カラカラに干からびても、水をかけると生き返る虫がいる。「ネムリユスリカ」の不死身ワザ

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ネムリユスリカの幼虫は、乾燥する前に脳から「眠れ」という指令を受けて乾眠に入る
脳などの神経のかたまりを取り除いた幼虫でも、乾燥と復活ができた。乾眠は脳の指令とは関係なく起きるらしい。
- 対象
- ネムリユスリカ(Polypedilum vanderplanki)の幼虫
- 規模
- 実験室で飼育した多数の幼虫・近縁種とのゲノム比較
- 研究の種類
- 乾燥・復活実験、成分分析、比較ゲノム解析
- 確かさ
- ★★★★☆
アフリカの岩のくぼみにすむネムリユスリカの幼虫は、体の水分がほぼゼロになっても、水を戻すと動き出す。トレハロースという糖と、体を守る遺伝子のセットが秘密。
ひとことで言うとネムリユスリカの赤ちゃんは、カラカラにかわいても、水をかけると生きかえる!
「最強の生き物」といえば、クマムシが有名です。でも、昆虫の世界にも、負けず劣らずの不死身キャラがいます。
その名もネムリユスリカ。アフリカにすむ、小さな蚊のような虫です。この虫の幼虫は、体がカラカラに干からびても死にません。水をかけると、また動き出すのです。
まるで「インスタント食品」のような生き物。その秘密を探る研究には、日本の研究者たちが深くかかわってきました。
01雨季と乾季をくり返す、岩のくぼみの水たまり
ネムリユスリカの幼虫がすむのは、ナイジェリアなどアフリカの半乾燥地帯の、岩のくぼみにできる小さな水たまりです。
雨が降れば水がたまりますが、晴れが続くと数日で干上がってしまいます。ほかの虫なら死んでしまう環境で、この幼虫は乾いたら眠り、雨が降ったら起きるという生き方を選びました。
この能力を早くから報告したのは、イギリスの昆虫学者ハワード・ヒントンさんです。1951年にこの虫を新種として記載し、1960年の論文で、乾燥した幼虫が水を戻すと復活することを詳しく記録しました。のちには、十数年も乾いたまま保存されていた幼虫が復活したという報告もあります。
体の水分をほぼ完全に失って代謝が止まった状態を、乾眠(かんみん)といいます。昆虫で、幼虫がこれほど完全な乾眠をできるのは、ネムリユスリカと、ごく近縁の1種(2017年に報告されたマラウイのユスリカ)だけと考えられています。

02秘密は「体をガラスにする糖」
干からびても壊れない体は、どうやってできるのでしょうか。
トレハロースは、キノコや海藻にも含まれる糖で、食品や化粧品の保湿にも使われています。水がなくなると、トレハロースは細胞の中でガラスのように固まり、たんぱく質や細胞膜を包みこんで、形が崩れないように守ると考えられています。
乾いた幼虫は、とても高い温度や極低温、宇宙空間に近い環境にもかなり耐えることが報告され、国際宇宙ステーションでの実験にも使われました。
03ゲノムに刻まれた「乾燥に勝つ遺伝子」
2014年、日本・ロシアなどの国際チーム(Gusev ら)は、ネムリユスリカと、乾燥に耐えられない近縁のユスリカのゲノムを比べ、『Nature Communications』に発表しました。
ネムリユスリカのゲノムには、体を守る「盾」になるたんぱく質の遺伝子が、何個もコピーされてかたまって並んでいる場所がありました。乾燥で傷ついたたんぱく質やDNAを守ったり、修理したりする遺伝子も多く見つかっています。
トレハロースという「ガラスの鎧」と、たくさんの「守りの遺伝子」。この2つが、干からびても死なない体を支えていると考えられます。
04まとめ
ネムリユスリカの幼虫は、干からびても水をかけると生き返る、昆虫界の不死身キャラでした。その秘密は、ガラスになる糖と、体を守る遺伝子のセット。
アフリカの小さな水たまりで生まれた知恵が、いつか私たちの医療や食品保存を変えるかもしれません。
この研究を英語で読もう原田英語の English CornerIn parts of Africa, small pools form in rock hollows after rain and dry up within days.
音声
4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く
原田英語の English Corner
この研究を英語で読もう
The sleeping chironomid is a small insect in Africa. Its young, called larvae, live in small pools of water on rocks. When the pools dry up, the larvae dry up too. They lose almost all the water in their bodies.
But when it rains, they wake up and move again. Their secret is a sugar called trehalose. It protects their bodies like glass. Almost no other insect larva can do this.
71 words ・ CEFR A2
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ネムリユスリカはアフリカにすむ小さな虫です。その子ども(幼虫)は、岩の上の小さな水たまりにすんでいます。水たまりが干上がると、幼虫も干からびます。体の水分のほとんどを失うのです。
しかし雨が降ると、目を覚まして再び動き出します。その秘密は、トレハロースという糖です。それがガラスのように体を守るのです。ほかの虫の幼虫で、これができるものはほとんどいません。
4択リーディングクイズ
Q1. What is the passage mainly about?
干からびても雨で復活する幼虫の話なので D。
Q2. What happens to the larvae when it rains?
when it rains, they wake up and move again とあるので B。
Q3. In this passage, "dry up" means ...
dry up は「干上がる、乾ききる」。水分がなくなることなので A。
In parts of Africa, small pools form in rock hollows after rain and dry up within days. The larvae of the sleeping chironomid live in these pools. When the water disappears, they lose almost all of their body water and stop living actively, a state called anhydrobiosis. When water returns, they revive.
In 2002, Masahiko Watanabe, Takahiro Kikawada and Takashi Okuda reported that while larvae dry slowly over about two days, they store the sugar trehalose, up to 18 percent of their dry body weight. Even larvae whose brains and other nerve centers had been removed could dry out and revive. This suggests that the process does not depend on commands from the brain.
114 words ・ CEFR B1
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アフリカの一部では、雨の後に岩のくぼみに小さな水たまりができ、数日のうちに干上がります。ネムリユスリカの幼虫は、こうした水たまりにすんでいます。水がなくなると、体の水分のほとんどを失い、活動的に生きるのをやめます。この状態は乾眠と呼ばれます。水が戻ると、生き返ります。
2002年、渡邊匡彦さん、黄川田隆洋さん、奥田隆さんは、幼虫が約2日かけてゆっくり乾く間に、トレハロースという糖を乾燥体重の18パーセントまでため込むことを報告しました。脳などの神経の中枢を取り除いた幼虫でも、乾いてから生き返ることができました。これは、この過程が脳からの指令に頼っていないことを示唆しています。
4択リーディングクイズ
Q1. Why do the larvae need to survive drying out?
pools form in rock hollows after rain and dry up within days とあり、その水たまりにすむからなので C。
Q2. How much trehalose do the larvae store?
up to 18 percent of their dry body weight とあるので D。
Q3. What does the experiment with removed brains suggest?
最終文に the process does not depend on commands from the brain とあるので B。
In semi-arid Africa, small pools in the rock fill with rain and then dry up. The larvae of the sleeping chironomid, a midge that lives in these pools, deal with this by losing almost all their body water and coming back to life when water returns. Howard Hinton described this state, called anhydrobiosis, in detail in 1960.
Among insects, only this species and one close relative are known to manage it so completely as larvae. In 2002, a Japanese team led by Masahiko Watanabe and Takashi Okuda showed that during slow drying over about two days, the larvae build up trehalose. This sugar may form a glass-like state that protects proteins and membranes. Even larvae whose brains and other nerve centers had been removed could still enter and leave anhydrobiosis.
The ability has clear limits. Only the larvae survive drying, and the adults live just a few days. Fast drying kills the larvae, because there is no time to build up trehalose. In 2014, an international team compared the genome with that of a related midge that cannot survive drying. The chironomid had clusters of duplicated genes for protective proteins, along with many genes for repairing damage.
197 words ・ CEFR B2
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アフリカの半乾燥地帯では、岩のくぼみの小さな水たまりが雨で満ち、やがて干上がります。そこにすむユスリカの一種、ネムリユスリカの幼虫は、体の水分のほとんどを失い、水が戻ると生き返ることでこれを乗り切ります。この状態は乾眠と呼ばれ、1960年にハワード・ヒントンさんが詳しく記述しました。
昆虫の中で、幼虫の段階でこれほど完全に乾眠できることが知られているのは、この種とごく近縁の1種だけです。2002年、渡邊匡彦さんと奥田隆さんが率いる日本のチームは、約2日かけてゆっくり乾く間に、幼虫がトレハロースをため込むことを示しました。この糖はガラスのような状態になり、たんぱく質や膜を守るのかもしれません。脳などの神経の中枢を取り除いた幼虫でさえ、乾眠に入り、また抜け出すことができました。
この能力にははっきりした限界があります。乾燥に耐えられるのは幼虫だけで、成虫は数日しか生きません。急速に乾くと、トレハロースをためる時間がないため、幼虫は死んでしまいます。2014年、国際チームは、乾燥に耐えられない近縁のユスリカとゲノムを比較しました。ネムリユスリカには、体を守るたんぱく質の遺伝子が重複して並んだまとまりと、損傷を修復する多くの遺伝子がありました。
4択リーディングクイズ
Q1. What makes the sleeping chironomid special among insects?
幼虫が体の水分のほとんどを失っても生き返り、昆虫ではこの種と近縁の1種だけとあるので A。
Q2. What did the 2014 genome comparison reveal?
The chironomid had clusters of duplicated genes for protective proteins, along with many genes for repairing damage. とあるので C。
Q3. Why is rapid drying fatal to the larvae?
Fast drying kills the larvae, because there is no time to build up trehalose. とあるので D。
重要単語
- desiccationC1名詞乾燥The larvae can survive complete desiccation.
動詞 desiccate「乾燥させる」。お菓子の袋の「乾燥剤」は desiccant。 - anhydrobiosisC1名詞乾眠(無水状態での生命維持)Anhydrobiosis is rare among insects.
an-(ない)+hydro(水)+bio(生命)+-sis。語の部品で意味が推測できる好例。 - reviveB2動詞生き返る、復活するThe dry larvae revive after being put in water.
re-(再び)+vive(生きる)。名詞 revival は「復活・再上演」。 - trehaloseC1名詞トレハロース(糖の一種)Trehalose protects cells from drying out.
-ose は糖を表す語尾。glucose(ブドウ糖)、fructose(果糖)も同じ。 - larvaC1名詞幼虫Only the larva has this amazing ability.
複数形は larvae。pupa(さなぎ)、adult(成虫)とあわせて昆虫の一生を表す。 - tolerateB2動詞耐える、許容するThe related midge cannot tolerate drying.
名詞 tolerance「耐性・寛容」。drought-tolerant「干ばつに強い」のような形容詞にもなる。
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アフリカの「ネムリユスリカ」の幼虫は、体の水分がほぼゼロになるまで干からびても、水をかけるとまた動き出すらしい。昆虫でこれができると確かめられているのは、この種と近縁の1種だけ。秘密の一つは、体をガラスのように固めると考えられている糖「トレハロース」。
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出典・参考文献(5件)タップで表示
- Hinton (1951) A new Chironomid from Africa, the larva of which can be dehydrated without injury, Proceedings of the Zoological Society of Londondoi.org
- Hinton (1960) Cryptobiosis in the larva of Polypedilum vanderplanki Hint. (Chironomidae), Journal of Insect Physiologydoi.org
- Watanabe et al. (2002) Mechanism allowing an insect to survive complete dehydration and extreme temperatures, Journal of Experimental Biologydoi.org
- Gusev et al. (2014) Comparative genome sequencing reveals genomic signature of extreme desiccation tolerance in the anhydrobiotic midge, Nature Communicationsdoi.org
- Cornette et al. (2017) A new anhydrobiotic midge from Malawi, Polypedilum pembai sp.n. (Diptera: Chironomidae), closely related to the desiccation tolerant midge, Polypedilum vanderplanki Hinton, Systematic Entomologydoi.org
※本記事は上記の研究・公開資料をもとに、原田英語が独自の言葉で解説したものです。引用は著作権法第32条の範囲で行い、出典を明記しています。画像はすべてオリジナルのイメージです。研究結果には限界や個人差があります。誤りのご指摘は原田英語のお問い合わせフォームから。











