「食べてすぐ泳ぐとおなかがつる」は、食後30分で泳がせた実験では起きなかった
都市伝説ファクトチェックNo.272

「食べてすぐ泳ぐとおなかがつる」は、食後30分で泳がせた実験では起きなかった

「食べてすぐ泳ぐとおぼれる」に、証拠はなかった。

ウソFALSE

この判定の対象「食べてすぐ泳ぐと、おなかがつっておぼれやすい」

うなり度 読む時間8分 出典7件 確認した事実18件
もくじ
  1. 1908年のボーイスカウトの本には「食後すぐ泳ぐとおぼれる」と書かれていた
  2. 1960年代のアメリカでは、食後の時間を変えて泳がせる実験が何度も行われた
  3. たっぷり食べた30分後に泳いでも、おなかがつった人はいなかった
  4. アメリカ赤十字は「食後1時間以内に泳いでも、おぼれる危険は増えない」としている
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1968年のアメリカで、高校と大学の水泳選手12人が、ちょっと変わった実験に参加しました。673gもある大きな食事を食べてから、プールで200ヤード(約183m)を泳ぎ、タイムを測るのです。

食べてから泳ぐまでの時間は、日によって変えました。30分後、1時間後、2時間後。比べるために、3時間以上何も食べずに泳ぐ日もありました。これを16日間、毎日くり返しました。

結果、食べてから泳ぐまでの時間を変えても、タイムは変わりませんでした。そして「おなかがつった」と言った選手は、1人もいませんでした。

「食べてすぐ泳ぐと、おなかがつっておぼれる」。夏のプールで、一度は耳にしたことがあるかもしれません。この記事では、まず100年以上前の本に残る古い記録を見ます。次に、1960年代に何度も行われた水泳の実験を紹介します。最後に、アメリカ赤十字の結論と、本当におぼれる危険を高めるものを確かめます。

011908年のボーイスカウトの本には「食後すぐ泳ぐとおぼれる」と書かれていた

1908年、少年向けの手引き『スカウティング・フォー・ボーイズ』が出ました。書いたのはロバート・ベーデン=パウエル(Robert Baden-Powell)です。ボーイスカウトの活動のしかたを教える本でした。

その中の「健康を保つには」という章に、次の一文があります。

「食後すぐに深い水で泳いではいけない。けいれんを起こしやすく、体が二つに折れ曲がって、おぼれてしまう」

すぐ前には「朝は何か食べてから働きなさい」という教えが並んでいます。つまり、体のための生活の注意の1つとして書かれていました。理由や証拠は、とくに書かれていません。

この言い伝えが、いつ・どこで始まったのかは分かりません。それでも、少なくとも100年以上前には、少年向けの本に「常識」として書かれていたわけです。

021960年代のアメリカでは、食後の時間を変えて泳がせる実験が何度も行われた

「食べてすぐ泳ぐと危ない」は本当なのか。アメリカの体育の研究者たちは、プールで確かめました。結果は、体育の研究雑誌『リサーチ・クォータリー』に載っています。

1962年、ジェリー・ボール(Jerry R. Ball)は14人で実験しました。少なめの食事をとってから、100ヤード(約91m)を自由形で泳いでもらいます。食べてから泳ぐまでの時間は、30分から3時間まで、30分きざみの6通りです。1人がそれぞれの時間で10回ずつ泳ぎました。

結果、6通りの時間のどれでも、タイムに差は出ませんでした。食べてから30分で泳いでも、3時間待っても、同じだったのです。

1968年には、ジーン・アスプレイ(Gene M. Asprey)らが、もっと長い距離で調べました。24人が、少なめの食事のあとに1マイル(約1.6km)を泳ぎます。食後30分、1時間、2時間の3通りと、3時間以上何も食べない場合を比べました。それぞれ8回ずつ泳いだ平均を見ると、食後30分〜2時間で泳いでも、タイムに悪い影響はありませんでした。

03たっぷり食べた30分後に泳いでも、おなかがつった人はいなかった

ここまでの2つの実験は、少なめの食事でした。この記事の最初に書いた実験は、食事をうんと多くしています。1968年に、ロバート・シンガー(Robert N. Singer)とロバート・ニーブス(Robert E. Neeves)が発表した実験です。

参加したのは、高校と大学の代表の男子水泳選手12人です。673gの大きな食事をとり、200ヤードのタイムを測りました。食後30分、1時間、2時間、3時間以上食べない、の4つの条件を、日ごとに入れかえて16日間続けました。

結果をまとめます。

  • タイムは、食後の時間によって変わらなかった。
  • 胃のけいれん、つまり「おなかがつる」と言った選手はいなかった。
  • 吐き気は、食後30分の条件で一番多かった。
  • ほかの条件でも、小さな体の不調がちらほらあった。

ここは正直に書いておきます。大きな食事のすぐあとに泳ぐと、気持ち悪くなる人はいました。けれども、それは「おなかがつって沈む」こととは違います。

1960年代の実験では、食べてから泳ぐまでの時間を変えて、タイムや体の不調を記録した。
1960年代の実験では、食べてから泳ぐまでの時間を変えて、タイムや体の不調を記録した。

04アメリカ赤十字は「食後1時間以内に泳いでも、おぼれる危険は増えない」としている

アメリカ赤十字には、科学諮問委員会という専門家の会があります。赤十字が教える応急手当などの内容が、最新の科学にもとづくように確かめる専門家の会です。2024年7月、赤十字は、この会のメンバーがまとめた内容をもとに、食後の水泳についての記事を公開しました。

記事に書かれていることは、次の4つです。

  • 食べてすぐ泳ぐとおなかがつっておぼれる、という思い込みが、アメリカには根強くある。
  • 食べてから泳ぐまでの時間をいくつか変えて調べても、泳ぎの成績は変わらず、体の不調も少なかった。
  • 大人でも子どもでも、遊びでも競技でも、食後1時間以内に泳いで、おぼれる危険が増えることはない。
  • 主な医療や安全の団体で、食後に待つよう勧めているところは、今はない。

記事の参考文献には、この記事で紹介した1960年代の水泳の実験が並んでいます。

では、本当におぼれる危険を高めるものは何でしょうか。アメリカ疾病対策センター(CDC)は、いくつかの原因をあげています。10代以上では、ボートや水泳などの水遊びでの死亡の最大70%に、お酒が関わっていました。泳げない、または泳ぎが苦手なこと。子どもから目を離すこと。救命胴衣(ライフジャケット)を着けないこと。CDC の危険の一覧に、食事は入っていません。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

運動すると、胃や腸に回る血液が減る

この言い伝えには、体のしくみの点で、もっともらしい部分があります。1993年、オランダの大学の研究者 F. ブラウンス(F. Brouns)らは、運動と消化についての研究をまとめた論文を出しました。

まとめによると、消化は体が休んでいるときに進むものです。運動を始めると、血液は胃や腸から、動いている筋肉と肺のほうへ回されます。胃や腸の動き方も変わります。

このため、運動中の胃腸の不調は、めずらしくありません。へとへとになる長い競技では、参加者の30〜50%が、何かしらの胃腸の不調を経験することがあります。運動の前に、食物繊維や脂肪、たんぱく質の多い物を食べると、腹痛や吐くこと、胸やけが起きることもあります。

ただし、このまとめは、よく鍛えた人ほど、ほどほどの運動では胃腸への血液の減り方が小さくなる、とも書いています。そして「胃腸の不調が出る」ことと「おぼれる」ことの間には、大きな差があります。

「タイムが変わらない」と「おぼれない」は、同じ意味ではない

シンガーらの実験には、少ない人数を補う工夫がありました。同じ選手が、4つの条件をすべて試したのです。こうすると、もともと速い選手と遅い選手がいても、比べるときにその差が混ざりません。比べられるのは、食後の時間の違いだけになります。どの日にどの条件を試すかも、順番に入れかえていました。それでも、タイムに差は出ませんでした。

1960年代の実験が調べたのは、泳ぐ速さと体の不調です。おぼれるかどうかを、実験で直接確かめることはできません。わざと危ない目にあわせるわけにはいかないからです。

また、参加者は14人、24人、12人と少なく、シンガーらの実験では泳ぎの得意な男子選手でした。小さな子どもや、泳ぎの苦手な人、冷たい海で泳ぐ人は調べていません。

赤十字の記事の参考文献を見ると、水泳の実験のほかに、世界保健機関(WHO)や CDC のおぼれる事故の資料が並んでいます。アメリカ小児科学会の、おぼれる事故を防ぐための指針も入っています。赤十字は、水泳の実験だけでなく、事故を防ぐための資料も参考文献にあげて、この記事をまとめています。

「危険はない」と完全に言い切ることは、科学でも難しい

科学では、「〇〇は起きない」と完全に示すことはできません。いくら調べても、まだ調べていない場面が残るからです。そこで研究者は、「起きるという証拠がどれだけあるか」を見ます。

1908年の本は、「食べてすぐ泳ぐとおぼれる」の理由や証拠を書いていませんでした。その後の実験でも、言い伝えを支える結果は出ていません。証拠のない注意が、100年以上も受けつがれてきたことになります。

一方で、お酒や、泳げないこと、子どもから目を離すことは、CDC が事故の危険を高めるものとしてはっきりあげています。言い伝えを1つずつ確かめると、どの注意に根拠があり、どの注意に根拠がないのかを分けることができます。

05まとめ

「食べてすぐ泳ぐとおぼれる」は、1908年の本にも書かれた古い言い伝えです。けれども、食後30分〜2時間で泳がせた1960年代の実験では、タイムは変わりませんでした。673gの大きな食事のあとでも、おなかがつった選手はいませんでした。アメリカ赤十字の専門家の会も、食後1時間以内に泳いでもおぼれる危険は増えないとしています。

ただし、大きな食事のすぐあとは、気持ち悪くなることがあります。水辺で本当に気をつけたいのは、お酒を飲んで水に入ることと、子どもから目を離すことです。CDC の危険の一覧に、食事は入っていません。

人に話すなら、こう言おう

「食べてすぐ泳ぐとおぼれる」って、1908年のボーイスカウトの本にも書いてあったんだって。でも、たっぷり食べて30分後に泳がせた実験では、おなかがつった人は1人もいなかったらしいよ。
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英語で読む

Can You Swim Right After Lunch?

CEFR A2229 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In 1968, twelve young swimmers in the United States joined an unusual test.1968年、アメリカの若い水泳選手12人が、変わった実験に参加しました。 They were high school and college athletes.彼らは高校と大学の選手でした。 First, they ate a big meal of 673 grams.まず、彼らは673グラムの大きな食事を食べました。 Then they swam 200 yards, and the researchers checked their times.それから200ヤードを泳ぎ、研究者たちがタイムを測りました。

Many people believe an old rule.多くの人が、ある古いきまりを信じています。 "Don't swim right after you eat, or you will get a cramp and drown."「食べてすぐに泳いではいけない。けいれんを起こしておぼれてしまう」というものです。 A cramp is a sudden, painful tightness in your body.けいれん(cramp)とは、体が急に、痛いほど固くなることです。 A Boy Scout book gave this warning in 1908.1908年のボーイスカウトの本が、この注意を書いていました。

In the 1968 test, the swimmers waited 30 minutes, one hour, or two hours after eating.1968年の実験では、選手たちは食べてから30分、1時間、または2時間待ちました。 On other days, they ate nothing for three hours before they swam.ほかの日には、泳ぐ前の3時間、何も食べませんでした。 They did this for 16 days.これを16日間続けました。 Their times did not change.タイムは変わりませんでした。 No swimmer said he had a stomach cramp.おなかがつったと言った選手は、1人もいませんでした。 But some felt sick when they swam just 30 minutes after eating.ただし、食後たった30分で泳いだときには、気持ち悪くなった人もいました。

Other tests found the same thing.ほかの実験でも、同じ結果が出ました。 In 1962, 14 people swam after a small meal, and their times were the same after every wait.1962年には14人が少なめの食事のあとに泳ぎ、どの待ち時間でもタイムは同じでした。 In 1968, 24 other people swam one mile, and eating did not slow them down.1968年には別の24人が1マイルを泳ぎましたが、食事をしても遅くなりませんでした。

Today, American Red Cross experts say that swimming within one hour after a meal does not make drowning more likely.今では、アメリカ赤十字の専門家たちが、食後1時間以内に泳いでも、おぼれやすくはならないと言っています。 The CDC, a health agency in the United States, warns about other dangers.アメリカの保健機関であるCDCは、ほかの危険について注意を呼びかけています。 They are alcohol, weak swimming skills, and children with no adult watching them.それは、お酒、泳ぎが苦手なこと、そして大人が見ていない子どもです。 Food is not on its list.その一覧に、食べ物は入っていません。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How long did the swimmers do the test in 1968 with the big meal?

    大きな食事をとった1968年の実験は、何日間続きましたか。

  3. Q3What happened when the swimmers swam only 30 minutes after the big meal?

    大きな食事のたった30分後に泳いだとき、何が起きましたか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "cramp" is closest in meaning to ...

    第2段落の cramp という語に最も意味が近いのは…

  5. Q5Which is true about the CDC's list of dangers?

    CDC の危険の一覧について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • cramp名詞
    けいれん、(筋肉が)つること

    I got a cramp in my leg during the race.

    レースの途中で足がつった。

    💡 get a cramp で「つる」。stomach cramp は「おなかがつること・腹痛」。

  • drown動詞
    おぼれ死ぬ、おぼれる

    The man saved a dog that was drowning in the river.

    その男性は、川でおぼれかけていた犬を助けた。

    💡 drowning(おぼれること)の形もよく使う。

  • meal名詞
    食事

    Breakfast is my favorite meal of the day.

    朝食は一日の中で一番好きな食事だ。

    💡 a big meal(たっぷりの食事)、a small meal(軽い食事)。

  • athlete名詞
    運動選手

    She wants to be a professional athlete.

    彼女はプロの運動選手になりたいと思っている。

    💡 アクセントは最初の a(ア)にある。

  • researcher名詞
    研究者

    The researchers asked 100 students some questions.

    研究者たちは100人の学生にいくつか質問した。

    💡 research(研究)+ -er(〜する人)。

  • warning名詞
    警告、注意

    There is a warning sign near the deep water.

    深い水の近くに警告の看板がある。

    💡 動詞 warn(警告する)。warn about 〜 で「〜について注意する」。

  • likely形容詞
    ありそうな、〜しやすい

    It is likely to rain this afternoon.

    今日の午後は雨が降りそうだ。

    💡 more likely で「より起こりやすい」。

  • agency名詞
    (政府の)機関、代理店

    NASA is a space agency in the United States.

    NASA はアメリカの宇宙機関だ。

    💡 travel agency(旅行代理店)のようにも使う。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 18件)。

  1. Singer, R. N. & Neeves, R. E. (1968) Effect of Food Consumption on 200-Yard Freestyle Swim Performance, Research Quarterlydoi.org
  2. Asprey, G. M., Alley, L. E. & Tuttle, W. W. (1968) Effect of Eating at Various Times on Subsequent Performances in the One-Mile Freestyle Swim, Research Quarterlydoi.org
  3. Ball, J. R. (1962) Effect of Eating at Various Times upon Subsequent Performances in Swimming, Research Quarterlydoi.org
  4. Does eating right before swimming have health risks or increase the risk of drowning?(アメリカ赤十字・科学諮問委員会)redcross.org
  5. Baden-Powell, R. (1908) Scouting for Boys(Project Gutenberg)gutenberg.org
  6. Risk Factors for Drowning(アメリカ疾病対策センター CDC)cdc.gov
  7. Brouns, F. & Beckers, E. (1993) Is the gut an athletic organ? Digestion, absorption and exercise, Sports Medicinedoi.org

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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