Experimental Induction of Out-of-Body Experiences, Sciencedoi.org
  4. Lenggenhager, Tadi, Metzinger & Blanke (2007) Video Ergo Sum: Manipulating Bodily Self-Consciousness, Sciencedoi.org