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永遠に並べても二度と繰り返さない“1枚”のタイル。アマチュアの図形好きが見つけた「帽子」

永遠に並べても二度と繰り返さない“1枚”のタイル。アマチュアの図形好きが見つけた「帽子」

読む前に予想してみよう!

1種類のタイルだけで、模様が決して周期的に繰り返さない平面のしきつめを作ることはできない

研究カード(どんな研究?)
対象
平面のタイル張り
規模
1種類の形(とその連続族)
研究の種類
数学の証明(計算機支援を含む)
確かさ
★★★★☆
3秒でわかる

1種類の形だけで平面を埋められるのに、模様が絶対に周期的に繰り返さないタイル。数学者が半世紀探した「アインシュタイン」を、アマチュアが見つけた形をもとに4人のチームが2023年に発表した。

ひとことで言うと同じ形1つで床をしきつめられるのに、模様がぜったいくり返さない!

論文スペック表研究デザイン・規模・結果・その後(玄人向け)
研究の種類
数学の証明(計算機支援を含む)
対象
ハット:正六角形を6つに分けた凧形8枚をつないだ多角形(ポリカイト)
しきつめられることの証明
メタタイルが、つながり方の同じ一段大きなかたまり(スーパータイル)へ入れ子状に組み上がる置換規則
非周期性の証明
辺の長さを連続的に変えた形の仲間(連続族)を使う幾何的な議論と、計算機による場合分けの2通り
検証の公開
計算機による証明のプログラムをPythonで書き直して公開
続編
スペクター:辺を曲線などに加工し、回転とずらしだけで非周期的にしかしきつめられない形
発表
ハットは2023年3月 arXiv、続編は2023年5月 arXiv。いずれも2024年に Combinatorial Theory 掲載
もくじ
  1. 「繰り返さないタイル」の長い歴史
  2. ペンローズタイルとの決定的なちがい
  3. アマチュアの発見と、数学者たちの証明
  4. 「裏返しを使うのはズルい?」問題
  5. 研究史の中での位置づけ
  6. まとめ

お風呂場の床、駅のホーム、チェス盤。タイルの模様は、少し横にずらすとピタッと重なる「繰り返し」でできています。

では、たった1種類の形だけで床をすき間なく埋められるのに、どこまで並べても模様が一度も繰り返さない。そんなタイルは存在するのでしょうか?

これは半世紀以上、数学者が探し続けた問題でした。答えの形を見つけたのは、大学の研究者ではなく、自分で図形のしきつめ方を探っていたイギリスのアマチュアの男性。2023年に発表されたその形は、なんとなく帽子に見えることから「ハット(帽子)」と名づけられました。

01「繰り返さないタイル」の長い歴史

話は1960年代にさかのぼります。数理論理学者のハオ・ワンは、正方形の辺に色を塗った「ワンのタイル」を考え、「平面を埋められるタイルの組なら、必ず周期的に並べられるはずだ」と予想しました。

これをひっくり返したのが、弟子のロバート・バーガーです。1966年の論文で、周期的には決して並ばないタイルの組を構成し、さらに「与えられたタイルの組で平面が埋まるかどうかを判定する一般的な手順は存在しない」(決定不能)ことを示しました。ただし最初の組は2万種類以上という巨大なものでした。

その後、種類はどんどん減っていきます。そして1970年代、物理学者ロジャー・ペンローズがたった2種類のタイル(凧形と矢じり形など)で非周期的なしきつめを作りました。これが有名なペンローズタイルです。

2種類まで来たなら、1種類は? これが「アインシュタイン問題」です。

02ペンローズタイルとの決定的なちがい

実はペンローズタイルには「ただし書き」があります。2枚の形そのものだけなら周期的にも並べられてしまうので、辺に印をつけて「この向きどうししかくっつけてはダメ」というルール(マッチングルール)を追加しているのです。

2010年代には、ソコラーとテイラーが1種類の六角形タイルで非周期性を実現しました(2011年の論文)。ただしこれも、タイルに描いた模様の配置ルールに頼っており、ルールには隣り合わないタイルどうしの関係まで含まれます。「形だけで決まる1枚」とは言いにくいものでした。

ハットが画期的だったのは、印もルールも一切なしで、形そのものが非周期性を強制する点です。論文著者らの解説ページは、これを「最初の真の非周期的モノタイル」と表現しています。

ハットは、六角形を分けた「凧形」8枚をつないだ形(ポリカイト)
ハットは、六角形を分けた「凧形」8枚をつないだ形(ポリカイト)

03アマチュアの発見と、数学者たちの証明

ハットを見つけたのは、イギリス・ヨークシャーのデイヴィッド・スミスさん。大学や研究機関に所属しないアマチュアです。論文によると、スミスさんは図形とそのしきつめ方を自由に探る中で、ほぼ手作業で(パズル用のソフトの助けも借りて)この形を調べていました。大きなかたまりはいくらでも作れそうなのに、周期的に埋まる並び方がどうしても見つからない。

この形を、タイル張りの研究者クレイグ・カプランさん(ウォータールー大学)、ジョセフ・マイヤーズさん、チェイム・グッドマン=ストラウスさんと4人で調べ、証明に取り組みます。論文は2023年3月に arXiv で公開され、2024年に学術誌 *Combinatorial Theory* に掲載されました。

特におもしろいのが1つ目の証明です。ハットは、2種類の辺の長さを連続的に変えた形の家族の一員です。家族のメンバーは(辺の長さが等しい形などの特別な場合を除いて)同じつながり方で並びます。家族の両端には、片方の辺の長さを0にした、正三角形をつないだだけの2つの形(シェブロンとコメット。面積の比は3対2)があります。もしハットに周期的な並びがあるなら、同じつながり方のまま、この2つの形の周期的な並びも作れてしまう。ところが2つの並びの「ずらしの幅」の関係を詰めていくと、正三角形のマス目の上では起こりえない倍率が必要になる。この幾何的な食いちがいを突いて、周期的な並びはありえないと示しました。

計算機による証明(場合分け)は、2人の著者がそれぞれ別々に書いたプログラムで突き合わせて確かめられました。さらに著者らは検証用にこの解析を Python で書き直して公開し、誰でも再実行できるようにしています。

04「裏返しを使うのはズルい?」問題

発表直後から、ある指摘が出ました。ハットのしきつめには、必ず裏返したハットが混ざるのです。大多数のハットの中に、裏返しのハットがまばらに入り込む形になります。

数学のタイル張りでは裏返しも普通に許されるので、ハットは問題の答えとして正当です。しかし「回転とずらしだけで非周期性を強制できる1枚はあるのか?」という、より厳しい問いが残りました。現実にタイルを作るなら、左右2種類の型が必要になる、という実用上の問題もあります。

ここから玄人ゾーン

ここまで読めば要点はつかめています。この先は反論・方法論・未解決の問いまで踏み込みます。

05研究史の中での位置づけ

ハットとスペクターは、1960年代から続く「タイルの種類を何枚まで減らせるか」という物語に、1枚という終止符を打ちました。

非周期的な並びは数学の遊びだけではありません。1980年代には、結晶なのに周期性を持たない「準結晶」が見つかり、ペンローズタイルはその構造を考えるモデルとして注目されました。ハットが物質の構造とどう関わるかは、これからのテーマです。

裏返しを使わずに非周期性を実現した「スペクター」のイメージ
裏返しを使わずに非周期性を実現した「スペクター」のイメージ

06まとめ

「1枚で、繰り返さない」。単純な問いなのに、ワンの予想からバーガー、ペンローズ、ソコラーとテイラーを経て、最後のピースを置いたのはアマチュアの図形好きと、彼と組んだ数学者たちでした。

しかも「裏返しはズルい?」という指摘には、同じチームがスペクターで即座に応答。良い問いと良い反論が、数か月で数学を一段前に進めた珍しい例です。著者のページでは、ハットを自分で並べられるアプリも公開されています。

この研究を英語で読もう原田英語の English CornerFloor tiles usually make a pattern that repeats again and again. 音声 4択クイズ9問A2・B1・B2タップして開く

原田英語の English Corner

この研究を英語で読もう

Floor tiles usually make a pattern that repeats again and again. Mathematicians asked a harder question. Is there one single shape that can cover a flat surface completely, but only in patterns that never repeat? Such a shape is called an "einstein," from the German words for "one stone."

In the 1970s, Roger Penrose found two shapes that do this, but they needed extra rules about which edges were allowed to touch. David Smith, an amateur who enjoyed playing with shapes, found a tile now known as the hat. Working with three mathematicians, he showed in 2023 that the hat forces a non-repeating pattern through its shape alone. Their paper appeared in a math journal in 2024.

117 words ・ CEFR B1

和訳を見る

床のタイルは、ふつう何度も繰り返す模様を作ります。数学者たちはもっと難しい問いを立てました。平らな面を完全に覆えるのに、決して繰り返さない模様にしかならない、たった1つの形はあるのだろうか?そのような形は、ドイツ語の「1つの石」にちなんで「アインシュタイン」と呼ばれます。

1970年代、ロジャー・ペンローズはこれを実現する2つの形を見つけましたが、どの辺どうしをくっつけてよいかという追加のルールが必要でした。図形で遊ぶのが好きなアマチュアのデイヴィッド・スミスが、今では「帽子(ハット)」と呼ばれるタイルを見つけました。3人の数学者と協力して、彼は2023年に、ハットが形だけで繰り返さない模様を強制することを示しました。その論文は2024年に数学の学術誌に掲載されました。

4択リーディングクイズ

Q1. What is the passage mainly about?

Q2. What was the problem with Penrose's shapes?

Q3. What does "through its shape alone" suggest about the hat?

重要単語

  • tileB1
    動詞・名詞(タイルで)しきつめる/タイルThis shape can tile the whole plane. 数学では動詞 tile が「すき間なく覆う」。名詞 tiling は「しきつめ(方)」。
  • repeatA2
    動詞繰り返すThe pattern on my shirt repeats every few centimeters. repetition(名詞)、repetitive(形容詞)。周期的=periodic は「一定の間隔で繰り返す」。
  • aperiodicC1
    形容詞非周期的なAn aperiodic tiling never repeats itself. a-(否定)+periodic。atypical(典型的でない)、asymmetric(非対称の)と同じ a-。
  • mirror imageB2
    名詞(句)鏡像(左右反転した形)Your left hand is a mirror image of your right hand. 数学では reflection(鏡映)とも言う。chiral(キラルな)は「鏡像と重ならない」性質。
  • flipB1
    動詞裏返す、ひっくり返すFlip the card over to see the answer. flip over で「ひっくり返す」。flip a coin(コインを投げる)も頻出。
  • amateurB1
    名詞・形容詞愛好家、アマチュアAn amateur astronomer found a new comet. ラテン語 amator(愛する人)から。「下手な人」ではなく「好きでやっている人」が本来の意味。
  • proofB1
    名詞証明The team gave two different proofs. 動詞は prove。-proof は「~に耐える」の意味も(waterproof 防水の)。

動画でもっと知る

4コマでわかる

永遠に並べても二度と繰り返さない“1枚”のタイル。アマチュアの図形好きが見つけた「帽子」の4コマ漫画
1種類のタイルで床を埋めつくせるのに、模様が二度と繰り返さない。そんな形はあるのか?という数学の難問を、2023年、大学に属さないイギリスの図形好きの男性と数学者3人が「帽子」形で解いたらしい。裏返し問題の続編つき。

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出典・参考文献(4件)タップで表示

原典ガイド:入門から読むと入りやすく、必読は議論の土台、発展はその先の論点です。

  1. 必読Smith, Myers, Kaplan & Goodman-Strauss (2024) An aperiodic monotile, Combinatorial Theory 4(1)doi.orgハットの本論文。ポリカイトの定義、メタタイルと置換規則、2通りの非周期性の証明
  2. 必読Smith, Myers, Kaplan & Goodman-Strauss (2024) A chiral aperiodic monotile, Combinatorial Theory 4(2)doi.org続編。辺がすべて同じ長さのメンバーの弱いキラル性と、スペクターの構成
  3. 発展Socolar & Taylor (2011) An aperiodic hexagonal tile, Journal of Combinatorial Theory, Series Adoi.org配置ルールに頼る1種類の六角形タイル。ハット以前の非周期的モノタイルの先行例
  4. 発展Berger (1966) The undecidability of the domino problem, Memoirs of the American Mathematical Societydoi.org周期的に並ばないタイルの組と、タイル張りの決定不能性を示した古典