「金魚の記憶は3秒」はウソで、金魚はエサの時刻も覚えられる
都市伝説ファクトチェックNo.012

「金魚の記憶は3秒」はウソで、金魚はエサの時刻も覚えられる

金魚は、エサが出る時刻を覚えられる。

ウソFALSE

この判定の対象「金魚の記憶は3秒しかもたない」

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実14件
もくじ
  1. 金魚は、1日に1時間だけエサが出る時刻を覚えた
  2. 金魚の脳には、人の海馬のように場所を覚えるところがある
  3. 覚えたことが長く残る記憶に変わるしくみも、金魚で調べられた
  4. 深掘り講義
  5. まとめ
  6. 英語で読む(A2・4択5問)
  7. 出典・ウラ取り

1964年11月、アメリカの科学誌『サイエンス』に、短い論文が載りました。論文の題名は「金魚の記憶の固定に対するピューロマイシンの効果」です。研究者は、金魚にあることを覚えさせたあと、金魚の脳に薬を注射しました。すると、覚えたはずのことが残らなかった、という報告です。

「金魚の記憶は3秒」という話を聞いたことがある人は多いでしょう。でも、もし金魚が本当に3秒しか覚えていられないなら、研究者が金魚を記憶の実験に使うはずがありません。

実際には、金魚は毎日決まった時刻のエサを覚えます。迷路の道順も覚えます。金魚の脳には、私たちの「海馬」(場所や出来事を覚える部分)にあたる場所まであります。

この記事では、まず金魚がエサの時刻を覚えた実験を紹介します。次に、金魚の脳の中で、場所を覚えるところを調べた実験を紹介します。最後に、覚えたことが長く残る記憶に変わるしくみを、金魚で確かめた研究を紹介します。

01金魚は、1日に1時間だけエサが出る時刻を覚えた

まずは、エサの時刻の実験です。1994年、フィリップ・ジー(Philip Gee)らは、8匹の金魚を使ってこんな実験をしました。

水槽にレバーをつけ、金魚が押すとエサが出るようにします。最初は、いつ押してもエサが出ます。それから、エサが出る時間帯を少しずつ短くしていきました。最後は24時間のうち1時間だけ、毎日同じ時刻にだけエサが出るようにしました。この条件を4週間続けます。

そのあと、エサが出ないようにして6日間ようすを見ました。すると金魚は、エサの時刻が近づくとレバーを押すようになっていました。エサはもう出ないのに、数日の間は、エサの時刻にレバーを押す行動が続いたのです。

つまり金魚は、「どの時刻にエサが出るか」を何日にもわたって覚えていたことになります。ジーらは2つめの実験で、水槽の明かりをつけっぱなしにしました。こうして昼と夜の手がかりをなくしても、金魚は時刻の区別を学べることが分かりました。

02金魚の脳には、人の海馬のように場所を覚えるところがある

人間の脳の海馬(かいば)は、場所や出来事の記憶に深くかかわる部分です。哺乳類や鳥では、海馬がないと場所の記憶がうまく働きません。では、魚の脳はどうでしょうか。

2002年、スペインのセビリア大学のフェルナンド・ロドリゲス(Fernando Rodríguez)らが、ある実験をしました。研究チームは、金魚に2種類の迷路の課題を覚えさせました。

  • 場所の課題:まわりの景色全体から「ゴールはあのあたり」と覚える。
  • 目印の課題:ゴールの近くにある1つの目印を覚える。

そのあと、金魚の脳の「外側外套(がいそくがいとう)」というところを傷つけました。外套は、魚の脳の前のほうにある部分で、外側外套はその外側のところです。すると、場所の課題の成績が大きく落ちました。でも、目印の課題はできたままでした。脳のほかのところ(外套の内側や背中側)を傷つけた場合は、迷路の正確さは落ちませんでした。

外側外套を傷つけると、場所の記憶だけが失われる。これは、哺乳類で海馬を傷つけたときとそっくりのパターンです。研究チームは、こう考えています。海馬やそれにあたる部分を使って場所を覚えるしくみは、背骨のある動物の脳にもともと備わっていた、古い特徴だというのです。

金魚は、まわりの景色を手がかりに「ゴールの場所」を覚えることができる。
金魚は、まわりの景色を手がかりに「ゴールの場所」を覚えることができる。

03覚えたことが長く残る記憶に変わるしくみも、金魚で調べられた

記事のはじめに出てきた、1964年の論文の話にもどりましょう。書いたのは、バーナード・アグラノフ(Bernard W. Agranoff)とポール・クリンガー(Paul D. Klinger)です。

彼らは金魚に、電気ショックをよける行動を覚えさせました。そして金魚の脳に、ピューロマイシンという薬を注射しました。これは、体の中でたんぱく質を作る働きを止める薬です。すると金魚は、覚えたはずのよけ方を、あとのテストでうまくできなくなっていました。食塩水などを注射した場合は、記憶は残りました。

1967年には、同じグループが、別の薬(アクチノマイシンD)を使った実験を報告しています。この薬を訓練の直後に注射すると、長く残る記憶ができなくなったのです。

2つの実験から分かるのは、記憶は覚えた瞬間にできあがるのではない、ということです。覚えたあとに、脳の中で記憶が長く残る形に「固められる」時間がいるのです。この考えを確かめる実験に、金魚が使われていました。3秒で忘れる魚では、そもそも実験になりません。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

動物の記憶は、「経験のあとで行動が変わったか」で測る

動物に「覚えてる?」とは聞けません。そこで研究者は、「経験のあとで行動が変わったか」を見て、記憶があるかどうかを判断します。金魚の研究には、そのための代表的な方法が4つそろっています。

オペラント条件づけ:動物が自分でした行動(レバーを押す)に、結果(エサ)がついてくると、その行動が増える。ジーらの実験がこれです。エサを止めると、行動はだんだん減っていきます(これを「消去」と呼びます)。エサを止めたあとも、エサの時刻にレバーを押す行動が残ったことが、記憶の証拠になりました。

古典的条件づけ:ベルの音とエサのように、2つの刺激を組にして何度も示す。すると、片方の刺激だけで反応が出るようになる。2022年、セビリア大学のグループは、金魚のまばたき反射に似た反応を使って実験しました。比べたのは、2つのやり方です。1つは、合図の刺激と、反応を引き起こす刺激の間に「すき間」を空ける痕跡条件づけ。もう1つは、2つの刺激を重ねる遅延条件づけです。海馬にあたる部分を傷つけた金魚は、すき間のある痕跡条件づけだけができなくなりました。時間をまたいで2つの出来事を結びつけるのに、この部分が必要だということです。

回避学習:合図のあとに来るいやな刺激(電気ショック)を、先に動いてよけることを覚える。アグラノフの実験がこれです。

迷路学習:場所の課題と目印の課題を分けることで、「どんな種類の記憶か」まで区別できます。ロドリゲスらの実験がこれです。

成績が下がったときは、記憶が消えたのか、体が動かなくなっただけなのかを区別する

記憶の実験では、いつも1つの区別が必要になります。成績が下がったとき、それは記憶が消えたからなのか。それとも、薬や手術で体が動かなくなったり、やる気がなくなったりしただけなのか、という区別です。

アグラノフらは、この区別を確かめていました。ピューロマイシンは、まだ何も訓練していない金魚の行動には影響しませんでした。十分に訓練しつくした金魚の行動にも、影響しませんでした。つまり、薬を注射しても、泳いだりよけたりする力そのものは残っていたのです。だから、薬がじゃましたのは「新しく覚えたことを、長く残る記憶に固める働き」だと言えるわけです。ロドリゲスらの研究でも、脳を傷つけた金魚は、目印の課題はできたままでした。このことが、泳ぐ力ややる気がなくなったのではない、という確かめになっています。

覚えた直後の記憶は、時間をかけて長く残る形に変わる

覚えた直後の記憶は、まだ不安定です。時間をかけて、長く残る形に変わっていきます。この過程を記憶の固定(consolidation)と呼びます。アグラノフらの1967年の報告で大事なのは、薬を「訓練の直後に」入れたという点です。覚えてすぐの時間帯に、脳の中で新しいたんぱく質を作ることにつながる働きを止める。すると、記憶は長く残る形になれない。この報告は、そう読めます。

このグループは1966年に、もう1つ論文を出しています。使った薬が、金魚の脳のたんぱく質づくりにどう効くかを調べたものです。つまり、薬が本当に脳の中で効いていたかまで、確かめようとしていたわけです。行動の変化と、脳の中の変化の両方がそろって初めて、「記憶にはたんぱく質づくりが必要らしい」と言えるようになります。

魚が何か月覚えているかは、何をどう測ったかで変わる

金魚以外の魚では、さらに長い記録もあります。2001年、カラム・ブラウン(Culum Brown)は、レインボーフィッシュの仲間について報告しました。網に追われたときの逃げ道を5回の練習で覚え、11か月後もすばやく逃げられたというのです。ただしブラウン自身、水槽に慣れた効果も混じっていると書いています。「何か月覚えているか」は、何を、どんな方法で測ったかによって変わる数字です。

2022年の研究チームは、こう書いています。金魚などの硬骨魚(骨がかたい魚)と哺乳類は、約4億年前に生きていた共通の祖先から分かれた。海馬にあたる記憶のしくみが、その共通の祖先のころからあったとします。それなら、金魚の記憶を調べることは、私たち人間の記憶のしくみの、古い形を調べることにもなります。

04まとめ

「金魚の記憶は3秒」は、実験の結果とは合わないウソです。金魚は1日1時間だけのエサの時刻を覚え、迷路の場所も覚えます。その場所の記憶には、脳の「海馬にあたる部分」が使われています。

1960年代には、記憶が脳の中で固まるしくみを確かめる実験にも、金魚が使われていました。家の金魚にエサをあげるとき、毎日同じ時刻・同じ場所にしてみてください。時間が近づくと、金魚のほうが先にその場所で待つようになるかもしれません。

人に話すなら、こう言おう

金魚の記憶が3秒ってウソなんだって。1日1時間だけエサが出るレバーの時間を覚えたし、1960年代には「覚えたことがずっと残る記憶になるしくみ」の実験にも金魚が使われてたらしいよ。
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英語で読む

The Goldfish That Knew What Time It Was

CEFR A2225 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Many people say a goldfish remembers things for only three seconds.金魚は3秒しか物事を覚えていられない、と多くの人が言います。 But experiments show this is wrong.しかし、実験はそれがまちがいだと示しています。

In 1994, a team put eight goldfish in tanks with a small lever.1994年、ある研究チームが、小さなレバーのついた水槽に8匹の金魚を入れました。 When a fish pushed the lever, food came out.金魚がレバーを押すと、エサが出てきました。 Later, the food came out for only one hour each day, at the same time.その後、エサは毎日同じ時刻に、1時間だけ出るようになりました。 The team did this for four weeks.チームはこれを4週間続けました。 Then they stopped the food for six days.それから6日間、エサを止めました。 The fish still pushed the lever near the feeding time.それでも金魚は、エサの時刻が近づくとレバーを押しました。 They remembered the time.金魚はその時刻を覚えていたのです。

Goldfish can also learn a maze.金魚は迷路を覚えることもできます。 In 2002, scientists in Spain studied a part of the goldfish brain.2002年、スペインの科学者たちは金魚の脳のある部分を調べました。 It works like the hippocampus, the memory center in our own brain.それは、私たちの脳の記憶の中心である海馬のように働きます。 When this part was damaged, the fish could not find a place in the maze.この部分が傷つくと、金魚は迷路の中の場所を見つけられなくなりました。 But they could still follow a sign near the goal.でも、ゴールの近くの目印をたどることはまだできました。

Goldfish also helped scientists understand how memories become strong.金魚は、記憶がどのように強くなるのかを科学者が理解する手助けもしました。 In the 1960s, Bernard Agranoff taught goldfish to avoid an electric shock.1960年代、バーナード・アグラノフは金魚に小さな電気ショックを避けることを教えました。 Then he gave them a drug that stopped the brain from making proteins, the building blocks of the body.それから、体を作る材料であるたんぱく質を脳が作れなくする薬を金魚に与えました。 After that, the fish lost the new memory.そのあと、金魚は新しい記憶を失いました。 So a memory needs time to become fixed in the brain.つまり、記憶が脳の中で固まるには時間が必要なのです。

A fish with a three-second memory could not help with this.3秒しか覚えていられない魚なら、こうした研究の役には立てなかったでしょう。 Try feeding your goldfish at the same time every day.金魚にエサをあげるときは、毎日同じ時刻にあげてみてください。 Your fish may start waiting for you.金魚があなたを待つようになるかもしれません。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How long did the food come out each day at the end of the training?

    訓練の終わりには、エサは毎日どれくらいの時間出ましたか。

  3. Q3What happened after the goldfish got the drug in the 1960s?

    1960年代、薬を入れられたあと金魚に何が起きましたか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "damaged" is closest in meaning to

    第3段落の "damaged" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the goldfish in the maze study?

    迷路の研究の金魚について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • remember動詞
    覚えている、思い出す

    I remember my first day at this school.

    この学校での最初の日を覚えている。

    💡 remember to do(忘れずに〜する)と remember doing(〜したことを覚えている)の区別は入試の定番。

  • lever名詞
    レバー、てこ

    Pull the lever to open the door.

    ドアを開けるにはレバーを引いてください。

    💡 英語の発音は「リーヴァー」または「レヴァー」。

  • maze名詞
    迷路

    The children got lost in the corn maze.

    子どもたちはトウモロコシ畑の迷路で迷った。

    💡 amaze(びっくりさせる)とつづりが似ている。

  • hippocampus名詞
    海馬(脳の一部)

    The hippocampus helps us remember places.

    海馬は私たちが場所を覚えるのを助ける。

    💡 ギリシャ語で「タツノオトシゴ」。形が似ているのでこう呼ばれる。

  • damage動詞・名詞
    傷つける、損傷

    The storm damaged many houses.

    嵐が多くの家に被害を与えた。

    💡 名詞の damage は数えられない名詞。much damage と言う。

  • avoid動詞
    避ける

    Try to avoid sugary drinks before bed.

    寝る前は甘い飲み物を避けるようにしよう。

    💡 avoid のあとは doing(動名詞)。avoid to do は誤り。

  • protein名詞
    たんぱく質

    Eggs and fish have a lot of protein.

    卵や魚にはたんぱく質がたくさん含まれている。

    💡 発音は「プロウティーン」。日本語の「プロテイン」と少しちがう。

  • fixed形容詞
    固定された、固まった

    The price is fixed, so you cannot ask for a discount.

    値段は固定なので、値引きは頼めない。

    💡 動詞 fix には「固定する」と「直す」の両方の意味がある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 14件)。

  1. Gee, P., Stephenson, D. & Wright, D. E. (1994) Temporal discrimination learning of operant feeding in goldfish, Journal of the Experimental Analysis of Behaviordoi.org
  2. Rodríguez, F. et al. (2002) Conservation of spatial memory function in the pallial forebrain of reptiles and ray-finned fishes, Journal of Neurosciencedoi.org
  3. Gómez, A. et al. (2022) Trace classical conditioning impairment after lesion of the lateral part of the goldfish telencephalic pallium, Brain Structure and Functiondoi.org
  4. Agranoff, B. W. & Klinger, P. D. (1964) Puromycin effect on memory fixation in the goldfish, Sciencedoi.org
  5. Agranoff, B. W. et al. (1967) Actinomycin D blocks formation of memory of shock-avoidance in goldfish, Sciencedoi.org
  6. Brown, C. (2001) Familiarity with the test environment improves escape responses in the crimson spotted rainbowfish, Animal Cognitiondoi.org

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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