原田英語のスラング・新語辞典

バズミーム解説スラング考現学 第41回

おいしければ「W chews」――ごはん採点の新語が10日で広まるまで

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木曜日のコーナー「バズミーム解説」…いまSNSでバズっているミームやフレーズの元ネタ・広まり方・使いどころを、超絶楽しく解説。 コーナー一覧

おいしいごはんの写真に「W chews」、ハズレだったら「L nibbles」。10月の終わりから、英語圏のSNSにこの2語が急に増えました。ひとつのつぶやきが、AI動画のミームと合体して、たった10日ほどで「新しい言葉」として広まっていった流れを追ってみます。

1W chews は「当たり飯」、L nibbles は「ハズレ飯」

W chews は、おいしい食べ物をほめる言葉です。反対に、いまいちだった食べ物は L nibbles と呼びます。友達が料理の写真をあげたら「W chews」とコメントする。自分で迷ったら「これは W chews? それとも L nibbles?」と聞く。使い方はこれだけです。

組み立ては、とても単純です。前半の W と L は、ネットで「勝ち」「負け」を表す W と L。後半の chews(もぐもぐかむ)と nibbles(ちびちびかじる)は、どちらも食べる動作を表す言葉です。勝ち負けの記号に、食べる音をくっつけただけ。それなのに、口に出すと妙にリズムがよく、くせになります。

日本語にするなら「当たり飯」「ハズレ飯」あたりが近いでしょう。おいしいものを「優勝」と言うのと同じように、ごはんの出来を勝ち負けで言い切ってしまうノリです。

2始まりは「1年間言い続ける」という宣言

いちばん古い使用として記録されているのは、2026年10月25日のXの投稿です。投稿者は W chews という言い方を紹介し、「これから1年くらい、知り合い全員にこの言葉を言い続けて困らせる」と宣言しました。

この投稿は1週間で4万いいねを超え、3,800回以上リポストされました。言葉そのものより、「わざとしつこく使ってやる」という宣言がおもしろがられたわけです。その日から、まわりの人たちが本当に W chews を言い始めました。

流行語には、こうして「ふざけて使う人」が増えるところから始まるものがよくあります。最初から本気で使っている人はほとんどいません。冗談で言っているうちに、だんだん普通の言葉になっていきます。

3AI動画のミームと合体して一気に広がる

広がりを後押ししたのが、リアリティ番組で知られる音楽プロデューサー Mini Producer のミームでした。もともと彼の映像は、ネットでいろいろな形に加工されて遊ばれていました。そこに W chews がくっついたのです。

10月27日にはInstagramで、彼の映像に W chews を重ねた動画が12万いいねを超えました。10月29日にはTikTokで、AIで作った「彼がバーで飲み物とハンバーガーを頼んで採点する」動画が4日で99万回以上再生されました。料理を食べて「W chews」か「L nibbles」かを判定する、という形がここで決まります。

10月30日には、Xで料理の写真に「これは W chews? L nibbles?」とだけ書いた投稿が6,000近いいいねを集めました。ここまで来ると、元ネタを知らなくても使えるただの採点ワードです。

4ate、chewed、nibbled と続いてきた「食べる」ほめ言葉

英語の若者言葉には、もともと「食べる」でほめる流れがありました。いちばん有名なのはateです。ダンスやメイクが完璧だったとき、She ate.(食べた=完全にやりきった)と言います。

そこから派生したのがchewed(かんだ)です。ate ほどではないけれど、しっかりかみしめるくらいにはよかった、というちょっと弱めのほめ言葉。さらに弱いのが nibbled(ちょっとかじった)で、「まあ悪くない」くらいになります。

W chews と L nibbles は、この「食べる」ほめ言葉を、本物の食べ物の話に戻したような言葉です。かむほど強く、かじるだけだと弱い。食べ方の強さで評価の高さを表す感覚が、きれいに受けつがれています。

5「新しい言葉」と言いながら使うのがお約束

W chews のミームには、ひとつ決まりごとのようなものがあります。それは「最近こんな新しい言葉があるらしい」と、わざと大げさに紹介しながら使うことです。若者言葉を勉強する大人のまねをして、自分たちで笑っているわけです。

日本でも、流行語ランキングが発表されるたびに「大人には意味が分からない言葉」として紹介され、本人たちがそれをネタにすることがあります。言葉そのものより、「流行っている言葉を使ってみる」こと自体が遊びになっているのは、日英どちらも同じです。

使う相手は、もちろん友達どうしです。レストランの口コミや、先生に送るメッセージに W chews と書くと、ふざけていると受け取られます。本気でほめたいときは This was amazing. と素直に言いましょう。

勝ち負けの記号に、もぐもぐとちびちびを足しただけの2語が、10日ほどで英語圏のごはん写真のコメント欄に広がりました。明日は金曜日、ことばの仕組みを日英でくらべます。

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