粘土の「プレイ・ドー」は、もともと壁紙の汚れ落としだった
失敗から生まれたNo.004

粘土の「プレイ・ドー」は、もともと壁紙の汚れ落としだった

プレイ・ドーの元は、壁紙の汚れ落とし。

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もくじ
  1. 会社をたたむために送りこまれた男が、会社を世界一の壁紙クリーナーメーカーにした
  2. 石炭で暖房する家が減ると、壁紙クリーナーはいらなくなった
  3. 幼い子どものクラスの先生が、壁紙クリーナーを粘土に使うことを思いついた
  4. テレビ番組の司会者は、プレイ・ドーを番組で紹介して、その売上の2%を受け取った
  5. プレイ・ドーの特許には、小麦粉・水・塩・灯油の割合と作り方が書かれている
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

1965年1月26日に、アメリカである粘土の特許が登録されました。その特許の材料の欄には、小麦粉、水、塩と並んで、「灯油(においを取ったもの)0.5〜5%」と書かれています。特許の説明によると、灯油は粉の粒の周りに薄い膜を作ります。粘土をべたつかせず、なめらかな手ざわりにするための材料でした。

この粘土が、今も世界中の子どもが遊んでいる「プレイ・ドー」(ハズブロ社の登録商標)です。プレイ・ドーのもとになったのは、壁紙についた汚れをふき取る「壁紙クリーナー」でした。

壁紙クリーナーが売れなくなったのは、アメリカの家から石炭の暖房が消えていったからです。この記事では、まず壁紙クリーナーを作っていた会社と、商品が売れなくなった理由を紹介します。次に、壁紙クリーナーが子どもの粘土として売り出されるまでを見ていきます。最後に、特許に書かれた材料の役目を説明します。もとの会社の沿革、特許、国勢調査の数字をもとにたどります。

01会社をたたむために送りこまれた男が、会社を世界一の壁紙クリーナーメーカーにした

プレイ・ドーを生んだのは、クトール(Kutol)社です。1912年に、ケンタッキー州でできた会社です。クトール社の公式の沿革によると、初めは手を洗うための粉のクリーナーなどを売っていました。のちに、会社はオハイオ州シンシナティに移りました。

1927年、クレオ・マクヴィッカー(Cleo McVicker)という人が、この会社に送りこまれました。会社を整理する、つまり会社をたたむためでした。ところがクレオは、反対に会社を立て直し、自分で会社を買い取ってしまいました。そして、スーパーマーケットのクローガー社と、壁紙クリーナーを作る約束を結びました。

スミソニアン協会の雑誌によると、クトール社は20世紀の前半に、世界で一番大きな壁紙クリーナーのメーカーになりました。当時のアメリカでは、多くの家が石炭を燃やして部屋を暖めていました。石炭を燃やすと、すすが出て、壁紙が黒く汚れます。その汚れをきれいにするのが、壁紙クリーナーの役目でした。

02石炭で暖房する家が減ると、壁紙クリーナーはいらなくなった

アメリカ国勢調査局の統計を見てみます。1940年には、55%の家が暖房に石炭やコークスを使っていました。コークスは、石炭を蒸し焼きにして作る燃料です。その割合は、10年ごとに大きく減っていきました。1970年には2.9%、2000年には0.1%です。代わりに広がったのは、ガスや石油、電気の暖房でした。1970年には、ガスで暖房する家が半分をこえています。

スミソニアンの雑誌は、こう書いています。暖房が、石炭から、よりきれいな石油・ガス・電気へと変わった。そのため、壁紙クリーナーを欲しがる人が減った、と。すすが出なければ、壁紙もそれほど汚れません。壁紙クリーナーの質が悪くなったわけではありません。壁紙クリーナーを使う場面そのものが、なくなったのです。

このころ、苦しくなった会社を立て直そうとしていたのは、ジョセフ・マクヴィッカー(Joseph McVicker)でした。マクヴィッカー家の一人です。

石炭のすすで汚れた壁紙をきれいにする。これが壁紙クリーナーの仕事だった。
石炭のすすで汚れた壁紙をきれいにする。これが壁紙クリーナーの仕事だった。

03幼い子どものクラスの先生が、壁紙クリーナーを粘土に使うことを思いついた

壁紙クリーナーを粘土に使うことを思いついた先生は、ケイ・ズファール(Kay Zufall)という人です。ジョセフの義理の姉妹にあたります。スミソニアンの雑誌によると、ズファールは幼い子どものクラスの先生でした。ズファールは、壁紙クリーナーを工作に使えるという記事を読み、クラスの子どもたちに使わせてみたそうです。子どもたちは、喜んで遊びました。

ズファールは、商品の名前も変えるように勧めました。「プレイ・ドー」という名前は、ズファールと夫のロバートが考えたとされています。クトール社の沿革にも、こう書かれています。1956年に、ズファールが自分のクラスに「モデリング粘土」として紹介した。そして、子会社のレインボー・クラフツ社が、プレイ・ドーとして作った、と。

最初にプレイ・ドーを店に並べたのは、ワシントンの百貨店でした。1956年に売り出したときは、色は白だけでした。まもなく、赤・青・黄の色が加わりました。

04テレビ番組の司会者は、プレイ・ドーを番組で紹介して、その売上の2%を受け取った

プレイ・ドーの宣伝には、子ども向けのテレビ番組が使われました。スミソニアンの雑誌によると、1958年に人気番組『キャプテン・カンガルー』でテレビ広告が流れると、売上が大きく伸びました。

番組の司会者のボブ・キーシャンは、週に2回、番組でプレイ・ドーを紹介しました。そのお礼に、キーシャンは売上の2%を受け取りました。この約束について、契約書は一度も作られませんでした。それでも、この約束は何年も続いたといいます。

05プレイ・ドーの特許には、小麦粉・水・塩・灯油の割合と作り方が書かれている

1965年に登録された特許の発明者は、2人です。ノア・マクヴィッカー(Noah McVicker)と、ジョセフ・マクヴィッカーです。特許には、材料の割合と作り方が詳しく書かれています。

主な材料は、小麦粉かライ麦粉、水、塩、そして灯油です。必要なときは、ミョウバンとホウ砂も加えます。ミョウバンは材料をまとめるため、ホウ砂は水気を取ってカビを防ぐために入れます。

作り方は、粉と塩に、93〜104℃ほどの熱い湯を加えて混ぜるというものです。こうすると、小麦粉が「糊化(こか)」します。糊化とは、でんぷんが水を吸って、のりのようになることです。特許には、混ぜたものが少なくとも約68℃にならなければいけない、と温度まで決められています。

特許には、この粘土は机やじゅうたん、服、手を汚さないと書かれています。ふたをしっかりしめておけば、最大3年やわらかいままだそうです。また、食べることは勧めないが、子どもがうっかり一かけら飲みこんでも害はない、という一文もあります。

なお、スミソニアンの雑誌によると、今のプレイ・ドーの材料は、小麦粉・水・塩・ホウ砂・鉱物油です。材料は昔からほとんど変わっていないとされています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

暖房の技術が変わったことで、壁紙クリーナーを買う人がいなくなった

壁紙クリーナーが売れなくなった話は、経営学の考え方で説明することもできます。経営学者のタッシュマンとアンダーソンは、1986年の論文で「技術の不連続」について論じました。技術の不連続とは、ある技術が、まったく別の新しい技術に大きく入れ替わることです。2人の論文は、そうした入れ替わりが、会社を取りまく状況をどう変えるかを調べたものです。

ここで大事なのは、壁紙クリーナーそのものの技術は、何も変わっていないということです。変わったのは、家を暖める技術でした。暖房が石炭からガスや石油、電気に変わると、すすが減りました。すると、すすを落とす商品を買う人も減りました。国勢調査局の数字では、石炭・コークスで暖房する家は、30年で55%から2.9%に減っています。クトール社の商品とは関係のないところで起きた技術の変化が、売上に大きく響いたのです。

クトール社は、同じ材料と工場を使って、まったく別の客に売ることにしました。客は、家のそうじをする大人から、幼い子どもに変わりました。商品を使う理由も、汚れを落とすことから、形を作って遊ぶことに変わりました。商品の中身を少し変えるだけで、使い道をまるごと入れ替えたのです。

クトール社は、そのあとも主な商品を変えていきました。同社の沿革によると、1966年からは、液体せっけんやローションを主に作るようになりました。今は、手洗いに使う製品を作る会社になっています。壁紙クリーナーの会社が、粘土の会社をへて、ハンドソープの会社になったわけです。周りの技術や暮らしが変わるたびに、主な商品を何度も入れ替えてきた会社の例だといえます。

小麦粉ののりに灯油の膜をつけると、べたつかない粘土になる

プレイ・ドーの形を作っているのは、小麦粉に含まれるでんぷんです。でんぷんの粒は、水と一緒に熱くすると、水を吸って膨らみ、粘りのあるのりのようになります。これが糊化です。特許には、約68℃以上という温度を決めているのは、糊化を確実に起こすためだと書かれています。

ただ、のりのままでは、手にべたべたくっついてしまいます。そこで使われるのが灯油です。特許によると、灯油は粒の周りに薄い膜を作り、べたつかない、ビロードのようななめらかさを生みます。灯油が少なすぎるとべたつき、多すぎると油っぽく滑りやすくなります。つまり灯油は、のりと手の間に入って、滑りをよくする役目でした。今の材料に鉱物油が入っているのも、同じ役目だと考えられます。

塩は、特許では「水に溶ける増量剤」と呼ばれています。増量剤とは、全体の量を増やすための材料です。ホウ砂はカビを防ぎ、ミョウバンは全体を一つの塊にまとめます。台所で作る小麦粉粘土と似た材料でも、売り物として何年も品質を保つために、一つ一つの材料に役目があったのです。

プレイ・ドーの特許を出した年は、資料によって違う

スミソニアンの雑誌は、ジョセフが1956年に特許を出願したと書いています。ところが、特許の書類そのものを見ると、登録された特許の出願日は1960年5月17日です。書類には、この出願は1958年5月19日の出願を引きついだもので、1958年の出願はとり下げられた、とも書かれています。1956年の出願があったことは、書類では確かめられませんでした。

あとから書かれた紹介文の中で、発売の年(1956年)と特許を出願した年が、混ざってしまった可能性があります。書類に書かれた日付と、記事の中の年を分けて読むと、よく知られた話の細かいところが、少し違って見えてきます。

06まとめ

プレイ・ドーのもとは、石炭のすすで汚れた壁紙をきれいにするクリーナーでした。アメリカの家の暖房は、石炭からガスや石油、電気に変わりました。石炭で暖房する家が55%から2.9%に減るなかで、壁紙クリーナーは売れなくなりました。その壁紙クリーナーを、幼い子どものクラスの先生だったズファールが、子どもの粘土として使うことを思いついたのです。

もとになったクトール社は、今もオハイオ州に本社があります。そして、ハンドソープや手指の消毒剤など、手洗いに使う製品を作っています。プレイ・ドーのふたを開けて香りをかいだら、それが2018年に商標になった「におい」だということを思い出してみてください。

人に話すなら、こう言おう

プレイ・ドーって、もとは壁紙の汚れを取るクリーナーだったんだって。石炭ストーブが減って売れなくなったのを、先生のアイデアで粘土にしたらしい。特許の材料には灯油まで書いてあるよ。
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英語で読む

From Dirty Walls to Happy Hands

CEFR A2214 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In the early 1900s, many American homes were warmed by coal.1900年代の前半、アメリカの多くの家は石炭で暖められていました。 Coal fires made black dirt, and the dirt stuck to the walls.石炭の火は黒いすすを出し、そのすすが壁にこびりつきました。 An American company called Kutol sold a cleaner for this dirty wallpaper.アメリカのクトールという会社が、この汚れた壁紙のためのクリーナーを売っていました。 For a time, it was the biggest wallpaper cleaner maker in the world.一時は、世界でいちばん大きな壁紙クリーナーのメーカーでした。

Then homes changed.ところが、家が変わりました。 In 1940, 55 percent of American homes used coal for heat.1940年には、アメリカの家の55パーセントが暖房に石炭を使っていました。 By 1970, only 2.9 percent did.1970年には、それがたった2.9パーセントになりました。 People used gas, oil, and electricity instead, so the walls did not get as dirty.人々はかわりにガスや石油、電気を使うようになり、壁はそれほど汚れなくなったのです。 Fewer people needed the cleaner.クリーナーを必要とする人は減りました。

Kay Zufall, a teacher of young children, had an idea.幼い子どもたちの先生だったケイ・ズファールが、あるアイデアを思いつきました。 She read that the cleaner was good for making shapes.彼女は、そのクリーナーが形を作るのに向いていると読んだのです。 Her students tried it and loved it.生徒たちが試してみると、大喜びしました。 She and her husband even gave it a new name, Play-Doh.彼女と夫は、新しい名前まで考えました。それが「プレイ・ドー」です。 It went on sale in 1956, and at first it came only in white.それは1956年に発売され、最初は白い色だけでした。

The 1965 patent for Play-Doh lists flour, water, salt, and a little kerosene.1965年に登録されたプレイ・ドーの特許には、小麦粉、水、塩、そして少しの灯油が書かれています。 The kerosene made a thin coat around the tiny pieces of flour, so the dough was not sticky.灯油は小麦粉の小さな粒のまわりに薄い膜を作り、生地がべたつかないようにしました。 A TV host talked about it on his show and got 2 percent of the sales without a contract.あるテレビの司会者は番組でそれを紹介し、契約書なしで売上の2パーセントを受け取りました。

The old company still exists.元の会社は今もあります。 Today, Kutol makes hand soap.今、クトールはハンドソープを作っています。 And in 2018, the smell of Play-Doh became a trademark in the United States.そして2018年、プレイ・ドーのにおいはアメリカで商標になりました。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2In 1970, how many American homes used coal for heat?

    1970年に、暖房に石炭を使っていたアメリカの家はどれくらいでしたか。

  3. Q3Why did fewer people buy the wallpaper cleaner?

    壁紙クリーナーを買う人が減ったのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 4, the word "contract" is closest in meaning to

    第4段落の "contract" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about Play-Doh?

    プレイ・ドーについて正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • coal名詞
    石炭

    Trains used to run on coal.

    列車は昔、石炭で走っていた。

    💡 数えられない名詞。a piece of coal で「石炭ひとかけら」。

  • wallpaper名詞
    壁紙

    We put new wallpaper in my room.

    私の部屋に新しい壁紙を貼った。

    💡 wall(壁)+ paper(紙)。スマホの待ち受け画面も wallpaper。

  • cleaner名詞
    クリーナー、洗剤、掃除する人

    This cleaner removes oil from the kitchen floor.

    このクリーナーは台所の床の油を落とす。

    💡 clean(きれいにする)+ -er(もの・人)。vacuum cleaner は「掃除機」。

  • instead副詞
    そのかわりに

    I didn't have tea. I had coffee instead.

    紅茶は飲まず、かわりにコーヒーを飲んだ。

    💡 instead of ~ で「~のかわりに」。

  • kerosene名詞
    灯油

    Some heaters burn kerosene.

    灯油を燃やすストーブもある。

    💡 アメリカ英語。イギリス英語では paraffin とも言う。

  • sticky形容詞
    べたべたする、ねばねばする

    My hands are sticky after eating the candy.

    あめを食べたあと手がべたべただ。

    💡 stick(くっつく)+ -y。sticky note は「付箋」。

  • contract名詞
    契約、契約書

    The player signed a contract with the team.

    その選手はチームと契約を結んだ。

    💡 sign a contract で「契約にサインする」。

  • trademark名詞
    商標

    The company protects its name with a trademark.

    その会社は商標で自社の名前を守っている。

    💡 名前やマークだけでなく、色やにおいが商標になることもある。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 26件)。

  1. Kindy, D. (2019) The Accidental Invention of Play-Doh, Smithsonian Magazinesmithsonianmag.com
  2. Kutol's Story(Kutol Products Company 公式沿革)kutol.com
  3. McVicker, N. W. & McVicker, J. S. US Patent 3,167,440 "Plastic modeling composition of a soft, pliable working consistency"(1965)patents.google.com
  4. Historical Census of Housing Tables: House Heating Fuel(米国勢調査局)census.gov
  5. Tushman, M. L. & Anderson, P. (1986) Technological Discontinuities and Organizational Environments, Administrative Science Quarterly 31(3)doi.org

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