
冷蔵庫の温度で1週間冷やしたトマトは、室温に3日置いても香りが戻りきらなかった
トマトを冷やして減ったのは、糖ではなく香りの成分だった。
この判定の対象「トマトを冷蔵庫に1週間入れておくと、味が落ちる」
もくじ
アメリカのフロリダ大学で、76人がトマトの食べ比べをしました。1つは、熟したところでとったばかりのトマト。もう1つは、同じように熟したトマトを、冷蔵庫と同じくらいの5℃で7日間冷やし、そのあと1日室温に置いたものです。
結果、冷やしたトマトのほうが、「全体としてどれくらい好きか」の評価がはっきり低くなりました。
ところが、甘さのもとの糖や、すっぱさのもとの酸の量を測ると、2つのトマトに差はありませんでした。減っていたのは、香りの成分でした。
「トマトは冷蔵庫に入れないほうがいい」と聞いたことがあるかもしれません。この記事では、まず2016年の研究で、冷やすと何が減るのかを見ます。次に、何日冷やすと香りが減るのか、室温に戻すと元に戻るのかを確かめます。最後に、研究によって結果が違う点も正直に紹介します。
015℃で7日冷やしたトマトは、76人の食べ比べで評価が下がった
2016年、フロリダ大学のハリー・クリー(Harry J. Klee)らと、中国の浙江大学などのチームが、論文を発表しました。最初に名前が出ている著者は、ボー・ジャン(Bo Zhang)です。
論文によると、トマトの味は3つのもので決まります。糖、酸、そして香りの成分です。香りの成分は、空気の中にふわっと出ていく物質で、鼻で感じます。トマトらしい「おいしい」と感じる味には、この香りが大きくかかわります。
チームは、2つの品種を使いました。昔からある品種のアイルサ・クレイグと、現代に作られた品種です。赤く熟したトマトを5℃で保存し、香りの成分を測りました。
この記事の最初に書いた食べ比べは、アイルサ・クレイグを使ったものです。冷やしたトマトは、とれたてのトマトより、はっきり低く評価されました。糖(ブドウ糖と果糖)と酸(リンゴ酸とクエン酸)の量には、差がありませんでした。論文は、評価が下がったのは香りの成分が減ったためだ、と結論しています。
025℃で1〜3日なら香りの成分ははっきり減らず、7日だと減って、室温に3日置いても戻りきらなかった
では、何日冷やすと香りが減るのでしょうか。チームは、5℃で1日、3日、7日冷やしたトマトを比べました。冷やしたあとは、20℃の部屋に1日か3日置いて、休ませてから測りました。
結果は次のとおりです。
- 1日と3日冷やしたトマトでは、香りの成分は、とれたてと比べてはっきりとは減らなかった。
- 7日冷やすと、2つの品種のどちらでも、香りの成分ははっきり減った。
- 7日冷やしたあと、20℃に3日置いて休ませても、香りの成分はとれたてより少ないままだった。
同じ論文の別の測定では、8日冷やしたトマトの香りの成分の合計が、とれたてより65%も少なくなっていました。3分の1ほどしか残っていなかったことになります。
03冷やすと、香りを作る遺伝子の働きが弱まる
香りの成分は、なぜ減るのでしょうか。論文は、香りの成分の性質から説明しています。
香りの成分は、トマトのへたのあとから、外へ逃げていきます。だから、トマトはとったあとも、香りを作り続けないと、中の香りが減ってしまいます。糖や酸は、外へ逃げていきません。
ところが5℃では、香りを作る酵素の遺伝子の働きが、大きく弱まりました。酵素とは、体の中で物質を作りかえる道具のようなたんぱく質です。作る量が減っても、香りは外へ逃げ続けます。だから、中の香りが減っていくのです。
室温に戻すと、一部の遺伝子の働きは回復しました。けれども、回復しない遺伝子もありました。論文によると、香りを作る大事な遺伝子の多くは、室温に戻して1日たっても、冷やしていないトマトより低いままでした。

042日で味が落ちたという研究も、4日でも差がなかったという研究もある
何日なら大丈夫か。この点は、研究によって結果が違います。
2000年、マウル(F. Maul)らは、熟したトマトを5℃、10℃、12.5℃、20℃で保存して比べました。味を評価したのは、訓練を受けた試食の担当者です。すると、20℃より低い温度で2日置いただけで、熟した香りとトマトらしい味の評価が下がりました。5℃で4日置くと、甘さの評価も下がり、すっぱさは強く感じられました。
2013年には、フランス国立農学研究所のカトリーヌ・ルナール(Catherine M. G. C. Renard)らが、4℃での保存を調べました。4℃に置くと、香りの成分は大きく減り、30日で66%減りました。6日までなら、20℃に24時間置くと、香りの生産が一部回復しました。それでも、短い期間でも冷蔵庫の温度は香りに悪い、と結論しています。
一方、2020年、ドイツのゲッティンゲン大学のラリッサ・カンスキー(Larissa Kanski)らは、違う結果を出しました。この研究は、トマトが店に並ぶまでの流れもまねています。12.5℃で1日、20℃で2日置いたあと、家で20℃か7℃に4日置きました。すると、香りの成分も、訓練を受けた12人の試食も、20℃と7℃で、はっきりした差はありませんでした。味に大きく影響したのは、保存のしかたより、品種の違いでした。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
冷蔵は香りを全部減らすのではなく、香りの組み合わせを変える
ジャンらの論文では、66種類の香りの成分を詳しく調べました。そのうち、2つの季節と2つの品種のどれでも、冷蔵の影響をはっきり受けた成分が12種類ありました。
冷やして減ったのは、アミノ酸から作られる香りの成分や、脂質(あぶらの仲間)から作られる香りの成分などです。逆に、冷やすと増えた成分もありました。赤い色素のリコペンが分解してできる、6-メチル-5-ヘプテン-2-オンやゲラニアールなどです。冷蔵は、香りを全部いっせいに減らすのではなく、香りの「組み合わせ」を変えてしまうのです。
冷えると、ほかの遺伝子に指示を出す遺伝子の働きも弱まる
トマトの中では、たくさんの遺伝子が働いて、熟した実の色や香りを作っています。その中には、ほかの多くの遺伝子に「働け」と指示を出すまとめ役の遺伝子があります。RIN、NOR、CNR と呼ばれる遺伝子です。
ジャンらによると、冷やすと、このまとめ役の遺伝子の働きも下がりました。まとめ役が弱まると、その指示で動くたくさんの遺伝子の働きも下がるのかもしれない、と論文は書いています。冷やしている間に働きが変わった遺伝子は、5,413個ありました。20℃に1日戻したあとも、528個は違ったままでした。
さらにチームは、DNA の「メチル化」も調べました。メチル化とは、DNA に小さな目印がつくことです。遺伝子のスイッチの部分に目印がつくと、その遺伝子は読まれにくくなることが多いとされています。冷やしている間、スイッチの部分の目印は増えました。そして20℃に1日戻すと、とれたてに近いレベルに戻りました。論文は、この一時的な目印の変化が、冷えたときの遺伝子の働きの変化に関係していると考えています。
冷やしている間、トマトの中では「寒さに備える」働きもスイッチが入っていました。寒さにこたえる CBF という遺伝子の仲間は、冷やしている間に働きが強まり、20℃に1日戻すと、冷やす前のレベルに戻りました。論文は、寒さへの反応がきちんと入り、きちんと切れたことを示している、と書いています。寒さへの反応はすぐに元に戻るのに、香りを作る遺伝子の多くは戻りきらなかったのです。
お店に並ぶ前から、トマトは冷やされていることがある
ジャンらの論文は、市販のトマトが「味が薄い」と感じられる大きな原因の1つとして、とったあとに冷やす流通のしくみをあげています。流通で冷やすのは、熟すのを遅らせ、くさるのを防ぐためです。さらに、買ったトマトを冷蔵庫に入れる人も多い、と書いています。
味が薄い原因は、冷蔵だけではありません。2017年、デニス・ティーマン(Denise Tieman)らは、398の品種や系統のトマトの味の成分を測りました。その結果、現代の市販品種は、大事な味の成分の多くが、古い品種より少ないことが分かりました。2020年のカンスキーらの研究で、保存のしかたより品種の違いが大きく効いていたことも、この結果と合っています。
05まとめ
トマトを5℃で7日冷やすと、香りの成分がはっきり減り、76人の食べ比べでも評価が下がりました。糖と酸は変わらず、減ったのは香りでした。室温に3日置いても、香りは元の量まで戻りきりませんでした。この研究では、1〜3日の冷蔵なら、香りの成分ははっきりとは減りませんでした。ただし、2日で香りの評価が下がったという別の研究もあります。
熟したトマトは、冷蔵庫に入れずに室温に置き、何日も置かずに食べるのがよさそうです。冷やしたトマトは、少なくとも1日は室温に置いてから食べてみてください。
人に話すなら、こう言おう
トマトって冷蔵庫に1週間入れると、香りの成分が減っておいしくなくなるんだって。甘さのもとの糖は減らないのに、香りを作る遺伝子の働きが弱まるらしいよ。1〜3日なら、香りははっきり減らなかったみたい。
英語で読む
What the Fridge Takes from a Tomato
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
At the University of Florida, 76 people tasted two kinds of tomatoes.フロリダ大学で、76人が2種類のトマトを食べ比べました。 Some were fresh.一方はとれたてでした。 The others had stayed at 5 degrees, like inside a fridge, for seven days.もう一方は、冷蔵庫の中のような5度で7日間置かれていました。 Then they rested at room temperature for one day.そのあと、室温で1日休ませました。 People liked the cold tomatoes less.人々は、冷やしたトマトのほうをあまり好みませんでした。
But the cold tomatoes had the same amount of sugar and acid.でも、冷やしたトマトの糖と酸の量は同じでした。 What did they lose?では、何が失われたのでしょうか。 They lost aroma, the smell that gives tomatoes much of their flavor.失われたのは香り、つまりトマトの味の多くを生み出すにおいでした。 After eight days in the cold, the aroma chemicals had dropped by 65 percent.8日間冷やしたあと、香りの成分は65%減っていました。
Why does this happen?なぜこうなるのでしょうか。 Aroma chemicals slowly escape from a tomato, so the fruit must keep making new ones.香りの成分はトマトから少しずつ逃げていくので、トマトは新しい成分を作り続けなければなりません。 In the cold, the genes that make them become less active.寒いと、それを作る遺伝子の働きが弱くなります。 When the tomatoes went back to a warm room, some genes came back, but many did not.トマトを暖かい部屋に戻すと、一部の遺伝子は元に戻りましたが、多くは戻りませんでした。 Even after three days in a warm room, the aroma was still lower.暖かい部屋に3日置いたあとでも、香りは少ないままでした。
What about a short time in the fridge?冷蔵庫に短い時間入れた場合はどうでしょうか。 In the same study, one or three days did not clearly lower the aroma.同じ研究では、1日や3日では、香りははっきりとは減りませんでした。 But studies do not agree.でも、研究によって結果は一致していません。 One study found a worse taste after only two days.ある研究は、たった2日で味が悪くなったと報告しました。 Another found no clear difference after four days at 7 degrees.別の研究は、7度で4日置いても、はっきりした差はなかったと報告しました。
So keep ripe tomatoes on the table and eat them soon.だから、熟したトマトはテーブルに置いて、早めに食べましょう。 If you put them in the fridge, leave them out for a day before you eat them.冷蔵庫に入れたら、食べる前に1日外に出しておきましょう。
4択問題 Reading Quiz
-
Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B How the cold changes the taste of tomatoes
第1段落で冷やしたトマトの食べ比べ、第2〜4段落で香りが減る理由と日数の話をしているので、正解はB。ほかの選択肢は本文に出てこない。
-
Q2How much did the aroma chemicals drop after eight days in the cold?
8日間冷やしたあと、香りの成分はどれだけ減りましたか。
正解:D 65 percent
第2段落4文目に the aroma chemicals had dropped by 65 percent とあるので、正解はD。5は温度(5度)、76は食べ比べた人数。
-
Q3Why must a tomato keep making aroma chemicals?
トマトはなぜ香りの成分を作り続けなければならないのですか。
正解:A Because the chemicals slowly escape from the fruit.
第3段落2文目に Aroma chemicals slowly escape from a tomato, so the fruit must keep making new ones. とあるので、正解はA。Bは、糖の量は同じだった(第2段落1文目)ことと合わない。
-
Q4In paragraph 2, the word "aroma" is closest in meaning to ...
第2段落の aroma という語に最も意味が近いのは…
正解:C smell
第2段落3文目で aroma, the smell that gives tomatoes much of their flavor と説明しているので、正解はC。
-
Q5Which is true about short times in the fridge?
冷蔵庫に短い時間入れることについて、正しいのはどれですか。
正解:C Studies give different results.
第4段落3文目に studies do not agree とあり、2日で味が悪くなった研究と、4日でも差がなかった研究が紹介されているので、正解はC。AとBは「どの研究も」としている点が誤り。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
-
taste動詞味見する、味がする
Taste the soup before you add salt.
塩を入れる前にスープの味見をしなさい。
💡 名詞で「味」。This tastes good.(これはおいしい)。
-
fresh形容詞新鮮な、とれたての
We bought fresh fish at the market.
私たちは市場で新鮮な魚を買った。
💡 fresh air で「新鮮な空気」。
-
temperature名詞温度
The temperature dropped at night.
夜に気温が下がった。
💡 room temperature で「室温」。
-
acid名詞酸
Lemons have a lot of acid.
レモンには酸がたくさんふくまれている。
💡 すっぱさのもと。形容詞 acidic(酸っぱい、酸性の)。
-
aroma名詞(よい)香り
I love the aroma of fresh bread.
焼きたてのパンの香りが大好きだ。
💡 smell より「よい香り」の意味が強い。
-
chemical名詞化学物質
Do not touch the chemicals in the science room.
理科室の薬品にさわってはいけない。
💡 形容詞では「化学の」。chemistry(化学)の仲間。
-
escape動詞逃げる、もれ出る
Heat escapes from an open window.
開いた窓から熱が逃げていく。
💡 気体や熱が「もれ出る」ときにも使う。
-
active形容詞活発な、働いている
My grandmother is still very active.
祖母は今もとても元気に活動している。
💡 less active で「働きが弱い、活発でない」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。
- Zhang, B. ほか (2016) Chilling-induced tomato flavor loss is associated with altered volatile synthesis and transient changes in DNA methylation, PNASdoi.org
- Maul, F. ほか (2000) Tomato Flavor and Aroma Quality as Affected by Storage Temperature, Journal of Food Sciencedoi.org
- Renard, C. M. G. C. ほか (2013) Home conservation strategies for tomato: Storage temperature vs. duration, Food Chemistrydoi.org
- Kanski, L., Naumann, M. & Pawelzik, E. (2020) Flavor-Related Quality Attributes of Ripe Tomatoes Are Not Significantly Affected Under Two Common Household Conditions, Frontiers in Plant Sciencedoi.org
- Tieman, D. ほか (2017) A chemical genetic roadmap to improved tomato flavor, Sciencedoi.org
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.041ホントTRUE缶ジュースは、冷凍庫より塩を入れた氷水のほうが早く冷える
塩入りの氷水なら、約2分半で冷えた。
No.042グレーGRAY玉ねぎを切ると涙が出るのは、2つ目の酵素のせいだった
日本の食品会社が2002年に見つけた。
No.043ウソFALSEぬれたスマホを米に入れて乾かすのは、Appleがやめるよう案内している
米つぶが、スマホを傷めるおそれがある。
No.253ウソFALSE「鎖国」という言葉は、1801年にドイツ人医師の本を訳したときに生まれた
「鎖国」は1801年の翻訳から生まれた言葉。
No.016ウソFALSEナポレオンの身長は約169cmで、当時のフランス人の平均より高かった
「背の低いナポレオン」は、イギリス発のイメージ。
No.217英語の goodbye の good は、もとは God(神)だった
昔の英語では、goodbye を godbwye と書いた。