
恐竜がいた約7000万年前、地球の1日は約23時間半だった
7000万年前の1年は、372日あった。
もくじ
中東の国オマーンの山の中から、1個の貝の化石が見つかっていました。約7000万年前、まだ恐竜がいた時代に、浅く温かい海の底で暮らしていた貝です。今は山になっている場所が、当時は熱帯の海の底だったのです。
この貝は9年以上生きました。そして殻に、毎日1本ずつ細い層を残していました。2020年、ベルギーなどの研究チームが、その層をレーザーを使って数えました。1年分の層は、372本ありました。
1年の長さは、昔も今も変わりません。それなのに1年に372日あったのなら、1日は今より短かったことになります。研究チームの計算では、約7000万年前の1日は約23時間半でした。
この記事では、まず貝の殻の層を、どうやって1日ずつ数えたかを紹介します。次に、1日が短かった理由を、地球と月の関係から説明します。最後に、今も1日の長さが少しずつのびていることを、古い日食の記録から紹介します。
01オマーンの山で見つかった貝の殻には、1日に1本ずつ層ができていた
研究に使われたのは、トレイテス・サンチェジ(Torreites sanchezi)という貝です。厚歯二枚貝(ルディスト)と呼ばれる、今はいない二枚貝の仲間です。アメリカ地球物理学連合(AGU)の発表によると、厚歯二枚貝は白亜紀の終わりごろ、海の中にサンゴ礁のような地形を作る主役でした。今のサンゴがしている役目です。約6600万年前、鳥以外の恐竜がいなくなったのと同じ出来事で、厚歯二枚貝も姿を消しました。
研究したのは、ブリュッセル自由大学のニールス・デ・ウィンター(Niels de Winter)さんたちです。調べた殻は、オランダのマーストリヒト自然史博物館から借りたものでした。
殻の中には、1本の厚さが約0.04mmの細い層が、ずらりと並んでいました。1本の層は、暗い部分と明るい部分の組み合わせでできていました。デ・ウィンターさんたちは、この1組が1日の昼と夜に当たると考えました。
02レーザーで殻の成分を1日分につき4〜5か所ずつ測り、1年分の層を数えた
層はとても細い線です。研究チームは、レーザーで殻をほんの少しずつ削りとって、その成分を調べました。AGUの発表によると、この方法なら、顕微鏡を使って人が数えるより正確に層を数えられます。デ・ウィンターさんによると、1日あたり4〜5か所の値がとれたそうです。
殻にふくまれる物質の割合は、海の水温や水の成分で変わります。その割合は、夏と冬で上がったり下がったりします。この大きな波から、1年の区切りが分かりました。そして1日の中の小さな波から、1日の層を数えました。
論文は、3つの方法で1年の日数を数えています。
- 1日ごとの成分の波を数える方法:9年分を4種類の成分で数え、平均373日(誤差は前後12日)
- 1年の層の長さを、1日の層の長さで割る方法:346日
- 顕微鏡の写真で層を目で数える方法:338日
後の2つが少ないのは、殻のうち層がきれいに残っていたのが92%だけだったからです。残っていない部分を補うと、346日は376日に、338日は367日になりました。3つの方法を合わせた答えが、1年に372日です。論文は、1日の長さを23時間31分と計算しています。

03貝の殻の層は、潮の満ち引きではなく、昼と夜の違いでできていた
この貝の殻は、夜よりも昼に速く育っていました。殻の成分の変わり方は、季節ごとの差や潮の満ち引きの差よりも、1日の中の差のほうが大きかったのです。
研究チームは、この貝の体の中に、光で栄養を作る小さな生き物がすんでいたと考えています。今のシャコガイと同じしくみです。光が当たる昼には、すんでいる生き物がよく働くので、殻も速く育つと考えられます。
厚歯二枚貝にくわしいスケルトン(Skelton)さんは、AGUの記事の中で、この研究を「厚歯二枚貝の中に光で栄養を作る生き物がすんでいた」という考えを支える、初めてのはっきりした証拠だと評価しました。ただし、それはトレイテスについてだけ言えることで、厚歯二枚貝全体には広げられない、とも話しています。
貝が暮らした海は、とても温かでした。夏の水温は約40℃に達し、冬でも30℃をこえていたとみられています。貝が生きられる温度の限界に近い暑さでした。
041日が長くなってきたのは、月が起こす潮が地球の回転にブレーキをかけるから
1年の長さは、地球が太陽のまわりを1周する時間です。論文によると、この長さは地質の長い時間を通して変わっていません。変わったのは、地球が1回転する時間、つまり1日の長さのほうです。
AGUの発表によると、地球の回転にブレーキをかけているのは、海の潮です。月が海の水を引っぱって、潮の満ち引きが起きます。潮の満ち引きで動く海の水の摩擦が、地球の回転を少しずつ遅くするのです。
その一方で、月は潮の引っぱりで速さを得て、地球から少しずつ遠ざかります。今、月は1年に3.82cmずつ遠ざかっています。NASAによると、地球から月までの平均の距離は約38万4400kmです。
ただし、今の速さで昔にさかのぼると、約14億年前には月が地球の中に入ってしまいます。だから月が遠ざかる速さは、時代によって変わってきたはずだ、とAGUの発表は書いています。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
層が「1日」でできたと言えたのは、潮なら1日に2組の層ができるはずだから
貝の殻の層は、潮の満ち引きでできることもあります。潮の満ち引きは、ふつう1日に2回ずつ起きます。潮で殻が育つ貝では、1日に2組の層ができると考えられています。けれど、トレイテスの殻では、1日に1組でした。
もう1つの理由は、層のまとまり方です。トレイテスの殻では、層が約14本ずつと、約28本ずつのまとまりを作っていました。これは、潮の大きさが約14日ごとと約28日ごとにくり返す周期に当たります。この周期は、白亜紀から大きくは変わっていません。
層が潮でできたのか、昼と夜でできたのか。この区別が大事なのは、月を基準にした1日と、太陽を基準にした1日の長さが違うからです。月が同じ方向に見えるまでの時間は、今は平均24.84時間です。太陽を基準にした1日は24時間です。もし層が潮で決まっていたら、数えた日数は太陽の1日ではなくなってしまいます。
1年の日数が分かれば、当時の地球と月の距離も計算できる
論文は、地球物理学の教科書にある、地球と月の動きのモデルを使いました。潮のブレーキで地球の回転が遅くなると、その分だけ月は勢いを得て、地球から遠ざかります。この関係を使うと、1日の長さから地球と月の距離を計算できます。こうして出たのが、こぼれ話の約38万3000kmです。この値は、潮のブレーキを計算する、すでにある研究のモデルとも合っていました。
昔の化石の数え方や天文学の計算とも、372日は近かった
1年の日数を化石で数えたのは、この研究が初めてではありません。論文によると、1972年のパネラ(Pannella)は、いろいろな化石の1日の成長線から、白亜紀の終わりごろの1年を375日としました。天文学の計算(2004年のラスカールら)では、374.49日です。372日は、これらと近い値です。
この研究の新しさは、成分を細かく測って、1日の層を数える方法です。層を目で数えると、どうしても見落としが出ます。論文でも、目で数えた値は338日で、補う前は少なく出ていました。
なお、論文はこの貝が生きた時代を、白亜紀の「カンパニアン期」の後半としています。カンパニアン期は、約8360万〜7210万年前です。AGUなどの発表は、これを約7000万年前と書いています。
今も1日はのびていて、その速さは古い日食の記録で測られた
1日がのびるのは、昔の話だけではありません。2016年、スティーブンソン(F. R. Stephenson)らは、古い日食や月食の記録を集めました。紀元前720年から西暦1600年までの記録と、1600年から2015年までの月が星をかくす現象の記録です。
こうした記録を分析して、地球の回転の速さがどう変わってきたかを調べたのです。その結果、1日の長さは平均して100年に1.8ミリ秒ずつのびていました。潮のブレーキだけで計算すると、100年に2.3ミリ秒です。実際ののび方がそれより小さいことは、氷河期の厚い氷がとけたあとに地面がゆっくり持ち上がっていることなどで説明されています。
試しに、100年に1.8〜2.3ミリ秒のびる速さが7000万年続いたとしてみます。のびる時間は、合わせて約21〜27分です。貝の化石が示した「約30分短い」と、だいたい同じくらいの大きさです。ただし、月が遠ざかる速さと同じように、1日がのびる速さも時代によって変わってきたと考えられます。この計算は、大きさをくらべるための目安です。
05まとめ
約7000万年前、恐竜がいた時代の海で、トレイテスという二枚貝が毎日1本ずつ殻に層を残しました。その層をレーザーで細かく調べて数えると、1年は372日、1日は約23時間半でした。
1日が短かったのは、地球の回転が、月の起こす潮でゆっくりとブレーキをかけられてきたからです。そのブレーキは今もかかっていて、1日は100年に約2ミリ秒ずつのびています。恐竜は、今より30分ほど短い1日を、1年に372回くり返していたのです。
人に話すなら、こう言おう
恐竜がいた7000万年前って、1日が23時間半くらいしかなかったんだって。貝の化石に1日1本ずつ層があって、1年分を数えたら372本あったらしい。今も1日は100年で2ミリ秒くらいずつのびてるんだって。
英語で読む
When a Day Was Only 23 and a Half Hours
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
About 70 million years ago, dinosaurs still walked on the Earth.約7000万年前、地球ではまだ恐竜が歩いていました。 In a warm, shallow sea, a strange shellfish lived on the sea floor.温かく浅い海の底に、変わった貝がすんでいました。 Today, that sea floor is part of the mountains of Oman.その海の底は今、オマーンの山の一部になっています。
The shellfish lived for more than nine years.その貝は9年以上生きました。 Every day, it added one thin layer to its shell, a little like a tree ring.毎日、殻に薄い層を1本ずつ足していきました。木の年輪に少し似ています。 Each layer is only about 0.04 millimeters thick.1本の層の厚さは、約0.04mmしかありません。
In 2020, a team of scientists, mostly from Belgium, studied the shell.2020年、おもにベルギーの科学者からなるチームが、その殻を調べました。 They used a laser to take tiny samples from the layers.彼らはレーザーを使って、層からごく小さな試料をとりました。 The samples showed changes in the water from summer to winter, so the team could find each year.試料には夏から冬への水の変化が表れていたので、チームは1年ごとの区切りを見つけられました。 Then they counted the daily layers in one year.それから、1年の中にある1日ごとの層を数えました。 There were 372 of them.層は372本ありました。
The length of a year has not changed, because the Earth still goes around the Sun in the same time.1年の長さは変わっていません。地球は今も同じ時間で太陽のまわりを回っているからです。 So if one year had 372 days, each day was shorter.ですから、1年が372日あったのなら、1日1日は短かったことになります。 A day was only about 23 and a half hours long.1日は約23時間半しかありませんでした。
Why have days become longer?なぜ1日は長くなってきたのでしょう。 The Moon pulls on the oceans and makes tides.月は海を引っぱって、潮の満ち引きを起こします。 The moving water works like a brake, and the Earth spins a little more slowly every year.動く海の水がブレーキのように働き、地球の回転は毎年少しずつ遅くなります。 At the same time, the Moon moves about 3.8 centimeters farther away each year.同時に、月は毎年約3.8cmずつ遠ざかっています。 The dinosaurs had shorter days than we do.恐竜たちは、私たちより短い1日を過ごしていたのです。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B How a shell showed that days were once shorter
第2〜3段落で貝の殻の層を数えたこと、第4段落で1日が約23時間半だったことを述べているので正解はB。Cの木の年輪は第2段落でたとえとして出てくるだけ。
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Q2How many daily layers did the scientists find in one year?
科学者たちは、1年の中に1日の層を何本見つけましたか。
正解:D 372
第3段落5文目に There were 372 of them とあるので正解はD。365は今の1年の日数、9は貝が生きた年数。
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Q3Why do we know that each day was shorter?
1日が短かったと分かるのはなぜですか。
正解:C Because a year had more days but was the same length
第4段落1〜2文目で、1年の長さは変わらないので、1年が372日なら1日は短かったと説明しているので正解はC。
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Q4In paragraph 5, the word "brake" is closest in meaning to ...
第5段落の brake という語に最も意味が近いのはどれですか。
正解:A something that makes things slower
第5段落3文目で、ブレーキのように働いて the Earth spins a little more slowly と続くので、brake は「動きを遅くするもの」。正解はA。発音が同じ break(壊す)とまちがえないこと。
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Q5Which is true about the story?
この話の内容と合うのはどれですか。
正解:D The Moon is moving away from the Earth.
第5段落4文目に the Moon moves about 3.8 centimeters farther away each year とあるので正解はD。Bは逆。Cは第2段落の「9年以上生きた」と合わない。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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shellfish名詞貝、甲殻類
My father does not eat shellfish.
父は貝類を食べません。
💡 shell(殻)+ fish。カニやエビをふくむこともある。
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layer名詞層
The cake has three layers.
そのケーキは3層になっています。
💡 lay(置く)から。重ね着は layering。
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laser名詞レーザー
The doctor used a laser on my eye.
医者は私の目にレーザーを使いました。
💡 もとは長い英語の頭文字からできた語。
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sample名詞試料、見本
They took a sample of the river water.
彼らは川の水の試料をとりました。
💡 お店の「試供品」もサンプル。
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length名詞長さ
What is the length of this bridge?
この橋の長さはどれくらいですか。
💡 long(長い)の名詞形。width(幅)も一緒に覚える。
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tide名詞潮、潮の満ち引き
We can walk to the island at low tide.
潮が引いているときは、島まで歩いて行けます。
💡 high tide(満潮)、low tide(干潮)。
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brake名詞ブレーキ
She stepped on the brake.
彼女はブレーキを踏みました。
💡 break(壊す)と発音が同じ。つづりに注意。
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spin動詞回る、回転する
The top spins very fast.
こまはとても速く回ります。
💡 過去形は spun。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 30件)。
- de Winter, N. J. et al. (2020) Subdaily-Scale Chemical Variability in a Torreites Sanchezi Rudist Shell: Implications for Rudist Paleobiology and the Cretaceous Day-Night Cycle, Paleoceanography and Paleoclimatology 35:e2019PA003723doi.org
- Ancient shell shows days were half-hour shorter 70 million years ago(AGU, 2020年3月9日)news.agu.org
- Days were shorter in the past(ブリュッセル自由大学 VUB, 2020年3月16日)vub.be
- Stephenson, F. R., Morrison, L. V. & Hohenkerk, C. Y. (2016) Measurement of the Earth's rotation: 720 BC to AD 2015, Proceedings of the Royal Society A 472:20160404doi.org
- Earth's Moon: Facts(NASA)science.nasa.gov
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