カニカマは、人工クラゲを作ろうとした研究から生まれた
失敗から生まれたNo.005

カニカマは、人工クラゲを作ろうとした研究から生まれた

カニカマの機械は、漬物の機械の改造品。

うなり度 読む時間8分 出典6件 確認した事実26件
もくじ
  1. スギヨがはじめに作ろうとしていたのは、人工クラゲだった
  2. 失敗した人工クラゲを刻んで食べたら、カニの身にそっくりだった
  3. 「かにあし」は、初めは問屋に相手にされなかったが、2か月ほどで大ヒットした
  4. カニカマの作り方には、「刻む」方式と「めんのように切る」方式がある
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1972年、石川県七尾市の水産加工会社スギヨが、カニ風味のかまぼこ「かにあし」を売り出しました。カニ風味のかまぼことしては、世界で初めての商品です。会社の記念ページによると、このとき使った製造機は、漬物の機械や和菓子の機械を改良したものでした。カニカマのためにゼロから作った機械ではなかったのです。

しかも、開発チームがもともと作ろうとしていたのは、カニではなく「人工クラゲ」でした。会社の説明では、カニカマ(かに風味かまぼこ)は、人工クラゲ作りがうまくいかなかったときの試作品から生まれました。

今ではカニカマは、海外でも広く食べられています。英語を話す国やヨーロッパの国々では、「SURIMI(すり身)」という日本語の名前でも呼ばれています。カニカマが世界に広がったのには、北海道の研究所で起きた、冷凍すり身についての偶然の発見も関係しています。

この記事では、まず人工クラゲの研究がどうしてカニカマに変わったのかを紹介します。次に、カニカマが売れ始めるまでと、2通りの作り方を説明します。最後に、すり身が固まる仕組みと、カニカマが世界に広がった理由を、会社の資料と論文をもとにたどります。

01スギヨがはじめに作ろうとしていたのは、人工クラゲだった

スギヨの「商品開発秘話」によると、話は珍味(お酒のつまみなどにする、めずらしい食べ物)に使うクラゲから始まります。珍味を作る会社は、原料のクラゲを中国からの輸入に頼っていました。ところが1960年代の後半、中国との関係が悪くなって、クラゲの輸入が止まりました。そこで、クラゲの代わりになるものが、急いで求められたのです。

1970年、スギヨは研究所で人工クラゲの開発を始めました。材料は、アルギン酸と、卵白と、塩化カルシウムです。アルギン酸は、海藻から取れる、粘りのある成分です。アルギン酸には、カルシウムに触れると固まる性質があります。この性質を使って、クラゲに近い食感を作ることには成功しました。

ところが、味をつけるために調味料を加えると、食感がまったく別の物になってしまいました。会社の記念ページには、どうやっても最後の最後でうまくいかなかった、と書かれています。

02失敗した人工クラゲを刻んで食べたら、カニの身にそっくりだった

開発がうまくいかずに困っていたとき、開発チームは試作品を刻んで食べてみました。すると、その食感がカニの身にそっくりだったのです。

そこで、当時専務だった杉野芳人は、開発の方向を変えました。人工クラゲは、味をつけると食感がくずれてしまいます。それなら、会社の本業である蒲鉾(かまぼこ)を材料にすればよいと考えたのです。かまぼこなら、味をつけても形と弾力を保てます。こうして、人工クラゲの開発は、人工のカニ肉の開発へと切り替わりました。開発の中心になったのは、杉野と、開発主任の清田稔たちでした。

清田は、すり身の研究に加えて、製造機を作る仕事も担当しました。最初に書いたとおり、その機械は、漬物の機械や和菓子の機械を改良して作ったものです。

スギヨの年表には、1972年の「かにあし」はアルギン酸などを使った製品だったと書かれています。人工クラゲの研究で使ったアルギン酸が、最初のカニカマにも使われていたことになります。

弾力のあるかまぼこを、細い繊維のように切ると、カニの身のような食感になる。食感を変えたのは味ではなく「切り方」だった。
弾力のあるかまぼこを、細い繊維のように切ると、カニの身のような食感になる。食感を変えたのは味ではなく「切り方」だった。

03「かにあし」は、初めは問屋に相手にされなかったが、2か月ほどで大ヒットした

1972年、「かにあし」は東京の築地市場に出されました。でも、問屋の反応は冷たいものでした。問屋とは、店に品物をおろす商人のことです。スギヨの開発秘話によると、ほとんどの問屋は「刻んだ蒲鉾なんか売れない」と言って、相手にしなかったそうです。「かにあし」を買い取ったのは、一社だけでした。

ところが、売り出されると、「かにあし」はすぐに話題になりました。2か月ほどで、爆発的に売れ始めたといいます。「かにあし」を積んだトラックが市場につくと、業者が奪い合うほどだったそうです。

1974年には、広島の大崎水産が「カニスティック」を発売しました。ほかにも、カニ風味のかまぼこを作る会社がいっきに増えました。1981年には、水産練製品(魚のすり身で作る食品)の統計に、「かに風味」という項目ができるほどになりました。

カニカマを本物のカニと間違えて買う人が出ないように、宣伝の言葉やパッケージにも工夫が必要でした。1981年の12月には、産経新聞が、本物に似せて作る「コピー食品」を特集しています。

04カニカマの作り方には、「刻む」方式と「めんのように切る」方式がある

鈴廣蒲鉾工業の岡田稔は、1987年に書いた解説で、カニカマの作り方は2通りあると説明しています。

1つめは、スギヨが1970年ごろに始めた「刻み方式」です。まず、弾力のある厚い板のようなかまぼこを作ります。それを、細い繊維のように刻みます。刻んだ幅は0.25〜3ミリで、切り口の面積は2.25平方ミリ以下です。そこに、つなぎのすり身を混ぜて棒の形にし、加熱して固めます。

2つめは、広島の大崎水産が1973年ごろに始めた「製麺方式」です。まず、すり身を厚さ12ミリ、幅15センチほどの帯の形にして加熱します。次に、くしのように刃が並んだ機械で、その帯を0.25ミリの幅に細く切ります。うどんやそばを作るときと同じやり方です。最後に、細く切ったものを棒の形にたばね、表面に赤いすり身を塗って固めます。

岡田は解説の中で、こう書いています。弾力の強いかまぼこを、繊維の形や薄い片に刻むと、性質がまったく変わってくる。これはとても興味深い現象だ、と。同じかまぼこでも、切り方しだいで、カニにもホタテにもなるのです。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

すり身は、塩を加えてねかせると、加熱する前から固まり始める

かまぼこの材料のすり身とは、もともとは、魚の身に食塩を加えてすりつぶしたペーストのことです(岡田1987)。魚の身に塩を加えてすりつぶすと、粘りのあるペーストになります。

このとき大事な役目をするのが、筋原線維たんぱく質です。筋肉を縮める働きをするたんぱく質のことで、その一つにミオシンがあります。

すり身のペーストを、低めの温度で置いておくと、加熱する前から少しずつ固まり始めます。この変化を「坐り(すわり)」と呼びます。福田裕の2013年の解説によると、スケトウダラのすり身が坐るのは、ミオシンの分子どうしがつながって大きくなるからです。

関伸夫らは、1990年の研究で、次の3つのことを示しました。

  • スケトウダラの肉とすり身には、トランスグルタミナーゼという酵素(化学反応を進める働きをするたんぱく質)がある。
  • この酵素は、ミオシンの鎖どうしをつなぐ反応を進める。
  • この酵素が働くには、カルシウムが必要である。

たんぱく質の鎖が網の目のようにつながると、その中に水を抱え込んで、弾力のあるゲルになります。ゲルとは、ゼリーのように固まった状態のことです。このゲルが、かまぼこの弾力のある歯ごたえのもとです。

冷凍すり身の作り方も、偶然の発見から生まれた

カニカマが世界に広がったのは、冷凍すり身が発明されていたからです。岡田によると、スケトウダラは鮮度が落ちやすい魚でした。そのまま凍らせると、たんぱく質の性質が変わってしまい、かまぼこを作れなくなったといいます。

1950年代の後半、北海道水産試験場の西谷喬助らのグループは、スケトウダラを練り製品に使う研究をしていました。あるとき、実験で残った「砂糖入りの塩ずり身」を、たまたま冷凍しておきました。それを加熱してみると、弾力のあるゲルができたのです。

この発見から、冷凍すり身の作り方の基本が決まりました。新鮮な魚を選ぶ。身を水にさらして、よく洗う。砂糖などを加える。こうすれば、長い間凍らせておいても、かまぼこを作れるのです。福田によると、砂糖などの糖類が水の分子の並び方を安定させ、そのおかげでたんぱく質が守られていると考えられています。

冷凍すり身の発明は、漁業の様子も大きく変えました。福田の解説では、スケトウダラが取れた量は、1959年には37万トンでした。それが、1971年には300万トンに達しています。カニカマは、人工クラゲの失敗と冷凍すり身の発見という、2つの偶然が重なってできた食べ物なのです。

「SURIMI」は、世界で通じる言葉になった

岡田によると、SURIMIを紹介した最初の論文は、1973年にアメリカで出されました。1980年代には、アメリカの水産局や食品医薬品局(FDA)も、公式の文書でこの言葉をよく使っていたといいます。

アメリカで最初にカニカマが作られたのは、1981年、ロサンゼルスの工場です。今、アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、スケトウダラから作る製品の4分の1が「すり身(カニカマ)」だと説明しています。

英語の surimi は、日本語のもとの意味である「塩とすりつぶした魚の身」よりも、広い意味の言葉になりました。カニカマのような製品そのものを、surimi と呼ぶことも多いのです。

カニカマの始まりは、資料によって1972年と1975年に分かれる

岡田の1987年の解説では、日本でカニカマを商売として作り始めたのは、1975年ごろとされています。一方、スギヨは、1972年に「かにあし」を発売したと説明しています。

最初に少しだけ売り出した年と、工場で本格的に大量に作り始めた年。どちらを「始まり」と数えるかで、年が変わってくるのかもしれません。

日本からのカニカマの輸出は、1978年の400トンから始まりました。1985年には3万9千トンになり、日本で作ったカニカマの半分以上が海外に出ていきました。始まりの年は資料によってずれます。けれど、10年ほどで世界の食べ物になったことは、どの資料でも一致しています。

05まとめ

1970年、石川県のスギヨは人工クラゲの開発を始めました。しかし、人工クラゲは、味をつけると食感がくずれてしまいました。そんなとき、刻んだ試作品を食べてみると、カニの身に似た食感でした。そこでスギヨは、本業のかまぼこを材料にして、人工のカニ肉を作ることにしました。そして、漬物と和菓子の機械を改良した製造機を使って、1972年に「かにあし」が生まれました。

カニカマが世界に広がった背景には、北海道で偶然見つかった冷凍すり身の技術がありました。次にカニカマを食べるときは、縦に細くさいてみてください。細い繊維がたばになっているのが見えます。製麺方式で作ったカニカマなら、その1本の幅は0.25ミリほどです。

人に話すなら、こう言おう

カニカマって、石川県の会社が人工クラゲを作ろうとして失敗したところから生まれたんだって。しかも最初の製造機は、漬物と和菓子の機械を改造して作ったらしいよ。
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英語で読む

The Jellyfish That Became a Crab

CEFR A2221 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In 1970, a fish food company in Ishikawa, Japan, started a strange project.1970年、日本の石川県にある水産加工の会社が、変わった計画を始めました。 The company, Sugiyo, wanted to make fake jellyfish.その会社スギヨは、人工のクラゲを作りたいと考えたのです。 Real jellyfish came from China, but the imports had stopped.本物のクラゲは中国から来ていましたが、輸入が止まっていました。

The team used a material from seaweed, egg whites, and calcium.チームは、海藻からとれる材料と卵白とカルシウムを使いました。 The texture was close to real jellyfish.食感は本物のクラゲに近いものでした。 But when they added flavor, the texture changed completely.ところが味をつけると、食感がすっかり変わってしまいました。 The project was failing.計画は失敗しかけていました。

Then the team cut the test food into small pieces and tasted it.そのときチームは、試作品を細かく刻んで食べてみました。 It felt just like crab meat!それはまるでカニの身のような食感でした。 So they changed their plan and used kamaboko, a Japanese fish cake, instead.そこで彼らは計画を変え、かわりに日本の魚のねり物であるかまぼこを使いました。 To make them, they changed machines for pickles and Japanese sweets.それを作るために、漬物や和菓子を作る機械を改良しました。

In 1972, the company started to sell the first crab sticks.1972年、会社は最初のカニカマを売り始めました。 At first, most sellers at the Tokyo fish market said, "Nobody will buy chopped fish cake."最初、東京の魚市場のほとんどの問屋は「刻んだかまぼこなんて誰も買わない」と言いました。 But in about two months, the sticks sold very well.でも2か月ほどで、カニカマはとてもよく売れるようになりました。 When trucks full of the sticks arrived at the market, buyers fought over them.カニカマを積んだトラックが市場に着くと、業者たちが奪い合いました。 Soon other companies made them too, and Japan sent them to many countries.まもなくほかの会社も作るようになり、日本はたくさんの国へ輸出しました。

Today, people in Europe often call these sticks surimi.今日、ヨーロッパの人々は、このカニカマをよく「スリミ」と呼びます。 In Japanese, surimi means fish meat mixed with salt.日本語では、すり身は塩とまぜた魚の身のことです。 Frozen surimi was first made in Hokkaido in the late 1950s.冷凍すり身は、1950年代後半に北海道で初めて作られました。 In the United States, about one quarter of pollock products become surimi.アメリカでは、スケトウダラの製品のおよそ4分の1がすり身になります。 A failed jellyfish turned into a food for the whole world.失敗したクラゲが、世界中の食べ物になったのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the company start to sell the first crab sticks?

    会社が最初のカニカマを売り始めたのはいつですか。

  3. Q3Why did the team stop making fake jellyfish?

    チームはなぜ人工クラゲ作りをやめたのですか。

  4. Q4In paragraph 2, the word "texture" is closest in meaning to

    第2段落の "texture" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • jellyfish名詞
    クラゲ

    We saw a big jellyfish at the beach.

    浜辺で大きなクラゲを見た。

    💡 jelly(ゼリー)+ fish(魚)。でも魚ではない。複数形も jellyfish。

  • fake形容詞
    にせの、人工の

    This is a fake flower, not a real one.

    これは本物ではなく造花だ。

    💡 fake news(フェイクニュース)でおなじみ。反対は real。

  • import名詞
    輸入、輸入品

    Japan depends on imports of oil.

    日本は石油の輸入に頼っている。

    💡 im-(中へ)+ port(運ぶ)。反対は export(輸出)。

  • seaweed名詞
    海藻

    Nori is a kind of seaweed.

    のりは海藻の一種だ。

    💡 sea(海)+ weed(雑草)。数えられない名詞。

  • texture名詞
    食感、手ざわり

    I like the soft texture of this bread.

    このパンのやわらかい食感が好きだ。

    💡 食べ物にも布や紙にも使う。textile(織物)と同じ語源。

  • flavor名詞
    味、風味

    Which flavor of ice cream do you want?

    どの味のアイスクリームがいい?

    💡 アメリカつづり。イギリスでは flavour。

  • chop動詞
    細かく刻む

    Chop the onion into small pieces.

    玉ねぎを細かく刻みなさい。

    💡 chopped は「刻んだ」。chopsticks(はし)とは語源が別。

  • quarter名詞
    4分の1

    A quarter of the class walks to school.

    クラスの4分の1が歩いて通学している。

    💡 a quarter past five で「5時15分」。アメリカの25セント硬貨も quarter。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. カニカマ「商品開発秘話」(株式会社スギヨ公式)sugiyo.co.jp
  2. カニカマ誕生50周年「Mr.Kanikama」(株式会社スギヨ公式)sugiyo.co.jp
  3. 岡田稔 (1987) SURIMIとかまぼこ, 化学と生物 25(8)doi.org
  4. 福田裕 (2013) 利用・加工技術, 日本水産学会誌 79(1)doi.org
  5. Seki, N. et al. (1990) Transglutaminase activity in Alaska pollack muscle and surimi, and its reaction with myosin B, 日本水産学会誌 56(1)doi.org
  6. Alaska Pollock(NOAA Fisheries, 米国海洋大気庁)fisheries.noaa.gov

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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