ミニマルペア・ゲーム ― light と right、聞き分けられたら手を挙げろ
1か所の音だけが違う2語(light / right、hat / hut)を聞いて、どちらかを当てるゲームです。いろいろな人の声・いろいろな語で、毎回すぐに正解を知らせる。研究で効果が確かめられた聞き分け訓練(HVPT)の主な条件を、短いゲームに取り入れた活動です(このゲームそのものの効果はまだ確かめられていません)。
- ⏱ 時間
- 5-10分
- 🧰 準備
- 少し
- 👥 形態
- 全体・ペア
- 🎯 技能
- 発音・リスニング・ゲーム
- 📶 CEFR
- A1-B1

- 日本語にない音の区別(/r/ と /l/、/æ/ と /ʌ/、/s/ と /θ/ など)に耳を慣らす。
- 「聞き分けられる」ようになることで、自分の発音の手がかりを得る。
- 最後は文の中で聞き分ける・自分で言うことで、意味の区別につなげる。
ミニマルペア・ゲームってなに?
ひとことで言うと、light / right のように1か所の音だけがちがう2語(ミニマルペア)を聞いて、どちらが言われたかを当てるゲームです。毎回すぐに正解を知らせ、先生だけでなく、いろいろな人の声で行います。
よく似た双子の見分け方を覚えるようなものです。最初は同じに見えても、1回ごとに「今のはどっち?」の答えを教えてもらい、いろいろな写真で見比べるうちに、見分ける手がかりがわかってきます。大事なのは、毎回すぐに答えを確かめることと、1人の声だけで練習しないことです。
似た練習とのちがい
| 発音のリピート練習 | ミニマルペア・ゲーム | 研究の聞き分け訓練(HVPT) | |
|---|---|---|---|
| すること | 先生のあとについて言う | 聞いて、1か2を選ぶ | 聞いて、どちらかを選ぶ |
| 声 | 先生1人のことが多い | 先生・ALT・録音など、できるだけいろいろ | 多くの話者の録音 |
| 正解 | ― | 毎回すぐ言う | 毎回すぐ示される(主にコンピュータ) |
| 量 | ― | 1回数分 | 何回ものセッション |
HVPT(多くの声で聞き分ける訓練)についての研究と、このゲームとの関係は、下の「なぜ効く?」で説明しています 1。
やり方を3ステップで
- 聞き比べる:今日のペア(例:right / light)を黒板に書き、2語を続けて聞かせる。
- 当てる:先生が1語だけ言い、生徒は指で1か2を出す。毎回すぐ正解を言い、声を替えてくり返す。
- 使う:文の中で聞き分け、最後はペアで1語ずつ言って当て合う。
授業の流れ(分ごと)
| 時間 | 先生 | 生徒 |
|---|---|---|
| 0:00〜1:00 | 今日のペアを黒板に書き、2語を続けて聞かせる | 違いを聞く |
| 1:00〜3:00 | 先生の声(区別して発音しにくい音なら確認ずみの録音)でクイズ6問。1問ごとに正解を言う | 指で1か2を一斉に出す |
| 3:00〜5:00 | 録音・ALT・アプリなど別の声で同じクイズ | 指で答える・ワークシートに○ |
| 5:00〜6:00 | 文の中の聞き分け(Round 3) | どちらの語か選ぶ |
| 6:00〜8:00 | "Your turn." ペアで出し合わせる | 1語を言い、相手が当てる |
| 8:00〜9:00 | 振り返り | いちばん難しかったペアを書く |

- 今日のペアを1つ決める:例 /r/–/l/(right / light, read /riːd/ / lead /liːd/, grass / glass)。5〜8組のミニマルペアを黒板に書き、左を1、右を2とする。
- 聞き比べ:まず2語を続けて言い(right ... light)、違いがあることを意識させる。
- 聞き分けクイズ:先生がどちらか1語を言い、生徒は指で1か2を一斉に出す。
- すぐに正解:毎回「Number 2 was "light."」と正解を言う。先生自身がその2つの音を区別して発音しにくいときは、最初の提示と正解の確認には、教科書の音声など確かめられた録音を使う。迷った語は、2語を続けて言って聞き比べさせる。
- 声を変える:ALT・録音・アプリの音声など、ほかの人の声でも同じクイズをする(できるだけ複数の話者の声で。地域による発音のちがいがある声を混ぜるときは、ねらう2つの音が区別して発音されているかを先に確かめる)。ワークシートの Voice A〜C に○。
- 文の中で:Round 3 のように、文の中でどちらの語かを聞き分ける。どちらの語でも意味が通る文にしておくと、文脈で推測せず、音で聞き分ける練習になる。
- ペアで出し合う:生徒どうしで1語を言い、相手が当てる。相手が当てられなかったときは、言った側・聞いた側のどちらに原因があるか決めつけず、お手本の音声をもう一度聞いて、2人でもう一度ためします。
日本語を話す学習者が混同しやすい音のペア(すべて実在の英単語)です。
/r/ – /l/
- right – light
- read /riːd/(読む)– lead /liːd/(導く)
- rock – lock
- fry – fly
- arrive – alive
/æ/ – /ʌ/ 6. hat – hut 7. cap – cup 8. match – much
/s/ – /θ/ 9. sink – think 10. sank – thank 11. mouse – mouth
/b/ – /v/ 12. best – vest 13. boat – vote
/i/ – /ɪ/(長さより音色の違い) 14. seat – sit 15. leave /liːv/ – live /lɪv/(住む)
文の中の聞き分け 16. I'll (pray / play) for you. 17. Do you want to (walk / work) with me?(イギリス英語の例:/wɔːk/ – /wɜːk/。アメリカ英語では /wɑːk/ – /wɝːk/。使う音源の発音に合わせる)
- 小学校:文字の代わりに絵カード(hat / hut、cap / cup など絵にしやすいもの)で。正解したら絵を指さすゲームに。
- 中学:教科書に出た語から、日本人が混同しやすいペアを毎回1つ。帯活動として5分で続けると、学期で何種類もの音を扱えます。
- 高校:単語だけでなく、文の中で("I want to collect / correct the papers.")。文脈だけでは判断できず、音のちがいを聞く必要がある聞き分けに挑戦します。
- 大人数クラス:指で1・2を一斉に出す形なら、40人でもクラス全体のおおまかな傾向を短い時間で確かめられます(一人ひとりの答えを確かめたいときは、ワークシートの○、1・2の回答カード、ミニホワイトボード、端末の投票機能などを使います)。正答率が低いペアだけくり返します。
- 苦手な生徒が多いクラス:1回に扱うペアは1種類・3組まで。最初は2語を続けて何度も聞き比べ、「違いがある」と感じるところから始めます。
- オンライン・タブレット:聞き分けクイズのツールを各自で。1問ごとに正誤が出て、いろいろな声で練習できます。正答率を共有フォームに入力し、クラス全体で苦手なペアを確認します。
この活動の中心は、知識・技能(音の聞き分け)の形成的な確認です。
- 知識・技能:ミニマルペアを、いろいろな声で聞き分けられる(単語問題と、どちらの語でも意味が通る文の問題の正答数)。発音は、ペアの1回の当てっこではなく、先生が何回か聞いて確かめる。
- 思考・判断・表現:この活動だけでは見きわめにくい観点です。評価するなら、目的・場面・状況のある聞き取りの課題(例:電話で予約の時刻を聞き取る)を別に設けます。
- 主体的に学習に取り組む態度:苦手なペアを自分で見つけ、ツールなどで練習を続け、その結果をふり返りに書いている(何回かの授業を通して観察して記録する)。
小学校3・4年の外国語活動では、観点別評価の A/B/C や数値による評定には使わず、学習のようすを文章で記録する材料にします。
| 振り返りの目安 | ようす |
|---|---|
| ◎ | いろいろな声で、ほとんどの問題を聞き分けられる |
| ○ | 聞き慣れた声なら聞き分けられるが、初めての声では迷うことがある |
| △ | まだ半分くらいしか当たらない(2択なので、当てずっぽうでも半分は当たる) |
これは正式な評価規準ではなく、本人と先生が振り返るための目安です。比べるときは、同じ語・同じ問題数で、複数の話者の声を使います。数問の結果だけで力を判断せず、何回かの記録を見ます。
聞き分けは「できる・できない」がはっきり出るので、点数より伸びを本人に見せる使い方がおすすめです。
- 先生の声だけで続けてしまう → 多くの声で訓練した日本人の研究でも、新しい語の聞き分けは、訓練で聞いたことのある話者の声の方が、初めて聞く話者の声より正確でした 2。聞き分けの力は声によって変わるので、録音やALTの声を混ぜましょう。
- 正解を言わずに次へ進む → 研究の訓練は1問ごとのすぐのフィードバックが前提です。毎回「The answer is number 1: "right."」のように言います。
- できない生徒が自信をなくす → /r/–/l/ は大人の日本語話者にとって、英語を何年学んでも難しいことが多い区別です 3。「難しくて当たり前」と伝え、伸びを本人に見せます。
- 意味のない音の練習で終わる → 最後は文の中で聞き分ける・自分で言う、につなげます。
- ペア練習で正解がわからない → ワークシートに答えを書いてから言う、または聞き分けツールの音声でペアの答えを確かめます。
日本人にとって難しい英語の /r/ と /l/ について、アメリカの研究チームは、いろいろな話者が、いろいろな位置(語頭・子音のあと・母音の間)で発音した本物の単語のミニマルペアを聞き分ける訓練を行いました。最初の報告は6人と小規模でしたが、訓練の前後で小さいながら確かな伸びが見られました 3。続く研究では、訓練の3か月後も正答率はほとんど落ちませんでした(訓練直後より2ポイント低いだけ)。6か月後に再び参加できた8人では、平均正答率が訓練前より4.5ポイント高かったものの、訓練前との差は統計的に有意ではありませんでした(訓練直後からの有意な低下も見られませんでした) 2。
この「多くの声で聞き分ける訓練(HVPT)」の研究は、その後も積み重なっています。79研究をまとめた2025年のメタ分析では、訓練の前後の比較で g = 0.92、訓練しなかったグループとの比較で g = 0.67 と効果が確認され、効果は長く残り、新しい語や声にもある程度広がっていました。ただし前後の比較では出版バイアス(効果が出た研究ほど論文になりやすいこと)が見つかり、それを補正すると g = 0.71 に下がります。前後の比較には対照群がないので、テストに慣れたことなど訓練以外の影響も含まれえます。補正後の値や対照群との比較で見ると、中程度の効果と考えるのが安全です 1。HVPT の研究は音声学の専門誌に多く載っているため、効果が確かめられているのに先生にあまり知られていない、という指摘もあります 4。
ただし、これらの研究は主にコンピュータで1人ずつ、1問ごとに正誤のフィードバックを受けながら何回も訓練したものです(たとえば lively1994 の訓練は3週間にわたります)。メタ分析でも、総訓練時間や話者の数などで効果が変わると報告されています 1。数分のゲームを1回やるだけで同じ効果が出るかは確かめられていません。研究の主な条件である「いろいろな声」「いろいろな語・音の位置」「1問ごとのすぐの正解」を教室でもできるだけ守り、短い時間でも何回もくり返しましょう。
❓ よくある質問
Q. ミニマルペア・ゲームの進め方は?
今日のペアを1つ決め(例:/r/–/l/ の right / light, read /riːd/ / lead /liːd/ など)、5〜8組を黒板に書いて左を1、右を2とします。先生がどちらか1語を言い、生徒は指で1か2を一斉に出します。毎回すぐ正解を言い、最後は文の中での聞き分けとペアでの出し合いに進みます。
Q. 先生の声だけで練習してもいいですか?
多くの声で訓練した研究でも、新しい語の聞き分けは、聞いたことのある話者の声の方が初めての声より正確でした 2。ALT・録音・アプリの音声など、できるだけ複数の話者の声を混ぜます(地域による発音のちがいがある声は、ねらう音が区別されているかを先に確かめます)。また、正解を言わずに次へ進まず、1問ごとにすぐ正解を伝えます。
Q. L と R がどうしても聞き分けられない生徒には?
/r/–/l/ は大人の日本語話者にとって、英語を何年学んでも難しいことが多い区別です 3。「難しくて当たり前」と伝え、伸びを本人に見せます。ペアで出し合って相手が当てられなかったときは、どちらに原因があるか決めつけず、お手本の音声をもう一度聞いて2人でためします。
Q. 聞き分けの訓練に効果はありますか?
多くの声で聞き分ける訓練(HVPT)の研究をまとめたメタ分析では効果が確認され、効果は長く残りました。出版バイアスを補正した値や、訓練しなかったグループとの比較で見ると、中程度の効果です 1。ただし主にコンピュータで1人ずつ訓練した研究で、教室のゲームで同じ効果が出るかは確かめられていません。
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📑 出典(4件)
本文の上付き数字に対応。✔ は DOI / ISBN / 公式ページを書誌データベースと機械照合した印です。
- Uchihara, T., Karas, M., & Thomson, R. I. (2025). High variability phonetic training (HVPT): A meta-analysis of L2 perceptual training studies. Studies in Second Language Acquisition, 47(3), 794-827. doi:10.1017/S0272263125100879 ✔ DOI照合済多くの話者の声で音を聞き分ける訓練(HVPT)の79研究のメタ分析。中〜大の効果
- Lively, S. E., Pisoni, D. B., Yamada, R. A., Tohkura, Y., & Yamada, T. (1994). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/. III. Long-term retention of new phonetic categories. The Journal of the Acoustical Society of America, 96(4), 2076-2087. doi:10.1121/1.410149 ✔ DOI照合済/r/ /l/ の聞き分け訓練の効果が3か月後・6か月後も残っていた
- Logan, J. S., Lively, S. E., & Pisoni, D. B. (1991). Training Japanese listeners to identify English /r/ and /l/: A first report. The Journal of the Acoustical Society of America, 89(2), 874-886. doi:10.1121/1.1894649 ✔ DOI照合済日本人にミニマルペアと多くの話者の声で /r/ /l/ を聞き分ける訓練をした最初の報告
- Thomson, R. I. (2018). High Variability [Pronunciation] Training (HVPT): A proven technique about which every language teacher and learner ought to know. Journal of Second Language Pronunciation, 4(2), 208-231. doi:10.1075/jslp.17038.tho ✔ DOI照合済HVPT の32研究を教師向けにまとめた総説
最終更新 2026-10-18 ・ 原田英語 まちがいのご指摘はこちら





