有名な俗説があります。「昔の肖像画家は、腕や脚まで描くと追加料金を取った。だから全身を描かせると、腕と脚のぶん高くついた」。
ですが、これを裏付ける記録は見つかっておらず、あとから作られた説明だと考えられています。この言い回しが新聞や雑誌に現れるのは20世紀半ば、1940年代から50年代のアメリカ英語からです。腕と脚は、体の中でも特に大事な部分です。それを差し出すほどの代償を払う。値段の高さを誇張する比喩として生まれた、というのが実際に近いようです。
推しのライブチケットや、コラボスニーカーの値段を見て「え、そんなにするの」と声が出た。誰にでもある経験です。
日本語なら「目玉が飛び出る値段」。日本語が目玉を持ち出すところで、英語は腕と脚を差し出します。驚くほど高い値段を、体の一部を犠牲にする大げささで言い切る。そこがこの表現の面白さです。
なぜこの意味になるのか
20世紀半ばのアメリカ英語で定着した、比較的新しい表現です。はっきりした起源は特定されていません。
使うときの注意・使い分け
very expensive より驚きと大げささが強い、くだけた口語表現です。フォーマルな文章にはあまり使いません。
例文で確かめる
Renovating the old house cost us an arm and a leg.
その古い家を改装するのに、べらぼうなお金がかかった。
I love that bag, but it costs an arm and a leg.
あのバッグ、大好きなんだけど、目が飛び出るくらい高いんだよね。
発音・リズム
an arm and a leg は、an と a を軽く読み流し「アナームアンダレグ」とひとつなぎに発音すると自然です。
入試での出方と、外し方
- こう問われる
- ①下線部の言い換えで very expensive / extremely costly を選ばせる形。②会話文で、値段に驚く場面の空所補充。③整序・英作文で an arm and a leg の冠詞(a を2回)を問う形。
- ここで外す
- break a leg(がんばって・成功を祈る)との取り違えが定番です。体の部位が出てくるという1点だけで意味まで混ざり、値段の話を励ましの話と読んでしまいます。 書く側では、2つ目の a を落として an arm and leg とする誤りが出ます。a は両方に要ります。
- 決め手
- 部位が2つ(arm と leg)そろっていれば値段の高さ、1つ(leg だけ)なら励まし。主語も違います。cost の主語は物、break a leg は相手への呼びかけです。
The concert tickets cost an arm and a leg this year.
- 誤答
- 今年のコンサートのチケットは、幸運を呼んでくれた(break a leg と取り違えた読み)
- 正答
- 今年のコンサートのチケットは、とんでもなく高かった
読み方が変わる
Before
体の部位が入った表現というだけで、cost an arm and a leg と break a leg を同じ引き出しに入れていました。長文で出るたびに、どちらの意味だったか迷っていました。
After
部位の数と主語で分かれると分かります。物が主語で腕と脚の2つなら値段、人への呼びかけで脚1本なら励まし。迷いが、2つ数えるだけの作業に変わります。
こぼれ話
値段の高さを大げさに言う表現は他にもあります。cost a fortune(財産ほどかかる)、cost a pretty penny(きれいな1ペニーがかかる=実は高額)。
似た表現・反対の表現
- 似た意味
- cost a fortunecost a pretty penny
- 反対の意味
- cost next to nothingdirt cheap
cost an arm and a leg を教室で使う(7分)
ねらい: 体の部位を使った慣用句どうしを、混同せずに整理する
- 「最近『高いな』と思って驚いたものは?」と生徒に自由に挙げさせる
- 出てきた答え(ライブチケット・ゲーム機・部活の道具など)を使って cost an arm and a leg を導入する
- 黒板に break a leg(幸運を祈る)も並べて書き、「同じ体の部位でも意味がまったく違う」ことを確認する
- 「腕と脚、両方そろっていたら値段の話」というルールをペアで確認し合う
出口チケット: 自分が『高いな』と思ったものを1つ選び、cost an arm and a leg を使って一文書いてください。
AIに貼ると、この表現があなたの生活の中の文になって返ってきます。
cost an arm and a leg を使った短い会話文を、次の条件で英語で作ってください。①場面は買い物中の友人同士の会話②値段に驚く場面から始める③break a leg とは意味が違うことが自然に伝わるように、文脈をはっきり書く。