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「金星の雲に生命のサイン」は本当だったのか?ホスフィン論争の5年間

「金星の雲に生命のサイン」は本当だったのか?ホスフィン論争の5年間

読む前に予想してみよう!

金星の雲にホスフィンがあることは、今では確定している

研究カード(どんな研究?)
対象
金星の大気
規模
電波・赤外線観測と再分析 複数
研究の種類
観測研究・再解析
確かさ
★☆☆☆☆
3秒でわかる

2020年、金星の雲に生物が作るガス「ホスフィン」がある、という発表が世界を驚かせた。しかし再分析や別の観測では見つからず、結論は今も出ていない。

ひとことで言うと金星に生き物?発見か、見まちがいか、まだ決着していない!

もくじ
  1. 発見されたのは「ホスフィン」
  2. 「本当に見えているの?」再分析ラッシュ
  3. 決着をつけるには「行って測る」しかない
  4. 金星はかつて「水の星」だった?
  5. まとめ

2020年9月、世界中のニュースがこう伝えました。「金星の雲に、生命の存在を示すかもしれないガス」。

金星は、地表の温度が約460℃、大気の圧力は地球の約90倍という灼熱の星です。そんな場所に生き物? 多くの人が「マジか!」と声をあげました。

でもその後、話は思わぬ方向へ進みます。これは、科学が答えを出すまでのリアルな記録です。

01発見されたのは「ホスフィン」

見つかったとされたのは、ホスフィンというガスです。リン原子1個に水素原子3個がくっついた分子で、地球では酸素のない場所にすむ微生物が作ったり、工場で作られたりします。

金星の大気は酸素を含む化合物だらけで、本来ならリンは酸素とくっつきやすい状態です。そこに水素とくっついたリンがあるのは、とても不自然でした。

金星の雲の中、地上50〜60kmあたりは、気圧が地球の地表と同じくらいで、温度も0℃前後〜数十℃と、意外に穏やかです。昔から「生命がいるならここ」と考える研究者もいました。

灼熱の地表の上、雲の中ほどだけは「ほどよい温度」
灼熱の地表の上、雲の中ほどだけは「ほどよい温度」

02「本当に見えているの?」再分析ラッシュ

発表のあと、世界中の研究者がデータを調べ直しました。

  • ALMAのデータの補正にミスが見つかり、修正後の信号はずっと弱くなりました。発表チーム自身も、量を下方修正しています。
  • オランダのスネレン(Snellen)さんらは、データの処理方法によってありもしない信号が作られる可能性を指摘し、信号は統計的に信頼できないと結論しました。
  • NASAのビジャヌエバ(Villanueva)さんらは、似た周波数に信号を出す二酸化硫黄とまぎらわしい点を指摘しました。
  • NASAの空飛ぶ天文台SOFIAによる観測(2021年11月に実施、2022年発表)では、ホスフィンは見つからず、0.8ppb以下という厳しい上限が示されました。

一方、発表チームは反論を続け、別の観測で検出を主張する報告も出ています。どちらも決定打がないのが現状です。

03決着をつけるには「行って測る」しかない

遠くから光を分析する方法には限界があります。そこで、金星の大気に直接観測装置を落とす探査が計画されています。NASAや民間の計画がありますが、打ち上げ時期や予算は執筆時点で流動的です。

04金星はかつて「水の星」だった?

金星は、大きさも重さも地球とよく似ていて、「地球の双子」とも呼ばれます。昔は海があったかもしれない、という研究もあります。しかし、二酸化炭素の厚い大気による強い温室効果で、今のような灼熱の星になったと考えられています。

05まとめ

「金星に生命?」の答えは、執筆時点では「分からない」です。

でも、発表→再分析→反論→新しい観測という流れこそが、科学の健全な姿。ニュースで「生命発見か!?」と見たら、その後の検証まで追いかけるのが、本当に賢い楽しみ方です。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 2020, a British team led by Greaves reported phosphine in the clouds of Venus. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 2020, a British team led by Greaves reported phosphine in the clouds of Venus. On Earth, this gas is made by microbes that live without oxygen, or in factories.

The team said that volcanoes or lightning could not explain the amount, about 20 parts per billion, so it might come from unknown chemistry or even life. Many scientists then checked the data again. An error was found in the processing of the ALMA data, and the corrected signal was much weaker.

Others pointed out that sulfur dioxide gives a similar signal. In 2022, NASA's flying observatory SOFIA found no sign of phosphine. The original team still disagrees, so the question is not settled. A probe that measures the air directly may be needed.

124 words ・ CEFR B1

和訳を見る

2020年、イギリスのグリーブスが率いるチームが、金星の雲にホスフィンがあると報告しました。地球では、このガスは酸素なしで生きる微生物によって、あるいは工場で作られます。

チームは、その量(約20ppb)は火山や雷では説明できないので、未知の化学反応、あるいは生命から来ているかもしれないと述べました。その後、多くの科学者がデータを調べ直しました。ALMAのデータ処理に誤りが見つかり、修正後の信号はずっと弱くなりました。

ほかの研究者は、二酸化硫黄が似た信号を出すことを指摘しました。2022年には、NASAの空飛ぶ天文台SOFIAがホスフィンの兆候を検出できませんでした。最初のチームは今も反論しているため、問題は決着していません。大気を直接測る探査機が必要かもしれません。

4択リーディングクイズ

Q1. Why did Greaves's team think phosphine might come from life?

Q2. Which of the following is NOT mentioned as a problem with the claim?

Q3. What does the writer suggest at the end?

重要単語

  • phosphineC1
    名詞ホスフィン(リンと水素の化合物)Phosphine is a toxic gas made by some microbes. phosph-(リン)+-ine(化合物)。phosphorus(リン)は「光を運ぶもの」というギリシャ語が語源。
  • biosignatureC1
    名詞生命の痕跡となるしるしPhosphine was proposed as a biosignature. bio-(生命)+signature(署名・しるし)。宇宙生物学の重要語で、近年の科学系長文に登場。
  • reanalysisC1
    名詞再解析A reanalysis of the data weakened the signal. re-(再び)+analysis。複数形は reanalyses(-is → -es)。thesis → theses と同じ変化。
  • upper limitB2
    名詞(句)上限値The new study set a strict upper limit on phosphine. set an upper limit on ~「~に上限を設ける」。「その値より多くはない」という意味で、ゼロとは言い切らない点に注意。
  • controversyC1
    名詞論争The controversy has continued for years. 形容詞 controversial(論争の的となる)は入試頻出。アクセントは CON-tro-ver-sy(第1音節)が一般的。
  • microbeB2
    名詞微生物Some microbes can live without oxygen. micro-(小さい)+bio(生命)。microorganism とほぼ同義。
  • rule outB2
    動詞(句)(可能性を)排除するThe new data do not rule out the possibility. rule out the possibility of ~ の形で頻出。「線を引いて消す」イメージ。

動画でもっと知る

2020年「金星の雲に生命のサインかも」というニュースが世界をかけめぐった。でもその後、データを解析し直すと信号が弱くなったり、別の望遠鏡では見つからなかったり。科学が「答えを出すまで」のリアルな5年間。

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出典・参考文献(4件)タップで表示
  1. Greaves et al. (2020) Phosphine gas in the cloud decks of Venus, Nature Astronomydoi.org
  2. Snellen et al. (2020) Re-analysis of the 267 GHz ALMA observations of Venus, Astronomy & Astrophysicsdoi.org
  3. Villanueva et al. (2021) No evidence of phosphine in the atmosphere of Venus from independent analyses, Nature Astronomydoi.org
  4. Cordiner et al. (2022) Phosphine in the Venusian Atmosphere: A Strict Upper Limit From SOFIA GREAT Observations, Geophysical Research Lettersdoi.org