2026年3月1日。
英語教育者の嶋津幸樹氏(@Koki_Shimazu)がXに1本の動画を投稿しました。
投稿にはこう書かれていました。
「英語を一生懸命勉強したのに
トランプ大統領に
I really don’t understand you.
と言われたら心が折れる…」
https://x.com/Koki_Shimazu/status/2028114495449764089?s=20
この投稿は瞬く間に6,000いいね以上を獲得。
英語教師、予備校講師、海外在住者、バイリンガル、英語学習者——あらゆる界隈の人々を巻き込んだ大議論に発展しました。
「え、何の動画?」と思ったあなた。
大丈夫です。この記事を最後まで読めば、英語学習で本当に大切なことが見えてきます。
この動画は実は2018年11月7日のものです。
アメリカの中間選挙直後、ホワイトハウスで行われた記者会見。
ワシントン駐在歴18年のベテラン日本人記者がトランプ大統領に英語で質問しました。
📝 実際のやりとり
記者:“Mr. President, can you tell us how you focus on the economic…”
(大統領、日本との貿易にどう焦点を当てていくか教えて…)
トランプ:“Where are you from, please?”
(あなたはどちらから?)
記者:“Japan.”
トランプ:“Say hello to Shinzo.”
(シンゾーによろしく)
トランプ(質問を聞いた後):“I really don’t understand you.”
(本当に君の言っていることがわからない)
世界中に生中継されたこの瞬間は、当時も大きな議論を呼びました。
そして2026年3月——トランプ氏が再選を果たし2期目の大統領として在任している今、この動画が再び注目され、英語学習のメンタル面をめぐる議論が再燃したのです。
この動画への反応は大きく2つの陣営に分かれました。
まさに英語学習の本質を突く大議論。
全員が正しくて、全員が一面しか見ていない——そんな複雑なテーマなのです。
嶋津氏はこの投稿の後、こんな追加メッセージを発信しています。
嶋津氏の主張のポイント:
「伝達業務のための英語学習は不要!」
「AI時代は愛のあるコミュニケーションが求められる!」
「英語4技能(読む・聞く・書く・話す)より、その右側——つまりコミュニケーション力、異文化理解力、メンタルの方が圧倒的に重要」
嶋津氏はロンドン大学で応用言語学の修士号を取得し、ケンブリッジ英語教授法資格CELTAも保持する、まさに英語教育のプロ中のプロ。
その人が言う「4技能より右側が大事」という主張には、深い意味があるのです。
感情論を抜きにして、純粋に言語学的に分析してみましょう。
この記者の英語が通じにくかった理由には、明確なパターンがあります。
Xの投稿でも指摘されていましたが、これが最大の原因です。
英語の “focus” は2音節(fo-cus)。
でも日本語なまりだと “ホーカス” と3音節(ho-ka-su)になってしまいます。
音節が変わるということは、ネイティブにとってはまったく別の単語に聞こえるということ。
これは日本語で「サクラ(3拍)」を「サッカ(2拍)」と言われるようなもので、脳が一瞬フリーズします。
英語ネイティブは単語を1つずつ区切って発音しません。
“can you” は「キャンユー」ではなく「キャニュー」、”tell us” は「テルアス」ではなく「テラス」のように、音がつながります。
このリンキング(連結)がないと、ネイティブの耳には「一語一語ブツ切りのロボット音声」のように聞こえてしまうのです。
複数の分析記事で指摘されているのが、”focus” の “f” が “h” に聞こえるという問題。
日本語には英語の “f”(下唇を上の歯に当てる音)が存在しないため、日本人は無意識に “h”(息を吐くだけの音)で代用しがちです。
結果、”focus” が “hocus” のように聞こえ、相手を混乱させます。
💡
ちなみに:ネイティブ同士でも「わからない」は起きる
イギリス人がスコットランド訛りの英語を理解できなかったり、アメリカ人がオーストラリア英語に戸惑うことは珍しくありません。「英語のアクセント違い」はネイティブにとっても日常的な経験です。ただし、発音の基本ルール(音節・リンキング・子音)を押さえているかどうかで、「理解の壁」の高さは大きく変わります。
TOEIC満点120回のカリスマ講師・森田鉄也(もりてつ)氏がこの議論に参戦して投げかけた視点は、非常に示唆に富んでいました。
もりてつ氏の主張を要約すると:
「間違いを恐れない」のは素晴らしい。
でも「通じなくてもOK」は違う。
相手に理解の負担をかけすぎるのは、コミュニケーションではなく一方通行。
これは英語学習において非常に重要なバランス感覚です。
3つすべてのバランスが取れてこそ、本当に「伝わる英語」になる——これが今回の議論の最大の学びです。
「音節」を意識するだけで激変する
日本人の英語が通じない最大の原因は、実は「LとR」ではなく音節の数がズレること。辞書で発音記号を確認するとき、音節数も一緒にチェックする習慣をつけましょう。
リンキング(音の連結)を練習する
“Thank you” を「サンキュー」と一息で言えるなら、リンキングはもうできています。
“Can I” → 「キャナイ」、”want to” → 「ウォントゥ」のように、単語の境界をなくす練習をしましょう。シャドーイングが最強の練習法です。
「通じなかった経験」を恥ずかしがらない
カンタ氏が言うように、後天的にバイリンガルになった人は全員この道を通っています。恥ずかしい経験こそが、最高の学習機会です。
「相手への思いやり」も英語力の一部
もりてつ氏の指摘は核心を突いています。コミュニケーションは双方向。自分が言いたいことを言うだけでなく、「相手が理解しやすい話し方」を心がけることも、立派な英語力です。
AI時代こそ「伝える力」が問われる
嶋津氏が言うように、単なる情報伝達ならAI翻訳で十分な時代。これからの英語学習に求められるのは、「人間にしかできないコミュニケーション」——相手の目を見て、気持ちを込めて、文脈を読んで伝える力です。
よく使う英単語を10個ピックアップし、手を叩きながら音節数を確認する練習です。
YouTubeの英語ニュースを使い、1文ずつ真似して声に出す練習。
ポイントは「単語単位」ではなく「意味のかたまり(チャンク)単位」で発音すること。
通じなかったとき、同じことを別の言い方で言い直す力は最強のスキルです。
1回目:“How do you focus on the trade issue with Japan?”
↓ 通じなかった? すかさず言い換え!
2回目:“What is your plan for Japan-US trade?”
より短く、よりシンプルに。これだけで通じる確率は劇的に上がります。
せっかくなので、この一件に関連する実用的な英語フレーズも覚えてしまいましょう。
→ トランプが本来使うべきだった丁寧な聞き返し方。”I don’t understand you” は直接的すぎる。
→ 通じなかったとき、焦らず切り返す最強フレーズ。覚えておいて損なし。
→ パラフレーズの導入に使える万能フレーズ。ライティングにも大活躍。
→ 質問の前に「テーマ宣言」をすると、相手の理解度が格段に上がる。記者会見の必須テクニック。
この議論で見落とされがちな事実も押さえておきましょう。
実はこの記者会見で、トランプ大統領はこの日本人記者以外にも、有色人種の記者2人に対して同様に “I don’t understand you” と発言しています。
多くの海外メディアは、外国人アクセントのある英語に対するトランプ氏の態度にはパターンがあると指摘しました。非ネイティブの英語を聞き取ろうとする姿勢があまり見られないのは、発音の問題だけでは説明しきれません。
💡
英語は「国際語」であることを忘れないで
英語を母語として使う人は世界の英語話者のわずか約20%。残りの80%は非ネイティブです。つまり英語のコミュニケーションとは、多様なアクセントを互いに理解し合う営みであり、「ネイティブの発音じゃないと通じない」というのは事実ではありません。相手が聞き取る努力を放棄している場合もあるのです。
2018年の動画が2026年に再び注目された背景には、時代の変化があります。
2018年は「誰が悪いか」という犯人探しの議論でした。
2026年は「じゃあ私たちはどうすればいいのか」という建設的な議論に進化しています。
AI翻訳が当たり前になった今だからこそ、「人間が英語を学ぶ意味」「発音はどこまで完璧を目指すべきか」「コミュニケーションの本質とは」という問いが切実に響くのです。
長い記事を読んでいただきありがとうございます。
最後に1つだけ覚えてください。
英語学習の最終ゴールは
「完璧な発音」ではない。
「相手に伝わること」と
「相手を理解しようとすること」。
その両方ができる人が、本当の英語話者です。
あのホワイトハウスで手を挙げた日本人記者は、度胸において間違いなくすごかった。
発音においては改善の余地があった。
トランプ大統領の対応にも問題があった。
全部、同時に正しいのです。
大切なのは、この出来事から自分の英語学習に活かせるものを受け取ること。
次に英語が通じなくて心が折れそうになったとき、こう思い出してください。
“Let me rephrase that.”
(言い直させてください。)
折れたら、言い換える。
それだけで、あなたの英語は確実に前に進みます。
