原田先生の英語とっておきの話

【英語の雑学】脳がバグる 「英語の衝撃トリビア」Part.3 ──パズル・逆転・意味崩壊の10選 「Buffalo」8連続で文法的に正解? 「nice」の元の意味は「バカ」?

🧩 ENGLISH LANGUAGE TRIVIA Part.3

脳がバグる
英語の衝撃トリビア」Part.3
──パズル・逆転・意味崩壊の10選

「Buffalo」8連続で文法的に正解? 「nice」の元の意味は「バカ」?

Part.1で驚き、Part.2で絶望し、あなたはまだここにいる。
──それは英語という沼にハマった証拠です。
Part.3では「脳がバグる」トリビアを集めました。読んだら、画面の前で声を出すこと間違いなし。パズル、意味の大逆転、そして英語の構造そのものが抱える矛盾に、今度こそトドメを刺します。

1「Buffalo」×8で文法的に正しい文が成立する

まずはPart.3の一発目にふさわしい、脳がフリーズする一文をどうぞ。

Buffalo buffalo Buffalo buffalo buffalo buffalo Buffalo buffalo.

↑ これ、文法的に完璧に正しい英文です。

なぜこれが成立するのか? キーは “buffalo” が3つの品詞を同時に持つこと。

🏙️
Buffalo
固有名詞
ニューヨーク州
バッファロー市
🦬
buffalo
名詞
アメリカンバイソン
(複数形も buffalo)
😤
buffalo
動詞
「威嚇する」
「困惑させる」

つまりこの文は──

バッファロー市のバイソンで、バッファロー市のバイソン威嚇されるやつらは、(別の)バッファロー市のバイソン威嚇する

1972年にバッファロー大学(!)の教授ウィリアム・J・ラパポートが発案。スティーブン・ピンカーが1994年の著書『言語を生みだす本能』で紹介し、世界的に有名になりました。言語学者は「同形異義語と省略関係節の極端な例」として愛しています。

2「had」が11回連続する完璧な英文が存在する

次はBuffalo文の「動詞版」。同じ単語が11回連続します。

James while John had had had had had had had had had had had a better effect on the teacher.

「壊れたプリンター?」と思うでしょう。しかし句読点と引用符を加えると──

DECODED

James, while John had had “had“, had had “had had“; “had had” had had a better effect on the teacher.

状況:英語の授業で、先生が「過去に風邪を引いたことがある男性」を描写するよう生徒に指示。
Johnは “The man had a cold” と書いた(単純過去)
Jamesは “The man had had a cold” と書いた(過去完了)
結果:「had had(過去完了)」を使ったJamesの方が、先生の評価が高かった。

この文は1947年に哲学者ハンス・ライヘンバッハが著書『記号論理学の要素』で「対象言語とメタ言語の違い」を説明するために使用。句読点一つで意味が完全に変わることを示す究極の例題です。

💡

英語は「同じ単語がコンテキストで完全に異なる機能を持つ」言語。Buffalo文は品詞の多重性、had文は時制と引用の多重性を極限まで利用しています。日本語でこれに近いことをやろうとしても、ほぼ不可能です。

3「nice」は元々「バカ」という意味だった──意味が180°反転した単語たち

英語で最も普通の褒め言葉 “nice”。「いい人ですね」は “He’s a nice person.”

しかし中世では、”nice” は「愚か」「無知」という侮辱の言葉でした。

単語 元の意味 😱 現在の意味 変化のタイプ
nice 愚か、無知(ラテン語 nescius) 感じが良い、素敵な ⬆️ 向上
silly 幸福な、祝福された(古英語 sælig) 愚かな、おバカな ⬇️ 低下
awful 畏怖すべき(awe + full) ひどい、最悪の ⬇️ 低下
awesome 畏怖すべき(awful と同義) 最高の、すごい ⬆️ 向上
terrific 恐怖を与える(terror と同根) 素晴らしい ⬆️ 向上
naughty 何も持たない、貧しい いたずらな、行儀の悪い 🔄 変質
fizzle 静かにオナラをすること しぼむ、尻すぼみになる 🔄 変質

特に衝撃的なのが awful と awesome の運命の分岐。どちらも元は “awe”(畏怖)から生まれた双子の言葉で、かつては同義語でした。それが今では一方は「最悪」、もう一方は「最高」と完全に真逆。17世紀には大聖堂を “awful”(荘厳な)と褒めていたのに、今それを言ったら怒られます。

中世の貴族が現代にタイムスリップして “You’re nice!” と言われたら、
殴られたと思うでしょう。

「お前は愚か者だ!」と言われたのですから。

4回文の魔術──「tattarrattat」からジョイスの遊びまで

前から読んでも後ろから読んでも同じ──回文(palindrome)。英語には信じられないほど精巧な回文文化があります。

OED(オックスフォード英語辞典)に収録されている最長の回文英単語は、ジェイムズ・ジョイスが小説『ユリシーズ』(1922年)で発明した──

tattarrattat

12文字 │ 意味:ドアをノックする音 │ 前からも後ろからも同じ

日常で使われる英語の回文単語はたくさんあります。

madam
racecar
kayak
level
civic
radar
rotor
noon
refer
deified

しかし真の芸術は回文文。スペースと句読点を無視すると、前から読んでも後ろから読んでも同じ文になります。

“A man, a plan, a canal, Panama!”
「男、計画、運河、パナマ!」──1948年に発表された最も有名な回文文
“Was it a car or a cat I saw?”
「私が見たのは車?それとも猫?」
“Never odd or even.”
「奇数でも偶数でもない」
“Madam, in Eden, I’m Adam.”
「奥様、エデンにて、私はアダムです」
🌍

2002年、Googleのリサーチディレクター、ピーター・ノーヴィグがプログラムで生成した回文文は21,012語。これをさらに拡張した研究者は1,155,699語の回文文を作成しています。もちろん意味は滅茶苦茶ですが、文法的には成立しているのが恐ろしい。

5「Serendipity」── 世界で最も翻訳不可能な英単語

2004年、イギリスの翻訳会社が「最も翻訳が難しい英単語」を選出。トップに輝いたのが──

Serendipity

「思いがけない幸運な発見をする能力・状態」

この単語は1754年にイギリスの作家ホレス・ウォルポールが発明。友人への手紙の中で、ペルシャの童話『セレンディップ(スリランカの古名)の三人の王子』にちなんで名づけました。物語の王子たちが「探していないものを偶然の知恵で次々と発見する」様子から生まれた言葉です。

❌ 翻訳しようとすると…
🇫🇷 フランス語 → “heureux hasard”(幸福な偶然)──「偶然の喜び」は伝わるが「発見する能力」のニュアンスが欠落
🇯🇵 日本語 → 「偶然の幸運」──やはり「察知する知恵」が抜ける
🇩🇪 ドイツ語 → 直接対応する単語なし
✅ serendipity が特別な理由
単なる「ラッキー」ではない。
予期していなかったことを発見する→それに価値を見出す知性→その結果として幸運になる
この3段階がすべて一語に凝縮されている点が翻訳を不可能にしている。

6「villain」は元々「農民」──階級差別が生んだ意味の暗転

映画やゲームでおなじみの “villain”(悪役)。この単語の語源をたどると、驚くべき差別の歴史が浮かび上がります。

ETYMOLOGY TIMELINE
ラテン語 “villanus”
田舎の農場(villa)で働く人。完全にニュートラルな意味。
古フランス語 “vilain”
小作農、低い身分の人。まだ道徳的な判断は含まれていない。
中世英語 “villain”
支配階級が農民を「粗野で信用できない」と見下したことで、「悪人」の意味が付加。
現代英語 “villain”
「悪役、極悪人」。元の「農民」の意味は完全に消滅。

つまり “villain = 悪者” は、貴族が「農民=下品=悪」と決めつけた階級差別の産物。同じような運命をたどった単語には、”boor”(農民 → 無作法な人)、”churl”(農夫 → 無礼者)、”hussy”(主婦 → ふしだらな女性)などがあります。言葉は時代の偏見を記録しています。

7英語にはアルファベット26文字すべてを使う一文がある

A〜Zの全26文字を最低1回ずつ使う文を “pangram”(パングラム)と呼びます。最も有名なのは、19世紀からタイプライターやフォントのテストに使われてきたこの一文:

“The quick brown fox jumps over the lazy dog.”

「素早い茶色のキツネが怠惰な犬を飛び越える」──35文字、全26種を網羅

パソコンでフォントをプレビューする時にこの文を見たことがある人は多いはず。実はこの一文は1885年から使われており、英語史上最も多く表示された文の一つです。

しかしパングラム愛好家たちは、もっと短い「完全パングラム」を求めます。

“Pack my box with five dozen liquor jugs.”
32文字
“Sphinx of black quartz, judge my vow.”
29文字
“Mr. Jock, TV quiz PhD, bags few lynx.”
26文字──理論上の最短!

26文字ぴったりのパングラムは「完全パングラム(perfect pangram)」と呼ばれますが、自然な文として成立させるのは至難の業。上の例も「テレビクイズ博士のジョック氏がオオヤマネコを数匹ゲット」という、かなり無理のある内容です。

8最も長い英単語は発音に3時間半かかる

「英語で最も長い単語は?」と聞かれて “supercalifragilisticexpialidocious”(34文字)と答える人は多いでしょう。しかし真の最長単語は──

ヒトのタンパク質「チチン」の正式化学名

189,819文字

発音するのに約3時間30分かかる

もちろんこれは技術用語(化学式をそのまま読み下したもの)であり、「実用的な英単語」とは言えません。では辞書に載っている最長単語は?

単語 文字数 意味
pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis 45文字 火山灰の超微粒子を吸引して起こる肺疾患
antidisestablishmentarianism 28文字 国教廃止反対主義
floccinaucinihilipilification 29文字 無価値とみなす行為

ちなみに45文字の pneumonoultramicroscopicsilicovolcanoconiosis は、1935年に全米パズル愛好家連盟の会長が「辞書に載る最長の単語を意図的に作ろう」として発明したもの。つまり長さ自体がジョークなのです。

9「aibohphobia」── 回文恐怖症は、自らが回文であるという地獄

回文が苦手な人がいたとして、その恐怖症の名前は──

aibohphobia

↑ 後ろから読んでみてください。

aibohphobia。後ろから読むと…… aibohphobia。そう、回文恐怖症を表す単語自体が回文なのです。

これはもちろん正式な医学用語ではなく、言語学者たちがわざと意地悪で作ったジョーク単語。回文を怖がる人が自分の恐怖症の名前を見たら、さらに恐怖が増す仕組みです。

英語にはこの手の「自己矛盾ジョーク」がたくさんあります。

hippopotomonstrosesquippedaliophobia
「長い単語恐怖症」──その名前自体が36文字の超長い単語 😈
lisp
「舌足らずな発音」──”s” の発音が苦手な人にとって “lisp” 自体が発音しづらい 😈
monosyllabic
「一音節の」──この単語自体は5音節もある 😈
abbreviation
「省略形」──この単語自体はまったく省略されていない12文字 😈

10「Time flies like an arrow」── 一文で5通りの意味が成立する魔文

Part.3の最後を飾るのは、言語学の授業で必ず登場する究極の多義文です。

“Time flies like an arrow;
fruit flies like a banana.”

── グルーチョ・マルクス(に帰属される格言)

前半「Time flies like an arrow」は「光陰矢の如し」。後半「fruit flies like a banana」は「ミバエはバナナが好き」。同じ文構造なのに、”flies” が前半は動詞(飛ぶ)、後半は名詞(ハエ)に切り替わるトリック。

しかし真の恐怖は「Time flies like an arrow」だけでも5通りの解釈が可能なこと:

1
「時間は矢のように飛ぶ」
Time(名詞)+ flies(動詞)── 普通の解釈。光陰矢の如し。
2
「タイムバエを矢のように測れ」
Time(動詞:計測せよ)+ flies(名詞:ハエ)── 命令文として解読。
3
「タイムバエは矢を好む」
Time flies(名詞:時のハエ)+ like(動詞:好む)── “fruit flies like a banana” と同構造。
4
「矢に似たハエが時間を計測する」
Flies like an arrow(矢のようなハエ)がTime(動詞:計測する)── 倒置構文。
5
「矢のように、ハエが時間を飛ぶ」
like an arrow が副詞句、flies が主語、Time が目的語──文学的解釈。

この多義性こそが英語の本質です。同じ綴りの単語が名詞にも動詞にもなり、構文の切り方次第で意味が完全に変わる。機械翻訳が英語を100%正しく訳せない最大の理由がここにあります。

BONUS TRIVIA

Part.3のおまけミニトリビア

トリビア 解説
「clue」の元の意味は「毛糸玉」 ギリシャ神話でテセウスが迷宮を脱出する際に使った糸(clew)が語源。「手がかり」の意味はそこから派生
「muscle」の語源は「小さいネズミ」 ラテン語 musculus(小さなネズミ)。筋肉が皮膚の下で動く様子がネズミに見えたから
逆から読むと別の単語(semordnilap) stressed → desserts、evil → live、dog → god。semordnilap 自体が palindromes の逆読み
「dinner」は元々「朝食」だった フランス語 disner(絶食を破る)が語源。元は一日の最初の食事を意味していた
「Go.」は最短の文法的英文 主語 “You” が省略された命令文。動詞一語で完全な文が成立する

英語は「遊び場」である

Part.1では英語の隠れたルールを、
Part.2では歴史の地層を、
Part.3では脳をバグらせるパズルを掘りました。
全30個のトリビアが描き出す結論はひとつ。

Buffalo ×8で文法が成立する「同形異義語の魔術」
had ×11で意味が通る「句読点の生死を分ける力」
nice = バカ、villain = 農民──言葉は社会の鏡
tattarrattat から100万語のモンスターまで、回文の底なし沼
Serendipity は翻訳不可能──英語にしか存在しない概念
パングラム「The quick brown fox…」は140年選手
最長英単語の発音には3時間半、しかも意図的な発明品
aibohphobia:回文恐怖症が回文という究極の嫌がらせ
“Time flies like an arrow” ── 一文5通りの多義地獄

英語は世界で最もカオスで、最も矛盾に満ちた言語。
でもだからこそ、世界で最も多くの人に愛される遊び場なのです。