2022年ノーベル賞「量子もつれ」を手袋で考える。アインシュタインが最後まで疑った謎

読む前に予想してみよう!
量子もつれを使えば、光より速く情報を送ることができる
結果のそろい方は不思議でも、測定結果そのものはランダムなので、それだけで情報を光より速く送ることはできない。
- 対象
- もつれ合った光子・電子のペア
- 規模
- 1970年代以降の多数のベル不等式検証実験
- 研究の種類
- 物理実験(再現性の高い実験群)
- 確かさ
- ★★★★★
離れた2つの粒子の測定結果がそろう「量子もつれ」。手袋式の「最初から決まっていた」説明では足りないと実験で示した3人が2022年ノーベル賞に。
ひとことで言うとはなれていても、まるで心が通じているみたいにふるまう不思議な粒のペアがある!
2022年のノーベル物理学賞は、「量子もつれ」という、ちょっと不思議な名前の現象を実験で確かめた3人の物理学者に贈られました。フランスのアラン・アスペ、アメリカのジョン・クラウザー、オーストリアのアントン・ツァイリンガーです。
量子もつれとは、ざっくり言うと、遠く離れた2つの粒が、まるで心が通じ合っているかのようにふるまう現象。
あのアインシュタインでさえ「そんなはずはない」と疑い続けたこの謎。今日は手袋を使って、どこがそんなに不思議なのかを考えてみましょう。
01まずは「手袋の箱」で考えてみる
ここに、手袋が1組あるとします。右手用と左手用を、中が見えない2つの箱に1つずつ入れて、片方を東京に、もう片方を宇宙ステーションに送りました。
東京で箱を開けたら「右手用」だった。その瞬間、宇宙ステーションの箱の中身は「左手用」だとわかります。
…でも、これは別に不思議ではありませんよね。箱に入れた時点で、どちらが右か左かは最初から決まっていたからです。開けて「知った」だけで、遠くの手袋に何かが伝わったわけではありません。

02量子の粒は「開けるまで決まっていない」
ところが、光の粒(光子)や電子のような量子の世界では、話が変わります。
量子力学によると、もつれ合った2つの粒は、測定するまで、どちらの状態になるか決まっていないのです。手袋で言えば、箱の中の手袋は「右でもあり左でもある、どっちつかずの状態」。そして片方を開けて「右」と決まった瞬間、遠く離れたもう片方が「左」に決まる――そんなふうに見えるのです。
アインシュタインは、これを受け入れませんでした。1935年、彼は同僚のポドルスキー、ローゼンとともに学術誌 Physical Review に論文を発表し、「量子力学の説明は不完全だ。本当は、手袋のように最初から答えが決まっている『隠れた情報』があるはずだ」という考えを示しました(3人の頭文字から「EPRパラドックス」と呼ばれます)。のちに彼は、手紙の中でこうした遠く離れた影響を「不気味な遠隔作用」と呼んだことでも知られています。
03「どちらが正しいか」を確かめる方法
この論争は長い間、「考え方の違い」で片づけられていました。実験で白黒つける方法がなかったのです。
それを変えたのが、北アイルランド出身の物理学者ジョン・ベルです。1964年、ベルは「もし手袋のように最初から答えが決まっていて、しかも光より速い影響がないなら、2つの粒の結果のそろい方にはある上限がある」という不等式(ベルの不等式)を考え出しました。
ポイントは、測る「向き」を何通りも変えて比べること。手袋は「右か左か」の1通りしかありませんが、光の粒の偏光(光の振動の向き)は、測定器を何度傾けるかで結果の出方が変わります。いろいろな角度の組み合わせで「そろう割合」を集計すると、手袋式の説明ではどうしても越えられない壁ができるのです。
つまり、実験で結果のそろい方を調べて、その上限を超えたら、「最初から決まっていた」という手袋式の説明では足りない、ということになります。
その後も、残っていた細かい「抜け穴」をふさぐ実験が積み重ねられました。1998年にはツァイリンガーらが、測定の向きを乱数で本当にランダムに切り替える実験を行い、2015年にはオランダのデルフト工科大学のチーム(1.3km離れた電子のペアを使用)や、ウィーン、アメリカの研究所のチームが、主要な抜け穴を同時にふさいだ実験を報告しています。
04光より速く情報を送れる?
「片方を測ると、遠くのもう片方が瞬時に決まるなら、それを使えば光より速く通信できるのでは?」と思うかもしれません。
05未来の技術につながる「もつれ」
この不思議な性質は、今では未来の技術の土台になりつつあります。
ツァイリンガーは、量子もつれを使って、ある粒の状態を離れた場所の別の粒に写しとる「量子テレポーテーション」の実験などで知られています(物体そのものが瞬間移動するわけではありません)。
ほかにも、盗み見されるとすぐにわかる量子暗号や、ふつうのコンピューターでは時間がかかりすぎる計算に挑む量子コンピューターなど、研究が世界中で進められています。
06まとめ
- 量子もつれは、離れた2つの粒の測定結果が、不思議なほどそろう現象
- アインシュタインは「最初から答えが決まっているはず」と考えた
- ベルの不等式と実験によって、手袋式の説明では足りないことが示された
- それでも、光より速く情報を送ることはできない
アインシュタインが「おかしい」と感じたのは、決して間違った感覚ではありません。それほどまでに、自然は私たちの常識を超えていたのです。「当たり前」を疑い、実験で確かめる――それこそが、3人の受賞者が見せてくれた科学の面白さです。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerQuantum entanglement is a link between two particles: even when they are far apart, their measured results…
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4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
A pair of gloves is put in two boxes, one in each. If one is right, the other must be left. That is not strange, because it was decided from the start.
But in the world of tiny particles, a pair can be linked in a stranger way. Their results are not decided until someone measures them. Three scientists tested this with experiments and won the Nobel Prize in 2022.
70 words ・ CEFR A2
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1組の手袋を、2つの箱に1つずつ入れます。片方が右手用なら、もう片方は左手用のはずです。これは不思議ではありません。最初から決まっていたからです。
しかし、とても小さな粒の世界では、ペアがもっと不思議な形で結びついていることがあります。その結果は、誰かが測定するまで決まっていないのです。3人の科学者が実験でこれを検証し、2022年にノーベル賞を受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
手袋のたとえを使って、小さな粒どうしの不思議な結びつき(量子もつれ)を説明しているので A。
Q2. When did the three scientists win the Nobel Prize?
won the Nobel Prize in 2022 とあるので C。
Q3. In this passage, "measures" means ...
measure は「測る・測定する」。粒の状態を調べることなので B。
Quantum entanglement is a link between two particles: even when they are far apart, their measured results match in surprising ways. Einstein thought this was strange. In 1935, he argued that, like a pair of gloves in separate boxes, the results must be fixed in advance by hidden information.
In 1964, John Bell showed how to test this idea: if Einstein's view were correct, the results could only match up to a certain limit. Experiments by John Clauser in 1972 and Alain Aspect in 1982 went beyond that limit, supporting quantum mechanics. For this work, Aspect, Clauser, and Anton Zeilinger won the 2022 Nobel Prize in Physics.
107 words ・ CEFR B1
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量子もつれとは2つの粒子の間の結びつきのことで、遠く離れていても、測定結果が驚くような形でそろいます。アインシュタインはこれをおかしいと考えました。1935年、彼は、別々の箱に入った手袋のように、結果は隠れた情報によって前もって決まっているはずだと主張しました。1964年、ジョン・ベルはこの考えを確かめる方法を示しました。
もしアインシュタインの見方が正しければ、結果がそろう度合いにはある上限があるはずだというのです。1972年のジョン・クラウザーと1982年のアラン・アスペの実験は、その上限を超え、量子力学を支持しました。この業績により、アスペ、クラウザー、アントン・ツァイリンガーは2022年のノーベル物理学賞を受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
アインシュタインの考えをベルの方法と実験で確かめた流れを説明しているので D。
Q2. What did John Bell do in 1964?
In 1964, John Bell showed how to test this idea とあるので B。
Q3. What do the experiments suggest about Einstein's idea?
実験結果がアインシュタイン式の上限を超えたので、その考えでは説明しきれないと推論できる。正解は A。
In 1935, Einstein, Podolsky, and Rosen argued that quantum mechanics must be incomplete. If measuring one particle seemed to fix the state of a distant partner instantly, they reasoned, the outcomes must have been determined in advance by hidden variables, much as a glove in a sealed box is already left- or right-handed. For three decades this remained a philosophical dispute, until John Bell showed in 1964 that any such local theory places an upper limit on how strongly results measured at various angles can correlate. Experiments could therefore settle the question. Clauser and Freedman reported a violation of this limit in 1972, and Alain Aspect's team in 1982 switched measurement settings while photons were in flight, reducing the chance that the detectors were somehow coordinating.
Later work, including random setting choices by Anton Zeilinger's group and 2015 experiments that closed the main loopholes simultaneously, confirmed the quantum predictions. Bell's theorem rules out local hidden variables but not every hidden-variable theory, and entanglement cannot transmit information faster than light, because each individual outcome is random. The three physicists shared the 2022 Nobel Prize.
183 words ・ CEFR B2
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1935年、アインシュタイン、ポドルスキー、ローゼンは、量子力学は不完全に違いないと主張しました。彼らの考えでは、ある粒子を測定すると遠く離れた相手の状態が瞬時に決まるように見えるなら、封をした箱の中の手袋がすでに右か左か決まっているのと同じように、結果は隠れた変数によって前もって決まっていたはずだというのです。この問題は30年にわたって哲学的な論争のままでしたが、1964年、ジョン・ベルが、そうした局所的な理論では、さまざまな角度で測定した結果の相関の強さに上限があることを示しました。そのため、実験で決着をつけられるようになったのです。クラウザーとフリードマンは1972年にこの上限が破られることを報告し、アラン・アスペのチームは1982年、光子が飛んでいる途中で測定の設定を切り替えて、検出器どうしが何らかの形で連携している可能性を小さくしました。アントン・ツァイリンガーのグループによる設定のランダムな選択や、主な抜け穴を同時にふさいだ2015年の実験など、その後の研究も量子力学の予言を確かめました。
ベルの定理が否定するのは局所的な隠れた変数であって、あらゆる隠れた変数の理論ではありません。また、一つひとつの結果はランダムなので、量子もつれで光より速く情報を送ることはできません。3人の物理学者は2022年のノーベル賞を共同受賞しました。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the main point of the passage?
ベルの定理に基づく実験で、局所的な隠れた変数では説明できないことが示された、という内容なので C。
Q2. Why did Aspect's team switch measurement settings while photons were in flight?
reducing the chance that the detectors were somehow coordinating とあるので D。
Q3. Why can entanglement not be used to send messages faster than light?
because each individual outcome is random とあるので B。
重要単語
- entanglementC1名詞もつれ(量子もつれ)Quantum entanglement puzzled even Einstein.
tangle(もつれる)→ entangle(からませる)→ entanglement。be entangled in ~「~に巻きこまれる」。 - inequalityB2名詞不等式、不平等The experiment broke Bell's inequality.
社会問題では income inequality「所得格差」として頻出。数学では「不等式」。 - hidden variableC1名詞(句)隠れた変数Einstein believed in hidden variables.
variable は「変数」。形容詞では「変わりやすい」。vary(変わる)と同語源。 - measurementB1名詞測定Each measurement gives a random result.
measure(測る)+-ment。take measurements「寸法を測る」。 - loopholeC1名詞抜け穴Later experiments closed the remaining loopholes.
本来は城壁の「銃眼」。tax loophole「税の抜け穴」のように法律でよく使う。close a loophole「抜け穴をふさぐ」。 - correlateC1動詞相関する、関連し合うThe results correlate more strongly than expected.
名詞 correlation。correlate with ~「~と相関する」。因果関係(causation)との区別は入試頻出。
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2022年ノーベル物理学賞の「量子もつれ」、アインシュタインが「おかしい」と疑い続けた現象を実験で確かめた話らしい。手袋のたとえで考えると、どこが不思議かよくわかる。
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- Einstein, Podolsky & Rosen (1935) Can Quantum-Mechanical Description of Physical Reality Be Considered Complete?, Physical Reviewdoi.org
- Bell (1964) On the Einstein Podolsky Rosen paradox, Physics Physique Fizikadoi.org
- Freedman & Clauser (1972) Experimental Test of Local Hidden-Variable Theories, Physical Review Lettersdoi.org
- Aspect, Dalibard & Roger (1982) Experimental Test of Bell's Inequalities Using Time-Varying Analyzers, Physical Review Lettersdoi.org
- Hensen et al. (2015) Loophole-free Bell inequality violation using electron spins separated by 1.3 kilometres, Naturedoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。










