なぜ洋楽は英語学習に向いているのか
洋楽が英語学習に役立つ理由は、大きく3つあります。
1つ目は、くり返しに強いことです。語学の上達には、同じ英語に何度も触れることが欠かせません。けれど、教科書のCDを50回聴くのはなかなかつらいもの。好きな曲なら、50回どころか100回聴いても苦になりません。自然にくり返せることが、歌の最大の強みです。
2つ目は、英語のリズムが体に入ることです。英語は、強く発音する部分と弱く流す部分がはっきりした言語です。メロディに乗った英語を聴いていると、どこを強く、どこを弱く言うのかという感覚が少しずつ身についていきます。
3つ目は、気持ちが動くことです。うれしい、切ない、元気が出る――感情と結びついた言葉は、ただの単語リストより記憶に残りやすいと言われています。「あの曲のあの場面で出てきた単語」として覚えると、思い出すときの手がかりが増えるのです。
さらに、言語学者クラッシェンのインプット仮説では、「理解できる量の英語をたくさん浴びること」が習得の土台になると考えられています。好きな曲は、その“たくさん浴びる”を楽しく続けるための、ちょうどいい入口になります。
「流すだけ」で終わらせないための考え方
とはいえ、BGMとして流しているだけで英語がぐんぐん伸びるかというと、そう簡単ではありません。聞き流しは「英語の音に慣れる」には役立ちますが、意味が分からないまま聴き続けても、理解できる英語はなかなか増えないからです。
おすすめは、曲を2つの役割に分けることです。
- ながら用の曲:勉強の合間や移動中に流して、英語の音やリズムに親しむための曲
- 学習用の曲:1曲をじっくり分解して、聞き取り・発音・語彙まで身につける曲
学習用の曲は、1〜2週間に1曲くらいのペースで十分です。数をこなすより、1曲を深く使い倒すほうが、確実に力になります。選ぶときは、テンポがゆっくりめで、発音がはっきりした曲から始めると挫折しにくいでしょう。曲の選び方については、別のコラム「英語学習におすすめの洋楽の選び方」でくわしく紹介しています。
1曲を使い倒す5ステップ
ここからは、学習用の1曲をじっくり使う手順を紹介します。1ステップ15〜20分ほどを目安に、数日に分けて進めてもOKです。
ステップ1:何も見ずに聴く
まずは歌詞を見ずに2〜3回聴き、聞き取れた単語をメモします。1つでも2つでも構いません。「今の自分がどれくらい聞き取れるか」を知ることがスタートです。
ステップ2:公式の歌詞で意味を確認する
次に、正規の方法で歌詞を確認し、知らない単語や表現を辞書で調べます(確認の方法は後ほど説明します)。全部を完璧に訳す必要はありません。気になった表現を5〜10個ほど選んで、自分のノートに自分の言葉で意味をまとめましょう。
ステップ3:歌詞を見ながら聴く
文字と音を一致させる段階です。「書いてある文字と、実際の音がこんなに違うんだ」という発見がたくさんあるはずです。音がつながったり、消えたりしている部分に印をつけておきましょう。
ステップ4:一緒に口ずさむ(シャドーイング)
歌声に少し遅れてついていくように、小さな声でまねをします。最初は速くてついていけなくても大丈夫。サビだけ、1フレーズだけ、と範囲を絞ると続けやすくなります。
ステップ5:何も見ずにもう一度聴く
最後に、ステップ1と同じように歌詞なしで聴きます。最初より聞き取れる部分が増えていることに気づけば、それが成長の証拠です。
リスニング力を伸ばすコツ
歌を使ったリスニング練習でいちばん効果を感じやすいのは、音の変化に気づけるようになることです。
英語では、単語と単語がつながって1つの音のように聞こえたり(リンキング)、語尾の音がほとんど消えたり、弱く短く発音される単語があったりします。教科書の英文を読むだけでは気づきにくいこうした変化が、歌ではメロディに合わせて何度も登場します。
コツは、「聞き取れなかった部分」を責めずに観察することです。ステップ3で歌詞と音を照らし合わせたとき、「ここは2つの単語がくっついている」「ここは語尾が聞こえない」とメモしていくと、やがて別の曲や会話でも同じパターンに気づけるようになります。
また、YouTubeの再生速度を0.75倍などに落として聴くのも有効です。速すぎて聞き取れない部分を、ゆっくり確認してから通常速度に戻すと、耳が追いつく感覚がつかめます。ただし、歌は会話よりもリズムや音程の都合で発音が変わることもあるので、「歌ならではの発音もある」と知っておくと混乱しにくくなります。
発音をよくするコツ
歌うことは、発音練習としてもとても優秀です。とくに意識したいのは次の3つです。
① 強弱のリズム
英語らしく聞こえるかどうかは、個々の音よりも「どこを強く言うか」に左右されることが多いと言われます。メロディの強い拍に乗る単語は、たいてい意味の中心になる大事な単語です。そこをはっきり、ほかを軽く、という感覚をまねしてみましょう。
② 母音ののばし方
ゆっくりしたバラードでは、母音が長くのばされるので、口の形をじっくり観察できます。鏡の前で歌手の口の動きをまねしてみると、日本語の「あいうえお」との違いが分かって面白いですよ。
③ 録音して聴き比べる
スマホで自分の歌声(または音読)を録音して、原曲と聴き比べてみましょう。恥ずかしいかもしれませんが、客観的に聞くと「ここは日本語っぽいな」という部分がすぐに分かります。1週間前の録音と比べると、変化も実感できます。
なお、歌で身につけた発音は、会話の中ではもう少し自然なスピードやイントネーションに調整する必要があります。歌は「英語の口の筋トレ」と考え、会話練習や音読とセットで取り組むのがおすすめです。
語彙・表現を増やすコツ
洋楽には、教科書にはあまり出てこない口語的な表現や、気持ちを表す形容詞・動詞がたくさん登場します。これらは、実際の会話やドラマ、SNSでもよく使われるものです。
語彙を増やすときのポイントは、1曲から欲張らないこと。気になった表現を5個ほどに絞り、次のように自分のノートにまとめましょう。
- 表現(単語やフレーズ)
- 自分の言葉で書いた意味
- 自分で作った例文を1つ
ここで大切なのは、歌詞そのものを書き写して残すのではなく、自分で例文を作ることです。自分で文を作ることで、ただ意味を知っているだけの状態から「使える表現」へと一歩近づきます。STUDY HACKで紹介している想起練習(何も見ずに思い出す練習)と組み合わせて、数日後に「あの表現、どういう意味だっけ?」と自分に問いかけると、記憶がさらに定着します。
また、同じアーティストの曲を何曲か聴くと、その人がよく使う言い回しが見えてきます。好きなアーティストを1人決めて深掘りするのも、楽しい学び方です。
続けるための小さな工夫
洋楽学習を続けるコツは、ハードルを下げることです。毎日5ステップをすべてやる必要はありません。
- 通学・通勤中は「ステップ1(何も見ずに聴く)」だけ
- 夜に10分だけ「ステップ4(シャドーイング)」
- 週末にまとめて「ステップ2(意味の確認)」
のように、生活のすき間に分けて組み込むと、無理なく続けられます。
また、1曲を終えたら、次の曲に進む前に「前の曲をもう一度だけ聴く」習慣をつけるのもおすすめです。時間をあけて復習すると、忘れかけていた表現を思い出すことができ、間隔反復の効果も期待できます。好きな曲がどんどん“自分の教材”になっていく感覚を、ぜひ楽しんでください。
歌詞は正規の方法で確認しよう
歌詞を確認するときは、正規の方法を使うことが大切です。代表的な方法を紹介します。
- 公式リリックビデオ:アーティストやレーベルの公式YouTubeチャンネルでは、歌詞が画面に表示される「リリックビデオ」が公開されていることがあります。文字と音を同時に確認できるので、学習にぴったりです。
- ライセンスを受けた歌詞サービス:音楽配信サービスの中には、正式な許諾を受けて歌詞を表示する機能を持つものがあります。また、権利者の許諾を得て歌詞を掲載している歌詞サイトもあります。
- CDの歌詞カード(ブックレット):昔ながらの方法ですが、確実です。日本盤には対訳がついていることも多く、学習の手助けになります。
一方で、出どころのよく分からないサイトに掲載された歌詞には、聞き間違いが含まれていることもあります。学習の正確さという意味でも、公式の情報を使うのがいちばん安心です。
歌詞の書き写しと著作権に注意
最後に、とても大切な注意点です。歌詞は著作物であり、作詞者などの権利者に著作権があります。
自分の勉強のために、ノートに歌詞の一部を書いて練習することは、一般に私的な利用の範囲と考えられます。しかし、ブログやSNS、学習ノートの公開ページなどに歌詞を書き写して載せることは、権利者の許諾がなければ著作権の侵害にあたるおそれがあります。「1フレーズだけなら」「英語学習のためだから」という理由でも、公開すれば問題になりうるので注意しましょう。
学習記録をSNSで共有したいときは、次のような工夫がおすすめです。
- 曲名とアーティスト名だけを書く
- 「今日はこの曲で5つ表現を覚えた」のように、取り組んだ内容を自分の言葉で書く
- 覚えた表現を使って、自分で作った例文を紹介する
このサイトでも、紹介する曲については曲名と公式動画のみを扱い、歌詞は一切掲載していません。ルールを守って、気持ちよく音楽と英語を楽しみましょう。



