太陽にいちばん近い水星の北極では、氷が黒っぽい層の下に隠れていた
宇宙と地球No.258

太陽にいちばん近い水星の北極では、氷が黒っぽい層の下に隠れていた

水星の氷は、日が一度も差さないクレーターの底にある。

ホントTRUE

この判定の対象「太陽にいちばん近い水星にも、水の氷がある」

うなり度 読む時間9分 出典10件 確認した事実33件
もくじ
  1. 水星の自転の軸はほとんど傾いていないので、北極のクレーターの底には日が差さない
  2. 1991年、地球から当てた電波が、水星の北極で氷のようにはね返ってきた
  3. 2012年、探査機メッセンジャーは、3つの方法で北極の氷を確かめた
  4. 氷の多くは、厚さ10〜30cmの黒っぽい層の下に隠れている
  5. 2014年、クレーターの壁にはね返ったわずかな光で、氷の写真が撮れた
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

水星は、太陽にいちばん近い惑星です。NASAによると、昼の温度は430℃にもなります。面積あたりに受ける日光の強さは、地球の約6.7倍です。

ところが、その水星の北極には、水の氷があります。2012年、NASAの探査機メッセンジャーの観測から、そう発表されました。ただ、氷の多くは、むき出しではありません。厚さ10〜30cmの黒っぽい層の下に隠れているのです。

氷が見つかるまでには、長い時間がかかりました。最初のヒントは、1991年に地球から水星に当てた電波でした。それが本当に氷だと確かめられたのは、21年後のことです。

この記事では、まず、水星の北極に日が差さない場所がある理由を説明します。次に、1991年の電波の観測から、2012年の探査機による確認まで、誰がどうやって氷を見つけたかを順に見ます。最後に、日の差さない場所で、どうやって氷の写真を撮ったのかを紹介します。

01水星の自転の軸はほとんど傾いていないので、北極のクレーターの底には日が差さない

地球の自転の軸は、23.44度傾いています。一方、NASAのデータ表によると、水星の軸の傾きは0.034度しかありません。ほぼまっすぐ立っているのです。2012年のNASAの発表文も、水星の軸の傾きを「1度より小さい」と書いています。

軸がまっすぐだと、極では、太陽はいつも地平線すれすれの低い所にあります。すると、極の近くの深いクレーター(隕石などがぶつかってできた丸いくぼ地)の底には、日の光が一度も差しません。クレーターのふちが、いつも影を作るからです。

NASAの資料によると、こうしたクレーターの底は、計算ではずっと冷たいままです。約102ケルビン(約−171℃)より温度が上がらない場所があるはずだというのです。

水星には、空気がほとんどありません。そのため、日の当たった氷は、すぐに気体になって宇宙へ逃げてしまいます。氷が残れるのは、一度も日が当たらない場所だけなのです。

021991年、地球から当てた電波が、水星の北極で氷のようにはね返ってきた

1991年8月、地球から水星に電波が当てられました。当てたのは、研究者のスレード(M. A. Slade)らです。NASAのゴールドストーンにある直径70mのアンテナから電波を出し、はね返ってきた電波を、26台のアンテナで受けたのです。この観測の目的は、それまで探査機が写していなかった水星の残り半分を、電波で画像にすることでした。

1974〜1975年に水星の近くを通った探査機マリナー10号は、水星の半分ほどしか写せていなかったのです。

ところが、電波で作った画像の北極に、電波を強くはね返す明るい場所がありました。しかも、そのはね返り方には特徴がありました。それまでは、火星の氷の多い場所や、木星など外側の惑星の氷の衛星でしか、見られなかったはね返り方だったのです。

同じころ、プエルトリコのアレシボ電波望遠鏡でも、水星の北極と南極に明るい場所が見つかりました。南極の明るい場所は、主にチャオ・メン・フーというクレーターの底にありました。

これで「水星の極には氷がある」と決まったわけではありません。NASAの資料によると、氷ではなく、金属を含む別の物質でも、電波の明るさを説明できる可能性がありました。地球から電波を当てるだけでは、中身までは分からなかったのです。

032012年、探査機メッセンジャーは、3つの方法で北極の氷を確かめた

2011年3月18日、探査機メッセンジャーが水星を回り始めました。NASAの探査機で、水星を回った最初の探査機です。2004年に地球を出発してから、6年半以上かかっています。

2012年11月29日、メッセンジャーの研究チームは、3本の論文を同時に発表しました。それぞれ、違う方法で北極を調べたものです。

1本目は、水素の量の測定です。メッセンジャーは、水星の地面から飛び出してくる中性子という小さな粒の数を数えました。その数の変化から、地面にどれだけ水素があるかが分かります。北極のあたりでは、飛び出してくる中性子の数が減っていました。これは、水の氷があると考えると説明できる結果でした。

2本目は、レーザーを使った測定です。メッセンジャーは、地形を測るために、1000万回以上もレーザーを水星に撃っていました。そのレーザーのはね返りから、日の当たらない場所の表面の明るさも分かったのです。北極側を向いた斜面に、とても明るい所と、とても暗い所が見つかりました。

3本目は、温度の計算です。レーザーで測った本物の地形を使って、北極のどこがどれだけ冷たいかを計算しました。すると、電波で明るく見えた場所は、氷が長く残れるはずの冷たい場所と、よく重なりました。

04氷の多くは、厚さ10〜30cmの黒っぽい層の下に隠れている

3つの結果を合わせると、北極の氷の様子が分かってきました。

いちばん冷たい場所では、氷が表面にむき出しになっています。レーザーで明るく見えたのは、この氷だと考えられています。

それより少し暖かい場所では、氷は表面には残れません。温度の計算では、地面の少し下でだけ氷が残れます。中性子の測定によると、電波で明るい場所では、平均すると、厚さ10〜30cmの水素の少ない層が表面をおおっています。その下に、数十cmより厚い、ほとんど純粋な水の氷の層があるのです。レーザーで暗く見えたのは、氷の上にかぶさった、この上の層だと考えられています。

なお、この厚さは、2012年のNASAの発表文では「10〜20cm」と書かれていました。この記事では、論文に載った「10〜30cm」を使っています。

研究者の一人に、カリフォルニア大学ロサンゼルス校のペイジ(David Paige)がいます。ペイジは、この暗い物質を、複雑な有機物(炭素を含む物質)が混ざったものだろうと考えています。有機物は、すい星や、水などの蒸発しやすい物質を多く含む小惑星がぶつかったときに、水と一緒に運ばれてきたのかもしれません。水星の強い放射線を浴びて、さらに黒くなった可能性もあるそうです。

この黒っぽい層は、氷を熱から守る断熱材のような役目をしていると考えられています。

いちばん冷たい所では氷がむき出しで、少し暖かい所では黒っぽい層が氷の上をおおっている。
いちばん冷たい所では氷がむき出しで、少し暖かい所では黒っぽい層が氷の上をおおっている。

052014年、クレーターの壁にはね返ったわずかな光で、氷の写真が撮れた

日が一度も差さない場所の氷を、カメラで写すことはできるのでしょうか。2014年10月、その写真が発表されました。発表したのは、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)のナンシー・シャボー(Nancy Chabot)らです。

使ったのは、メッセンジャーの広い範囲を写すカメラです。クレーターの底に直接日は当たりません。でも、日の当たったクレーターの壁では、光が少しだけはね返ります。そのとても弱い光で、影の中を写したのです。

主に写されたのは、プロコフィエフというクレーターです。北極の近くで、電波の明るい場所を持つクレーターの中では、最も大きなものです。写真では、電波で明るかった場所が、光でも明るく写っていました。表面に出ている氷だと考えられています。

写真からは、氷の年代についての手がかりも見つかりました。ある場所では、氷の表面に、その下にある小さなクレーターのでこぼこが見えていました。氷は、その下のどのクレーターよりも後から来たことになります。また、黒っぽい層の境目は、くっきりしていました。こうした様子から、水星の極の氷は、最近運ばれてきたか、くり返し補われているかのどちらかだと考えられています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

地球から当てた電波は、なぜ「氷かもしれない」と思わせたのか

1991年のスレードらの観測では、決まった向きにねじれた電波を、水星に向けて送りました。ふつうの岩の地面に当たると、はね返ってくる電波のねじれの向きは、ほぼ一方にそろいます。研究者は、2つの向きの電波の強さを比べて、比の数字で表します。

論文によると、地球のような岩の惑星では、この比は約0.1より小さいのがふつうです。ところが水星の北極では、1.0〜1.4もありました。これほど大きい値は、それまで火星の氷の多い場所や、外側の惑星の氷の衛星でしか見つかっていませんでした。NASAの資料も、氷は電波を強くはね返し、ねじれの向きをばらばらにしやすいと説明しています。

スレードらは、1991年8月8日と23日の2回観測し、どちらでも北極に明るい場所が見えました。それでも、氷だとは言い切れませんでした。電波だけでは、それが何でできているかまでは分からないからです。水星の場合、電波の観測から探査機による確認まで、21年かかりました。

黒っぽい層は、氷が気体になって抜けたあとに残ったものかもしれない

ペイジらの論文は、黒っぽい層のでき方について、1つの考えを出しています。

氷に、ちりや有機物が混ざっていたとします。少し暖かい場所では、表面の氷が少しずつ気体になって、宇宙へ逃げていきます。でも、混ざっていたちりや有機物は、気体になりません。そのため、表面に残ってたまっていきます。こうしてできた層が、黒っぽい層ではないか、という考えです。ペイジらの温度の計算では、暗い表面は、表面に氷が残れないくらい暖かい場所と、そのまわりに広がっていました。レーザーの論文は、この層が下の氷を熱から守る断熱材になっているらしい、としています。

水星の氷は、古いのか新しいのか

シャボーらの写真の結果は、氷が新しい可能性を示しました。氷の上に、そこより古いクレーターの形が残っていることや、黒っぽい層の境目がくっきりしていることです。境目がはっきりしているのは、まだあまり時間がたっていないからだと考えられています。

シャボーは、氷の年代を知ることは、地球を含む岩の惑星に、水がどうやって運ばれてきたのかを理解するのに大事だ、と述べています。

水の量の見積もりには、50倍の幅がある

中性子を測った1本目の論文は、水星の極にある水の量を、2×10の16乗〜10の18乗グラムと見積もっています。トンに直すと、200億トンから1兆トンです。いちばん多い見積もりは、いちばん少ない見積もりの50倍です。

この量を目に見える形にしてみます。水1トンを1立方メートルと考えると、1兆トンの水は、1辺が約10kmの立方体を埋める量です。200億トンなら、1辺は約2.7kmになります。

2012年の発表のとき、メッセンジャーの代表研究者ソロモン(Sean Solomon)は、新しい疑問も挙げました。黒っぽい物質は本当に有機物なのか。その物質はどんな化学反応を受けてきたのか。こうした疑問に答えるには、水星をさらに調べる必要があります。

06まとめ

水星は、昼は430℃にもなる、太陽にいちばん近い惑星です。でも、自転の軸の傾きが0.034度しかないため、北極のクレーターの底には日が一度も差しません。そこに、水の氷があります。1991年の電波の観測でヒントが得られ、2012年に探査機メッセンジャーが3つの方法で確かめました。

氷の多くは、厚さ10〜30cmの黒っぽい層の下に隠れています。そして2014年、研究者たちは、クレーターの壁にはね返ったわずかな光を使って、真っ暗なクレーターの底の氷を写真に写しました。

人に話すなら、こう言おう

水星って昼は430℃もあるのに、北極のクレーターの底には氷があるんだって。しかも氷の多くは黒っぽい層の下に隠れていて、その層が氷を熱から守っているらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Ice on the Hottest Neighbor of the Sun

CEFR A2222 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Mercury is the closest planet to the Sun.水星は、太陽にいちばん近い惑星です。 In the day, it can get as hot as 430 degrees Celsius.昼には、430℃にもなることがあります。 Each square meter gets about 6.7 times more sunlight than on Earth.1平方メートルあたりに受ける日光は、地球の約6.7倍です。 But there is ice on Mercury.それなのに、水星には氷があります。

How is this possible?どうしてそんなことがあり得るのでしょうか。 Mercury spins with its axis almost straight, tilted only 0.034 degrees.水星は、軸をほぼまっすぐにして回っていて、傾きはわずか0.034度です。 So near the north pole, the bottoms of some deep craters never get sunlight.そのため、北極の近くでは、深いクレーターの底のいくつかに、日の光が一度も当たりません。 There, it stays very cold all the time.そこは、いつもとても冷たいままです。

In 1991, scientists sent radio waves from Earth to Mercury.1991年、科学者たちは地球から水星に電波を送りました。 The waves bounced back strongly from the poles, just like waves from ice.電波は、まるで氷に当たったときのように、極から強くはね返ってきました。 But they could not be sure that it was ice.でも、それが氷だとは言い切れませんでした。

In 2011, a spacecraft called MESSENGER began to circle Mercury.2011年、メッセンジャーという探査機が水星を回り始めました。 In 2012, scientists used three different ways to check the north pole.2012年、科学者たちは3つの違う方法で北極を調べました。 The answer was clear: water ice is there.答えははっきりしていました。そこには水の氷があるのです。 Much of the ice is under a dark layer 10 to 30 centimeters thick.氷の多くは、厚さ10〜30cmの黒っぽい層の下にあります。 The dark layer may be made of organic material, which contains carbon.その黒っぽい層は、炭素を含む有機物でできているのかもしれません。 This layer may protect the ice from heat.この層は、氷を熱から守っているのかもしれません。

The ice sits in places with no sunlight, so how could anyone take a picture of it?氷は日の光のない場所にあります。では、どうすればその写真を撮れるのでしょうか。 In 2014, the team used a camera on MESSENGER.2014年、チームはメッセンジャーのカメラを使いました。 It caught weak light that bounced off the sunny walls of the craters.カメラは、日の当たったクレーターの壁にはね返った、弱い光をとらえました。 With this light, they saw the ice for the first time.この光で、チームは初めて氷を目で見ることができたのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did scientists send radio waves from Earth to Mercury?

    科学者が地球から水星に電波を送ったのはいつですか。

  3. Q3Why do some crater bottoms near the north pole never get sunlight?

    北極の近くのクレーターの底に、日の光が一度も当たらない場所があるのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "bounced" is closest in meaning to ...

    第3段落の bounced に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the pictures taken in 2014?

    2014年に撮られた写真について、正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • axis名詞
    (回転の)軸

    The Earth turns on its axis once a day.

    地球は1日に1回、軸を中心に回る。

    💡 複数形は axes(アクシーズ)。

  • crater名詞
    クレーター、くぼ地

    The Moon has many large craters.

    月には大きなクレーターがたくさんある。

    💡 もとはギリシャ語で「混ぜる器」。火山の火口も crater。

  • pole名詞
    (地球や惑星の)極

    It is very cold at the South Pole.

    南極はとても寒い。

    💡 the North Pole(北極)、the South Pole(南極)。「棒」の pole とは別の語。

  • spacecraft名詞
    宇宙船、探査機

    The spacecraft sent pictures back to Earth.

    その探査機は地球に写真を送ってきた。

    💡 複数形も spacecraft のまま。

  • layer名詞
    層

    There is a layer of snow on the roof.

    屋根の上に雪の層がある。

    💡 a layer of ~ で「~の層」。動詞では「重ねる」。

  • protect動詞
    守る

    Sunglasses protect your eyes from strong light.

    サングラスは強い光から目を守る。

    💡 protect A from B で「AをBから守る」。名詞は protection。

  • bounce動詞
    はね返る

    The ball bounced off the wall.

    ボールが壁に当たってはね返った。

    💡 bounce off ~ で「~に当たってはね返る」。

  • organic形容詞
    有機の、炭素を含む

    Leaves and wood are organic materials.

    葉や木は有機物だ。

    💡 organic food は「有機栽培の食品」の意味でもよく使う。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 33件)。

  1. MESSENGER Finds New Evidence for Water Ice at Mercury's Poles(NASA NSSDCA に置かれた発表文, 2012)nssdc.gsfc.nasa.gov
  2. Lawrence, D. J. et al. (2013) Evidence for Water Ice Near Mercury's North Pole from MESSENGER Neutron Spectrometer Measurements, Science 339: 292-296doi.org
  3. Neumann, G. A. et al. (2013) Bright and Dark Polar Deposits on Mercury: Evidence for Surface Volatiles, Science 339: 296-300doi.org
  4. Paige, D. A. et al. (2013) Thermal Stability of Volatiles in the North Polar Region of Mercury, Science 339: 300-303doi.org
  5. Slade, M. A., Butler, B. J. & Muhleman, D. O. (1992) Mercury Radar Imaging: Evidence for Polar Ice, Science 258: 635-640doi.org
  6. MESSENGER Provides First Optical Images of Ice Near Mercury's North Pole(Johns Hopkins APL, 2014)jhuapl.edu
  7. Ice on Mercury(NASA NSSDCA)nssdc.gsfc.nasa.gov
  8. Mercury: Facts(NASA Science)science.nasa.gov
  9. MESSENGER(NASA Science)science.nasa.gov
  10. Mercury Fact Sheet(NASA NSSDCA)nssdc.gsfc.nasa.gov

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる