ランニング・ディクテーション ― 走って読んで、覚えて伝えて、書きとる
廊下や教室の後ろに貼った英文を、走者が読みに行って覚え、席に戻って書き手に口で伝えます。読む・覚える・話す・聞く・書くが一度に動き、教室が一気ににぎやかになるペア活動です。
- ⏱ 時間
- 15-20分
- 🧰 準備
- 少し
- 👥 形態
- ペア(3人でも可)
- 🎯 技能
- リーディング・スピーキング・ライティング・ゲーム
- 📶 CEFR
- A1-B1

- 英文を意味のまとまりで覚え、正確に口で伝える。聞き手は聞いた音を正しい綴りで書く。
- 最後の答え合わせで、つづり・語順・冠詞・語尾などの細かな形に自分たちで気づく。
- 体を動かしながら協力することで、全員が英語を使う時間をつくる。
ランニング・ディクテーションってなに?
ひとことで言うと、離れた所に貼った英文を、走者(runner)役が読みに行って覚え、席に戻って書き手に英語で伝え、書き手がそれを書きとる活動です。
伝言ゲームに、最後の「答え合わせ」をつけたものです。伝言ゲームは、どこかで話が少しずつ変わっていくのが楽しいところですが、この活動では最後に元の文と比べて、どこで伝言がずれたのかをペアで話し合うところまでやります。そこが学びの時間になります。
ふつうのディクテーションとのちがい
| ふつうのディクテーション | ランニング・ディクテーション | |
|---|---|---|
| 英文を読む人 | 先生(または音声) | ペアの相手 |
| 動き | 席で聞いて書く | 走者役が早歩きで読みに行き、戻って伝える(走らない) |
| 使う力 | 聞く・書く | 読む・覚える・話す・聞く・書く |
やり方を3ステップで
- 覚える:走者がポスターまで行き、文をまとまりで覚える。
- 伝えて書く:席に戻って英語で伝え、書き手が書く。2文ごとに役割を交代する。
- 比べる:元の文と比べて違いに赤で印をつけ、どこでなぜずれたかをペアで話し合う。
授業の流れ(分ごと)
| 時間 | 先生 | 生徒 |
|---|---|---|
| 0:00〜2:00 | ルールと役割を説明。安全の約束を確認 | 走者・書き手を決める |
| 2:00〜12:00 | "Go!" タイマー10分。ポスター付近と教室を巡回 | 走者が覚えて伝え、書き手が書く。2文ごとに交代 |
| 12:00〜13:00 | "Stop!" 元の文を配る/映す | 自分たちの文と比べ、違いに赤で印 |
| 13:00〜16:00 | まちがいの種類の数え方を示す | ワークシートの表で分類・ペアで話す |
| 16:00〜18:00 | よくあったまちがいを全体で2〜3個取り上げる | 気づいたことを発表 |

- 準備:5〜8文、40〜80語の英文を大きく印刷し、教室の後ろや廊下に3〜4か所貼る(同じ文を複数貼ると混雑しません)。既習の本文や、これから読む本文の要約が使いやすいです。
- 机の配置:ペアで座り、書き手は席から動かない。走者の通路をあけ、行きと帰りの向きを決めて一方向に回るようにする。「runner(走者)」は役の名前で、教室でも廊下でも走らず早歩きと最初に約束する。混みそうなら、組ごとにスタートをずらす。
- 役割:ペアの1人が走者(runner)、1人が書き手(writer)。
- スタート:走者はポスターまで行って文を意味のまとまりで覚え、席に戻って英語で伝える(一度で覚えきれなければ何度往復してもよい)。書き手は聞いて書く。走者はポスターから叫ばない、書き手のノートを見ない、つづりを1文字ずつ言わない(どうしても伝わらない語だけOK)。
- 2文ごとに交代:走者と書き手を入れかえる。
- 完成したら答え合わせ:先生が元の文を配るか映す。違いに赤で印をつけ、ワークシートの表でまちがいの種類を数える。
- 話し合い:「どうして間違えたか」をペアで話す(読みまちがい?覚えちがい?聞きまちがい?つづりの知識?)。完成した文だけでは原因は決まらないので、どの段階でずれたかを2人でふり返って考える。先生は多かったまちがいを全体で取り上げる。
ポスター用のオリジナル英文です。1文ずつ別のポスターにしても、全文を1枚にしてもOK。
Story A(中1・6文)
- Last Sunday, I went to the park with my dog.
- His name is Pochi, and he is very small.
- In the park, Pochi saw a big black cat.
- He started to run after the cat.
- I ran after Pochi, but he was too fast.
- Finally, the cat climbed a tree, and Pochi came back to me.
Story B(中2〜中3・5文) 7. Yuki has been practicing the piano for ten years. 8. Last month, she played in a big concert for the first time. 9. She was so nervous that her hands were shaking. 10. When she finished, everyone in the hall stood up and clapped. 11. She says it was the most wonderful moment of her life.
Story C(高校・5文) 12. More and more people are using bicycles instead of cars in our city. 13. One reason is that riding a bicycle is good for your health. 14. Another reason is that it doesn't cause air pollution. 15. However, some roads are still dangerous for cyclists. 16. The city is planning to make more bicycle lanes next year.
- 小学校:英文ではなく、絵カードと単語1語で。走者は絵を見て単語を言い、書き手はその絵を描くか、単語カードを選ぶ形にします。
- 中学:今日の文法事項(過去形・比較など)を含む文にすると、答え合わせで自然にその形に注意が向きます。
- 高校:最後の答え合わせのあと、完成した文章の続きを1文ずつ書き足す、または要約を書く活動につなげる。
- 大人数クラス:3人組(走者・書き手・チェック係)にすると、組の数が減ってポスター前が混みにくくなり、待っている人にも「チェック係」の仕事ができます。ポスターは6か所以上に分けて、混雑と危険を避けます。
- 苦手な生徒が多いクラス:1文を短く(5〜7語)し、ポスターに日本語のヒント(絵や訳)を小さく添える。書き手には語群つきのワークシートを渡してもよい。
- オンライン・タブレット:英文を数秒だけ画面共有して消す「フラッシュ版」に。読む係だけが別の画面(チャット欄など)で文を見て、音声で伝えます。
- 知識・技能:聞いた英文を正しいつづり・語順で書ける(完成した文章のまちがいの数)。
- 思考・判断・表現:この活動は英文を正確に再現する練習が中心なので、この観点の記録には向きません。見るなら、要約や続きを書いて伝えるなど、目的に応じて内容を選ぶ発展の課題(アレンジの高校の例)で見ます。
- 主体的に学習に取り組む態度:まちがいの原因をペアで考え、次の工夫を言葉にしている(ワークシートの話し合い欄)。
下の表は、活動の中で見る形成的な目安です。完成した文章はペアの共同作品で、覚える・言う・聞く・書くが混ざっているので、一人一人の「知識・技能」をこれだけで判断することはできません。記録に残す評価には、同じ条件の個人の課題(例:先生の読む文を書きとる短い小テスト)を別に用意します。
| 見るところ(形成的) | よくできている | できている | もう少し |
|---|---|---|---|
| 正確さ(素材の長さに対して) | まちがいがごく少ない | まちがいはあるが文の意味は伝わる | まちがいが多く意味がとりにくい |
| まちがいの分析 | まちがいの原因をペアで考え、次の工夫を書ける | まちがいを種類ごとに分類できる | まちがいを分類できない |
順位をつける競争にすると雑になりやすいので、「正確さ」と「話し合い」を見ることの中心にします。
- 速さだけの競争になる → 急いで雑になり、学びの中心の「答え合わせ」が消えます。順位より正確さで評価を。
- 走ってしまって危ない → 「教室でも廊下でも走らず早歩き」「一方向に回る」「ポスターの前で押さない」をはっきりルールに。ポスターの数を増やし、組ごとにスタートをずらして混雑を避けます。
- 英文が長すぎて覚えられない → 1文が長いと往復の回数が増え、時間内に終わりにくい。最初は5〜7語の文から。
- 走者がつづりを1文字ずつ言ってしまう → 「文を言う」のがルール。どうしても伝わらない語だけ、つづりを言ってよいことにします。
- 書き手が暇・走者だけが疲れる → 2文ごとに必ず交代。3人組なら「チェック係」が書いた文を読み返す役割を持ちます。
ランニング・ディクテーションで学習の機会になりうる大事な場面の1つは、答え合わせでペアが「これ、the がいる?」「wentだっけ?」と言葉の形について話し合う瞬間です。中学生のペアがジグソー課題で物語を書き上げる様子を分析した研究では、生徒どうしが言葉の形について話し合う場面(言語関連エピソード)で、母語と外国語の両方を使いながら問題を解決し、その対話自体が学習の機会になっていました。ただし、同じ課題でも、言葉について話し合う学習の機会の生じ方はペアによって違いました 1。この研究はジグソー課題の対話を分析したもので、ランニング・ディクテーションのどの場面で学びが起きるかを比べたものではありません。
もうひとつの補助的な手がかりは、ディクテーション(聞いて書く)の研究です。イランの語学学校で学ぶ初級の成人男性(各群30人)を2群に分けた研究では、100分の授業20回(週5回、約4週間)の1コースの間に、10〜15分ほどのディクテーションを11回加えたグループの方が、教科書の聞き取り練習だけのグループより、リスニング力の伸びが大きくなりました 2。ただしこれは録音を聞く通常のディクテーションで、その分の学習時間も上乗せされていました。仲間の声を聞いて書くこの活動にそのまま当てはまるわけではありません。
ランニング・ディクテーションという活動そのものについては、インドネシアなどで対照群をおいた小規模な授業研究がいくつか報告されています。ただ、研究の質や対象が限られ、日本の小中高にあてはまる確かな証拠とは言えないため、このページでは直接の根拠には使っていません。上の研究は「この活動のどの部分が学びにつながりそうか」を考える手がかりです。答え合わせと話し合いの時間を削らないことが、効果を生かすカギでしょう。
❓ よくある質問
Q. ランニングディクテーションは、どう進めますか?
5〜8文・40〜80語の英文を、教室の後ろや廊下に3〜4か所貼ります。ペアの走者がポスターまで行って文を覚え、席に戻って英語で伝え、書き手が聞いて書きます。2文ごとに役割を交代し、最後に元の文と比べて、違いに赤で印をつけます。
Q. 走者がつづりを1文字ずつ言ってしまいます。
「文を言う」のがルールです。どうしても伝わらない語だけ、つづりを言ってよいことにします。ほかに、ポスターの前で叫ばない、書き手のノートを見ない、も最初に約束しておきます。
Q. 速さの競争になって、雑になります。
急いで雑になると、学びの中心の「答え合わせ」が消えてしまいます。順位はつけず、「正確さ」と「話し合い」を評価の中心にします。「教室でも廊下でも走らず早歩き(runner は役の名前)」「ポスターの前で押さない」も、はっきりルールにしておきます。
Q. ランニングディクテーションの、どこで英語が身につくのですか?
大事な場面の1つは、答え合わせでペアが「これ、the がいる?」と言葉の形について話し合う瞬間です。中学生のペアの協働を分析した研究では、言葉の形についての話し合いが学習の機会になっていました 1。ただし、この活動そのものの研究は小規模な授業研究がいくつかあるだけで、日本の小中高にあてはまる確かな証拠はまだ乏しい状態です。
Q. 40人のクラスでもできますか?
3人組(走者・書き手・チェック係)にすると、役割が回りやすくなります。ポスターは6か所以上に分けて、混雑と危険を避けます。苦手な生徒が多いクラスでは、1文を5〜7語に短くします。
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📑 出典(2件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Swain, M., & Lapkin, S. (1998). Interaction and second language learning: Two adolescent French immersion students working together. The Modern Language Journal, 82(3), 320-337. doi:10.1111/j.1540-4781.1998.tb01209.x ✔ DOI照合済ジグソー課題で話を書き上げる中学生ペアの会話から、対話が言語学習の道具になることを示した研究
- Kiany, G. R., & Shiramiry, E. (2002). The effect of frequent dictation on the listening comprehension ability of elementary EFL learners. TESL Canada Journal, 20(1). doi:10.18806/tesl.v20i1.938 ✔ DOI照合済初級の成人学習者。1学期に11回ディクテーションを加えた群でリスニングが伸びた
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら





