原田先生のとっておきの話

ハーバード大学が13万人・43年間追跡して判明! 「1日2〜3杯のコーヒー」が認知症リスクを18%下げる ― ただしデカフェは効果ゼロ ―

HARVARD × JAMA × DEMENTIA PREVENTION

☕ 1日2〜3杯のコーヒーが
認知症リスクを18%下げる

― ハーバード大学 13万人・43年間の追跡調査(JAMA 2026年2月9日発表)―

☕ この記事のポイント

2026年2月9日、世界で最も権威ある医学誌のひとつ『JAMA』に発表されたハーバード大学の大規模研究。カフェイン入りのコーヒーを1日2〜3杯飲む人は、認知症リスクが18%低いことが判明しました。ただしデカフェでは効果なし。この研究が画期的な理由と、あなたの毎朝の一杯にどんな意味があるのかを、わかりやすく解説します。

「コーヒーが認知症に効くかもしれない」――こうした話は、実はこれまでにも何度か報じられてきました。しかし、過去の研究はどれも規模が小さかったり、追跡期間が短かったり、カフェイン入りとデカフェを区別していなかったりと、決め手に欠けるものばかりでした。

https://news.livedoor.com/article/detail/30551919/

今回の研究が世界中で注目されているのは、その圧倒的なスケールにあります。

📊 研究の全体像 ― なぜ「決定版」と言われるのか

131,821人

参加者数

最長43年間

追跡期間

11,033人

認知症発症者

ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院を中心とするチームが、看護師を対象とした「Nurses’ Health Study(NHS)」と医療従事者を対象とした「Health Professionals Follow-up Study(HPFS)」という、アメリカで何十年も続く2つの大規模コホート研究のデータを使用。参加者は研究開始時にがん・パーキンソン病・認知症を発症しておらず、2〜4年ごとに食事内容(コーヒー・紅茶の摂取量含む)を繰り返し調査されました。

この「繰り返し測定」が従来研究との決定的な違いです。一度きりのアンケートではなく、数十年にわたって何度も飲み物の習慣を確認することで、長期的な摂取パターンと認知症リスクの関係をより正確に捉えることができたのです。

🔬 3つの衝撃的な発見

発見① カフェイン入りコーヒーで認知症リスク18%低下

カフェイン入りコーヒーの摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べて認知症の発症リスクが18%低いことが判明。紅茶でも同様に14%の低下が確認されました。「自己申告による認知機能の低下」も、コーヒー高摂取群では7.8%(低摂取群9.5%)と、はっきり差が出ています。

発見② デカフェでは効果なし

今回の研究で最も注目すべき点のひとつ。カフェインレスコーヒーでは、認知症リスクとの有意な関連がまったく見られませんでした。ZME Scienceの報道によると、デカフェ高摂取群ではむしろ認知機能低下の有病率が16%高かったという指摘もあり、カフェインが保護効果の「主役」である可能性が強く示唆されています。

発見③ 「2〜3杯」がスイートスポット

摂取量と効果の関係は「逆U字型」。コーヒーは1日2〜3杯(カフェイン約300mg)、紅茶は1日1〜2杯で最大の効果が得られ、それ以上飲んでも追加の効果は減っていく傾向がありました。ただし、4杯以上飲んでも悪影響は確認されていません。

🧬 遺伝的リスクが高くても効果は同じ

「認知症になりやすい遺伝子を持っている人でも、コーヒーの効果は同じなのか?」――これは多くの人が気になるポイントでしょう。

答えはイエス。筆頭著者のYu Zhang氏はこう述べています。

「認知症の遺伝的素因が異なる人々を比較しても、同じ結果が得られました。つまりコーヒーやカフェインは、遺伝的リスクの高い人にも低い人にも、おそらく同じように有益です。」

これは非常に心強い発見です。「うちは認知症の家系だから……」と不安を抱えている方にとって、毎日のコーヒー習慣が小さな希望になりえます。

🤔 なぜカフェインが脳を守るのか ― 考えられるメカニズム

今回の研究は「観察研究」であるため、なぜカフェインが認知症リスクを下げるのかという因果メカニズムまでは証明されていません。しかし、過去の基礎研究から、いくつかの有力な仮説が提示されています。

メカニズム どう脳を守る?
アデノシン受容体の拮抗 カフェインがアデノシンA2A受容体をブロックし、神経炎症を抑制。アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβの蓄積を軽減する可能性
抗酸化作用 コーヒーに含まれるポリフェノール(クロロゲン酸など)が酸化ストレスから神経細胞を保護
抗炎症作用 慢性的な脳内炎症は認知症の主要因のひとつ。コーヒーの複数の成分が炎症マーカーを低下させることが動物実験で確認
血管機能の改善 脳血管の健康を維持し、血流を改善。血管性認知症のリスク低下に寄与する可能性
βセクレターゼ分解促進 慶應義塾大学の田村悦臣教授の研究では、コーヒーの成分がアミロイドβを切り出す酵素の分解を促進することが示されている

トロント大学のSarah Madavi氏が指摘するように、コーヒーには「カフェインに加えて、炎症、グルコース代謝、血管機能、酸化ストレスに影響を与える数百もの生理活性化合物」が含まれています。デカフェではカフェインを除去する過程でこれらの成分の一部も失われる可能性があり、それが効果の差に表れている可能性もあります。

🍵 日本人にとっての「もうひとつの問い」 ― 緑茶はどうなの?

ここで、日本人として当然湧く疑問があります。「緑茶はどうなんだ?」と。

実は今回のハーバード研究では、紅茶(black tea)は分析対象ですが、緑茶(green tea)は検討されていません。これは参加者がアメリカ人中心で、緑茶の消費量が少なかったためです。

しかし、日本国内の研究は別の答えを示しています。

国立長寿医療研究センターの調査では、60歳以上の1,305名を12年間追跡した結果、緑茶を1日2杯以上飲む人は、ほとんど飲まない人に比べて認知機能低下リスクが約30%低いことが示されています。また、新潟大学の村上コホート研究(13,757人対象)でも、コーヒーを1日3杯以上飲む人で認知症リスクがおよそ半分になるという結果が出ています。

緑茶にもカフェインやカテキン(ポリフェノールの一種)が豊富に含まれていることを考えると、今回のハーバード研究の「カフェインが鍵」という結論は、日本の緑茶文化にとっても追い風と言えるかもしれません。

⚠️ 専門家たちが繰り返す「3つの注意点」

世界中のメディアがこの研究を報じていますが、専門家たちは一様に「まだ行動を変えるほどの証拠ではない」と慎重な姿勢を崩していません。その理由を整理します。

⚠️ 注意点① 因果関係ではなく「関連」

これは観察研究です。「コーヒーを飲んだから認知症にならなかった」ではなく、「コーヒーを飲む人に認知症が少なかった」という関連を示したに過ぎません。もともと健康意識が高い人がコーヒーを好む傾向がある(交絡因子)可能性も否定できません。

⚠️ 注意点② 参加者の偏り

参加者は看護師や医療従事者が中心で、一般の人口構成とは異なります。英国ケンブリッジ大学のSimon R White氏は、この米国のデータを直接他の国や文化圏に適用することへの慎重さを促しています。

⚠️ 注意点③ 効果量は「小さい」

論文の責任著者であるDaniel Wang氏自身が「効果量は小さい」と認めています。18%のリスク低下は統計的には有意ですが、「コーヒーさえ飲めば安心」というレベルではありません。運動・睡眠・食事・社会的つながりなど、総合的な生活習慣がはるかに重要です。

📱 SNSの反応 ― 「無敵」から「心臓は大丈夫?」まで

この研究はX(旧Twitter)でも大きな反響を呼んでいます。livedoorニュースの投稿は3万6,000以上の「いいね」を獲得。「1日500ml飲むから無敵」と喜ぶ声から、「心臓への影響は?」と心配する声、「お茶派なんだけど……(緑茶のデータがない)」と残念がる声まで、反応はさまざまです。

著名な医学研究者のEric Topol氏(スクリプス研究所)も自身のXで研究を紹介し、「13万人超、37年間の追跡で、カフェイン入り1日2杯で認知機能向上・認知症低下」と要約しています。

🗣️ 英語の豆知識 ― “decaf” と “association” を使いこなそう

この話題に出てくる英語表現を2つ紹介しておきます。

🔤 decaf(ディキャフ)

“decaffeinated” の略。カフェ で “I’ll have a decaf, please.”(デカフェください)は日常的に使われるフレーズです。日本では「デカフェ」と言いますが、英語の発音は「ディーキャフ」に近いので注意。

🔤 association vs. causation(関連 vs. 因果関係)

科学ニュースを読む上で最も重要な英語の区別です。”Association does not imply causation.”(関連は因果を意味しない)は科学リテラシーの基本中の基本。今回の研究もあくまで “association”(関連)であり、”causation”(因果関係)ではないことを、英語のニュースは繰り返し強調しています。

☕ まとめ ― 明日の朝のコーヒーが、ちょっとだけ特別になる

ハーバード大学が13万人超を最長43年追跡した史上最大級の研究(JAMA 2026年2月9日発表)

カフェイン入りコーヒー1日2〜3杯で認知症リスク18%低下、紅茶1〜2杯で14%低下

デカフェでは効果なし ― カフェインが保護効果の「鍵」と考えられる

遺伝的リスクの高低に関わらず、同じ効果が確認された

ただし観察研究であり因果関係は未証明。「コーヒーだけで安心」ではない

運動・睡眠・食事・社会的つながりを含む、総合的な生活習慣が最も重要

因果関係が証明されたわけではない。効果量は小さい。それでも、13万人・43年間という桁外れのデータが示す「関連」は、無視できない重みを持っています。

明日の朝、いつものようにコーヒーを淹れるとき、あるいは午後に紅茶を一杯飲むとき、「これが数十年後の自分の脳を、少しだけ守ってくれているかもしれない」――そう思えたら、毎日の一杯がちょっとだけ特別に感じられるはずです。ただし、デカフェではなく、カフェイン入りで。

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参考文献:Zhang Y et al. “Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Function” JAMA (2026). DOI: 10.1001/jama.2025.27259 / Harvard Gazette / CNN / ZME Science / Science Media Centre / 国立長寿医療研究センター / 新潟大学

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