
金星は、1回自転するのにかかる時間が1年より長い
ただし日の出から次の日の出までは、1年より短い。
この判定の対象「金星では、1日が1年より長い」
もくじ
金星に立って、太陽がのぼるのを見たとします。次にまた太陽がのぼるまで、地球の日数で約117日かかります。金星が太陽のまわりを1周する1年は、約225日です。つまり、日の出から日の出までは、1年の半分くらいです。
「金星では1日が1年より長い」という雑学は、ネットでよく見かけます。NASAの一般向けページにも、金星の「1日」は243日、1年は225日と書かれています。
では、金星の1日は、117日と243日のどちらなのでしょう。答えは、「1日」をどう数えるかで変わります。243日は、金星が、遠くの星を目印にして1回転する時間です。117日は、太陽が空の同じところに戻ってくるまでの時間です。
この記事では、2つの「1日」がなぜこんなに違うのかを、計算で示します。そのあと、水星では、金星と逆のことが起きていることを見ます。最後に、金星の自転(自分でくるくる回ること)の長さが、測るたびに変わっていることを紹介します。
01金星の「1日」は、遠くの星を目印にすると243日、太陽を目印にすると117日
NASAには、惑星の数字をまとめたデータ表(NSSDCA)があります。そこには、金星の「1日」にあたる数字が2つ並んでいます。
- 自転周期:マイナス5832.6時間(約243日)。遠くの星を目印にして、1回転する時間。マイナスは、逆向きの回転を表します。
- 1日の長さ:2802.0時間(約116.75日)。赤道の上のある地点で、太陽が正午の位置に来てから、次に同じ位置に来るまでの、平均の時間。
星を目印にした1つ目を恒星日(こうせいじつ)、太陽を目印にした2つ目を太陽日(たいようじつ)と呼びます。
地球でも、恒星日と太陽日は違います。恒星日は23.9345時間、太陽日は24時間で、差は約4分です。地球は、自分で回りながら、太陽のまわりも進んでいます。そのため、太陽をもう一度正面に見るには、1回転より少しよけいに回らなければならないのです。
金星では、恒星日と太陽日の差が、とても大きくなります。そのわけは、次の見出しで説明します。ちなみに金星は、太陽から平均約1億800万キロのところを回っている惑星です。地面の温度は約467℃で、鉛がとけるほど熱い世界です。そんな熱い地面の上で、太陽はとてもゆっくり空を動いていきます。
02金星は地球と逆向きに回るので、太陽を目印にした1日のほうが短くなる
金星は、地球とは逆向きに自転しています。NASAによれば、金星では太陽が西からのぼり、東に沈みます。
まず、地球のように、公転(太陽のまわりを回ること)と同じ向きに自転している場合を考えます。この場合、さっき見たように、太陽を正面に戻すには「よけいに回る」必要があります。だから、太陽日は恒星日より長くなります。
ところが、金星は逆向きに回っています。すると、2つの動きが同じ向きに重なります。1つは、自転によって、空の太陽が西から東へ動いていく動きです。もう1つは、公転によって、金星から見た太陽の向きが変わっていく動きです。2つが足し合わされるので、太陽は速く空を回ります。
計算してみましょう。地球の1日あたりで、金星から見た太陽の向きは、自転のせいで243分の1周、公転のせいで225分の1周、変わります。2つを足すと、1日あたり約117分の1周になります(1/243+1/225≒1/117)。だから、太陽が元の位置に戻るまでは、約117日です。この答えは、NSSDCAのデータ表の「1日の長さ」116.75日と、ほぼぴったり合います。

ただし、NASAの一般向けページは、117日を「日の出から日の入りまで」と書いています。でも、データ表の決め方で考えると、117日は、昼と夜をあわせた「日の出から次の日の出まで」の時間です。昼だけなら、その半分の約58日です。
03水星では、日の出から次の日の出までが、水星の1年の2倍もある
水星では、自転と1年の長さの関係が、金星とは逆になっています。
NSSDCAのデータでは、水星の自転周期(星を目印にした1回転)は1407.6時間(約58.6日)です。公転周期(水星の1年)は約88日です。自転の1回転は、1年より短いのです。ところが、太陽日にあたる「1日の長さ」は4222.6時間、約176日です。これは、水星の1年のちょうど2倍です。
水星は、地球と同じように、公転と同じ向きに自転しています。そのため、金星と違って、引き算になります。水星は、地球の1日あたり58.6分の1周回ります。そこから、公転の88分の1周を引きます。すると、太陽が空を回る速さは、1日あたり約176分の1周になります(1/58.6-1/88≒1/176)。だから水星では、日の出から次の日の出までに、水星の2年分かかるのです。
まとめると、「1日が1年より長い」惑星は、恒星日で数えると金星、太陽日で数えると水星になります。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
天文学では、「1日」を星で決めるか太陽で決めるかの2通りがある
天文学で「1日」と言うとき、目印が2つあります。遠くの星を目印にした恒星日と、太陽を目印にした太陽日です。私たちの暮らしの「1日」は太陽日で、時計の24時間も、太陽日にもとづいています。
太陽日が恒星日より長いか短いかは、自転と公転の向きで決まります。自転と公転が同じ向きなら、太陽日は恒星日より長くなります(地球、水星)。逆向きなら、短くなります(金星)。地球では、2つの差が4分ほどしかないので、ふだんは気にしません。でも、自転がとても遅い惑星では、2つの差がとても大きくなります。
NASAの一般向けページとデータ表では、金星の「117日」の説明が違う
NASAの資料を読み比べると、同じ117日に、違う説明がついていることに気づきます。NASAの一般向けページは、「日の出から日の入りまで117日」と書いています。
いっぽう、NSSDCAのデータ表の注には、「1日の長さ」の決め方がこう書かれています。「赤道上の一点で太陽が南中してから、次に南中するまでの平均時間」。南中とは、太陽が空でいちばん高いところ(真南)に来ることです。
南中から次の南中までは、昼と夜をひとめぐりする時間です。だから117日は、「日の出から次の日の出まで」にあたります。昼だけなら、その半分の約58日になります。
一般向けの短い文章では、このように、数字の説明がずれることが起きやすくなります。数字が同じでも、何から何までを測った数字なのかは、決め方が書かれた資料までさかのぼらないと分かりません。雑学の数字を確かめるときは、「その数字は、どこからどこまでを測ったものか」を調べるのが近道です。
金星が1回転する時間を2つの探査機で測ったら、約6.5分ずれていた
金星の自転の長さには、もう1つ、あまり知られていない問題があります。
金星は厚い雲に覆われていて、地表を直接見るのが難しい星です。1990年代の初め、アメリカの探査機マゼランが、4年間、金星を観測しました。マゼランは、電波(レーダー)を使って地表の地図を作りました。そして、地図の模様が回っていく様子を追いかけ、自転周期を243.0185日と求めたのです。
ところが約16年後、ヨーロッパの探査機ビーナス・エクスプレスが、赤外線を使って雲の下の地表を観測しました。すると、地表の模様が、予想した位置から最大20キロもずれていました。2012年に発表された計算では、自転周期は、マゼランのときより平均で約6.5分長くなっていました。
自転周期が変わった原因は、まだ分かっていません。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)は、原因の候補をいくつか挙げています。
- 金星の空気はとても濃く、地面での気圧は地球の90倍をこえる。その濃い空気と速い風が、地面とこすれ合って、自転の速さを変えるという考え
- 数十年ごとにくり返す、金星の天気の変化
- 金星が地球に近づいたときに、地球との間で回転の勢い(角運動量)をやりとりするという考え
金星については、ほかにも分かっていないことがあります。たとえば、金星の中心にある核が、固体か液体かも、まだ決まっていません。
金星が地球と逆向きに回るようになった道すじは、2通り考えられている
金星がなぜ逆向きに回っているかも、はっきりしていません。2001年、研究者のコレイア(Alexandre Correia)とラスカール(Jacques Laskar)が、金星の回転がどう変わってきたかを、計算で調べました。
それまで有力だったのは、自転の軸そのものが、180度ひっくり返ったという考えです。核とマントル(核のまわりの層)がこすれ合う力や、大気の潮汐(太陽の熱などで、大気がくり返しゆさぶられる動き)が働いた。そのせいで、軸の傾きがカオス的に変わった、というものです。カオス的とは、ほんの少しの条件の違いで、結果が大きく変わることです。
2人は、軸がひっくり返るのとは別の道すじも見つけました。最初は地球と同じ向きに回っていた金星が、軸の傾きをゼロに近づけながら、逆向きの回転に変わっていく道すじです。この道すじなら、軸はひっくり返らなくてもよいのです。
2人の計算によると、金星のように濃い大気をもつ惑星の回転は、最後には4つの決まった状態のどれかに行き着きます。そして、最初の状態がいろいろ違っても、その多くが、今の金星と同じ状態に向かうとされました。
今の金星の自転軸の傾きは、177.36度です。これは、ほぼ180度です。だから、「軸はほとんど傾かずに立ったまま、逆向きに回っている」とも言えます。「軸が上下ひっくり返っていて、普通の向きに回っている」とも言えます。
04まとめ
金星が星空に対して1回転するのは約243日で、1年の約225日より長いです。でも、太陽がのぼってから次にのぼるまでは、約117日です。1年に、日の出は約2回あります。
さらに、243日という自転の長さも、マゼランとビーナス・エクスプレスの2つの探査機が測った値の間で、約6.5分ずれていました。金星の「1日」の長さは、まだはっきりとは決まっていないのです。
人に話すなら、こう言おう
金星って「1日が1年より長い」って言うけど、それは自転の話なんだって。日の出から次の日の出までは117日で、1年の約半分。逆に水星は、日の出から次の日の出までが、水星の1年のちょうど2倍なんだって。
英語で読む
Two Kinds of Day on Venus
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
You are standing on Venus and watching the Sun come up.あなたは金星に立って、太陽が昇るのを見ています。 It rises in the west, not in the east.太陽は東ではなく、西から昇ります。 The next sunrise will come about 117 Earth days later.次の日の出は、地球の日数で約117日後にやって来ます。
People often say that a day on Venus is longer than a year.金星では1日が1年より長い、とよく言われます。 Venus takes about 243 Earth days to turn once against the stars.金星が星空に対して1回転するには、地球の日数で約243日かかります。 It goes around the Sun in about 225 days.太陽のまわりは約225日で1周します。 So in that way, the day is longer.だから、その数え方では1日のほうが長いのです。
But Venus spins the opposite way from Earth.でも金星は、地球とは逆向きに回っています。 Because of this, its spin and its trip around the Sun work together.そのため、自転と太陽のまわりを回る動きが力を合わせます。 The Sun moves across the sky faster than you may expect.太陽は、思ったより速く空を動いていきます。 From one sunrise to the next takes only about 117 days, about half a year.日の出から次の日の出までは約117日、1年のおよそ半分しかかかりません。
Our neighbor Mercury shows the opposite story.おとなりの水星は、逆の話を見せてくれます。 It turns once in about 59 days, and its year is about 88 days.水星は約59日で1回転し、1年は約88日です。 But from sunrise to sunrise, it takes about 176 days, exactly two Mercury years.でも日の出から日の出までは約176日で、水星のちょうど2年分です。
The length of a Venus day is also hard to measure.金星の1日の長さは、測るのもむずかしいのです。 Thick clouds cover the planet, so scientists use radar and infrared light.厚い雲が星をおおっているので、科学者はレーダーや赤外線を使います。 In the early 1990s, one spacecraft found that Venus turns once in 243.0185 days.1990年代の初め、ある探査機は金星が243.0185日で1回転すると求めました。 About 16 years later, another spacecraft found that the turn takes about 6.5 minutes longer.約16年後、別の探査機は1回転に約6.5分長くかかることを見つけました。 Nobody knows why yet.その理由は、まだだれにも分かっていません。 Some scientists think the thick air and strong winds may change it.濃い大気と強い風がそれを変えているのかもしれない、と考える科学者もいます。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B Different ways to count a day on Venus
第2段落で星空に対する1回転(243日)、第3段落で日の出から日の出(117日)を説明しているのでB。Aの温度は本文に出てこず、Dも書かれていません。
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Q2How long is it from one sunrise to the next on Venus?
金星で日の出から次の日の出まではどのくらいですか。
正解:D About 117 days
第1段落3文目と第3段落4文目に約117日とあるのでD。Bは金星の1年、Cは星空に対する1回転、Aは水星の1回転です。
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Q3Why does the Sun move across the sky quickly on Venus?
金星で太陽が速く空を動くのはなぜですか。
正解:A Because Venus spins the opposite way from Earth
第3段落1〜3文目に、逆向きに回っているため自転と公転が力を合わせ、太陽が速く動くとあるのでA。Bの雲は第5段落の、測るのがむずかしい理由です。
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Q4In paragraph 3, the word "opposite" is closest in meaning to ...
第3段落の "opposite" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B reverse
spins the opposite way from Earth は「地球と逆向きに回る」という意味なのでB。Cの same(同じ)は反対の意味です。
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Q5Which is true about the story?
本文の内容と合っているのはどれですか。
正解:C On Mercury, sunrise to sunrise takes two Mercury years.
第4段落3文目に、水星の日の出から日の出は約176日で、ちょうど2年分とあるのでC。Aは西から昇る(第1段落)、Bは理由が分かっていない(第5段落)、Dの1年は約225日です。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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sunrise名詞日の出
We got up early to see the sunrise.
私たちは日の出を見るために早起きした。
💡 反対は sunset(日の入り)。
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spin動詞回転する、回る
The top spins on the table.
こまがテーブルの上で回っている。
💡 過去形は spun。名詞でも「回転」。
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opposite形容詞反対の、逆の
He walked in the opposite direction.
彼は反対の方向に歩いた。
💡 the opposite of ~ で「~の反対」。
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planet名詞惑星
Earth is the third planet from the Sun.
地球は太陽から3番目の惑星だ。
💡 star(恒星)、moon(衛星)と区別する。
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measure動詞測る
Can you measure the size of this box?
この箱の大きさを測れますか。
💡 名詞 measurement は「測定」。
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spacecraft名詞宇宙船、探査機
The spacecraft sent pictures back to Earth.
その探査機は地球に写真を送ってきた。
💡 複数形も spacecraft のまま。
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radar名詞レーダー
The ship found the island with radar.
船はレーダーでその島を見つけた。
💡 radio detection and ranging の頭文字から。前から読んでも後ろから読んでも radar。
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infrared形容詞赤外線の
This camera uses infrared light at night.
このカメラは夜に赤外線を使う。
💡 infra-(下の)+ red(赤)。赤より外側の目に見えない光。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 15件)。
- Venus Facts(NASA Science)science.nasa.gov
- Venus Fact Sheet(NASA Space Science Data Coordinated Archive)nssdc.gsfc.nasa.gov
- Notes on the Fact Sheets(NASA NSSDCA)nssdc.gsfc.nasa.gov
- Mercury Fact Sheet(NASA NSSDCA)nssdc.gsfc.nasa.gov
- Could Venus be shifting gear?(ESA, 2012)esa.int
- Correia, A. C. M. & Laskar, J. (2001) The four final rotation states of Venus, Nature 411doi.org
公式ページで見てみよう
- 惑星のデータ表一覧(NASA NSSDCA)nssdc.gsfc.nasa.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる
No.025ホントTRUE月は、毎年約3.8cmずつ地球から遠ざかっている
月に置いた鏡にレーザーを当てて測っている。
No.153グレーGRAY宇宙から帰った宇宙服には、宇宙のにおいが残っている
月の砂は、地球ではにおわなくなった。
No.154ホントTRUE火星の夕焼けは、青い
火星の昼の空は、オレンジ色。
No.186ウソFALSE「ひなに人がさわると親鳥が見捨てる」はウソだが、においをかぎ分ける鳥もいる
親鳥は、ひなをにおいで見分けているわけではない。
No.136ウソFALSE「1日にコップ8杯の水を飲もう」に、はっきりした根拠はない
元の勧告には「大半は食べ物に含まれる」とあった。
No.222「イクラ」はロシア語で、サケに限らず魚の卵ならどれでも指す言葉
ロシアでは、キャビアも「黒いイクラ」と呼ぶ。