反転授業とは:何を「外」に出すのか
反転授業は、従来は教室で行っていた知識の説明を事前学習(動画や資料)に移し、教室では演習・対話・応用を行う授業形態です。
英語の授業に当てはめると、次のような分担になります。
- 授業の外:文法項目の説明、語彙の導入、読み物の内容把握、発音のポイントの解説
- 授業の中:ペアでの会話練習、ディスカッション、ライティングの相互添削、発表
ここで大事なのは、「何でも外に出せばよい」わけではない点です。学生が一人でも理解できる内容だけを外に出し、誤解が生まれやすいところ、他者とのやりとりが必要なところを教室に残します。
ポイント:反転授業の目的は「動画を見せること」ではなく、「教室で英語を使う時間を増やすこと」。設計の出発点は常に教室での活動です。
反転授業は、90〜100分の授業時間を持つ大学と相性がよい方法です。事前学習で土台をそろえておけば、1コマの大半を練習に使えます。
事前動画と課題の作り方
事前動画は、長くて凝ったものより、短く、焦点が一つのものが向いています。
作成の手順です。
- 授業で行う活動を先に決める(例:過去の経験を話すスピーキング)
- その活動に必要な知識を1つに絞る(例:過去形と現在完了の使い分け)
- 5〜10分程度の動画にまとめる。スライドに音声を付ける形で十分
- 動画の最後に「授業で何をするか」を予告する
- 動画とセットで、短い確認課題をLMSに置く
動画の冒頭で言う英語の例です。
- In this video, you will learn one thing: when to use the present perfect. In class, you will use it to talk about your own experiences.
長い動画を1本作るより、短い動画を2本に分けるほうが視聴されやすくなります。既存の信頼できる教材動画を使う方法もありますが、その場合も「なぜこれを見るのか」を一文で添えましょう。
動画以外にも、短い読み物、音声、例文リストなどを事前学習に使えます。形式より「授業の活動に直結しているか」を基準に選びます。
事前学習を確認する仕組み
事前学習の確認は、反転授業を回すうえで欠かせません。ただし、確認のためのテストが重すぎると、学生の負担が増えるだけです。
LMSでの確認課題
- 選択式3〜5問の小テスト(自動採点)
- 「動画でわからなかった点」を一言書く欄
自由記述の問いの例です。
- Write one example sentence using today's grammar point.
- What part of the video was confusing?
授業冒頭での確認
- 最初の5分で、事前課題と同じ形式の問いをフォームで出す
- 正答率の低かった問いだけを短く解説する
集まった「わからなかった点」は、授業前にざっと目を通し、多かったものを冒頭で扱います。これにより、学生は事前学習が授業に反映されると実感し、取り組む意味を感じやすくなります。
ポイント:確認課題は「予習したか」をチェックするためだけでなく、教員が授業の冒頭で何を補うべきかを知るための情報源です。
授業内の活動設計と1コマの流れ
事前学習で基礎をそろえた後は、教室で「使う」時間を最大化します。100分授業の流れ例です。
- 0〜10分:事前課題の確認と、つまずきの多かった点の補足
- 10〜25分:ペアでの基本練習(事前学習の例文を使った口頭練習)
- 25〜55分:応用活動(インタビュー、ディスカッション、ロールプレイなど)
- 55〜80分:アウトプット課題(短いライティングや発表準備)
- 80〜95分:相互フィードバック、代表者の発表
- 95〜100分:振り返りと次回の事前学習の予告
応用活動の指示の例です。
- Interview three classmates about something they have done that surprised their family. Take notes and report the most interesting answer.
この時間、教員は教室を回り、つまずいている学生に個別に声をかけます。反転授業の大きな利点は、教員が説明者から伴走者に変わることです。個別のフィードバックに時間を使える点が、一斉講義との大きな違いです。
学生が予習してこない問題への対策
反転授業で最もよく聞かれる悩みが「学生が動画を見てこない」です。いくつかの対策を組み合わせましょう。
- 授業が事前学習を前提に進むことを初回で明示する:見てこないと活動に参加しにくい構造にする
- 事前学習の量を絞る:1回あたり15〜20分程度で終わる分量にする
- 評価に組み込む:事前課題の提出を平常点の一部としてシラバスに記載する
- 見てこなかった学生の居場所を作る:教室の一角で動画を視聴してから活動に合流する、というルールにすれば、授業全体を止めずに済む
注意したいのは、予習してこない学生のために授業冒頭で動画の内容をすべて説明し直すことです。これを続けると、「授業で説明してもらえるから見なくていい」という学習になってしまいます。
ポイント:補足は「多くの学生がつまずいた点」に限定し、動画の繰り返しはしない。この線引きを学期の最初に決めておきます。
シラバスや初回のスライドに書く文言の例です。
- This course uses a flipped classroom. Before each class, watch a short video (about 10 minutes) and complete the online quiz. Class time will be used for practice, not for repeating the video.
それでも見てこない学生が続く場合は、個別に理由を聞いてみましょう。通信環境、アルバイトとの両立、動画の難しさなど、単なる怠けではない事情が見つかることもあります。音声だけでも理解できる作りにする、スライドのPDFも併せて配布するなど、アクセスの選択肢を増やすことも有効な対策です。
15回の計画例と1週間のサイクル
半期15回の中で、すべての回を反転にする必要はありません。導入の数回は通常の授業形式で、事前学習のやり方そのものを練習させるのがおすすめです。
- 第1回:オリエンテーション、LMSと動画視聴の練習
- 第2回:授業内で動画を視聴し、確認課題の出し方を体験
- 第3〜7回:反転授業(毎週1本の動画と確認課題)
- 第8回:中間の振り返り、事前学習の負担についてアンケート
- 第9〜14回:反転授業(応用活動の比重を上げる)
- 第15回:学期のまとめと発表
1週間のサイクル例です(週1回の授業を想定)。
- 授業日:次回の動画を公開
- 2〜3日後:LMSでリマインドを配信(Please watch the video and complete the short quiz by Tuesday.)
- 授業前日:課題の締め切り、教員が回答に目を通す
- 授業当日:冒頭で補足、残りは活動
よくある失敗と今日からできること
反転授業でつまずきやすいポイントです。
- 動画が長すぎる:30分の動画はほとんど最後まで見られません。一本の焦点を絞ります。
- 授業内の活動が薄い:説明を外に出したのに、教室でも同じ説明をしてしまうと意味がありません。
- 全回を一度に作ろうとする:最初は2〜3回分だけ反転にし、様子を見て広げます。
- 学生の負担を把握していない:他の授業の課題量も考慮し、事前学習の時間を明示します。
まずは次の授業で扱う文法項目を一つ選び、5分の説明動画を1本作ってみてください。教室で浮いた時間に何をするかを考えることが、反転授業設計のいちばんの練習になります。



