「ノートは手書きのほうが身につく」という実験は、やり直すと差が出なかった
ウラ取りライフハックNo.275

「ノートは手書きのほうが身につく」という実験は、やり直すと差が出なかった

手書きノートでも、ノートなしと成績がはっきり違わなかった。

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この判定の対象「授業のノートは、パソコンより手書きのほうが身につく」

うなり度 読む時間8分 出典5件 確認した事実24件
もくじ
  1. 2014年の実験は、パソコンでノートを取ると考える問題の成績が下がると報告した
  2. 2021年、同じ方法で142人がやり直すと、テストの成績に差は出なかった
  3. 2019年の実験では、手書き・パソコン・ノートなしの組で、成績がはっきり違わなかった
  4. 24の研究をまとめると、手書きで取って見直す利点は小さいながらあった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

2013年ごろ、アメリカのプリンストン大学で、学生たちが15分ほどの講演の動画を見ていました。動画は、TED という講演会のものです。一部の学生はノートパソコンで、ほかの学生は紙とペンでノートを取ります。

動画のあと、学生たちは講演の中身についての小テストを受けました。すると、事実を覚えているかの問題では差がありませんでした。けれども、内容を理解して考える問題では、手書きの学生のほうが成績がよかったのです。

この実験の論文は2014年に出て、「ノートは手書きにしよう」という話として広まりました。ところが、その後に同じ方法でやり直すと、テストの成績に差は出ませんでした。

この記事では、まず2014年の実験を見ます。次に、やり直しの実験を2つ紹介します。最後に、24の研究をまとめた分析で、手書きの利点がどれくらいの大きさなのかを確かめます。

012014年の実験は、パソコンでノートを取ると考える問題の成績が下がると報告した

論文を書いたのは、プリンストン大学のパム・ミューラー(Pam A. Mueller)と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダニエル・オッペンハイマー(Daniel M. Oppenheimer)です。題名は「ペンはキーボードより強し」でした。

2人は、3つの実験をしました。どれも、録画された講義を見ながらノートを取り、そのあとテストを受けるものです。結果は次のとおりでした。

  • ノートを見直さずにテストを受けた2つの実験では、考える問題で手書きのほうが成績がよかった。
  • 3つ目の実験では、1週間後のテストの前にノートを見直した人たちの間でだけ、差が出た。
  • 3つの実験のすべてで、パソコンのノートのほうが語数が多かった。講師の言葉をそのまま写した部分も多かった。

2人の説明はこうです。パソコンを使う人は、講師の言葉をそのまま書き写しがちになる。内容を頭の中で整理して、自分の言葉で言いかえることをしない。そのため、学びが浅くなる、というのです。

この研究は、大きく取り上げられました。2014年8月のアメリカの新聞ワシントン・ポストには、「ノートパソコンは捨てて、ペンを持とう」という見出しの記事が出ました。教室でパソコンを許すか禁止するかを話し合うときにも、よく使われてきました。なお、この論文には2018年に、内容の一部を直す「訂正」が出ています。

022021年、同じ方法で142人がやり直すと、テストの成績に差は出なかった

2021年、タフツ大学のヘザー・アーリー(Heather L. Urry)らが、2014年の1つ目の実験を、同じ方法でやり直した結果を発表しました。載った雑誌も、元の論文と同じ『サイコロジカル・サイエンス』です。

講演の動画も、テストの問題も、元の実験と同じものを使いました。そして実験の前に、計画と分析のしかたを公開して登録しておきました。結果を見てから都合よく分析を変えられないようにするためです。この登録は、2017年3月7日でした。

参加したのは142人です。パソコンでノートを取った人が74人、手書きの人が68人でした。結果は次のとおりです。

  • パソコンのノートは、手書きより語数が多かった。元の実験と同じ。
  • 講師の言葉をそのまま写した部分も、パソコンが約13%、手書きが約8%で、パソコンのほうが多かった。これも元の実験と同じ。
  • けれども、テストの成績には、はっきりした差がなかった。考える問題でも差は出なかった。

さらにアーリーらは、似たやり方の8つの研究の結果をまとめました。手書きの有利さは、ほとんどゼロでした。一方、パソコンのほうがノートの語数が多いことは、はっきり出ていました。

032019年の実験では、手書き・パソコン・ノートなしの組で、成績がはっきり違わなかった

2019年には、ケイラ・モアヘッド(Kayla Morehead)らも、やり直しの実験を発表しています。この研究は、2つの組を加えました。

  • 専用のペンで書きこめる電子のノートで、ノートを取る組。
  • ノートを取らずに、講義を見るだけの組。

手書きが少し有利に見える傾向はありました。けれども、どの組の間でも、成績ははっきりとは違いませんでした。ノートを取らなかった組とも、です。ノートを見直す時間をとると、組の差はさらに小さくなりました。

モアヘッドらは、いくつかのやり直し実験の結果もまとめました。手書きがわずかに有利でしたが、偶然の範囲を超える差ではありませんでした。そして、どちらの方法がよいかを決めるのは、まだ早すぎると結論しました。

2019年の実験では、パソコン、手書き、ノートなしの組を比べても、成績ははっきり違わなかった。
2019年の実験では、パソコン、手書き、ノートなしの組を比べても、成績ははっきり違わなかった。

0424の研究をまとめると、手書きで取って見直す利点は小さいながらあった

では、手書きに利点はまったくないのでしょうか。2024年、エイブラハム・フラニガン(Abraham E. Flanigan)らが、それまでの研究をまとめて分析しました。たくさんの研究を集めて1つの答えを出す方法を、メタ分析と言います。

集めたのは、21本の論文にふくまれる24の研究です。対象は大学生でした。結果は次のとおりです。

  • 手書きでノートを取って見直すと、成績が高くなる効果があった。効果の大きさは「g=0.25」ほど。
  • ノートの量は、パソコンのほうがずっと多かった。効果の大きさは「g=0.92」ほど。

g は「効果の大きさ」を表す数です。0なら差はまったくなく、数が大きいほど差がはっきりしています。

g=0.25 を、40人のクラスのテストの順位にあてはめてみます。点数が平均を真ん中になだらかに広がっているとすると、ちょうど真ん中の20番の人が、16番くらいに上がるほどの差です。ノートの量の g=0.92 のほうは、真ん中の20番の人が7番くらいまで上がるほどの差にあたります。手書きで成績が上がる効果は、パソコンでノートの量が増える効果より、ずっと小さいのです。

フラニガンらは、手書きのノートのほうが、勉強して覚えるのに役立つと結論しました。アーリーらの論文によると、2020年にも、教室での研究をまとめた別の分析が、手書きの小さな有利さを見つけています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

ノートの働きは「書くとき」と「見直すとき」の2つ

ノートを取る研究では、ノートの働きを2つに分けて考えることがあります。1つは、書いているその場で、内容が頭に入る働きです。もう1つは、あとで見直すための材料になる働きです。

2014年の論文が強く主張したのは、1つ目の働きでした。手書きだと自分の言葉でまとめるので、その場で深く理解できる、というものです。けれども、2021年のアーリーらは、見直しなしのテストで差を見つけられませんでした。そして、手書きがその場の理解を深めるという考えは支持されなかった、と書いています。

一方、2014年の3つ目の実験では、ノートを見直した人の間でだけ差が出ました。2024年のフラニガンらの分析も、「手書きで取って見直す」ことの効果を調べています。ところが、2019年のモアヘッドらの実験では、見直すと組の差はかえって小さくなりました。見直しが手書きの利点を大きくするのかどうかは、研究によって結果が分かれています。

手書きの利点は、テストの順位でいうとどれくらいか

フラニガンらの分析で、手書きの効果の大きさは「g=0.25」ほどでした。この数を、テストの点にあてはめて考えてみます。

点数が、平均を真ん中に左右へなだらかに広がっているとします。そのとき g=0.25 の差があると、手書き組の真ん中の人は、パソコン組の中に入れると、下から数えて約60%の位置に来ます。差がゼロなら、ちょうど50%の位置です。つまり、ちょうど真ん中より少し上、というくらいの差です。

一方、パソコンでノートの量が増える効果は「g=0.92」でした。こちらでは、パソコン組の真ん中の人は、手書き組の中で下から約82%の位置に来ます。ノートの量の差は、成績の差よりずっとはっきりしているのです。フラニガンらは、手書きのノートを取ると、授業の成績が上がることが期待できると書いています。ただし、その上がり方は小さいものです。

「そのまま写す」ことは、本当に悪いのか

2014年の論文は、パソコンで講師の言葉をそのまま写すことが学びに悪い、と主張しました。2021年のやり直しでも、パソコンのほうがそのまま写す割合は高く出ました。

けれども、「そのまま写す割合が高い人ほど成績が悪い」という関係は、やり直しでは安定して出ませんでした。逆に、ノートの語数が多い人ほど成績がよい、という関係は、元の実験とやり直しの両方で見られました。パソコンには「たくさん書ける」という利点もあるのです。

有名な研究は、やり直されることで確かになる

心理学では2010年代に、有名な研究を大人数でやり直す取り組みが進みました。アーリーらも論文の中で、そうした取り組みを紹介しています。アーリーらのやり直しは、実験の前に計画を公開しておく「事前登録」もしていました。

もう1つ大事なのは、人数です。2014年の1つ目の実験の分析は65人でした。2021年のやり直しは142人で、2倍以上です。人数が少ないと、偶然の差が大きく出たり、本当の差が見えなかったりします。モアヘッドらが書いたとおり、今ある研究から「どちらがよい」と決めるのは、まだ早すぎるのです。

05まとめ

「ノートは手書きのほうが身につく」は、2014年の実験から広まりました。けれども、同じ方法で142人がやり直すと、テストの成績に差は出ませんでした。ノートを取らない組とも、成績がはっきり違わない実験もありました。

24の研究をまとめると、手書きで取って見直す利点は、小さいながら見つかりました。パソコンでも手書きでも、あとで見直すことは忘れないでください。

人に話すなら、こう言おう

「ノートは手書きのほうが身につく」っていう有名な実験、同じやり方でやり直したら差が出なかったんだって。しかもそのやり直しは、大学の授業の学生たちがやって、著者が88人もいるらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Pen or Laptop?

CEFR A2219 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Should you take notes with a pen or with a laptop?ノートは、ペンで取るべきでしょうか、それともノートパソコンで取るべきでしょうか。 In 2014, a famous study gave a clear answer.2014年、ある有名な研究が、はっきりした答えを出しました。 Students at Princeton University watched a short talk and took notes.プリンストン大学の学生たちが、短い講演を見てノートを取りました。 Students who wrote by hand did better on questions about ideas.手で書いた学生のほうが、考え方を問う問題で成績がよかったのです。

The researchers had a reason.研究者たちには、理由の説明がありました。 Laptop users often typed the speaker's words exactly.パソコンを使う人は、話し手の言葉をそのまま打ちこむことが多かったのです。 They did not put the ideas into their own words, so they learned less.考えを自分の言葉に直さなかったので、学ぶことが少なかった、というわけです。 A newspaper told readers to put away the laptop and pick up a pen.ある新聞は、読者に「パソコンをしまってペンを持とう」と呼びかけました。

But in 2021, a team at Tufts University did the same test again with 142 students.しかし2021年、タフツ大学のチームが、142人の学生で同じ実験をもう一度行いました。 Laptop notes were longer, and they had more of the speaker's exact words.パソコンのノートは長く、話し手の言葉そのままの部分も多くなりました。 But the test scores were about the same.でも、テストの点数はほぼ同じでした。 The paper has 88 authors, because a teacher and the students in a class did the study together.この論文の著者は88人います。先生と授業の学生たちが、一緒にこの研究をしたからです。

In 2019, another study added a group that took no notes at all.2019年の別の研究は、ノートをまったく取らない組を加えました。 The scores of the groups were not clearly different, even for that group.組の間の点数は、その組もふくめて、はっきりとは違いませんでした。

In 2024, researchers put 24 studies together.2024年、研究者たちが24の研究をまとめました。 They found a small advantage for taking and reviewing notes by hand.手で書いたノートを取って見直すことに、小さな利点が見つかりました。 But the difference in the amount of notes was much bigger.でも、ノートの量の差のほうが、ずっと大きかったのです。 Laptop users wrote far more.パソコンを使う人のほうが、はるかに多く書きました。 So the pen may help a little, but it is not magic.つまり、ペンは少し役に立つかもしれませんが、魔法ではありません。 Whatever you use, read your notes again later.何を使うにしても、あとでノートを読み返しましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many students were in the 2021 test?

    2021年の実験には、何人の学生が参加しましたか。

  3. Q3Why does the 2021 paper have so many authors?

    2021年の論文には、なぜそんなに多くの著者がいるのですか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "advantage" is closest in meaning to ...

    第5段落の advantage という語に最も意味が近いのは…

  5. Q5Which is true about the 2024 study?

    2024年の研究について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • laptop名詞
    ノートパソコン

    I do my homework on a laptop.

    私はノートパソコンで宿題をする。

    💡 lap(ひざ)の上に置けるコンピューター、が語源。

  • notes名詞
    メモ、ノート(に書いた内容)

    Can I see your notes from math class?

    数学の授業のノートを見せてくれる?

    💡 take notes で「ノートを取る、メモする」。notebook は帳面そのもの。

  • exactly副詞
    正確に、そのまま

    Please copy the sentence exactly.

    その文をそのまま写してください。

    💡 会話の Exactly! は「その通り!」。

  • speaker名詞
    話し手、講演者

    The speaker talked about space for an hour.

    講演者は1時間、宇宙について話した。

    💡 スピーカー(音を出す機械)の意味もある。

  • author名詞
    著者、作者

    Who is the author of this book?

    この本の作者はだれですか。

    💡 論文では、研究をした人が author として名前を並べる。

  • advantage名詞
    利点、有利な点

    Living near school is a big advantage.

    学校の近くに住んでいるのは大きな利点だ。

    💡 反対語は disadvantage(不利な点)。

  • review動詞
    見直す、復習する

    I review my notes before every test.

    私はテストの前にいつもノートを見直す。

    💡 名詞で「批評、レビュー」の意味もある。

  • amount名詞
    量

    Drink a large amount of water in summer.

    夏は水をたくさん飲みなさい。

    💡 a large amount of 〜 で「大量の〜」。数えられないものに使う。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 24件)。

  1. Mueller, P. A. & Oppenheimer, D. M. (2014) The pen is mightier than the keyboard: Advantages of longhand over laptop note taking, Psychological Sciencedoi.org
  2. Urry, H. L. ほか (2021) Don't Ditch the Laptop Just Yet: A Direct Replication of Mueller and Oppenheimer's (2014) Study 1 Plus Mini Meta-Analyses Across Similar Studies, Psychological Sciencedoi.org
  3. Urry, H. L. ほか 同論文の公開原稿(PsyArXiv)osf.io
  4. Morehead, K., Dunlosky, J. & Rawson, K. A. (2019) How Much Mightier Is the Pen than the Keyboard for Note-Taking? A Replication and Extension of Mueller and Oppenheimer (2014), Educational Psychology Reviewdoi.org
  5. Flanigan, A. E. ほか (2024) Typed Versus Handwritten Lecture Notes and College Student Achievement: A Meta-Analysis, Educational Psychology Reviewdoi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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