「1日にコップ8杯の水を飲もう」に、はっきりした根拠はない
体と食べ物No.136

「1日にコップ8杯の水を飲もう」に、はっきりした根拠はない

元の勧告には「大半は食べ物に含まれる」とあった。

ウソFALSE

この判定の対象「健康な大人は、水だけで1日コップ8杯以上飲まなければならない」

うなり度 読む時間9分 出典5件 確認した事実25件
もくじ
  1. 「水は1日8杯」のもとになったとされる1945年の勧告には、「その大半は食べ物に含まれる」と書かれていた
  2. 有名な栄養学者がすすめた「1日6〜8杯」の水分には、コーヒーやビールも含まれていた
  3. 2004年のアメリカの報告書は、「健康な人は、のどがかわいたときに飲めば足りる」とした
  4. 26か国の5,604人を調べると、1日に体を出入りする水の量は、人によって大きくちがった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

「水は1日にコップ8杯飲みましょう」。健康の話でよく聞く言葉です。英語では「8×8(エイト・バイ・エイト)」と呼ばれます。8オンス(約240mL)のコップで8杯、合わせて約2Lという意味です。

2002年、この言葉を支える研究があるかどうかを、くわしく調べた人がいます。アメリカのダートマス大学の生理学者、ハインツ・バルティン(Heinz Valtin)です。論文を探せるコンピューターのデータベースだけでなく、古い本や論文もめくりました。のどのかわきと飲み物を専門にする栄養学者たちにも、話を聞きました。

その結果は、「8×8を支える科学的な研究は、一つも見つからなかった」というものでした。

では、なぜこの言葉はここまで広まったのでしょう。もとをたどると、1945年の一つの勧告に行き着く、という説があります。その勧告では、よく引用される「2.5L」という数字のすぐあとに、「その大半は食べ物に含まれている」という一文が続いていました。

この記事では、まず「8杯」のもとになったとされる2つの文章を見ます。次に、アメリカの報告書と2022年の研究から、人に必要な水の量を考えます。最後に、体が水の量をどうやって調整しているかを紹介します。

01「水は1日8杯」のもとになったとされる1945年の勧告には、「その大半は食べ物に含まれる」と書かれていた

2007年、イギリスの医学雑誌『BMJ』に、「医学の神話」という記事がのりました。書いたのは、ブリーマン(Rachel C. Vreeman)とキャロル(Aaron E. Carroll)です。医者でさえ信じている7つの話が本当かどうかを、証拠で確かめた記事です。その一つ目が、「1日8杯の水」でした。

二人は、この話のもとの一つとして、1945年の勧告を挙げています。中身は、だいたい次のようなものです。

  • 大人に合った水の量は、多くの場合1日2.5L。
  • いろいろな人に使える目安は、食べ物1カロリー(今でいう1キロカロリー)につき1mL。
  • 「この量の大半は、調理された食べ物に含まれている」。

二人は、こう指摘しました。最後の一文を無視すると、この勧告は「水を1日8杯飲め」という指示に読めてしまう。2.5Lという数字だけが切り取られ、「そのほとんどは食事から入る」という部分が抜け落ちたのではないか、という見方です。

ただし、これは「もとの一つかもしれない」という説明です。1945年の文がどうやって「8杯」に変わったのか、その途中の記録がはっきり残っているわけではありません。

02有名な栄養学者がすすめた「1日6〜8杯」の水分には、コーヒーやビールも含まれていた

BMJの記事は、「8杯」の出どころの候補を、もう一つ挙げています。有名な栄養学者フレデリック・ステア(Frederick Stare)です。

ステアはあるとき、出典をつけずに、「24時間でおよそ6〜8杯」の水分をとるようすすめました。ところが、その水分は「コーヒー、紅茶、牛乳、ソフトドリンク、ビールなど」の形でもよい、と書いていたのです。

つまり、ステアの「8杯」は、水だけの話ではありませんでした。ところが今の「8×8」には、「コーヒーやお酒は数えない」という条件がつくことがあります。バルティンも論文の初めで、この条件つきの言い方を紹介しています。

032004年のアメリカの報告書は、「健康な人は、のどがかわいたときに飲めば足りる」とした

2004年、アメリカで水についての報告書がまとまりました。作ったのは、医学研究所(Institute of Medicine)です。全米アカデミーズは、アメリカの科学の団体です。この団体が報告書について出した発表は、こう始まっています。健康な人のほとんどは、のどのかわきに任せていれば、毎日必要な水分を十分にとれている、と。

報告書は、大人の「目安量」も示しました。19〜30歳で、男性は1日3.7L、女性は2.7Lです。ただし、これは飲み水だけの量ではありません。飲み物と食べ物の水分を合わせた、「総水分」の量です。

しかもこの数字は、「最低これだけ必要」という量ではありません。アメリカの調査で、ふつうに暮らす人たちが実際にとっていた量の、真ん中の値をもとにしています。体は、とる水の量がかなり多くても少なくても、水分のバランスを保てるからです。

報告書の委員長は、こう話しています。水分は、飲み水以外のいろいろなものからもとれる。だから、1日に何杯飲めという目安は出さない、と。

水は飲み物と食べ物から入り、汗・息・尿で出ていく
水は飲み物と食べ物から入り、汗・息・尿で出ていく

0426か国の5,604人を調べると、1日に体を出入りする水の量は、人によって大きくちがった

人は実際、どれだけの水を使うのでしょう。2022年、科学雑誌『Science』に大きな研究がのりました。日本の国立健康・栄養研究所の山田(Yosuke Yamada)らによる、国際チームの研究です。

調べたのは、26か国の5,604人です。生後8日の赤ちゃんから、96歳までが含まれます。調べ方はこうです。まず、ふつうより少しだけ重い水素をまぜた水を、約100mL飲んでもらいます。その水素が体から抜けていく速さを測ると、1日に体を出入りする水の量(水の出入り量)が分かります。

その結果、水の出入り量は、体の大きさ、運動の量、気温や湿度、標高などで大きく変わりました。たとえば、平均気温10℃、湿度50%の低地に住む、20歳で体重70kgの男性(運動選手ではない)なら、1日約3.2Lです。同じ条件の60kgの女性なら、約2.7Lと計算されます。

ところが、標高2000m、気温30℃、湿度90%の所に住む70kgの男性の運動選手なら、1日7.3Lにもなります。また、72人を春と夏の2回測ると、春より夏のほうが、多くの水が出入りしていました。

ただし、この量を、全部飲み物で飲む必要があるわけではありません。体の中で食べ物を分解するときにも、水ができます(代謝水)。この水が、出入りする水の約1割をしめます。飲み物と食べ物から入る水は、約85%です。

研究チームは論文で、「1日8杯(約2L)」という言い方は客観的な証拠に支えられていない、と書きました。人に必要な水の量は、みんな同じではないということです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

「食べ物のエネルギーに合わせて水の量を決める」という目安は、1933年の提案から来ている

1945年の勧告にある「食べ物1キロカロリーにつき1mL」という目安には、もっと古いもとがあります。米国の報告書によると、この目安を1933年に提案したのは、研究者のアドルフ(Adolph)です。アドルフは、水の「ゆとりのある目安」として、「使うエネルギー1キロカロリーにつき1mL」を挙げていました。

この考え方は、筋が通っています。体を動かしてエネルギーを多く使うほど、熱が生まれ、汗や吐く息で水が出ていきます。また、たくさん食べる人ほど、食べ物から入る水も多くなります。だから、水の量を使うエネルギーの量に結びつけたのは、理にかなった工夫でした。1日2,500キロカロリーなら、水は2.5Lです。けれど、「大半は食べ物から」という部分が落ちると、この2.5Lが「飲むべき量」だと受け取られてしまいます。

体は、血液の濃さを見て、のどのかわきと尿の量を調整する

体の水分は、水の量そのものより、「血液の濃さ」で見張られています。米国の報告書は、体の水分の状態をみるいちばんの手がかりは、血液の浸透圧(とけている物の濃さ)だとしています。

血液の濃さは、ふだん上下2%ほどの幅にしか動かないよう保たれています。水が足りなくなると、血液が少し濃くなります。脳の視床下部という場所には、この濃さを感じ取るしくみ(センサー)があります。センサーが濃くなったことを感じ取ると、のどのかわきが起こります。同時に、ホルモンが出て、腎臓で水を体にもどすようになり、尿の量が減ります。こうして体は、飲む量と出す量の両方で、水の量を調整しているのです。

バルティンが「8×8は要らない」と考えた理由の一つも、このしくみにあります。このしくみが正確によく働くことを示す実験が、たくさんあるからです。

ただし、このしくみにも限界はあります。暑さや激しい運動では、数時間のうちに水分が足りなくなることがあります。反対に、水を大量に飲みすぎると、血液の塩分がうすくなりすぎて、命にかかわる場合もあると、BMJの記事は注意しています。

アメリカの報告書の水の量は、「最低これだけ必要」という量ではない

栄養の数字には、意味のちがうものがまざっています。米国の報告書は、水については、病気を防ぐための量を決めるだけの証拠が足りないとしました。そこで、ふつうの人が実際にとっている量の真ん中を、「目安量」にしたのです。

一方、2022年の研究は、本人に「何をどれだけ飲んだか」を聞いてはいません。体を出入りする水を、直接測りました。その結果、水の出入り量は、体の大きさや気候、運動で2倍以上もちがうことが分かりました。どちらの調べ方でも、「全員に同じ8杯」とは言っていません。数字を見るときは、それが「最低限」「平均」「理想」のどれなのかを確かめることが大切です。

「1日8杯に根拠がない」は、「8杯飲むのはまちがい」という意味ではない

バルティン自身は、自分の結論があてはまる人を、ていねいに限っています。対象は、おだやかな(温暖な)気候で、あまり体を動かさずに暮らす健康な大人です。そのうえで、病気によっては8×8以上の水分をとるほうがよい場合があることも書きました。暑い所での激しい仕事や運動では、もっと水分が必要なことも、はっきり書いています。

また、「ないこと」を証明するのはとても難しい、とも認めています。だから論文の最後で、8×8を支える研究を知っている人は連絡してほしい、と読者に呼びかけました。根拠がないと分かったあとも、反対の証拠が出てくれば受け入れるつもりでいる。これも、科学で大事な姿勢です。

05まとめ

「1日コップ8杯の水」を支える研究は、2002年の調査では一つも見つかりませんでした。もとの一つとされる1945年の勧告は、2.5Lという数字のあとに、「その大半は、調理された食べ物に含まれている」と続いていました。

体に入る水の約2割は食べ物からで、お茶や牛乳なども水分になります。暑い日や運動のときは、多めに飲みましょう。健康な人なら、ふだんはのどのかわきが目安になります。今日のみそ汁も、ちゃんと体の水分になっています。

人に話すなら、こう言おう

「水は1日コップ8杯」って、ちゃんとした研究の根拠がないんだって。もとになったとされる1945年の文には「その大半は食べ物に含まれる」って続きがあって、そこが読み落とされたらしいよ。
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英語で読む

Do We Really Need Eight Glasses of Water?

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say we should drink eight glasses of water every day.毎日コップ8杯の水を飲むべきだ、と言う人はたくさんいます。 That is about two liters.それはおよそ2Lです。 But where did this rule come from?でも、このルールはどこから来たのでしょうか。

In 2002, a scientist named Heinz Valtin looked for the answer.2002年、ハインツ・バルティンという科学者がその答えを探しました。 He read old papers and talked with experts on drinking and thirst.彼は古い論文を読み、飲むことやのどのかわきの専門家たちと話しました。 He could not find a single study that supported the rule.彼は、そのルールを支える研究を一つも見つけられませんでした。 He wrote that healthy adults in mild weather do not seem to need so much.彼は、おだやかな気候にいる健康な大人には、それほど多くは必要ないようだと書きました。

One possible start is a recommendation from 1945.始まりの一つとして考えられるのが、1945年の勧告です。 It said adults need about 2.5 liters of water a day.そこには、大人は1日に約2.5Lの水が必要だと書かれていました。 But the last sentence was important.でも、最後の文が大切でした。 It said most of this water is already in our food.その文は、この水の大部分はすでに食べ物の中に入っている、と言っていたのです。 Some people may have missed that sentence.その文を読み落とした人がいたのかもしれません。 Another famous expert said six to eight glasses, but he also counted coffee, tea, milk, and even beer.別の有名な専門家は6〜8杯と言いましたが、コーヒーや紅茶、牛乳、それにビールまで数に入れていました。

In 2004, an American report said most healthy people get enough water if they drink when they feel thirsty.2004年、アメリカの報告書は、健康な人のほとんどは、のどがかわいたときに飲めば十分な水分がとれると述べました。 About 20 percent of our water comes from food.私たちの水分の約20%は、食べ物から来ています。 Tea, milk, and even coffee also count.お茶や牛乳、それにコーヒーも数に入ります。

In 2022, scientists measured the water that moves through the bodies of 5,604 people in 26 countries.2022年、科学者たちは26か国の5,604人について、体を出入りする水の量を測りました。 The amount was very different from person to person.その量は、人によってとても大きくちがいました。 Big people, athletes, and people in hot places used much more water.体の大きい人、運動選手、暑い場所の人は、ずっと多くの水を使っていました。 So there is no one number for everyone.つまり、全員に当てはまる一つの数字はないのです。 On hot days, drink more, and listen to your body.暑い日は多めに飲み、自分の体の声を聞きましょう。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How much water did the 1945 recommendation say adults need a day?

    1945年の勧告は、大人は1日にどれだけの水が必要だと言っていましたか。

  3. Q3What may have happened to the 1945 recommendation?

    1945年の勧告には、何が起きたのかもしれませんか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "thirsty" is closest in meaning to ...

    第4段落の thirsty という語にもっとも近い意味は?

  5. Q5Which is true about the 2022 study?

    2022年の研究について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • liter名詞
    リットル

    This bottle holds one liter of milk.

    このびんには牛乳が1L入る。

    💡 イギリスつづりは litre。記号は L。

  • rule名詞
    決まり、ルール

    We have a rule about phones in class.

    授業中のスマホについて決まりがある。

    💡 rule of thumb で「経験から出た大まかな目安」。

  • support動詞
    支える、裏づける

    The data supports her idea.

    そのデータは彼女の考えを裏づけている。

    💡 「応援する」の意味もある。

  • recommendation名詞
    勧告、おすすめ

    Thank you for the book recommendation.

    本をすすめてくれてありがとう。

    💡 動詞は recommend(すすめる)。c は1つ、m は2つ。

  • thirsty形容詞
    のどがかわいた

    I am thirsty after running.

    走ったあとでのどがかわいている。

    💡 名詞は thirst(のどのかわき)。hungry と対で覚える。

  • measure動詞
    測る

    The nurse measured my height.

    看護師が私の身長を測った。

    💡 measuring cup は「計量カップ」。

  • athlete名詞
    運動選手

    Athletes need a lot of sleep.

    運動選手はたくさんの睡眠が必要だ。

    💡 発音は「アスリート」。第1音節を強く読む。

  • amount名詞
    量

    Add a small amount of salt.

    塩を少量加えなさい。

    💡 数えられない物の量に使う。数えられる物は number。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 25件)。

  1. Valtin, H. (2002) "Drink at least eight glasses of water a day." Really? Is there scientific evidence for "8 × 8"?, American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology 283:R993-R1004doi.org
  2. Vreeman, R. C., Carroll, A. E. (2007) Medical myths, BMJ 335:1288-1289doi.org
  3. Yamada, Y. ほか (2022) Variation in human water turnover associated with environmental and lifestyle factors, Science 378:909-915doi.org
  4. Report Sets Dietary Intake Levels for Water, Salt, and Potassium to Maintain Health and Reduce Chronic Disease Risk(全米アカデミーズ, 2004)nationalacademies.org
  5. Institute of Medicine (2005) Dietary Reference Intakes for Water, Potassium, Sodium, Chloride, and Sulfate, Chapter 4 Water(全米アカデミーズ出版局)nap.nationalacademies.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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