「寝ている間にクモを年8匹食べる」はウソで、その種明かし話もウソだった
都市伝説ファクトチェックNo.011

「寝ている間にクモを年8匹食べる」はウソで、その種明かし話もウソだった

クモ8匹説は、種明かしの話までウソだった。

ウソFALSE

この判定の対象「人は寝ている間に、クモを年8匹食べている」

うなり度 読む時間9分 出典6件 確認した事実22件
もくじ
  1. 寝ている人がクモを飲みこんだ記録は、1件もない
  2. クモが寝ている人に近づかないのは、エサがなく、振動が多いから
  3. 「1993年の雑誌がわざと作った」という種明かしは、スノープスの作り話だった
  4. スノープスの作り話は、雑誌の日付やページ番号まで書いてあったので信じられた
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

「人は寝ている間に、1年で平均8匹のクモを飲みこんでいる」。一度は聞いたことがあるかもしれません。

この話がウソだということ自体は、わりと知られています。ネットで調べると、たいてい次のような「種明かし」が出てきます。「1993年、あるコンピューター雑誌のコラムニストが、わざとウソの"豆知識"リストを作った。人はネットの情報をいかにかんたんに信じるかを示すためだった。8匹説はその1つで、皮肉にもそれが世界中に広まった」。

よくできた話です。ところが、この種明かしのほうも作り話でした。しかも、その作り話を仕込んだのは、ネットのウソを調べて判定する「ファクトチェックサイト」でした。

この記事では、まず「寝ている間にクモを飲みこむ」がウソである理由を、クモの専門家の話で確かめます。次に、「1993年の雑誌がわざと作った」という種明かしが作り話だったことを紹介します。最後に、ウソがなぜ広まりやすいのかを考えます。

01寝ている人がクモを飲みこんだ記録は、1件もない

まず、「寝ている間にクモを飲みこむ」という話から確かめます。ロッド・クロフォード(Rod Crawford)は、アメリカ・ワシントン大学のバーク博物館で、クモを担当する学芸員です。学芸員とは、博物館で研究や展示をする専門家のことです。彼は博物館のサイトで、「クモの迷信」を1つずつ否定しています。

クロフォードによれば、寝ている人がクモを飲みこんだという例は、科学や医学の文献に1件も記録されていません。何百万もの人が、誰かの寝顔を見たことがあるはずです。それなのに、「クモが口に入ろうとしていた」という目撃談もないといいます。

この迷信には、数字だけが違う言い方が、いくつもあります。クロフォードが紹介しているのは、「年に4匹」「一生で20匹」「一生で1ポンド(約450g)」の3つです。クロフォードは、これらの数字のおかしさを、計算でからかっています。「年に4匹」と「一生で20匹」が両方正しいなら、人の一生は5年しかないことになります。また、クモを2万匹以上集めて、やっと1ポンドになります。年に4匹ずつ飲みこむなら、1ポンドになるまで5,000年ほどかかります。

クロフォードが「信用できる」と認めた話は、たった1つです。ある女性が子どものころ、風の強い草原で口を開けていました。すると、風に乗って飛んできた小さなクモが口に入った、というものです。これは起きているときの話で、寝ている間の話ではありません。

02クモが寝ている人に近づかないのは、エサがなく、振動が多いから

では、なぜクモは寝ている人の口に入ってこないのでしょうか。2014年の『サイエンティフィック・アメリカン』誌の記事で、2人の研究者が説明しています。

1つ目の理由は、クモにとってベッドは用のない場所だということです。ベッドには、エサになる虫がいません(トコジラミという虫がいれば別です。でもその場合は、クモよりトコジラミを先に心配したほうがよいでしょう)。ビル・シア(Bill Shear)は、ハムデン・シドニー大学の生物学者です。シアは、クモは人間を「大きな岩」くらいにしか思っていない、と話しています。

2つ目の理由は、振動です。寝ている人は息をし、心臓が動き、いびきをかくこともあります。どれもクモにとっては、「危険が近い」というサインになる振動です。クロフォードは、寝ている人はクモが自分から近づきたい相手ではない、と述べています。

それに、顔の上をクモが歩けば、たいていの人は目を覚まします。シア自身、キャンプ中に目が覚めたことがあるそうです。顔の上を「ダディ・ロングレッグス」が歩いていたのです。これは、足の長いクモやその親せきの、英語での呼び名です。

ただし専門家も、「絶対に起きない」とは言いません。『サイエンティフィック・アメリカン』の記事の中では、起こるとしても完全な偶然だろう、とされています。「年に8匹」のように、毎年決まって起きることではありません。

寝ている人の呼吸や心臓の振動は、クモにとって「危険が近い」というサインになる。
寝ている人の呼吸や心臓の振動は、クモにとって「危険が近い」というサインになる。

03「1993年の雑誌がわざと作った」という種明かしは、スノープスの作り話だった

ここからは、「1993年の雑誌コラムがわざと作った」という種明かしのほうを確かめます。

「スノープス(Snopes)」は、アメリカの古くからあるファクトチェックサイトです。2001年4月22日、スノープスは「年8匹」説を「ウソ」と判定する記事を出しました。スノープスを作ったデビッド・ミケルソン(David Mikkelson)の名前で出た記事です。その記事の中で、8匹説の出どころとして紹介されたのが、この記事の最初に書いた「1993年の雑誌コラム」の話です。

スノープスの記事の説明は、こうでした。1993年、コラムニストのリサ・ホルストが、『PCプロフェッショナル』という雑誌のコラムに、「メールで回ってくる"事実"のリストを、人はすぐ信じる」と書いた。そして例として、自分で作ったウソのリストを載せた。8匹説はそのリストの1つで、ホルストは1954年の、虫についての言い伝え(俗信)の本から数字を取った――。記事の参考文献には、さらにくわしい情報まで書かれていました。コラムの題名は「Reading Is Believing」で、1993年1月7日号の71ページ、というものです。

ところが、スノープスは後に、この説明が自分たちの作り話だったと明かしました。「tHis is a Big troLl」という題の、別のページです。

  • 1954年の本は実在する。でも、記事が数字の出どころとしてあげたその本の24ページには、クモの話は何も書かれていない。
  • 『PCプロフェッショナル』誌も、コラムニストのリサ・ビルギット・ホルストも、存在しない。
  • この仕掛けは、2001年4月に古くからの読者向けの「隠しネタ」として作った。

さらに、コラムニストの名前「Lisa Birgit Holst」の文字を並べかえると、"This is a big troll"(これは大がかりな釣りだ)になります。「釣り」とは、わざとウソを書いて人を引っかけることです。2つの文はどちらも15文字で、使っている文字もぴったり同じです。ページの題名で大文字になっている H・B・L は、Holst・Birgit・Lisa の頭文字です。

04スノープスの作り話は、雑誌の日付やページ番号まで書いてあったので信じられた

スノープスの作り話がやっかいなのは、話がとてもよくできていたことです。「ウソが広まることを示すために作られたウソが、本当に広まった」という、おもしろい話になっています。しかも、ファクトチェックサイトの記事に、日付とページ番号つきで書いてあります。読んだ人がこれを本当の出どころだと受け取っても、無理はありません。

なお、スノープスは「8匹説そのものを作ったのは自分たちではない」とも書いています。この話は、自分たちの記事より前からあったそうです。たとえば1999年の「雑学トップ50」というリストの12番目に、すでに似た話が載っていました。本当の最初の出どころは、スノープスも「まだ探している」としています。

2026年10月に確認した時点でも、2001年の元の記事にはホルストの説明がそのまま残っています。参考文献の欄にも、ありもしない雑誌の名前が、そのまま書かれています。そのため、後から出た種明かしのページを知らずに、2001年の記事だけを読んだ人は、今でもホルストの話を信じてしまうおそれがあります。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

クモは、体じゅうのセンサーで小さな振動を感じとる

クモが寝ている人に近づかない理由を、感覚のしくみから見てみます。ウィーン大学のフリードリッヒ・バルト(Friedrich G. Barth)は、2004年の総説(研究をまとめた論文)で、こう述べています。クモの機械感覚は、とても発達している。機械感覚とは、押す・ゆらす・空気が動くといった刺激を感じる感覚です。

クモの体の外側は、固い殻(外骨格)でおおわれています。そこには、スリット感覚子と呼ばれる小さな切れこみ状のセンサーが、数千個もうめこまれています。体に力がかかって殻がわずかにゆがむと、このセンサーが、そのゆがみを感じとります。脚には、このセンサーがいくつも並んだ「竪琴(たてごと)器官」があります。研究者が「押す・ゆらすを、生き物はどうやって感じとるのか」を調べるとき、竪琴器官はお手本としてよく使われてきました。さらに、空気のわずかな動きを感じる細い毛(トリコボトリア)もあります。

つまりクモにとって、寝ている人は静かではありません。呼吸で上下するふとんや、ドクドクと打つ心臓は、大きな振動を出して動く巨大な物体です。「寝ているから静か」と思うのは、人間の感じ方にすぎません。

出典が細かく書いてあると、人は確かめずに信じやすい

スノープスの仕掛けがうまくいった理由の1つは、出典がくわしかったことです。雑誌名、コラムの題名、日付、ページ番号まで書いてありました。すると読む側は、「ここまで具体的なら本当だろう」と感じます。けれども、本当に図書館で1993年1月7日号を探した人は、ほとんどいなかったはずです。

こうした、ウソが信じられてしまうしくみには、名前がついています。

  • 循環報告(circular reporting):AがBを引用し、BがCを引用し…と続く。元をたどると、確かめられた一次情報がない。それなのに、引用の数だけ「確からしさ」が増して見える現象。
  • 偽の権威(false authority):内容ではなく、「専門家が言った」「有名なサイトに書いてある」という肩書きで信じさせること。スノープスは種明かしのページから、「False Authority」という説明ページに案内している。
  • 一次資料:実際の記録そのもの。ここでは1993年の雑誌の現物。

この件で考えさせられるのは、ファクトチェックサイトの記事を信じた人の多くが、その先の一次資料までは確かめていなかったことです。「出典がある」と「出典を確かめた」は、別のことです。

ツイッターでは、ウソのニュースが本当のニュースより速く広がった

2018年、マサチューセッツ工科大学のソローシュ・ヴォスーギ(Soroush Vosoughi)らは、ツイッターで広まったニュースを調べました。2006年から2017年までの、約12万6,000件です。約300万人が、合計450万回以上共有したデータです。6つのファクトチェック団体の判定を使って、本当かウソかを分けました。すると、ウソのニュースは本当のニュースより速く、遠く、広く広がっていました。調べたニュースの種類の中には、「都市伝説」も入っています。

ウソのニュースは、本当のニュースより目新しい内容でした。ウソのニュースへの返信には、恐れ・嫌悪・驚きの反応が多く見られました。自動で投稿するプログラム(ボット)は、本当の話もウソの話も、同じくらい広めていました。つまり、ウソを多く広めていたのは人間です。

「寝ている間にクモを食べる」は、気味が悪く、すぐ人に言いたくなる話です。そして「その話は実はウソで、雑誌のコラムニストがわざと作った」という続きも、同じくらい人に言いたくなる話でした。8匹説と、作り話の種明かし。この2つのウソは、同じ理由で広がったのかもしれません。

05まとめ

「寝ている間にクモを年8匹食べる」は、クモ学者が否定するウソです。クモは振動に敏感です。息をして心臓が動く人間には、近づきたがりません。

そして、よく知られた「1993年の雑誌コラムがわざと作った」という種明かしも、作り話でした。スノープスが2001年に仕込んだものです。コラムニストの名前「Lisa Birgit Holst」の文字を並べかえると、"This is a big troll" になります。次にこの話を聞いたら、その15文字を紙に書いて並べかえてみてください。

人に話すなら、こう言おう

「寝てる間にクモを年8匹食べる」ってウソなんだって。しかも「雑誌がわざと流したウソ」っていう種明かしまで、ネットのウソを調べるサイトが仕込んだジョークだったらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

The Spider Story That Lied Twice

CEFR A2217 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Maybe you have heard this strange fact.こんな変な豆知識を聞いたことがあるかもしれません。 People swallow eight spiders a year while they sleep.人は寝ている間に、1年で8匹のクモを飲みこむ、というものです。 It sounds scary, but it is not true.こわく聞こえますが、本当ではありません。

Rod Crawford takes care of spiders at a museum in the United States.ロッド・クロフォードは、アメリカの博物館でクモを担当しています。 He says there is not a single case of this in science or medical books.彼によると、科学や医学の本にこのような例は1つもありません。 Spiders feel vibrations, or tiny shakes, very well.クモは振動、つまり小さなゆれをとてもよく感じます。 A sleeping person breathes, and the heart beats.寝ている人は息をして、心臓も動いています。 To a spider, that feels like danger, so it stays away.クモにとってそれは危険のように感じられるので、近づきません。

Many websites tell a famous story about where the fact came from.多くのウェブサイトが、この豆知識の出どころについて有名な話を紹介しています。 In 1993, a writer named Lisa Holst made a list of fake facts for a magazine.1993年、リサ・ホルストという書き手が、雑誌のためにニセの事実のリストを作ったというのです。 She wanted to show that people believe anything on the internet.人はネットの情報を何でも信じる、ということを示したかった、とされています。 This story came from Snopes, a famous fact-checking website, in 2001.この話は2001年、有名なファクトチェックサイトのスノープスから出たものでした。

But the story was a trick, too.ところが、その話もまた仕掛けでした。 Later, Snopes said that the magazine and the writer never existed.後にスノープスは、その雑誌も書き手も存在しなかったと明かしました。 They made the story as a hidden joke for their readers.読者向けの隠しジョークとして、その話を作ったのです。 Look at the letters in the name "Lisa Birgit Holst."「Lisa Birgit Holst」という名前の文字を見てください。 You can change their order and make "This is a big troll."順番を並べかえると「This is a big troll(これは大がかりな釣りだ)」になります。

So the spider fact is false, and the famous answer is false as well.つまり、クモの豆知識はウソで、有名な「答え」もまたウソだったのです。 Nobody knows yet who first told the spider story.クモの話を最初にだれが言い出したのかは、まだだれにも分かっていません。 Next time you read a fun fact online, check where it really came from.次にネットで面白い豆知識を読んだら、それが本当はどこから来たのか確かめてみてください。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the story about Lisa Holst appear on Snopes?

    リサ・ホルストについての話がスノープスに出たのはいつですか。

  3. Q3Why do spiders stay away from sleeping people?

    クモが寝ている人に近づかないのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "vibrations" is closest in meaning to

    第2段落の "vibrations" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the name "Lisa Birgit Holst"?

    「Lisa Birgit Holst」という名前について正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • swallow動詞
    飲みこむ

    Chew your food well before you swallow it.

    飲みこむ前に、食べ物をよくかみなさい。

    💡 名詞では鳥の「ツバメ」の意味もある。

  • vibration名詞
    振動、ゆれ

    I felt the vibration of my phone in my pocket.

    ポケットの中でスマホの振動を感じた。

    💡 動詞は vibrate(振動する)。スマホの「バイブ」はここから。

  • breathe動詞
    呼吸する、息をする

    Breathe slowly when you feel nervous.

    緊張したときは、ゆっくり息をしなさい。

    💡 名詞は breath(息)。つづりと発音のちがいに注意。

  • fake形容詞
    ニセの、偽物の

    The police found a fake ID card.

    警察はニセの身分証を見つけた。

    💡 fake news(フェイクニュース)でおなじみ。

  • exist動詞
    存在する

    Do you think aliens exist?

    宇宙人は存在すると思いますか。

    💡 名詞は existence。never existed で「一度も存在しなかった」。

  • trick名詞
    たくらみ、仕掛け、いたずら

    The video was a trick, not real magic.

    その動画は仕掛けで、本物の魔法ではなかった。

    💡 play a trick on 〜 で「〜にいたずらをする」。

  • troll名詞
    (ネットで)わざと人をだます・あおる行為や人

    Don't answer that comment. It is just a troll.

    そのコメントには答えないで。ただの荒らしだよ。

    💡 もとは北欧の伝説の怪物。ネットでは「釣り」「荒らし」の意味で使う。

  • origin名詞
    起源、出どころ

    Nobody knows the origin of this song.

    この歌の起源はだれも知らない。

    💡 形容詞は original(もとの、独自の)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 22件)。

  1. Myth: You swallow spiders in your sleep(Burke Museum, University of Washington)burkemuseum.org
  2. Sneed, A. (2014) Fact or Fiction? People Swallow 8 Spiders a Year While They Sleep, Scientific Americanscientificamerican.com
  3. Mikkelson, D. (2001) Do People Swallow Eight Spiders Per Year?(Snopes)snopes.com
  4. tHis is a Big troLl(Snopes)snopes.com
  5. Barth, F. G. (2004) Spider mechanoreceptors, Current Opinion in Neurobiologydoi.org
  6. Vosoughi, S., Roy, D. & Aral, S. (2018) The spread of true and false news online, Sciencedoi.org

公式ページで見てみよう

文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

NEXT TRIVIAこの雑学にうなった人は、これにもうなる