
火星の夕焼けは、青い
火星の昼の空は、オレンジ色。
この判定の対象「火星の夕焼けは、青い」
もくじ
2015年4月15日。火星のゲール・クレーターで、NASAの探査車キュリオシティ(Curiosity)が、カメラを西の空へ向けました。地平線に、小さな太陽が沈んでいきます。
その太陽の周りだけが、ぼんやりと青く光っていました。外側の空は、くすんだ茶色です。
これが、キュリオシティが色つきで見た、最初の夕焼けでした。4枚の写真は、6分51秒のあいだに撮られています。地球の夕焼けは赤いのに、火星の夕焼けは青い。いったい何が違うのでしょうか。
この記事では、まず地球の空が昼に青く、夕方に赤くなる仕組みをおさらいします。次に、火星の空に舞う細かいちりが、なぜ太陽の周りを青くするのかを説明します。最後に、夕焼けの写真から火星の空について何が分かるかを紹介します。
01火星の空は、昼がオレンジ色で、夕方に太陽の周りが青くなる
NASAの子ども向けサイトによると、火星の空の色は、地球と反対の変わり方をします。
昼間、火星の空はオレンジ色や赤っぽい色です。ところが日が沈むころ、太陽の周りの空が、青みがかった灰色になります。1997年に着陸したマーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder)の写真にも、昼のオレンジ色の空と、夕方の青い空が、どちらも写っています。
地球では、昼の空が青く、夕焼けが赤くなります。火星は、その逆なのです。
02地球の夕焼けが赤いのは、青い光が途中で散ってしまうから
火星の話の前に、地球の空の仕組みをおさらいします。
太陽の光は白く見えますが、本当は虹のすべての色がまざっています。光は波で、色によって波の長さが違います。青は波が短い色で、赤は波が長い色です。
空気の中には、ちっ素や酸素の、とても小さな分子があります。光がこの分子にぶつかると、あちこちに散らばります。これを散乱といいます。小さな分子は、波の短い青い光を、ほかの色よりよく散らします。だから、空のどこを見ても青い光が目に入り、空は青く見えます。
夕方になると、太陽の光はななめから入ってきます。光が大気の中を通る道のりは、昼よりずっと長くなります。その長い道のりで、青い光は途中であちこちに散らばってしまい、目まで届きにくくなります。最後に目に届くのは、散りにくい赤や黄色の光です。そのため、夕焼けは赤く見えます。

03火星の空に舞う細かいちりが、青い光を太陽の周りに集める
火星の大気は、地球よりずっと薄く、ほとんどが二酸化炭素です。そして、細かいちりがたくさん舞っています。
このちりの大きさは、探査車が調べた結果から分かっています。2004年の論文によると、探査車のスピリット(Spirit)とオポチュニティ(Opportunity)が調べたちりの、平均の半径は約1.5マイクロメートルでした。1マイクロメートルは、1ミリの1000分の1です。髪の毛の太さの、数十分の1くらいの粒です。
空気の分子は、光の波よりずっと小さな粒です。いっぽう、火星のちりは、光の波より何倍か大きい粒です。粒の大きさが違うと、光の散らばり方も、がらりと変わります。
NASAの説明では、火星のちりは、赤や黄色の光より、青い光のほうを通しやすいといいます。そのため、青い光は、太陽の方向から大きくそれずに、太陽の近くの空に集まります。黄色や赤の光は、もっと広く散らばります。だから、太陽の周りだけが青く、その外側はオレンジ色の空になるのです。
04太陽の周りの青は、光が大気を長く通る夕方ほどはっきりする
太陽の周りの青は、昼にも少しはあります。でも、一番はっきりするのは夕方です。夕方は、太陽の光が大気の中を長く通ります。そのぶん、ちりが光を散らすはたらきが、強く出るからです。
2005年5月19日には、探査車スピリットが、グセフ・クレーターのふちに沈む夕日を撮りました。午後6時7分ごろのことです。この日のスピリットは、夕日を撮るために、その日のデータを地球へ送ったあとも、少しのあいだ動き続けるよう指示されていました。
NASAは、太陽の上の青い光は、その場に人がいれば、目でも見えるはずだと説明しています。この写真では、太陽は地球で見るより小さく、約3分の2の大きさです。火星は、地球より太陽から遠いからです。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
光の散らばり方は、粒が光の波より小さいか大きいかで変わる
光が小さな粒に当たって散らばるとき、散らばり方は、粒の大きさと光の波の長さの関係で、大きく変わります。
粒が光の波よりずっと小さいときの散らばりは、「レイリー散乱」と呼ばれます。波の短い光ほど強く散らばり、前にも後ろにも、まんべんなく散らばります。地球の空気の分子が、これに当たります。地球の空全体が青く見えるのは、このためです。
粒が光の波と同じくらいか、それより大きいときの散らばりは、「ミー散乱」と呼ばれます。この場合、光の多くは、もとの進む向きに近い、前の方へ散らばります。目に見える光の波の長さは、約0.4〜0.7マイクロメートルです。火星のちりの半径は約1.5マイクロメートルなので、火星の空ではミー散乱が主役になります。
大きめの粒では、青い光ほど曲がらずに太陽の近くに散らばる
大きめの粒が光を前の方へ散らすときには、「回折」という現象が関わります。回折とは、光が粒のふちを回りこんで曲がることです。回折では、波の短い光ほど、曲がる角度が小さくなります。
つまり、ちりに当たった青い光は、あまり曲がりません。そのため、太陽の方向のすぐ近くに散らばります。赤い光は、もっと大きな角度で曲がり、広い範囲に散らばります。NASAが「青い光は太陽に近い空にとどまり、黄や赤は広く散らばる」と説明しているのは、このことを指しています。
さらに、火星のちりは、赤茶色の鉱物でできています。ちりが赤茶色に見えるのは、青い光をいくらか吸いこむからです。昼の空がオレンジ色っぽく見えるのには、このちりの色も関わっていると考えられます。
夕焼けの写真から、ちりがどの高さまであるかが分かる
探査車が夕焼けを撮るのは、きれいだからだけではありません。NASAは、夕方や薄明かりの写真を撮るのは、大気を調べるためだと説明しています。ちりがどの高さまであるか、ちりや氷の雲がないかを調べるのです。
2004年の論文では、グセフ・クレーターのちりが、低い所から高い所まで、よくまざっていることも示されました。高く上がるにつれて、ちりの量は減っていきます。ちりの量が約3分の1に減る高さの目安(スケールハイト)は、約11.6キロメートルでした。薄明かりが2時間も続くのは、ちりがこれほど高くまで広がっているからです。
1997年のマーズ・パスファインダーも、数日おきに日の出と日の入りを撮る計画を立てていました。日没後の薄明かりが消えていく速さから、ちりが大気の高い所まで広がっていることが分かりました。最初の夕方の写真の中にも、ちりの層がいくつか見えていたと報告されています。夕焼けの写真を読むと、火星の空のどの高さに、どれだけちりがあるかが分かるのです。
火星の写真の色は、カメラやフィルターによって変わる
火星の写真の色は、カメラによって少しずつ違います。NASAによると、キュリオシティのカメラは人の目に近い色の見え方をしますが、青い色を感じとる力は少し弱いそうです。スピリットの写真は、赤外線用のフィルターを使っているため、夕日から遠い空の赤さが強く出ています。
だから、写真の色をそのまま「人が見た色」と考えてはいけません。NASAは、色を調整したうえで、人がその場にいたらどう見えるかを説明しています。宇宙の写真を見るときは、どんなカメラとフィルターで撮ったかも確かめると、色の意味が分かります。
05まとめ
火星の空は、昼がオレンジ色で、夕方は太陽の周りが青くなります。地球とちょうど逆です。青くなる原因は、空に舞う、半径約1.5マイクロメートルの細かいちりです。このちりが、青い光を太陽の近くに集め、赤や黄色の光を広く散らします。
ちりが少ない日は、太陽の周りの青も薄くなります。もし火星の夕日を見る日が来たら、太陽の周りの青さで、その日の空のちりの量が分かるかもしれません。
人に話すなら、こう言おう
火星の夕焼けって青いんだって。昼の空はオレンジっぽいのに、夕日の周りだけ青くなるらしいよ。空に舞ってる細かい砂ぼこりのせいで、地球とちょうど逆になるんだって。
英語で読む
Blue Sunsets on Mars
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
On April 15, 2015, a NASA rover named Curiosity looked at the sky on Mars.2015年4月15日、キュリオシティというNASAの探査車が、火星の空を見ました。 The small Sun was going down.小さな太陽が、沈もうとしていました。 Around the Sun, the sky was blue.太陽のまわりの空は、青い色でした。 On Earth, sunsets are usually red and orange, so why was this one blue?地球では夕焼けはふつう赤やオレンジなのに、なぜこの夕焼けは青かったのでしょう。
Sunlight has all the colors of the rainbow in it.太陽の光には、虹のすべての色がふくまれています。 Tiny bits of air scatter blue light, or send it in every direction.空気の小さな粒は、青い光を散乱させます。つまり、あらゆる方向に飛ばすのです。 So our daytime sky looks blue.だから、私たちの昼の空は青く見えます。 In the evening, sunlight travels through more air, and most of the blue is lost on the way.夕方には太陽の光がより多くの空気を通るので、青の大部分はとちゅうで失われます。 Only red and yellow light reaches our eyes.目に届くのは、赤や黄色の光だけになります。
Mars is different.火星はちがいます。 Its air is very thin, but it is full of fine dust.火星の空気はとても薄いのですが、細かいちりでいっぱいです。 The dust grains are tiny, but much bigger than the bits of air.ちりの粒は小さいのですが、空気の粒よりはずっと大きいのです。 This dust lets blue light pass through more easily than red light.このちりは、青い光を赤い光より通しやすくします。 The blue light stays near the Sun, and the red light spreads across the sky.青い光は太陽の近くにとどまり、赤い光は空いっぱいに広がります。
So on Mars, the daytime sky looks orange.そのため火星では、昼の空はオレンジ色に見えます。 At sunset, the light passes through more dust, and the blue glow around the Sun becomes clear.夕方には光がより多くのちりを通るので、太陽のまわりの青い光がはっきりします。 The colors are almost the opposite of Earth's.その色は、地球のほぼ逆なのです。
But Martian sunsets are not always very blue.でも火星の夕焼けが、いつもとても青いわけではありません。 In 2021, another rover took a picture on a day with less dust.2021年、別の探査車が、ちりの少ない日に写真を撮りました。 That sunset had softer colors than usual.その夕焼けは、ふだんよりおだやかな色でした。 The blue color comes from the dust, so less dust means less blue.青い色はちりから生まれるので、ちりが少なければ青も少なくなります。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:A Why sunsets on Mars look blue
第1段落で青い夕焼けを紹介し、第2〜5段落でその理由(ちり)を説明しているのでA。Cは本文と逆で、薄いのは火星の空気です。
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Q2When did Curiosity see the blue sunset in this story?
この話で、キュリオシティが青い夕焼けを見たのはいつですか。
正解:C In 2015
第1段落1文目に「On April 15, 2015」とあるのでC。Dの2021年は、別の探査車がちりの少ない日に夕日を撮った年です。
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Q3Why is the daytime sky on Earth blue?
地球の昼の空が青いのはなぜですか。
正解:D Because tiny bits of air scatter blue light
第2段落2〜3文目に、空気の小さな粒が青い光を散乱させるので空が青く見えるとあるのでD。Bのちりは火星の話です。
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Q4In paragraph 2, the word "scatter" is closest in meaning to
第2段落の "scatter" に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B send something in many directions
本文で「scatter blue light, or send it in every direction」と言いかえているのでB。Cは反対の意味です。
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Q5Which is true about Martian sunsets?
火星の夕焼けについて正しいものはどれですか。
正解:C They are bluer when there is more dust.
第5段落4文目に「less dust means less blue」(ちりが少ないと青も少ない)とあるので、ちりが多いほど青くなるCが正解。Aは第1・4段落と合いません。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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rover名詞探査車
The rover drove slowly over the rocks.
探査車は岩の上をゆっくり進んだ。
💡 rove(歩き回る)から。惑星の表面を走る無人の車。
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sunset名詞日の入り、夕焼け
We watched the sunset from the beach.
私たちは浜辺から夕日を見た。
💡 反対は sunrise(日の出)。at sunset で「日の入りに」。
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scatter動詞まき散らす、散乱させる
The wind scattered the leaves.
風が葉っぱをまき散らした。
💡 光の「散乱」は scattering。
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direction名詞方向
Which direction is the station?
駅はどちらの方向ですか。
💡 in every direction で「あらゆる方向に」。
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dust名詞ちり、ほこり
There is dust on the old piano.
古いピアノにほこりが積もっている。
💡 dusty で「ほこりっぽい」。
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fine形容詞細かい
This sand is very fine and soft.
この砂はとても細かくてやわらかい。
💡 「元気な」「晴れた」以外に「粒が細かい」の意味もある。
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glow名詞(やわらかな)光、輝き
We saw the glow of the city at night.
夜、私たちは町の明かりを見た。
💡 動詞では「ぼんやり光る」。
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opposite名詞・形容詞逆、反対(の)
Hot is the opposite of cold.
「熱い」は「冷たい」の反対だ。
💡 the opposite of 〜 で「〜の反対」。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 10件)。
- NASA/JPL Photojournal PIA19400: Sunset in Mars' Gale Crater(2015)science.nasa.gov
- NASA/JPL Photojournal PIA19401: Sunset Sequence in Mars' Gale Crater (Animation)(2015)science.nasa.gov
- NASA/JPL Photojournal PIA07997: A Moment Frozen in Time(2005)science.nasa.gov
- NASA/JPL Photojournal PIA24935: Mastcam-Z's First Martian Sunset(2021)science.nasa.gov
- NASA/JPL Photojournal PIA00696: Sunset over Ares Vallis(1997)science.nasa.gov
- Why Is the Sky Blue?(NASA Space Place)spaceplace.nasa.gov
- Lemmon, M. T. et al. (2004) Atmospheric Imaging Results from the Mars Exploration Rovers: Spirit and Opportunity, Science 306doi.org
公式ページで見てみよう
- NASA Photojournal(探査機の画像と解説)science.nasa.gov
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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