運動と脳の関係:わかっていること
運動と脳の働きについては、世界中でたくさんの研究が行われてきました。現在、多くの研究者のあいだで共有されているのは、おおむね次のような考え方です。
- 定期的な有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、自転車など)は、注意力や記憶などの認知機能によい影響を与える可能性がある
- 運動をすると脳への血流が増え、脳の神経細胞の成長を助ける物質(BDNFなど)も注目されている
- 一回の軽〜中程度の運動のあと、しばらくの間は注意力が高まることがあると報告されている
ただし、「運動すれば成績が必ず上がる」「〇分走ると記憶力が〇%アップ」といった単純な話ではありません。効果の大きさは研究によってまちまちで、年齢や運動の種類、測り方によっても変わります。
ポイント:運動は「勉強の代わり」ではなく、「勉強できる体と頭の状態を整える土台」と考えるのがちょうどいい距離感です。
また、運動には睡眠の質を整えたり、気分を前向きにしたりする効果も期待されています。よく眠れて気分がいい日のほうが勉強がはかどるのは、多くの人が経験していることでしょう。
座りっぱなしを「区切る」ことから始める
運動というと、ジムに通ったり、毎日ランニングをしたりすることを想像するかもしれません。でも、勉強している人がまず意識したいのは、長時間の座りっぱなしを区切ることです。
何時間も同じ姿勢で座っていると、体がこわばり、頭もぼんやりしてきます。そこで、勉強の区切りごとに立ち上がって体を動かす習慣をつけましょう。
休憩中にできる3分ムーブ
- 立ち上がって、両手を上にぐーっと伸ばす(10秒)
- 肩を前後に10回ずつ回す
- その場で足踏みを30秒、または階段を1往復する
- 首をゆっくり左右に倒す
- 深呼吸を3回して、机に戻る
たったこれだけでも、体がほぐれて、次の勉強に気持ちよく戻れます。25分勉強+5分休憩のようなサイクルで勉強している人は、休憩のうち3分をこの「3分ムーブ」にあててみましょう。
勉強前の軽い運動で「スイッチ」を入れる
勉強を始める前に軽く体を動かすと、頭がすっきりして取りかかりやすくなる人も多いものです。
勉強前のおすすめ
- 10〜15分のウォーキング:家の近所を少し歩いてから机に向かう
- 軽いジョギング:息が少しはずむけれど、会話はできるくらいのペース
- ラジオ体操:全身をまんべんなく動かせて、時間も短い
ポイントは、疲れきるほど激しくしないことです。激しい運動のあとは体が疲れて、かえって眠くなったり、集中できなくなったりすることがあります。「少し息がはずむ」くらいを目安にしましょう。
朝のルーティン例
- 起きたらカーテンを開けて日光を浴びる
- 10分ほど散歩する(または家の中でラジオ体操)
- 朝食をとる
- 単語の復習から勉強をスタート
朝に体を動かすと、生活リズムが整いやすくなるのもうれしいポイントです。
夜に勉強する人は
学校や仕事から帰って夜に勉強する人は、帰宅後すぐにソファに座らず、着替えたら5分だけストレッチをしてから机に向かう、という流れを作ってみましょう。一度ソファでくつろぐと、そこから立ち上がるのはなかなか大変です。「帰宅→着替え→ストレッチ→机」をひと続きの流れにしておくと、疲れていても勉強に入りやすくなります。
歩きながらできる英語学習
運動と英語学習を同時にやってしまう方法もあります。ウォーキングは、耳と口を使う英語学習と相性がいいのです。
ウォーキング×英語のメニュー
- リスニング:英語のポッドキャストや、教材の音声を聞きながら歩く
- 単語の音声復習:単語帳の音声を聞いて、意味を心の中で言う
- シャドーイング:人の少ない場所なら、小さな声で音声のあとについて言う
- 独り言英語:見えたものを英語で言ってみる(例:There's a convenience store on the corner. / It looks like it's going to rain.)
歩いていると、机に向かっているときより気分がほぐれ、口から英語が出やすいという人もいます。
安全のための注意
- 車や自転車の多い道では、イヤホンの音量を小さくするか、片耳だけにする
- 画面を見ながら歩くのは絶対にやめる(音声だけで学べる内容にする)
- 暗い時間帯や人通りの少ない道は避ける
ポイント:歩きながらの学習は「新しいことを覚える」より「すでに学んだことを聞き直す・口に出す」のに向いています。
どのくらい運動すればいい?WHOの目安
世界保健機関(WHO)は、2020年に公表した身体活動のガイドラインで、年齢ごとの目安を示しています。
- 5〜17歳:1日平均60分以上の中強度〜高強度の身体活動(主に有酸素運動)。筋肉や骨を強くする活動を週3日以上
- 18〜64歳:1週間に150〜300分の中強度の有酸素運動(または75〜150分の高強度の運動)。筋力トレーニングを週2日以上
また、座りっぱなしの時間を減らすことも勧められています。
中高生の場合、体育や部活動、通学の徒歩や自転車も身体活動に含まれます。受験期に部活を引退すると、急に運動量が減ることがあるので注意しましょう。
社会人の場合、週150分は「1日約20分」と考えるとイメージしやすいでしょう。通勤で一駅分歩く、昼休みに10分散歩する、などの積み重ねで十分届きます。
ポイント:いきなり目安どおりを目指さなくて大丈夫。今より10分多く体を動かすことから始めましょう。
1週間の運動×勉強メニューとよくある失敗
1週間メニュー
- 月曜:勉強の休憩ごとに「3分ムーブ」を入れる
- 火曜:勉強前に10分ウォーキングをしてから机に向かう
- 水曜:通学・通勤中に、英語音声を聞きながら一駅分(または10分)歩く
- 木曜:休憩ごとに階段を1往復する
- 金曜:ラジオ体操をしてから勉強を始める
- 土曜:30分の散歩をしながら、今週の単語を音声で復習する
- 日曜:体を動かした日と、勉強の集中度をふり返ってメモする
よくある失敗
- いきなり激しい運動を始める:毎日5km走る、などの目標は、慣れていない人にはハードルが高すぎます。疲れて勉強できなくなっては本末転倒です。
- 運動を「勉強をサボる理由」にする:散歩のつもりが、1時間の寄り道になってしまう。運動の時間はあらかじめ決めておきましょう。
- 受験期に運動をゼロにする:勉強時間を増やしたいあまり、まったく体を動かさなくなると、体力が落ちて集中力も続きにくくなります。1日10分でも続けましょう。
- 寝る直前に激しい運動をする:寝つきが悪くなる人もいます。激しめの運動は、寝る数時間前までに済ませるのがおすすめです。
まとめ:体を動かすことも勉強の一部
運動は、勉強時間を奪うものではなく、勉強の効率を支える土台です。何時間も座り続けるより、ときどき立ち上がり、少し歩き、深呼吸する。そのほうが、1日の終わりまで頭がよく働くはずです。
今日の勉強では、まず休憩のたびに立ち上がって、両手を上に伸ばすところから始めてみてください。そして明日は、英語の音声を聞きながら10分だけ歩いてみましょう。体が軽くなると、英語の勉強もきっと軽やかになります。



