ことばの仕組み・日英くらべスラング考現学 第7回
Uptober、Spooktober、Inktober――10月にだけ増える「〜tober」の作り方
原田英語がお届けします
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10月1日、アメリカのXで「Happy Uptober」がトレンド入りしました。同じ日には Spooktober も Inktober も流れてきます。10月の英語圏は「〜tober」だらけです。October のどこを切って、何をくっつけているのか。日本語の「〜ハラ」「〜ほー」とくらべながら見ていきます。
1「-tober」に意味はないのに、なぜ通じるのか
October を分解すると、Oc と tober。ラテン語の octo(8)から来た語なので、もともとは「Octo」の部分に意味があり、tober にはありません。ところが英語を話す人たちは、意味のないはずの後ろ半分を切り取って、別の語とくっつけ始めました。
今日の辞書に足したUptoberは up(上がる)+ -tober。仮想通貨は10月に上がる、というジンクスを指す投資家たちの合言葉です。Spooktoberは spooky(ちょっと不気味な)+ -tober で、ハロウィン気分の10月。どちらも、後ろに「tober」が聞こえれば、聞き手は「10月の話だ」とわかるという一点で成り立っています。
2言語学では「かばん語」と「スプリンター」
2つの語の一部ずつを組み合わせて1語にしたものを、かばん語(blend)と呼びます。brunch(breakfast+lunch)や smog(smoke+fog)が教科書によく出てくる例です。
その中でも、-tober のように「元の語から切り取られ、別の語に何度もくっつく部品」を、言語学ではスプリンター(splinter、木のかけら)と呼ぶことがあります。hamburger から切り取られた -burger が cheeseburger や veggie burger を生んだのと同じ仕組みです。ハンバーガーの ham はもともと「ハム」ではなく地名のハンブルクの一部ですが、英語の話し手は気にせず切り取って使いました。
310月は「〜tober」の当たり年
なぜ10月だけ、こんなに作り替えられるのでしょう。理由の一つは音です。October は3音節で、最後の tober がはっきり聞こえます。ここに1音節の語を前につけるだけで、リズムのいい2〜3音節の語ができあがります。Spook-tober、Up-tober、Ink-tober。どれも口に出して気持ちのいい長さです。
もう一つは中身です。10月はハロウィン、年末までの追い込み、お絵かき企画のInktoberと、イベントが重なる月です。イベントがあれば名前が要ります。そこで「〜tober」が便利な型として使い回されています。
仮想通貨の世界では、期待どおりに上がらなかった10月を、ボロ負けを意味するrektを混ぜて Rektober と呼ぶこともあります。2025年は、ビットコインが10月初めに史上最高値を更新したあと、10日に急落が起きて、この呼び名が出回りました。型があると、悪いことが起きたときにもすぐ新しい語が作れます。
4ほかの月はどうなっている?
もちろん10月以外にも、月の名前を使った語はあります。1か月お酒を控えるDry JanuaryやSober Octoberは、月の名前をそのまま残して前に言葉をつける型です。Sober October は「ソウバー・オクトウバー」と韻を踏んでいるのがポイントです。
かばん語の型になると、November の No を mo(口ひげの俗語 mo)に替えた Movember があります。2003年にオーストラリアのメルボルンで始まった、男性の健康を考えるために11月の1か月間ひげを伸ばす運動です。January には vegan(ヴィーガン)をくっつけた Veganuary があり、2014年にイギリスで始まった、1月に動物性の食べ物を控えてみようという呼びかけです。
ただし、ここまで量産されているのは10月だけです。January や November には、October の tober ほど耳に残る部品がなく、型としてはあまり使い回されていません。
5日本語の「〜ハラ」「〜ほー」も同じ仕組み
日本語にもスプリンターはたくさんあります。代表は〇〇ハラ。ハラスメント(harassment)の頭だけを切り取って、パワハラ、セクハラ、カスハラと、新しい語をどんどん作っています。英語の -tober は後ろを切り取り、日本語の「ハラ」は前を切り取る。切る場所は逆ですが、切った部品がひとり立ちして型になるという点は同じです。
今日の辞書に足した〇〇ほーも型の一つです。プロ野球ファンが勝てば「勝ちほー」、引き分けなら「わけほー」と投稿します。10月1日の夜には、引き分けの試合を受けて「わけほー」がXのトレンドに入りました。「ほー」自体に決まった意味はなくても、前に結果を入れれば誰にでも伝わります。若者言葉の〇〇界隈も、前に何を入れても「〜が好きな人たちの集まり」になる型です。
6英語で「〜tober」を作ってみる
ここまでくると、自分でも作ってみたくなります。勉強に集中する10月なら Studytober、毎日走る10月なら Runtober。ネイティブがこうした語を見れば、まず意味は通じます。ただし、自作の語は辞書に載っていないので、最初に使うときは「#Studytober: studying every day this month」のように中身を説明すると親切です。
定番になっている語を使うなら、今日の時点で一番旬なのはやはり Uptober と Spooktober。仮想通貨を持っていなくても、Happy Spooktober! なら10月中いつでも使えます。
October の tober は、意味がないのに一番よく働く部品です。言葉は、切り取りやすくて目立つところから型になります。明日は土曜日、みんなの「これどういう意味?」にこたえます。
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