地球・歴史・物理ウソ

セイラム魔女裁判の原因は「カビ毒」だった? 1976年の有名な仮説は、その後どうなったか

セイラム魔女裁判の原因は「カビ毒」だった? 1976年の有名な仮説は、その後どうなったか

読む前に予想してみよう!

セイラム魔女裁判の発作の原因は、ライ麦のカビ毒だと科学的に決着している

研究カード(どんな研究?)
対象
1692年セイラムの記録
規模
歴史資料の分析(告発者・被告の記録)
研究の種類
歴史的仮説とその検証・反論
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

1692年の魔女裁判の「発作」をライ麦のカビ毒で説明する説が1976年に発表され有名になった。だが同じ年に強い反論が出て、今では支持は弱い。

ひとことで言うと魔女裁判の発作をカビの毒で説明する説は、今ではあまり支持されていない。

もくじ
  1. 「麦角(ばっかく)」とは何か
  2. 1976年、「悪魔はカビだった」説
  3. 同じ年、同じ雑誌に反論
  4. 今の見方:社会のストレスと「期待」
  5. どんでん返し:どちらも「証明」はできない
  6. まとめ

1692年、北米マサチューセッツのセイラム村。数人の少女が激しい発作を起こし、「誰かに呪われている」と訴えました。

ここから始まったセイラム魔女裁判では、200人近くが告発され、20人が処刑されました。これは神話や伝説ではなく、裁判記録が残る歴史的事実です。

では、発作の正体は何だったのか。1976年、ある若手研究者が「カビ毒ではないか」という仮説を発表し、世界的に有名になりました。しかし話はそこで終わりません。

01「麦角(ばっかく)」とは何か

麦角は、ライ麦などの穂に生えるカビの一種です。これを食べ続けると麦角中毒になり、手足の血のめぐりが悪くなる症状や、けいれん、幻覚などが起こります。

中世ヨーロッパでは、麦角中毒による集団発生が記録されています。「ありえない話」ではないのです。

021976年、「悪魔はカビだった」説

この説は一般向けの本やテレビでくり返し紹介され、「魔女裁判の科学的な説明」として広く知られるようになりました。

湿った年にはライ麦に麦角が生えることがある。だがそれで全部を説明できるのか?
湿った年にはライ麦に麦角が生えることがある。だがそれで全部を説明できるのか?

03同じ年、同じ雑誌に反論

ところが同じ1976年、心理学者スパノスとゴットリーブが、同じ『Science』に反論を発表しました。

スパノスは1983年の論文でさらに分析を進め、社会的・心理的なプロセス(村の対立、宗教的な緊張、周囲の期待、役割の学習)で説明するほうが記録と合うと論じました。

04今の見方:社会のストレスと「期待」

現在の歴史研究では、セイラムの出来事は1つの原因では説明できないとされています。

村の中の経済的な対立、先住民との戦争や疫病の不安、宗教的な緊張、そして「魔女は実在し、呪いで人を苦しめる」という当時の共有された信念。こうした条件がそろうと、発作のような症状が広がり、それが告発を生み、告発がさらに症状を生む――という悪循環が起こりえます。

集団心因性疾患の研究者バーソロミューらも、歴史的な事例では、その時代の人々が何を恐れていたかが症状の形を決めると指摘しています。

05どんでん返し:どちらも「証明」はできない

公平に言えば、麦角説も社会心理説も、330年前の人々を直接調べることはできません。

当時の診療記録もなく、残っているのは裁判記録や日記です。だから厳密には、どの説も「記録とどれだけ整合するか」で評価されます。その点で、麦角説は不整合が多いと判断されているのです。

06まとめ

  • 1692年のセイラム魔女裁判では、20人が処刑された
  • 1976年、発作の原因を麦角中毒とする説が発表され有名になった
  • だが同じ年に強い反論が出て、症状や告発の広がり方が合わないと指摘された
  • 現在は、村の対立や宗教的緊張などの社会的・心理的な要因が重視されている

「科学的な説明が見つかった」というニュースほど、その後の議論を追う価値があります。科学は1本の論文で終わらないのです。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn 1692, several girls in Salem, Massachusetts, began having violent fits and claimed they were being cursed. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In 1692, several girls in Salem, Massachusetts, began having violent fits and claimed they were being cursed. Nearly 200 people were accused of witchcraft, and 20 of them were executed. In 1976, Linda Caporael, then a graduate student, published a paper in Science suggesting that the fits were caused by ergot, a fungus that grows on rye in wet conditions. Her idea became widely known.

However, in the same year and in the same journal, the psychologists Spanos and Gottlieb argued against it. They pointed out that typical ergot symptoms were rarely recorded, and that some family members who ate the same bread had no fits. Today, most historians focus on social tensions and shared beliefs instead.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

1692年、マサチューセッツ州セイラムの数人の少女が激しい発作を起こし始め、呪われていると訴えました。200人近くが魔術を使ったとして告発され、そのうち20人が処刑されました。1976年、当時大学院生だったリンダ・カポレイルは、科学誌『Science』に論文を発表し、発作は湿った条件でライ麦に生えるカビ、麦角が原因だったと示唆しました。彼女の考えは広く知られるようになりました。

しかし同じ年、同じ雑誌で、心理学者のスパノスとゴットリーブがそれに反論しました。彼らは、麦角中毒の典型的な症状がほとんど記録されていないことや、同じパンを食べていた家族の中に発作を起こさなかった人がいることを指摘しました。今日、ほとんどの歴史家は代わりに、社会的な緊張と共有された信念に注目しています。

4択リーディングクイズ

Q1. What did Caporael suggest in 1976?

Q2. Which point did Spanos and Gottlieb make?

Q3. Why is the fact about family members important?

重要単語

  • witch trialB2
    名詞(句)魔女裁判The witch trials lasted about a year. trial は「裁判」のほか「試み・試験」の意味も。clinical trial「臨床試験」。
  • accusationB2
    名詞告発・非難The accusations spread through the village. 動詞は accuse。accuse A of B「AをBのかどで責める」は入試超頻出。
  • fungusB2
    名詞菌類・カビThe fungus grows on rye in wet weather. 複数形は fungi。キノコも fungus の仲間。
  • hallucinationC1
    名詞幻覚Ergot can cause hallucinations. 動詞 hallucinate。AIが事実でないことを答えるのも hallucination と呼ばれる。
  • testimonyC1
    名詞証言Court testimony was written down in detail. testify(証言する)の名詞形。be a testimony to ~「~の証しである」。
  • hypothesisB2
    名詞仮説The hypothesis was challenged the same year. 複数形は hypotheses。test a hypothesis「仮説を検証する」。
  • rebuttalC1
    名詞反論・反証The journal published a strong rebuttal. 動詞 rebut(反駁する)。学術論争でよく使う硬い語。

動画でもっと知る

1692年のセイラム魔女裁判。「少女たちの発作はライ麦のカビ毒のせいだった」という説が1976年にScienceに載って有名になったけど、同じ年の同じ雑誌に強い反論が掲載され、今では支持は弱い。じゃあ何が起きていたのか。

押すと「マジかリスト」に保存されます

出典・参考文献(3件)タップで表示
  1. Caporael (1976) Ergotism: The Satan Loosed in Salem?, Sciencedoi.org
  2. Spanos & Gottlieb (1976) Ergotism and the Salem Village Witch Trials, Sciencedoi.org
  3. Bartholomew & Wessely (2002) Protean nature of mass sociogenic illness, British Journal of Psychiatrydoi.org