なまりと通じやすさは別のもの
発音研究では、次の3つを区別して考えることがよく知られています。この区別は、Murray MunroとTracey Derwingらの研究で広く使われるようになりました。
- なまりの強さ(accentedness):聞き手が「母語の影響がある」と感じる程度
- 理解しやすさ(comprehensibility):聞き手が理解するのにどれくらい苦労するか
- 通じやすさ(intelligibility):話し手の意図が実際に正しく伝わるか
重要なのは、なまりが強くても、十分に通じる話し方は存在するということです。逆に、なまりを減らすことに多くの時間を使っても、通じやすさがあまり変わらないこともあります。
大学の授業時間は限られています。だからこそ、通じやすさに大きく影響する項目から優先して指導することが大切です。
優先すべき項目:個々の音よりリズムと強勢
日本語を母語とする学習者の場合、通じやすさに影響しやすい項目として、次のようなものがよく挙げられます。
1. 語の強勢(アクセント)の位置
- deVELopment を DEvelopment と言うと、別の語に聞こえることがあります
- 学術語彙は強勢の位置を間違えやすいので、新出語と一緒に確認しましょう
2. 文の中での強弱とリズム
- 英語では、内容を伝える語(名詞・動詞など)を強く、機能語(冠詞・前置詞など)を弱く発音する傾向があります
- 例:I WENT to the LIbrary to FIND a BOOK.
3. 余計な母音を入れない
- street を「ストリート」のように発音すると、音節の数が増えて聞き取りにくくなることがあります
4. 区切りと強調
- 意味のまとまりで区切り、一番伝えたい語を強調します
- 例:Our results show | that young people | use social media | differently.
個々の子音や母音(LとRなど)も大切ですが、授業時間が限られているなら、まずリズムと強勢から始めるのがおすすめです。
90分授業に発音練習を組み込む流れ
発音だけの授業を作る必要はありません。普段の授業に15分ほど組み込むのが続けやすい方法です。
15分の流れの例(プレゼン準備の授業の場合)
- 気づき(3分):教師が同じ文を2通り(区切りと強調あり/なし)で読み、どちらが分かりやすいかを聞く
- 分析(4分):自分のプレゼン原稿の最初の3文に、区切り(|)と強調する語(下線)を書き込む
- 練習(5分):ペアで交互に読み、相手が区切りと強調を守れているかチェックする
- 録音(3分):スマホで自分の3文を録音し、授業後に聞き直す
声かけの例
- Pause here. Let the audience think.
- Which word is the most important? Make it stronger.
発音の練習を、プレゼンや発表などの実際の目的と結びつけると、学生は必要性を感じやすくなります。
プレゼン直前の「3日間発音チェック」
学期末のプレゼンテーションの直前は、学生が発音に最も関心を持つ時期です。このタイミングで、短期集中の練習を提案すると効果的です。
3日間の練習メニュー(学生向け)
- 1日目:原稿全体に区切り(|)と強調する語の下線を書き込む。学術語彙の強勢の位置を辞書で確認し、強勢のある音節に印を付ける
- 2日目:原稿を見ながら録音し、聞き直して「区切りが分かりにくい文」を3つ選ぶ。その3文だけを繰り返し練習する
- 3日目:原稿を見ずに、スライドだけを見て話す練習をする。友人に聞いてもらい、「分かりにくかった部分」を1つ教えてもらう
教師ができるサポート
- 授業の最後の10分で、各グループが最初の30秒だけを発表し合う「予行演習」の時間をとる
- よく使われる学術語彙の強勢を、一覧にして配る(例:anALysis, sigNIFicant, enVIRonment)
本番直前の小さな練習でも、聞き手にとっての分かりやすさは変わります。
録音を使ったフィードバックの方法
大学生の発音指導で最も効果的な道具の一つが、自分の声の録音です。自分の発音を客観的に聞く経験は、多くの学生にとって新鮮な気づきになります。
録音課題の進め方
- 1回目の録音:学期の初めに、決まった短い文章(100語程度)を読んで録音させる
- 自己分析:録音を聞き、「気になった点」を3つ書かせる(例:語尾に余計な母音が入る、全部の語を同じ強さで読んでいる)
- 練習:気になった点に絞って、1〜2週間練習する
- 2回目の録音:同じ文章をもう一度録音し、1回目と聞き比べる
教師のフィードバックのコツ
- 一度に指摘するのは1〜2点までにする
- 通じやすさに影響する点を優先する
- 良くなった点を必ず1つ伝える
学期の最後にも同じ文章を録音させると、学生は自分の変化を実感できます。変化が聞こえることは、続けるための大きな動機になります。
大人数クラスでの工夫
50人を超えるクラスでは、一人ひとりの発音を聞くのは難しくなります。次のような工夫が役立ちます。
- 全体での一斉練習:強勢の位置は、手をたたきながら全員で練習できます。例:de-VEL-op-ment の VEL で手をたたく
- ペアでの相互チェック:チェックする観点を1つに絞ったシートを配る(例:「強調する語を強く言えているか」)
- LMSでの音声提出:授業外に録音を提出させ、全体に共通する課題を次の授業で扱う
- サンプルの共有:許可を得た学生の録音(または教師の読み)を使って、良い例と改善の余地がある例を比べる
1週間の自主練習メニュー(学生向け)
- 月:お手本の音声を聞き、区切りと強調に印を付ける
- 火・水:印を見ながら、お手本と同時に読む(オーバーラッピング)
- 木:お手本を少し遅れて追いかけて読む(シャドーイング)
- 金:自分の読みを録音して聞き比べる
- 土・日:気になった1文だけを重点的に練習する
評価の観点をどう設定するか
発音を評価に含める場合は、何を評価するかを明確にし、事前に学生に示すことが大切です。
ルーブリックの観点の例
- 区切り:意味のまとまりで区切れているか
- 強調:伝えたい語が際立っているか
- 語の強勢:学術語彙などの強勢の位置が適切か
- 聞き手への配慮:速さや声の大きさが聞き手にとって適切か
「ネイティブらしさ」のような曖昧な観点は避け、聞き手の理解に関わる観点を中心にしましょう。
また、発音には個人差が大きく、短期間での変化にも限りがあります。評価の比重を大きくしすぎず、練習の過程や録音の提出を評価に含めると、苦手な学生も前向きに取り組みやすくなります。
よくある失敗と、その立て直し方
1. 個々の音の練習だけで終わる
LとRの区別などに時間を使いすぎると、文単位で話す練習が不足します。音から文へ、文から発表へと広げていきましょう。
2. 全部を直そうとする
一度に多くを指摘されると、学生は話すこと自体をためらうようになります。
3. 発音を「才能」の問題として扱う
発音は練習によって変わる部分があります。録音で変化を記録し、努力が見える仕組みを作りましょう。
まずは次の授業で、学生のプレゼン原稿の最初の3文に、区切りと強調の印を付ける活動を5分だけ試してみてください。



