人はなぜ夢を見るのか? 科学者たちが本気で唱える「5つの仮説」を比べてみた

読む前に予想してみよう!
夢を見るのはレム睡眠中だけ
夢はレム睡眠中に多いが、ノンレム睡眠中にも見ていることが研究で確かめられている。
- 対象
- 健康な成人など
- 規模
- 数十人〜約100人規模の実験+理論論文
- 研究の種類
- 理論(仮説)論文と小規模な実験研究
- 確かさ
- ★☆☆☆☆
夢の役割はまだ解明されていない。脳のノイズ説、危険のシミュレーション説、記憶や感情の整理説、AIに似た「過学習防止」説など、有力な仮説を比べる。
ひとことで言うと夢を見る理由は、まだ科学でもナゾ! でもヒントはたくさん!
もくじ
空を飛ぶ夢、テストに遅刻する夢、知らない街をさまよう夢。私たちは毎晩のように夢を見ています(覚えていないだけのことも多い)。
では、そもそも人はなぜ夢を見るのでしょう? 実はこれ、現代の科学でもまだ答えが出ていない大きな謎のひとつです。
でも、科学者たちはただ首をかしげているわけではありません。いくつもの本気の仮説が提案され、研究が進んでいます。今日は代表的な5つを比べてみましょう。
01仮説1:脳のランダムな信号に「ストーリー」をつけている
1977年、アメリカ・ハーバード大学のHobsonさんとMcCarleyさんが『American Journal of Psychiatry』誌で提案したのが、「活性化・合成仮説」です。
レム睡眠中、脳の奥(脳幹)からは、半ばランダムな信号が大脳に送られます。大脳はそれを受け取って、なんとか意味のある物語に“こじつけて”しまう。それが夢の正体だ、という考えです。
散らばった星を見て、勝手に星座の物語を作ってしまう――そんなイメージ。夢が支離滅裂なのは、元の信号がランダムだから、と説明できます。
この説は「夢そのものに特別な役割はない(副産物)」という立場に近いものです。ただ、ノンレム睡眠中にも夢を見ることがわかるなど、修正が必要な点も指摘され、Hobsonさん自身もその後、考えを発展させていきました。
02仮説2:危険から逃げる「予行演習」をしている
フィンランドの心理学者Revonsuo(レヴォンスオ)さんが2000年、『Behavioral and Brain Sciences』誌で提案したのが「脅威シミュレーション仮説」。
夢には、追いかけられる、落ちる、迷子になるといった怖い場面がよく出てきます。これは、危険な状況を夢の中で安全に練習し、現実でうまく対処できるようにするための、脳の避難訓練だという考えです。進化の歴史の中で、危険の予行演習ができた祖先のほうが生き残りやすかったのでは、という発想です。
ただ、「夢で練習した人ほど現実の危険にうまく対処できる」ことを直接確かめるのは難しく、検証はまだ途中です。
03仮説3:記憶を整理している
眠っている間、脳はその日の記憶を整理していると考えられています(一夜漬けの記事でも紹介しました)。夢は、その整理作業が“見えている”映像ではないか、という考えです。
たとえば、日中に落ち物パズルゲームを何時間もやると、眠りに入る直前にブロックが落ちてくる映像を見ることがある――というハーバード大学のグループの研究報告(2000年)もあります。
04仮説4:つらい感情を和らげている
アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のWalkerさんらは、レム睡眠が「感情の夜間セラピー」のような働きをしているという考えを提案しています。レム睡眠中は、ストレス反応に関わる脳内物質(ノルアドレナリン)がほとんど出ません。その“落ち着いた”状態で嫌な記憶を再生・処理することで、翌日には感情のトゲが少し丸くなる――という仮説です(2009年のレビュー論文で提案)。ただし、この仮説を支持する実験と支持しない実験の両方があり、まだ決着はついていません。

05仮説5:AIのように「過学習」を防いでいる
最新の仮説のひとつが、アメリカの神経科学者Hoelさんが2021年、『Patterns』誌で提案した「過学習脳仮説」です。
AI(機械学習)では、同じデータばかりで訓練すると、そのデータには強いけれど応用がきかなくなる「過学習」という問題が起きます。そこで、わざと少しノイズ(ゆがみ)を加えたデータで訓練して、応用力を高める工夫をします。
Hoelさんは、夢の奇妙さこそが、その“ノイズ入りの訓練データ”なのではないかと考えました。毎日同じような経験ばかりしている脳に、ちょっと変な体験を見せることで、現実の新しい状況にも対応できる柔軟さを保っている――という、AI時代らしいアイデアです。
06まとめ
人が夢を見る理由は、ひとつに決まっていないのかもしれません。記憶の整理、感情の調整、危険の練習、そして脳の柔軟性の維持――夢はいくつもの役割を同時に担っている可能性もあります。
今夜見る夢が、ランダムなノイズなのか、脳の避難訓練なのか。そう考えながら眠ると、夢の見え方が少し変わるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerWhy do we dream?
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
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Why do we dream? Scientists still do not know the answer. But they have some ideas. One idea says the brain makes a story from random signals.
Another says dreams help us practice escaping from danger. Some scientists think dreams help us sort memories or calm strong feelings. A new idea says strange dreams help the brain become more flexible, like training for AI. Maybe dreams have more than one job.
71 words ・ CEFR A2
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私たちはなぜ夢を見るのでしょうか?科学者たちはまだその答えを知りません。しかし、いくつかの考えがあります。ある考えは、脳がランダムな信号から物語をつくっていると言います。
別の考えは、夢が危険から逃げる練習に役立っていると言います。夢は記憶を整理したり、強い感情を落ち着かせたりするのに役立つと考える科学者もいます。新しい考えは、奇妙な夢が、AIの訓練のように、脳をより柔軟にするのに役立っていると言います。夢には複数の仕事があるのかもしれません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main idea of the passage?
夢を見る理由はまだわからないが、いくつかの仮説がある、という主旨なので C。
Q2. According to one idea, what does the brain make from random signals?
the brain makes a story from random signals とあるので A。
Q3. In this passage, "flexible" means ...
flexible は「柔軟な、変化に対応できる」なので D。
Why do we dream? Science has not found a final answer, but there are several serious hypotheses. In 1977, two Harvard researchers suggested that during REM sleep the brain receives semi-random signals and tries to turn them into a story. In 2000, a Finnish psychologist proposed that frightening dreams are a kind of training, helping us practice dealing with danger.
Other researchers believe dreams reflect the brain sorting memories. In a 2010 study, people who dreamed about a maze task during a nap improved much more on the task later, although only four people reported such dreams. A 2021 hypothesis compares strange dreams to the noisy data used to stop AI from learning too narrowly.
115 words ・ CEFR B1
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私たちはなぜ夢を見るのでしょうか?科学はまだ最終的な答えを見つけていませんが、いくつかの本格的な仮説があります。1977年、ハーバードの2人の研究者は、レム睡眠中に脳が半ばランダムな信号を受け取り、それを物語にしようとするのだと提案しました。2000年、フィンランドの心理学者は、怖い夢は一種の訓練であり、危険への対処を練習するのに役立つと提案しました。
ほかの研究者は、夢は脳が記憶を整理している様子を映していると考えています。2010年の研究では、昼寝中に迷路の課題の夢を見た人は、後でその課題の成績がずっと伸びましたが、そうした夢を報告したのは4人だけでした。2021年の仮説は、奇妙な夢を、AIが狭い範囲だけを学習しすぎないようにするために使われるノイズ入りのデータにたとえています。
4択リーディングクイズ
Q1. What did the Finnish psychologist propose?
frightening dreams are a kind of training, helping us practice dealing with danger とあるので B。
Q2. How many people reported dreaming about the maze task in the 2010 study?
only four people reported such dreams とあるので A。
Q3. Why does the writer mention that only four people reported maze dreams?
夢を報告したのが4人だけという点は、結果を慎重に受け止めるべきことを示すためなので C。
In a 2010 experiment, volunteers practiced a maze task and then some of them took a nap. The four who reported dreaming about the maze improved roughly ten times more than nappers who did not, although four dreamers make a very thin basis for any theory. That study is one of several attempts to explain why we dream.
The activation-synthesis hypothesis, put forward at Harvard in 1977, holds that during REM sleep the brainstem sends semi-random signals to the cortex, which weaves them into a story. On this view, dreams may be a by-product with no purpose of their own. The threat simulation theory, proposed by a Finnish psychologist in 2000, takes the opposite position. It argues that common dreams of being chased or falling evolved as rehearsals for danger.
A 2021 proposal borrows an idea from machine learning. Bizarre dreams, it says, work like noise added to training data and stop the brain from overfitting to daily experience. No single idea has been decisively tested, and the hypotheses may not be mutually exclusive. One more complication comes from a 2017 study, which found that people often report dreams even when they are woken from non-REM sleep.
197 words ・ CEFR B2
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2010年の実験で、参加者たちは迷路の課題を練習し、そのうち一部が昼寝をしました。迷路の夢を見たと報告した4人は、そうした夢を見なかった昼寝組より約10倍成績が伸びましたが、夢を見た人が4人では、どんな理論の土台としてもあまりに心もとないものです。この研究は、なぜ夢を見るのかを説明しようとするいくつかの試みの一つです。
1977年にハーバードで提唱された活性化・合成仮説は、レム睡眠中に脳幹が半ばランダムな信号を大脳皮質に送り、皮質がそれを物語に織り上げるとしています。この見方では、夢はそれ自体に目的のない副産物かもしれません。2000年にフィンランドの心理学者が提案した脅威シミュレーション理論は、反対の立場をとります。追いかけられたり落ちたりするよくある夢は、危険への予行演習として進化したと主張するのです。
2021年の提案は機械学習から考えを借りています。奇妙な夢は訓練データに加えられたノイズのように働き、脳が日々の経験に過学習するのを防ぐというのです。どの考えも決定的に検証されてはおらず、これらの仮説は互いに排他的ではないのかもしれません。さらに話を複雑にするのが2017年の研究で、人はノンレム睡眠から起こされたときでも、よく夢を報告することがわかりました。
4択リーディングクイズ
Q1. What does the activation-synthesis hypothesis imply about dreams?
On this view, dreams may be a by-product with no purpose of their own とあるので D。
Q2. According to the 2021 proposal, what do bizarre dreams act like?
Bizarre dreams, it says, work like noise added to training data とあるので A。
Q3. What does the author mean by "The hypotheses may not be mutually exclusive"?
mutually exclusive は「互いに相容れない」。そうでないかもしれない=複数の仮説が同時に正しい可能性があるという意味なので C。
重要単語
- hypothesisC1名詞仮説Scientists test a hypothesis with experiments.
複数形 hypotheses /haɪˈpɒθəsiːz/。propose a hypothesis「仮説を提唱する」。 - simulationB2名詞模擬体験、シミュレーションPilots train with flight simulations.
simulate「模擬的に再現する」。similar(似た)と同語源。 - consolidationC1名詞(記憶の)定着、固定Sleep plays a key role in memory consolidation.
memory consolidation は睡眠と記憶を扱う英文で使われる表現。consolidate「強固にする」。 - generalizeC1動詞一般化する、応用を利かせるA good learner can generalize from a few examples.
名詞 generalization。overgeneralize「過度に一般化する」。 - vividB2形容詞鮮やかな、生々しいI had a vivid dream about flying over the sea.
a vivid dream / vivid memory が定番。viv-(ラテン語 vivere「生きる」)が語源で、survive・revive も同じ仲間。 - by-productC1名詞副産物Some scientists think dreams are a by-product of brain activity.
本来の目的ではなく、ついでに生じるもの。side effect(副作用)とは区別。 - mutually exclusiveC1形容詞(句)互いに相容れないThese two ideas are not mutually exclusive.
mutually「相互に」。not mutually exclusive「両立しうる」は論説文の定番表現。
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- How Sleep Works(NIH 国立心肺血液研究所)nhlbi.nih.gov
- 眠りのメカニズム(厚生労働省 e-ヘルスネット)kennet.mhlw.go.jp
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人はなぜ夢を見るのか、実はまだ答えが出ていない。脳のランダムな信号をつなぎ合わせた説、危険の予行演習説、記憶の整理説、そしてAIの「過学習」を防ぐためという新説まである。どれ派?
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- Hobson & McCarley (1977) The brain as a dream state generator: an activation-synthesis hypothesis of the dream process, American Journal of Psychiatrydoi.org
- Revonsuo (2000) The reinterpretation of dreams: an evolutionary hypothesis of the function of dreaming, Behavioral and Brain Sciencesdoi.org
- Wamsley et al. (2010) Dreaming of a learning task is associated with enhanced sleep-dependent memory consolidation, Current Biologydoi.org
- Siclari et al. (2017) The neural correlates of dreaming, Nature Neurosciencedoi.org
- Hoel (2021) The overfitted brain: dreams evolved to assist generalization, Patternsdoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。









