心理学ビミョー

「女子は数学が苦手」と意識させると点が下がる? 有名な"ステレオタイプ脅威"、追試で揺らいだ話

「女子は数学が苦手」と意識させると点が下がる? 有名な"ステレオタイプ脅威"、追試で揺らいだ話

読む前に予想してみよう!

ステレオタイプ脅威は、どんな追試でも大きな効果が確認されている

研究カード(どんな研究?)
対象
米国の大学生/オランダの中等学校生(13〜14歳)
規模
数十人規模の実験〜約2000人の追試
研究の種類
実験・事前登録追試・メタ分析
確かさ
★★☆☆☆
3秒でわかる

偏見を意識するとテストの成績が下がる「ステレオタイプ脅威」は教科書の定番。でも大規模な追試では効果が見られず、メタ分析でも効果はかなり小さい可能性が出てきた。

ひとことで言うと「〇〇は苦手でしょ」は成績を下げる? 思ったより効果は小さいかもしれない

もくじ
  1. 始まりはスタンフォードの実験
  2. 大規模な追試で、効果が消えた
  3. 「ゼロ」なのか「条件しだい」なのか
  4. まとめ

「女子は理系が苦手」「〇〇出身はこうだよね」。そんな決めつけを、テストの直前に意識させられたらどうなるでしょう?

1990年代、心理学者たちは「偏見を意識するだけで、実力が出せなくなる」という現象を報告しました。名前はステレオタイプ脅威。教育現場でも有名になり、心理学の教科書にはほぼ必ず載っている"定番"です。

ところが2010年代、この定番に大きな「待った」がかかりました。今回は、そのどんでん返しの物語です。

01始まりはスタンフォードの実験

その後、1999年には「数学テストに男女差がある」と告げられた女子学生の成績が下がる、という研究も発表されました。

「偏見は、本人の心に"重り"をつける」——直感的にもうなずける話です。追試も数多く行われ、この理論は一気に広がりました。

02大規模な追試で、効果が消えた

ところが、ここで心理学全体を揺るがす「再現性の危機」がやってきます。昔の有名な研究を、もっと大きな規模でやり直してみると、効果が見つからないケースが続出したのです。

ステレオタイプ脅威も例外ではありませんでした。

2015年、子どもや10代の女子を対象とした研究をまとめたメタ分析では、効果は小さく、しかも「効果あり」の研究ほど発表されやすい出版バイアスの兆候が見つかりました。

そして2018年、オランダの研究チームは、約2000人の中等学校の生徒(13〜14歳)を対象に、分析方法を事前に公開する「事前登録」で追試を行いました。結果は——女子の数学の成績に、ステレオタイプ脅威の効果は見られませんでした。

有名な研究ほど、測り直すことが大切
有名な研究ほど、測り直すことが大切

03「ゼロ」なのか「条件しだい」なのか

では、ステレオタイプ脅威は幻だったのでしょうか? 答えはまだ「ビミョー」です。

2019年のメタ分析では、実験室のように脅威を意図的に強く与える状況では効果が見られやすい一方、入試や採用試験のような実際のテスト場面に近い状況では、効果はかなり小さいと推定されました。

つまり、「どんな場面でも成績を大きく下げる」という強いイメージは言いすぎかもしれない。ただし、特定の条件で小さな影響がある可能性までは否定されていません。

04まとめ

ステレオタイプ脅威の物語は、「有名な研究=確定した事実」ではないことを教えてくれます。

そして同時に、偏見がいけない理由は、テストの点を下げるかどうかとは関係ないということも忘れずにいたいところです。科学が効果の大きさを測り直しても、人を決めつけない姿勢の価値は変わりません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerStereotype threat is the idea that being reminded of a negative stereotype about your group can lower your… 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Stereotype threat is the idea that being reminded of a negative stereotype about your group can lower your performance. In a famous 1995 study, Black students in the United States scored lower than white students on a difficult verbal test when it was described as a measure of intelligence, but the gap almost disappeared when it was described differently. A 1999 study reported a similar effect for women in math.

However, in the 2010s, many famous findings in psychology failed to appear again in larger studies. A 2015 analysis found that the effect for girls was small and showed signs of publication bias. Then, in 2018, a preregistered study of about 2,000 Dutch high school students found no effect at all.

121 words ・ CEFR B1

和訳を見る

ステレオタイプ脅威とは、自分の集団についての否定的な固定観念を意識させられると、成績が下がることがあるという考えです。1995年の有名な研究では、難しい言語テストが知能を測るものだと説明されたとき、アメリカの黒人学生の点数は白人学生より低くなりましたが、違う説明をすると、その差はほぼ消えました。1999年の研究は、数学のテストを受ける女性についても同じような効果を報告しました。

しかし2010年代、心理学の多くの有名な発見が、より大規模な研究で再び現れないということが起きました。2015年の分析は、女子についての効果は小さく、出版バイアスの兆候があることを見いだしました。そして2018年、オランダの中等学校の生徒(13〜14歳)約2000人を対象とした事前登録の研究では、効果はまったく見られませんでした。

4択リーディングクイズ

Q1. In the 1995 study, when did the gap between Black and white students almost disappear?

Q2. What did the 2015 analysis find?

Q3. What can we infer from the passage?

重要単語

  • stereotypeB2
    名詞固定観念・決めつけStereotypes can be harmful even when they seem harmless. もとは印刷の「鉛版」。同じ型を何度も刷ることから「型にはまった見方」に。stereotypical「型にはまった」。
  • threatB1
    名詞脅威The test felt like a threat to her identity. 動詞は threaten(脅す)。th は /θ/、ea は /e/ と読む(スレット)。
  • replicationC1
    名詞追試・再現A good replication uses a larger sample. replicate(再現する)の名詞形。replication crisis「再現性の危機」は近年の科学論で頻出。
  • preregistrationC1
    名詞事前登録(研究計画を先に公開すること)Preregistration helps prevent cherry-picking results. pre-(前に)+registration(登録)。都合のよい結果だけ選ぶ cherry-picking を防ぐしくみ。
  • publication biasC1
    名詞(句)出版バイアスPublication bias can make effects look bigger. bias は「偏り」。「効果あり」の論文ほど出版されやすいことで、全体の印象がゆがむ問題。
  • undermineC1
    動詞(徐々に)損なう・弱めるAnxiety can undermine performance. under(下を)+mine(掘る)=土台を掘り崩すイメージ。undermine confidence「自信を失わせる」。
  • scrutinyC1
    名詞精査・厳しい検証The famous effect came under scrutiny. come under scrutiny「厳しく調べられる」が定番の形。動詞は scrutinize。

動画でもっと知る

「女子は数学が苦手」と意識させると女子の点が下がる——心理学の教科書に載る有名な現象。でもオランダの13〜14歳の生徒約2000人で事前登録した追試をしたら、効果は見つからなかったらしい。科学は「定説」もちゃんと疑い直す。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Steele & Aronson (1995) Stereotype threat and the intellectual test performance of African Americans, Journal of Personality and Social Psychologydoi.org
  2. Spencer, Steele & Quinn (1999) Stereotype threat and women's math performance, Journal of Experimental Social Psychologydoi.org
  3. Flore & Wicherts (2015) Does stereotype threat influence performance of girls in stereotyped domains? A meta-analysis, Journal of School Psychologydoi.org
  4. Flore, Mulder & Wicherts (2018) The influence of gender stereotype threat on mathematics test scores of Dutch high school students: A registered report, Comprehensive Results in Social Psychologydoi.org
  5. Shewach, Sackett & Quint (2019) Stereotype threat effects in settings with features likely versus unlikely in operational test settings: A meta-analysis, Journal of Applied Psychologydoi.org