大学で多読プログラムを運営する方法|図書の準備・評価・続けるコツ
多読はやさしい英語の本をたくさん読むことで、読む速さや語彙の定着を促す学習法です。高校までの授業と違い、大学では科目の設計の自由度が比較的高く、多読を本格的に取り入れやすい環境があります。この記事では、大学で多読プログラムを立ち上げ、学期を通して運営するための具体的な手順を紹介します。

01大学で多読を行う意味:精読だけでは足りない理由
大学生の多くは、高校までに英文を正確に読み解く訓練を積んでいます。一方で、大量の英文を楽に読む経験は不足しがちです。
多読の考え方としては、Richard DayとJulian Bamfordが示した原則がよく知られています。その中心にあるのは次のような考え方です。
- 読む英文はやさしいこと
- たくさん読むこと
- 学習者が自分で本を選ぶこと
- 読むこと自体が目的であり、テストのために読むのではないこと
- 教師も読み手の手本になること
精読が「虫眼鏡で英文を見る練習」だとすれば、多読は「英文の中を歩き回る練習」です。どちらかではなく、両方があって初めて読む力はバランスよく育つと考えると、カリキュラムの中での位置づけが明確になります。
使い方:多読を教室に持ち込む方法を語る講演の1回目です。この節の多読の原則を、カリキュラム会議で精読との役割分担として説明する準備に使います。
02図書の準備:何を、どれだけそろえるか
多読プログラムの成否は、学生が読みたいと思える本が、ちょうどよいレベルで手に取れるかに大きく左右されます。
図書選びのポイント
- レベル別の本(Graded Readers)を中心にする:語彙数が段階的に制限されたシリーズを複数の出版社からそろえる
- 一番やさしいレベルを厚めにする:大学生でも、最初は拍子抜けするほどやさしい本から始めるほうが続きます
- ジャンルを広げる:小説だけでなく、伝記・科学・ノンフィクションも入れる
- 音声付きの本も用意する:聞きながら読む選択肢があると、苦手な学生も入りやすくなります
冊数は、受講者数と貸出期間から逆算します。たとえば受講者が100人で、1人が1週間に2冊借りるなら、最低でも200冊が常に貸し出し可能である必要があり、選ぶ余地を考えるとその数倍は欲しいところです。
一度にすべてそろえる必要はありません。初年度はやさしいレベルに集中して購入し、利用記録を見ながら翌年度に補充するのが現実的です。図書館と連携して、多読コーナーを作ってもらえるかも相談してみましょう。
予算を申請するときの書き方の例
「受講者○人が週2冊を借りられるよう、やさしいレベル(レベル1〜2)を中心に○冊を整備し、学期の初めと終わりに読む速さを測って効果を確認する」のように、冊数の根拠と効果の確かめ方をセットで書くと、学内での説明が通りやすくなります。
03図書とオンラインの多読資源:組み合わせ方と記録の道具
紙の Graded Readers を中心にしつつ、オンラインの資源を組み合わせると、貸出の待ちや冊数不足を補えます。
| 資源 | 特徴 | プログラムでの使い方 |
|---|---|---|
| Extensive Reading Foundation | 多読の国際団体。受賞作の情報など本選びの手がかりがある | 図書の購入リストを作るとき、レベルごとの候補を探す |
| Xreading | Graded Readers のオンライン図書館(有料、主に学校単位の契約) | 学内で契約できる場合、紙の図書と並行して読書量の記録に使う |
| ER Central | 段階別のやさしい英文を、読んで聞ける無料サイト(記録には登録が必要) | 契約がない場合の無料の選択肢として、授業外の読書に紹介する |
| 多読ストーリー | このサイトのオリジナル短編(A1〜B2、和訳・質問つき) | オリエンテーションで「やさしい英文」の体験に使う |
| 多読ログ | 読んだ語数を記録できる100万語ログと、読む速さ(WPM)の測定つき | 学生が個人で語数と読む速さを記録する道具として紹介する |
| MReader | 読んだ本の内容に関する簡単なクイズで読書量を記録するシステム | 読書量の確認を自動化したい場合の選択肢として検討する |
組み合わせの例
- 授業内の10〜15分:紙の Graded Readers(教師も一緒に読む)
- 授業外:紙の本の続き、またはオンラインの資源で1日15分
- 記録:読書記録用紙か多読ログに、書名・レベル・語数・ひとことを書く
- 月1回:多読ログのWPM測定で、同じレベルの本を読む速さを記録する
オンラインの資源を使う場合も、多読の原則(やさしい本を、たくさん、自分で選んで)は変わりません。
使い方:多読をゼロから始める人向けの基本の講演です。図書の購入計画を図書館と相談する前に見て、「やさしい本を厚めに」という方針の根拠を説明する材料にします。
04初回オリエンテーションの進め方
最初の授業で多読の考え方をしっかり伝えるかどうかが、その後の読書量を左右します。90分の初回オリエンテーションの例です。
- 体験(15分):最もやさしいレベルの本を全員に配り、10分間読む。「これなら辞書なしで読める」という感覚を味わってもらう
- 説明(15分):多読の考え方を説明する。キーワードは「辞書を引かない」「分からなければ飛ばす」「つまらなければやめる」
- レベル選び(20分):複数のレベルの本を少しずつ読み、「1ページに知らない語が1〜2個以下」のレベルを自分の出発点にする
- 貸出体験(20分):実際に本を2冊選んで借りる
- 記録の説明(10分):読書記録の付け方を説明する
- 目標設定(10分):学期の読書量の目標を自分で決めて書く
「やさしすぎる本を読むのは恥ずかしい」と感じる学生もいます。やさしい本を速く読むことにこそ意味があることを、最初に伝えておきましょう。
使い方:多読とは何かを40秒ほどで紹介する短い動画です。初回オリエンテーションの「説明(15分)」の冒頭で流し、キーワードの説明につなげます。
05読書記録と評価:点数化しすぎない工夫
多読を単位のある科目に組み込むなら、何らかの評価が必要です。ただし、評価が重すぎると「テストのために読む」ことになり、多読の良さが失われます。
記録の項目例
- 日付、書名、レベル、語数(シリーズに記載があれば)
- 面白さ(★1〜3)
- ひとことコメント(日本語でも英語でも可)
評価の考え方の例
- 読書量:学期の語数や冊数の目標に対する達成度
- 継続性:毎週読んでいるか(まとめて最後に読むのではなく)
- 振り返り:学期中に2回、自分の読書を振り返る短い文章を書く
オンラインで本の内容に関する簡単なクイズに答えて読書量を記録するシステム(MReaderなど)を利用している大学もあります。こうした仕組みを使うかどうかは、学生数や運営体制に合わせて検討しましょう。
ポイント:評価の目的は「読ませること」ではなく「読む習慣を支えること」。読書量の多さだけでなく、継続できたことも認める設計にすると、苦手な学生も参加しやすくなります。
06授業時間内の多読と、他の活動とのつなぎ方
多読を授業外の課題だけにすると、読む時間をとれない学生が出てきます。毎回の授業の最初の10〜15分を多読の時間にするだけで、読書量は安定しやすくなります。
授業内の多読と組み合わせる活動の例
- ブックトーク(5分):ペアで最近読んだ本を紹介する。 I read a book about a girl who... / It was easy to read because... のような型を示す
- ポップ作り(学期に1回):おすすめの本を1枚のカードで紹介し、図書のそばに掲示する
- 速読の記録(月1回):同じレベルの本を一定時間読み、1分あたりの語数を記録する
教師自身も、学生と同じ時間に本を読む姿を見せることが大切です。教室が静かに本を読む空間になると、「読むのが当たり前」という雰囲気が生まれます。
使い方:読む流暢さを育てることについての講演です。月1回の速読の記録を取り入れる前に見て、学生に「やさしい本を速く読む」意味を説明する言葉を用意します。
07図書館・同僚・学生アシスタントとの連携体制
多読プログラムは、担当教員一人の努力だけでは長続きしません。立ち上げの段階から、誰が何を担うかを決めておくことが大切です。
役割分担の例
- 図書館:図書の購入手続き、登録、配架、貸出の管理、多読コーナーの設置
- 担当教員:図書の選定、オリエンテーション、読書記録の確認、評価
- 同僚の教員:自分の授業でも多読を紹介する、学期末の振り返りに参加する
- 学生アシスタント:おすすめ本のポップ作り、貸出の補助、新入生への体験談の紹介
年間の打ち合わせの目安
- 学期前:図書館と購入計画・配架の相談
- 学期の中盤:貸出状況の確認と、足りないレベルの把握
- 学期末:利用記録と学生の振り返りをもとに、翌年度の計画を立てる
特に図書館とは、貸出データを共有してもらえるかを早めに相談しておくと、どのレベルの本がよく読まれているかが分かり、次年度の購入に生かせます。
08よくある失敗と、続けるためのコツ
1. 難しい本から始めてしまう
大学生だからと中級以上のレベルから始めると、辞書を引きながらの精読になってしまいます。迷ったらやさしいほうを選ばせましょう。
2. 学期末に駆け込み読書が起こる
締め切り前にまとめて読むと、読んだ記録はあっても習慣は残りません。毎週の最低ラインを決め、途中で進み具合を確認します。
3. 担当者が一人で抱え込む
図書の管理、記録のチェック、貸出の運営を一人で行うと続きません。図書館や同僚、学生アシスタントに役割を分けて頼む仕組みを初年度から作りましょう。
4. 効果が見えず不安になる
効果は短期間では見えにくいものです。学期の最初と最後に読む速さを測るなど、変化を記録する仕組みを用意しておくと、学生にも教員にも励みになります。
まずは次学期に向けて、手元にあるやさしい英語の本を10冊集め、授業の最初の10分で読む時間を試してみてください。
使い方:多読をカリキュラムにどう位置づけるかを扱うウェビナーです。効果が見えにくいと感じたときに見て、学期の最初と最後に測る項目を決め直します。
このコラムで使うサイト・アプリ
もっと見たい人へ
今日やること
よくある質問
何語くらい読めば効果がありますか?
効果が出るまでの量には個人差があり、一律の数字で示すのは難しいです。大切なのは、学期を通して継続的に読むことです。語数の目標は、学生のレベルと授業外学習の時間を考えて現実的に設定しましょう。
多読の本の内容を確認するテストは必要ですか?
必須ではありません。内容確認のテストが重すぎると、多読が精読になってしまいます。読書記録や短い感想、ブックトークなど、負担の軽い方法で読んだことを確かめる方法も検討してみてください。
予算が少なくても始められますか?
始められます。初年度はやさしいレベルに絞って購入し、図書館の既存の所蔵や、公開されている無料の多読用読み物を組み合わせる方法があります。利用記録をもとに、翌年度の予算要求の根拠を作ることもできます。
読了ボーナス


