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カラカラに干からびても、水をかけると生き返る虫がいる。「ネムリユスリカ」の不死身ワザ

カラカラに干からびても、水をかけると生き返る虫がいる。「ネムリユスリカ」の不死身ワザ

読む前に予想してみよう!

ネムリユスリカの幼虫は、乾燥する前に脳から「眠れ」という指令を受けて乾眠に入る

研究カード(どんな研究?)
対象
ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)の幼虫
規模
実験室で飼育した多数の幼虫・近縁種とのゲノム比較
研究の種類
乾燥・復活実験、成分分析、比較ゲノム解析
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

アフリカの岩のくぼみにすむネムリユスリカの幼虫は、体の水分がほぼゼロになっても、水を戻すと動き出す。トレハロースという糖と、体を守る遺伝子のセットが秘密。

ひとことで言うとネムリユスリカの赤ちゃんは、カラカラにかわいても、水をかけると生きかえる!

もくじ
  1. 雨季と乾季をくり返す、岩のくぼみの水たまり
  2. 秘密は「体をガラスにする糖」
  3. ゲノムに刻まれた「乾燥に勝つ遺伝子」
  4. まとめ

「最強の生き物」といえば、クマムシが有名です。でも、昆虫の世界にも、負けず劣らずの不死身キャラがいます。

その名もネムリユスリカ。アフリカにすむ、小さな蚊のような虫です。この虫の幼虫は、体がカラカラに干からびても死にません。水をかけると、また動き出すのです。

まるで「インスタント食品」のような生き物。その秘密を探る研究には、日本の研究者たちが深くかかわってきました。

01雨季と乾季をくり返す、岩のくぼみの水たまり

ネムリユスリカの幼虫がすむのは、ナイジェリアなどアフリカの半乾燥地帯の、岩のくぼみにできる小さな水たまりです。

雨が降れば水がたまりますが、晴れが続くと数日で干上がってしまいます。ほかの虫なら死んでしまう環境で、この幼虫は乾いたら眠り、雨が降ったら起きるという生き方を選びました。

この能力を早くから報告したのは、イギリスの昆虫学者ハワード・ヒントンさんです。1951年にこの虫を新種として記載し、1960年の論文で、乾燥した幼虫が水を戻すと復活することを詳しく記録しました。のちには、十数年も乾いたまま保存されていた幼虫が復活したという報告もあります。

体の水分をほぼ完全に失って代謝が止まった状態を、乾眠(かんみん)といいます。昆虫で、幼虫がこれほど完全な乾眠をできるのは、ネムリユスリカと、ごく近縁の1種(2017年に報告されたマラウイのユスリカ)だけと考えられています。

乾いたら眠り、水が戻れば起きる。ネムリユスリカの一生のリズム。
乾いたら眠り、水が戻れば起きる。ネムリユスリカの一生のリズム。

02秘密は「体をガラスにする糖」

干からびても壊れない体は、どうやってできるのでしょうか。

トレハロースは、キノコや海藻にも含まれる糖で、食品や化粧品の保湿にも使われています。水がなくなると、トレハロースは細胞の中でガラスのように固まり、たんぱく質や細胞膜を包みこんで、形が崩れないように守ると考えられています。

乾いた幼虫は、とても高い温度や極低温、宇宙空間に近い環境にもかなり耐えることが報告され、国際宇宙ステーションでの実験にも使われました。

03ゲノムに刻まれた「乾燥に勝つ遺伝子」

2014年、日本・ロシアなどの国際チーム(Gusev ら)は、ネムリユスリカと、乾燥に耐えられない近縁のユスリカのゲノムを比べ、『Nature Communications』に発表しました。

ネムリユスリカのゲノムには、体を守る「盾」になるたんぱく質の遺伝子が、何個もコピーされてかたまって並んでいる場所がありました。乾燥で傷ついたたんぱく質やDNAを守ったり、修理したりする遺伝子も多く見つかっています。

トレハロースという「ガラスの鎧」と、たくさんの「守りの遺伝子」。この2つが、干からびても死なない体を支えていると考えられます。

04まとめ

ネムリユスリカの幼虫は、干からびても水をかけると生き返る、昆虫界の不死身キャラでした。その秘密は、ガラスになる糖と、体を守る遺伝子のセット。

アフリカの小さな水たまりで生まれた知恵が、いつか私たちの医療や食品保存を変えるかもしれません。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn parts of Africa, small pools form in rock hollows after rain and dry up within days. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

In parts of Africa, small pools form in rock hollows after rain and dry up within days. The larvae of the sleeping chironomid live in these pools. When the water disappears, they lose almost all of their body water and stop living actively, a state called anhydrobiosis. When water returns, they revive.

In 2002, Masahiko Watanabe, Takahiro Kikawada and Takashi Okuda reported that while larvae dry slowly over about two days, they store the sugar trehalose, up to 18 percent of their dry body weight. Even larvae whose brains and other nerve centers had been removed could dry out and revive. This suggests that the process does not depend on commands from the brain.

114 words ・ CEFR B1

和訳を見る

アフリカの一部では、雨の後に岩のくぼみに小さな水たまりができ、数日のうちに干上がります。ネムリユスリカの幼虫は、こうした水たまりにすんでいます。水がなくなると、体の水分のほとんどを失い、活動的に生きるのをやめます。この状態は乾眠と呼ばれます。水が戻ると、生き返ります。

2002年、渡邊匡彦さん、黄川田隆洋さん、奥田隆さんは、幼虫が約2日かけてゆっくり乾く間に、トレハロースという糖を乾燥体重の18パーセントまでため込むことを報告しました。脳などの神経の中枢を取り除いた幼虫でも、乾いてから生き返ることができました。これは、この過程が脳からの指令に頼っていないことを示唆しています。

4択リーディングクイズ

Q1. Why do the larvae need to survive drying out?

Q2. How much trehalose do the larvae store?

Q3. What does the experiment with removed brains suggest?

重要単語

  • desiccationC1
    名詞乾燥The larvae can survive complete desiccation. 動詞 desiccate「乾燥させる」。お菓子の袋の「乾燥剤」は desiccant。
  • anhydrobiosisC1
    名詞乾眠(無水状態での生命維持)Anhydrobiosis is rare among insects. an-(ない)+hydro(水)+bio(生命)+-sis。語の部品で意味が推測できる好例。
  • reviveB2
    動詞生き返る、復活するThe dry larvae revive after being put in water. re-(再び)+vive(生きる)。名詞 revival は「復活・再上演」。
  • trehaloseC1
    名詞トレハロース(糖の一種)Trehalose protects cells from drying out. -ose は糖を表す語尾。glucose(ブドウ糖)、fructose(果糖)も同じ。
  • larvaC1
    名詞幼虫Only the larva has this amazing ability. 複数形は larvae。pupa(さなぎ)、adult(成虫)とあわせて昆虫の一生を表す。
  • tolerateB2
    動詞耐える、許容するThe related midge cannot tolerate drying. 名詞 tolerance「耐性・寛容」。drought-tolerant「干ばつに強い」のような形容詞にもなる。

4コマでわかる

カラカラに干からびても、水をかけると生き返る虫がいる。「ネムリユスリカ」の不死身ワザの4コマ漫画
アフリカの「ネムリユスリカ」の幼虫は、体の水分がほぼゼロになるまで干からびても、水をかけるとまた動き出すらしい。昆虫でこれができると確かめられているのは、この種と近縁の1種だけ。秘密の一つは、体をガラスのように固めると考えられている糖「トレハロース」。

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出典・参考文献(5件)タップで表示
  1. Hinton (1951) A new Chironomid from Africa, the larva of which can be dehydrated without injury, Proceedings of the Zoological Society of Londondoi.org
  2. Hinton (1960) Cryptobiosis in the larva of Polypedilum vanderplanki Hint. (Chironomidae), Journal of Insect Physiologydoi.org
  3. Watanabe et al. (2002) Mechanism allowing an insect to survive complete dehydration and extreme temperatures, Journal of Experimental Biologydoi.org
  4. Gusev et al. (2014) Comparative genome sequencing reveals genomic signature of extreme desiccation tolerance in the anhydrobiotic midge, Nature Communicationsdoi.org
  5. Cornette et al. (2017) A new anhydrobiotic midge from Malawi, Polypedilum pembai sp.n. (Diptera: Chironomidae), closely related to the desiccation tolerant midge, Polypedilum vanderplanki Hinton, Systematic Entomologydoi.org