「わかる」と「話せる」は別のスキル
英語を読んで意味がわかるとき、頭の中では「英語→意味」という方向に情報が流れています。ところが話すときは逆で、「言いたいこと→英語」という方向に、しかも数秒以内に組み立てなければなりません。
たとえば、次の英文を見れば多くの人が意味をとれるはずです。
- I've been meaning to ask you about that.(そのこと、ずっと聞こうと思ってたんだ)
でも「ずっと聞こうと思ってたんだ」を英語で言って、と急に言われると、I wanted to ask... always...? のように詰まってしまう。これは知識がないのではなく、取り出す練習をしていないからです。
つまり、話せるようになるには「知っている英語を、速く取り出す」専用の練習が必要です。読む・聞く勉強だけを続けても、この取り出す力は思ったほど伸びません。
ポイント:話せないのは才能の問題ではなく、練習の方向の問題。インプットと逆向きの練習を足せば変わります。
壁①② 単語が出てこない/日本語から訳そうとする
壁① 知っている単語が出てこない
「見ればわかる単語」と「自分で使える単語」は別物です。前者を受容語彙、後者を発信語彙と呼ぶことがあります。話せない人の多くは、発信語彙が受容語彙よりずっと少ない状態です。
対策は、単語を覚えるときに日本語→英語の方向で口に出すことです。単語帳を見て「決める → decide」と声に出し、さらに短い文にして言ってみます。
- I decided to take the train.(電車で行くことにした)
壁② 日本語の文を丸ごと訳そうとする
「先週の土曜日、友だちと駅前に新しくできたカフェに行ったんだけど、すごく混んでいて…」。この日本語をそのまま英語にしようとすると、関係代名詞や時制を一度に処理する必要があり、口が止まります。
対策は、言いたいことを短い文に切ることです。
- I went to a cafe last Saturday.
- It's new. It's near the station.
- It was really crowded.
短い文を3つ並べるだけで、十分に伝わります。慣れてきたら It's a new cafe near the station. のようにつなげればOKです。
壁③④⑤ 完璧主義・話す材料がない・口が慣れていない
壁③ 間違えたくない気持ち
「三単現のsを忘れたら恥ずかしい」「冠詞がaかtheかわからない」。こうした不安が強いと、文を組み立て終わるまで口を開けなくなります。会話では、多少の文法ミスがあっても意味は通じることがほとんどです。まずは伝わることを優先しましょう。
壁④ そもそも話す内容がない
「週末何してた?」と聞かれて、日本語でも「特に何も…」と答えてしまうタイプの人は、英語だとさらに話が続きません。これは英語力というより話のネタの問題です。自分の趣味・仕事・最近の出来事について、あらかじめ英語で2〜3文を用意しておくと、会話がぐっと楽になります。
壁⑤ 口と耳が英語に慣れていない
頭では文ができているのに、実際に声に出すと舌が回らない。これは単純に声に出した回数が足りていません。音読やシャドーイングで、英語を口から出す筋肉を動かしておくことが大切です。
ポイント:5つの壁は同時に全部崩す必要はありません。自分が一番引っかかっている壁から手をつけましょう。
壁をまとめて崩す「3文ルール」
5つの壁に共通して効くのが、編集部おすすめの「3文ルール」です。どんな質問にも、短い文を3つで答えることを目標にします。
- 1文目:質問への直接の答え
- 2文目:理由か具体例
- 3文目:感想か相手への質問
実際にやってみましょう。
- Q: Do you like cooking?
- A: Yes, I do. I often make curry on weekends. Do you cook?
- Q: How was your day?
- A: It was busy. I had three meetings. But I'm happy it's Friday!
1文ずつは中学レベルの英語です。それでも、3文で答えるだけで「話せる人」の印象に近づきます。長い1文を作ろうとして止まるより、短い3文をテンポよく出すほうがずっと会話らしくなります。
よくある失敗
- 1文目を完璧にしようとして、2文目以降が出ない
- 理由を言うときに because から始まる長い文を作ろうとして迷子になる
- 相手に質問を返すのを忘れて、会話が途切れる
うまくいかないときは、2文目を「I like it.」「It was fun.」のような超短文にしてもかまいません。
3文ルールを会話で使うとこうなる
- A: What did you do last weekend?
- B: I went to see a movie. It was a Japanese anime film. Have you seen any anime lately?
- A: Not really. Was it good?
- B: Yes! The music was great. I cried a little, actually.
Bさんの返事は、どれも短い文の組み合わせです。それでも、相手が次の質問をしやすい材料(アニメ映画、音楽、泣いた)がちゃんと入っているので、会話が自然に転がっていきます。「うまく話す」より「材料を出す」と考えると気が楽になります。
1週間の「口から出す」トレーニングメニュー
1日15〜20分でできるメニュー例です。
- 月曜:単語の発信練習(15分)――単語帳の日本語側だけを見て英語を言い、その単語で短い文を1つ作る。
- 火曜:3文ルール(15分)――「好きな食べ物は?」「最近ハマっていることは?」など質問を5つ用意して、3文で答えて録音する。
- 水曜:音読(15分)――教科書や学習者向けの英文を、意味を思い浮かべながら5回音読する。
- 木曜:日本語を短く切る練習(15分)――昨日の出来事を日本語で書き、それを短い英文に分けて言ってみる。
- 金曜:録音を聞き返す(15分)――火曜の録音を聞き、言えなかった表現を調べてメモする。
- 土曜:実戦(20分)――オンライン英会話やAI会話アプリで、メモした表現を1つ以上使う。
- 日曜:ふり返り(10分)――今週新しく言えるようになった表現を3つ書き出す。
ポイントは、どの日も必ず声を出すことです。黙読や黙って考えるだけの日を作らないようにしましょう。
まとめ:まず「短く・速く・たくさん」
英語が口から出ないのは、知識がないからではなく、知っていることを取り出す練習が足りないからです。5つの壁――単語が出ない、訳そうとする、完璧主義、話す材料がない、口が慣れていない――のうち、自分がどこで止まっているかを見極めれば、やることははっきりします。
最初の目標は、上手に話すことではなく「短い文を、速く、たくさん」出すことです。I like it. It was fun. I don't know. のような簡単な文でも、声に出した回数が増えるほど、口は確実に動くようになります。
今日の寝る前に、「今日どんな1日だった?」という質問に3文で答えて、スマホで録音してみてください。それが話せる自分への最初の1歩です。



