EMI 授業の始め方と課題|英語で専門科目を教える大学教員の実践ガイド
「来年度から、この専門科目を英語で開講してほしい」――国際化の流れの中で、英語教員だけでなく専門分野の先生にもこうした依頼が増えています。EMI(English-Medium Instruction)は、ただ日本語の講義を英訳すれば成立するものではありません。この記事では、EMIを初めて担当する先生が最初の一学期を無理なく乗り切るための考え方と手順をまとめます。

01EMIとは何か:CLILとの違いを押さえる
EMIは、英語を媒介言語として専門科目の内容を教える授業のことです。目的はあくまで専門内容の習得で、英語力の向上は副次的な効果として期待されることが多い、というのが一般的な位置づけです。
よく比較されるのがCLIL(内容言語統合型学習)です。違いを大まかに整理すると次のようになります。
- EMI:主目標は内容。言語面の到達目標は明示されないことが多い
- CLIL:内容と言語の両方を意図的に目標に置き、言語支援を授業設計に組み込む
実際の教室では、この二つはきれいに分かれません。EMIとして始めた授業でも、学生がついてこられなければ言語支援が必要になり、結果的にCLIL的な工夫が入ってきます。
ポイント:EMIを担当するなら「私は語学の先生ではない」と割り切りすぎず、「内容を理解させるための最低限の言語支援はする」という立場を取ると、授業が安定します。
シラバスには、到達目標を内容中心に書きつつ、「専門用語を英語で説明できる」のような言語面の目標を1つ添えておくと、学生にも授業の性格が伝わりやすくなります。
02EMI を始める前に見ておきたい講演と、準備に使える無料教材
EMI については、研究者の講演や日本の大学の事例紹介が多く公開されています。下の動画で論点を押さえてから、教材づくりに入ると迷いが減ります。
| 目的 | 教材 | 使い方 |
|---|---|---|
| EMI と CLIL の違いを知る | 下の短い動画(CLIL か EMI か) | 学内で言葉の使い方をそろえる前の共通理解づくりに使う |
| 日本の大学の文脈で考える | 下の日本の高等教育に関する発表 | 自分の大学に置き換えて、受講生の構成を考える |
| 英語の講義の見本を見る | Open Yale Courses・MIT OpenCourseWare | 自分の分野に近い講義の構成やスライドの量を参考にする |
| 用語リストと表現を作る | Academic Phrasebank | 定義・比較・原因と結果を説明する表現を、スライドと用語リストに取り入れる |
| 学生の語彙の土台を確かめる | EAP Foundation | アカデミック語彙のリストを学生の自習用に紹介する |
最初の1回分を作る手順
- 第1回のゴールを英語1文で書く(By the end of today, you will be able to ...)
- 専門用語を10語選び、英語・日本語・短い定義の表にする
- スライドを1枚1メッセージで作り、10〜15分ごとに理解確認の問いを入れる
- スライドと用語リストを前日までに LMS で公開する
使い方:高等教育における CLIL と EMI について語る約3分の動画です。この節の比較と合わせて見て、自分の授業をどちら寄りで設計するかを決めます。
使い方:日本の高等教育における EMI と Global Englishes の視点を扱う発表です。自分の職場に置き換え、受講生の多様な英語をどう扱うかを考えます。
03始める前の準備:学生と教材を見極める
EMIの準備で最初にやるべきことは、受講する学生像の確認です。同じ「英語開講」でも、留学生が多いクラスと、日本語話者がほとんどのクラスでは設計がまったく変わります。
- 履修予定者の構成(留学生の割合、学年、既習科目)を教務や前任者に確認する
- 英語の資料を読む経験がどの程度あるかを把握する(初回アンケートでもよい)
- 使う教科書・論文の英語の難易度を確認し、必要なら章を絞る
- 専門用語リスト(英語・日本語・短い定義)を作成し、LMSに置く
初回アンケートは短い英語で構いません。
- How comfortable are you with reading academic texts in English? (1-5)
- Which part of this course are you most worried about?
- Have you taken any courses taught in English before?
この結果をもとに、スライドの文字量や、配布資料をどこまで補助するかを決めます。準備段階で用語リストとスライドの事前公開を決めておくだけで、学生の不安は大きく下がります。
使い方:EMI の授業がどのように進められるかを扱う講義シリーズの1本です。学生への事前説明にも使えるので、初回アンケートの前に受講予定者に案内します。
04学生の言語支援と足場かけの具体例
足場かけ(スキャフォールディング)は、学生が一人ではまだできないことを、一時的な支援で可能にする工夫です。EMIでは次のような支援が効果的です。
講義前
- スライドとキーワードリストを前日までにLMSで公開する
- 各回のゴールを英語1文で示す(例:By the end of today, you will be able to explain the difference between fixed and variable costs.)
講義中
- 1つのスライドに1つのメッセージ。文章ではなく短い句で示す
- 重要な定義は板書またはスライドで文字にする(聞き取りだけに頼らない)
- 10〜15分ごとに理解確認を入れる
理解確認の問いかけは、Yes/Noで答えられる「Do you understand?」より、中身を言わせる形にします。
- In one sentence, what is the main idea of this slide?
- Turn to your partner and explain this graph in your own words.
- Which word on this slide is new to you?
講義後
- 要点を3行でまとめた英語の振り返りを提出させる
- よくあった質問をまとめて次回冒頭で共有する
ポイント:支援は「ずっと続ける」ものではありません。後半の回では用語リストを学生に作らせるなど、少しずつ外していきます。
使い方:CLIL で言語を中心に据える考え方のウェビナーです。足場かけの具体例(キーワードリスト・理解確認)を足す前に見て、言語支援の範囲を決めます。
05日本語併用(トランスランゲージング)の考え方
「EMIなのだから日本語は一切禁止」とするか、「難しいところは日本語で」とするかは、多くの先生が悩む点です。近年は、複数の言語資源を学びに活用するトランスランゲージングという考え方も広く知られるようになりました。
大切なのは、日本語を使う場面をルールとして決めておくことです。場当たり的に切り替えると、学生は「結局日本語で説明してくれる」と英語を聞かなくなります。
使い分けの例です。
- 講義本体・スライド・課題の指示:英語
- ペアでの話し合いの最初の数分:日本語可(内容理解を優先)
- 話し合いの結果の共有・発表:英語
- 専門用語:英語と日本語を併記した用語リストを配布
留学生が受講している場合は、日本語で話すグループができると孤立が生まれます。その場合は「グループ内の共通言語は英語」と明示しておきましょう。
シラバスに書く場合の例文です。
- The main language of this course is English. You may use Japanese in pair discussions to check your understanding, but all presentations and written assignments must be in English.
06評価の設計:内容と英語をどう分けるか
EMIの評価で起こりがちなのが、英語が上手な学生が高得点を取り、内容理解が深い学生が報われないという問題です。成績評価の説明責任を果たすためにも、評価の観点を事前に明示しておきましょう。
評価配分の一例です。
- 毎回の振り返り(内容理解):20%
- 小テスト(用語と概念の理解):20%
- グループ発表:25%
- 期末レポート:35%
ルーブリックでは、「内容の正確さ」「論理の組み立て」と「英語の伝わりやすさ」を別の観点として分けます。英語の観点は、文法の細かな正確さよりも「読み手に意図が伝わるか」を基準にすると、EMIの趣旨に合います。
ポイント:「英語の誤りでは大きく減点しない。ただし意味が通らない場合は内容点にも影響する」とシラバスに書いておくと、学生も安心して書けます。
期末レポートの指示文の例です。
- Write a 1,000-word report applying one theory from this course to a real case. Your report will be assessed mainly on the accuracy of content and the clarity of your argument.
0715回の授業計画例と教員の負担を減らす工夫
半期15回・各回100分を想定した構成例です。
- 第1回:オリエンテーション、用語リストの使い方、アンケート
- 第2〜5回:基礎概念(講義60分+ペア活動・確認30分+振り返り10分)
- 第6回:小テスト①と復習
- 第7〜10回:応用・事例分析(講義は40分程度に短縮し、グループ活動を増やす)
- 第11回:小テスト②、発表準備
- 第12〜13回:グループ発表
- 第14回:総まとめ、レポート構想の相談
- 第15回:振り返りと質疑
EMIは準備に時間がかかります。負担を減らすには次の工夫が有効です。
- スライドは翌年も使う前提で作り、毎年2〜3回分ずつ改善する
- 英語の添削を教員がすべて抱え込まず、ルーブリックとピアレビューを活用する
- 学内の英語教員や、ライティング支援の窓口があれば連携する
- 自分の英語を完璧にしようとしない。明瞭さと準備で十分に伝わる
08よくある失敗と最初の一歩
EMIを始めた先生がつまずきやすいポイントです。
- 日本語の講義をそのまま英訳する:情報量が多すぎて学生が消化できません。英語では内容を7〜8割に絞る覚悟を持ちましょう。
- 話し続けてしまう:学生の反応が見えないまま90分が過ぎます。15分ごとの確認を時間割に組み込みます。
- 質問が出ないのを理解と誤解する:英語で質問するのはハードルが高いもの。LMSの匿名質問やコメントシートを用意します。
- 評価基準が曖昧:英語力で差がついたように見え、学生の不満につながります。
まずは、次の学期に担当する科目の第1回分だけ、スライドを英語で作り、キーワードリストを添えてみてください。1回分を丁寧に作ると、全体の設計のイメージがつかめます。
使い方:応用言語学者との EMI に関する10分あまりの対談です。よくある失敗を確かめたあとに見て、学内で EMI を検討する会議の論点メモを作ります。
このコラムで使うサイト・アプリ
もっと見たい人へ
今日やること
よくある質問
英語の発音や文法に自信がなくてもEMIは担当できますか?
担当できます。EMIで大切なのは、専門内容を明瞭に伝えることです。ゆっくり話す、要点を文字で示す、準備したスライドに沿うといった工夫で、十分に伝わる授業になります。
EMIとCLILはどちらを目指すべきですか?
授業の目的と学生の英語力によります。内容習得が主目的ならEMIの位置づけで構いませんが、学生の実態に合わせてCLIL的な言語支援を取り入れると、多くの場合うまくいきます。
留学生と日本人学生が混在するクラスで気をつけることは?
グループ内の共通言語を英語にする、役割を明確に割り振る、日本の事例だけに偏らないなどの配慮が有効です。双方が貢献できる課題設定を意識しましょう。
読了ボーナス


