
「強気のポーズを2分とるとホルモンが変わる」は、その論文を書いた1人が否定した
「強気のポーズ」の論文を書いた1人が、効果を否定した。
この判定の対象「力強いポーズを2分とるだけで、体のホルモンが変わる」
もくじ
アメリカのコロンビア大学で、ある実験が行われました。2010年に論文になった実験です。参加者は、心電図の電極をつける場所によって記録がどう変わるかを調べる研究だ、と説明を受けます。
でも、それは本当の目的を隠すための説明でした。実験者は参加者の手足に軽くふれて、決まったポーズをとらせます。たとえば、足を心臓より高くするためだと言って、前の机に足をのせてもらいます。机に足をのせる、いかにも「えらい人」のようなポーズです。
こうした力強いポーズを1分ずつ2つとった人は、体のホルモンが変わり、賭けにも強気になった。論文はそう報告しました。2分で人が強くなれる、という話は世界に広まりました。
ところが6年後、論文を書いた3人のうちの1人が、自分のウェブサイトで、この効果は本当だとは思わないと表明します。この記事では、まず2010年の実験の中身を見ます。次に、200人でのやり直し実験を紹介します。最後に、研究者本人が明かした「実験のやり方の問題」を確かめます。
012010年の実験では、1分間のポーズ2つでホルモンが変わったと報告された
論文を書いたのは、ダナ・カーニー(Dana R. Carney)、エイミー・カディ(Amy J. C. Cuddy)、アンディ・ヤップ(Andy J. Yap)の3人です。2010年、心理学の雑誌『サイコロジカル・サイエンス』に載りました。
参加者は42人です。くじで2つの組に分けました。
- 力強いポーズの組:手足を大きく広げ、場所を広くとるポーズ。
- 縮こまるポーズの組:手足を体に寄せ、小さく丸まるポーズ。
ポーズの前と、約17分後に、だ液をとりました。だ液から、2つのホルモンの量を測ります。論文が「支配のホルモン」と呼ぶテストステロンと、「ストレスのホルモン」と呼ぶコルチゾールです。
また、賭けの課題もしました。参加者は2ドルを受け取ります。そのまま持ち帰ってもいいし、さいころを振ってもかまいません。さいころなら、半々の確率で4ドルになるか、0になります。
論文が報告した結果は、次のとおりです。
- 力強いポーズの組では、テストステロンが上がり、コルチゾールが下がった。
- 縮こまるポーズの組では、その逆になった。
- 賭けに出た人は、力強いポーズの組で86%、縮こまるポーズの組で60%だった。
- 力強いポーズの組は、「力がある」と感じる気持ちも強かった。
論文は、1分間の簡単なポーズ2つで、人はすぐに強くなれると書きました。そして、これは実際の生活に役立つ発見だとしました。2012年には、カディが講演会「TED」でこの研究を紹介します。TED のサイトでの再生回数は、2026年10月の時点で7700万回を超えています。
022015年、200人でやり直すと、ホルモンも賭け方も変わらなかった
2015年、チューリッヒ大学などのエヴァ・ラネヒル(Eva Ranehill)らが、同じ雑誌にやり直しの実験を発表しました。
人数は200人です。女性98人、男性102人でした。元の実験と同じ大きさの効果があれば、95%を超える確率で見つけられる人数です。やり方は元の実験にそろえましたが、いくつかの点を変えました。
- ポーズの指示は、コンピューターの画面で出した。だから実験者は、どの人がどちらの組か知らなかった。
- ポーズの時間は、1分ではなく3分ずつにした。
- 本当の目的を隠す説明はしなかった。
結果はこうでした。
- 力強いポーズの組は、「力がある」と感じる気持ちが強かった。ここは元の実験と同じ。
- けれども、テストステロンにも、コルチゾールにも、差は出なかった。
- 賭けに出る割合にも、差はなかった。追加した2つの課題(損をしそうなときの賭け、競争に参加するかどうか)でも、差はなかった。
論文を審査した研究者からは、3分もポーズを続けるとつらくなり、それが効果を打ち消したのではないか、という意見が出ました。そこで、ポーズが少なくとも「まあ楽だった」と答えた人だけで分析し直しました。それでも結果は変わりませんでした。

032016年、論文を書いた1人が「少しずつ人を足して、途中で結果を見ていた」と明かした
2016年、論文を書いた1人のカーニーは、自分のウェブサイトに「パワーポーズについての私の立場」という文書を出しました。カーニーは、その数年の証拠を見て考えを変えた、と書いています。そして「パワーポーズの効果は、本当だとは思わない」と書きました。
文書では、2010年の実験のやり方の問題を、自分で1つずつ並べています。主なものは次のとおりです。
- 人数がとても少なく、データは弱かった。
- 参加者を少しずつ集め、そのたびに結果を確かめていた。25人、次に10人、7人、5人というように。
- 賭けの結果が偶然かどうかを確かめる計算には2つの方法があり、0.052と0.05という値が出た。よく使われるのは0.052が出た方法だったが、小さい0.05のほうを報告した。0.05は「差がある」と言えるかどうかの境目の数だ(くわしくは深掘り講義で)。
- 「力がある」と感じる気持ちは、たくさんの質問をして、うまくいった質問を選んだ。
- 実験をした人たちは、どんな結果になるはずかを知っていた。
カーニーは、データそのものは本物だとも書いています。今はこの研究をしておらず、授業でも教えていないそうです。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「途中で結果を見ながら人数を足す」と、偶然の差が見つかりやすくなる
心理学の実験では、2つの組の差が「偶然では説明しにくい」かどうかを、p 値という数で判断します。p 値が0.05より小さいと「差がある」とするのが、よくある決まりです。
ここで、参加者を少しずつ足して、そのたびに p 値を確かめるとします。そして0.05を下回ったところで、集めるのをやめます。すると、本当は差がなくても、偶然の波で一時的に0.05を下回った瞬間をつかまえやすくなります。カーニーが書いた、25人、次に10人、7人、5人と足していく集め方は、まさにこのやり方でした。カーニーは、当時はお金の節約になると考えていて、結果をゆがめるやり方だとは思わなかったと書いています。
たくさんの質問をして、うまくいったものだけを報告するのも、同じ問題を生みます。質問が20個あれば、どれかが偶然0.05を下回ることは十分にありえます。
「勝つとテストステロンが上がる」という別の説明
カーニーの文書は、もう1つの問題もあげています。賭けに勝った人は、その場で2ドルを追加でもらえました。カーニーは、勝負に勝つとテストステロンが上がるという1989年の研究をあげています。
力強いポーズの組は、賭けに出る人が多い組でした。賭けに出なければ、勝つこともありません。そうすると、テストステロンの差は「ポーズの効果」ではなく、「勝った効果」だったかもしれないのです。調べたいもの以外に、結果を動かすものがまじることを、「交絡」と言います。
ポーズの効果を示した33の研究を調べ直すと、本当の効果がある証拠は見つからなかった
2015年、カーニーら3人は、ポーズの効果を示した33の研究をまとめて、やり直し実験に反論していました。2017年、ジョセフ・シモンズ(Joseph P. Simmons)とユリ・シモンソン(Uri Simonsohn)は、その33の研究の p 値の並び方を調べました。この方法を「p カーブ分析」と言います。
本当に効果があるなら、0.01のようなとても小さい p 値が多く出るはずです。効果がないのに、0.05を下回った結果だけが発表されると、p 値は0.05のすぐ下に集まりやすくなります。調べた結果、33の研究の並び方は、「本当の効果はゼロで、都合のよい結果だけが発表された」場合と見分けがつきませんでした。2人は、今の証拠は、人にパワーポーズを勧めるには弱すぎると結論しました。
2018年、カディらは反論を出しました。題名は、もっと広い範囲の研究を p カーブで調べると、パワーポーズの効果にははっきりした証拠がある、というものです。研究者の間で、意見はまだ分かれています。
最後に残った「強くなった気分」も、確かとは言えない
200人のやり直しでも、「力がある」と感じる気持ちだけは、力強いポーズの組で強くなりました。けれども、2024年にイスラエルのエフラット・バレル(Efrat Barel)らが92人で行ったやり直しでは、この気持ちの差も再現されませんでした。テストステロンの変化も再現されず、賭けに出る人の割合にも差はありませんでした。
ただし、バレルらは、力強いポーズの組でコルチゾールが下がった人ほど賭けに出る、という関係を見つけ、元の結果を一部支持する、とも書いています。また、世界中のやり直し実験の多くは発表されていない、とも書いています。
04まとめ
「強気のポーズを2分とるとホルモンが変わる」という2010年の研究は、42人の実験から生まれました。200人でのやり直しでは、テストステロンもコルチゾールも、賭けに出る割合も変わりませんでした。論文を書いた3人のうちの1人は、人数を少しずつ足して途中で結果を見ていたことなどを、自分で明かしました。
この研究を紹介した TED の講演は、2026年10月の時点で7700万回以上再生されています。一方、論文を書いた3人のうちの1人のカーニーは、自分の実験のやり方の問題を自分で公表し、今はこの研究をしていません。
人に話すなら、こう言おう
2分間「強気のポーズ」をとるとホルモンが変わる、っていう有名な研究があったんだって。でも200人でやり直したら変わらなくて、論文を書いた研究者の1人も、効果は本当だとは思わないって書いたらしいよ。
英語で読む
The Power Pose That Lost Its Power
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
Put your feet up on the desk and open your arms wide.足を机にのせて、両腕を大きく広げてみてください。 Can this pose change your body in two minutes?このポーズで、2分のうちに体が変わるでしょうか。 In 2010, three researchers said yes.2010年、3人の研究者が「変わる」と答えました。
In their test, 42 people held two strong poses or two small poses for one minute each.彼らの実験では、42人が、力強いポーズ2つか、縮こまるポーズ2つを、1分ずつとりました。 The researchers checked two hormones in their saliva.研究者たちは、だ液の中の2つのホルモンを調べました。 Hormones are chemicals that send messages in the body.ホルモンとは、体の中で信号を送る化学物質です。 The paper said the strong poses raised testosterone and lowered cortisol, a stress hormone.論文は、力強いポーズでテストステロンが増え、ストレスのホルモンであるコルチゾールが減ったと報告しました。 Also, 86 percent of the strong posers took a risk in a dice game, but only 60 percent of the others did.また、力強いポーズの人の86%がさいころの賭けに出ましたが、ほかの人では60%だけでした。
The idea became very popular.この考えは、とても人気になりました。 But in 2015, another team tested 200 people.しかし2015年、別のチームが200人で確かめました。 The people felt a little more powerful after the strong poses.人々は、力強いポーズのあと、少し強くなった気がしました。 But their hormones did not change, and they did not take more risks.でも、ホルモンは変わらず、賭けに出る人も増えませんでした。
In 2016, Dana Carney wrote on her website that she did not believe the effect was real.2016年、ダナ・カーニーは、自分のウェブサイトに、その効果は本当だと思わないと書きました。 She was one of the three original researchers.彼女は、もとの3人の研究者の1人でした。 She explained the problems.彼女は問題点を説明しました。 The group was very small.参加者はとても少なかったのです。 The team added people little by little and checked the results each time.チームは少しずつ人を増やし、そのたびに結果を確かめていました。 They also chose the questions that worked.また、うまくいった質問を選んでいました。
She said the data were real, but they were weak.彼女は、データは本物だけれど、弱いものだったと言いました。 Today, she does not teach power poses in her classes.今、彼女は授業でパワーポーズを教えていません。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B A famous study about poses that later failed tests
第2段落で2010年の研究を紹介し、第3〜5段落でやり直し実験と研究者本人の否定を説明しているので、正解はB。Dのさいころは第2段落に出てくるが、話の中心ではない。
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Q2How many people were in the test in 2015?
2015年の実験には何人が参加しましたか。
正解:C 200
第3段落2文目に another team tested 200 people とあるので、正解はC。42は2010年の実験の人数、86と60は賭けに出た人の割合(%)。
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Q3What did the 2015 team find?
2015年のチームは何を見つけましたか。
正解:A People felt a little more powerful, but their hormones did not change.
第3段落3〜4文目に、少し強くなった気はしたが、ホルモンは変わらず、賭けに出る人も増えなかったとあるので、正解はA。BとCは4文目と合わない。
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Q4In paragraph 4, the phrase "little by little" is closest in meaning to ...
第4段落の little by little という語句に最も意味が近いのは…
正解:D a few at a time
第4段落5文目の added people little by little and checked the results each time は「少しずつ人を増やし、そのたびに結果を確かめた」という意味なので、正解はD。Aは逆の意味。
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Q5Which is true about Dana Carney?
ダナ・カーニーについて正しいのはどれですか。
正解:D She was one of the three researchers in 2010.
第4段落2文目に She was one of the three original researchers とあるので、正解はD。Aは第5段落1文目(データは本物)と、Bは2文目(今は教えていない)と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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pose名詞ポーズ、姿勢
She made a funny pose for the photo.
彼女は写真のためにおもしろいポーズをとった。
💡 動詞でも使う:pose for a picture(写真のためにポーズをとる)。
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hormone名詞ホルモン
Sleep is important for your hormones.
睡眠はホルモンにとって大切だ。
💡 発音は「ホーモウン」に近い。
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saliva名詞だ液、つば
The doctor tested my saliva.
医者は私のだ液を検査した。
💡 だ液の検査は、注射なしでホルモンを測れる。
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stress名詞ストレス、緊張
Tests give many students stress.
テストは多くの生徒にストレスを与える。
💡 under stress で「ストレスを受けて」。
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risk名詞危険、賭け
He took a risk and tried the new food.
彼は思い切って新しい食べ物を試した。
💡 take a risk で「危険を冒す、思い切ってやる」。
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popular形容詞人気のある
This song is popular with young people.
この歌は若い人に人気がある。
💡 popular with 〜 で「〜に人気がある」。
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method名詞方法
This is a good method for learning words.
これは単語を覚えるのによい方法だ。
💡 way より少しかたい言い方。
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original形容詞もとの、最初の
I like the original story better than the movie.
私は映画より原作の話のほうが好きだ。
💡 名詞 origin(起源)の仲間。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 23件)。
- Carney, D. R., Cuddy, A. J. C. & Yap, A. J. (2010) Power posing: Brief nonverbal displays affect neuroendocrine levels and risk tolerance, Psychological Sciencedoi.org
- Ranehill, E. ほか (2015) Assessing the robustness of power posing: No effect on hormones and risk tolerance in a large sample of men and women, Psychological Science(チューリッヒ大学公開版)zne.uzh.ch
- Carney, D. R. My position on "Power Poses"(カリフォルニア大学バークレー校 ハース・ビジネススクール)faculty.haas.berkeley.edu
- Simmons, J. P. & Simonsohn, U. (2017) Power Posing: P-Curving the Evidence, Psychological Sciencedoi.org
- Cuddy, A. J. C., Schultz, S. J. & Fosse, N. E. (2018) P-Curving a More Comprehensive Body of Research on Postural Feedback Reveals Clear Evidential Value for Power-Posing Effects, Psychological Sciencedoi.org
- Barel, E. ほか (2024) The effects of power posing on neuroendocrine levels and risk-taking, BMC Psychologydoi.org
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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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