
はやぶさ2が持ち帰った砂のアミノ酸は、生き物と関係なくできたと考えられている
リュウグウの砂のアミノ酸は、右手型と左手型がほぼ半々。
もくじ
2020年12月6日、オーストラリア南部のウーメラという地域に、小さなカプセルが落ちてきました。日本の探査機「はやぶさ2」が切り離したカプセルです。中には、小惑星リュウグウで集めた黒い砂が入っていました。
その砂から、アミノ酸が見つかりました。アミノ酸は、生き物の体をつくるたんぱく質の材料です。
でも、大事なのは、アミノ酸があったことだけではありません。アミノ酸の多くの種類には、鏡に映したような2つの型があります。リュウグウの砂では、その2つの型が、ほぼ同じ量ずつ入っていたのです。そのため、このアミノ酸は、生き物と関係なくできたものだと考えられています。
この記事では、まず、砂がどれほど大切に扱われたかを紹介します。次に、砂から何がどれくらい見つかったかを見ます。最後に、2つの型の量からなぜ「生き物と関係ない」と言えるのかを説明します。
01はやぶさ2が持ち帰った砂は約5.4グラムで、地球の空気に触れないように扱われた
リュウグウは、地球の近くを回る小惑星です。暗い色の「C型」と呼ばれる種類で、水を含んだ鉱物が多いのが特徴です。
はやぶさ2は、リュウグウに2回着地して、砂を集めました。1回目は、表面の砂だと考えられています。2回目は、はやぶさ2が装置をぶつけて作った穴(人工のクレーター)の近くで集めました。この2回目の砂には、地下から飛び出した砂が含まれていると考えられています。
JAXAなどの研究チームの論文によると、集めた砂は合わせて約5.4グラムでした。1回目の砂が約3.2グラム、2回目の砂が約2.0グラムです。
砂の容器は、地球に落ちたあと、神奈川県相模原市にあるJAXAの施設へ運ばれました。容器は、空気を抜いた部屋(真空の部屋)の中で開けられました。その後も、砂は真空の中か、きれいにした窒素の中だけで扱われました。地球の空気に触れさせないためです。
02リュウグウの砂から、15種類のアミノ酸が見つかった
2023年2月、九州大学などの、日本・アメリカ・ヨーロッパの研究チームが、科学雑誌サイエンスに論文を発表しました。チームは、1回目に集めた表面の砂から、水やメタノールなどの液体で、溶け出す物質を取り出しました。
その液体を、分子の重さを細かく量る装置(質量分析計)で調べると、炭素を含む物質(有機物)が約2万種類見つかりました。そして、アミノ酸を調べる2つの方法で、合わせて15種類のアミノ酸を見つけました。
15種類の中には、地球の生き物がたんぱく質に使うアミノ酸がありました。グリシン、アラニン、バリンなどです。一方で、地球の生き物がたんぱく質に使わないアミノ酸もありました。ベータアラニンやイソバリンなどです。名古屋大学の発表によると、見つかったアミノ酸の多くは、たんぱく質に使われない種類でした。
リュウグウの砂のアミノ酸は、これより前にも見つかっていました。2022年6月には、岡山大学のチームが、2回目の着地で集めた砂粒から、少なくとも23種類のアミノ酸を見つけたと論文で発表しています。サイエンスの論文の15種類とは、調べた砂粒も調べ方も違います。
03アミノ酸の量は、砂1グラムの中に10億分の数グラムほどしかなかった
見つかったアミノ酸の量は、とても少ないものでした。名古屋大学の発表によると、多くのアミノ酸は、量が「数ppb」でした。ppbは「10億分の1」という意味です。砂1グラムの中に、10億分の数グラムしかない計算になります。
この量は、地球に落ちてきた隕石(いんせき)と比べても少なめでした。例えば、1969年に落ちたマーチソン隕石には、いろいろなアミノ酸が多く含まれています。リュウグウの砂のアミノ酸は、その量よりはるかに少なかったのです。リュウグウに近い種類の隕石(オルゲイユ隕石)と比べても、少なめでした。
04鏡に映したような2つの型のアミノ酸が、ほぼ同じ量ずつあった
多くのアミノ酸には、形がそっくりなのに、ぴったり重ならない2つの型があります。右手と左手のように、鏡に映した関係です。ここでは、右手型と左手型と呼ぶことにします。
地球の生き物の体は、このどちらか一方の型だけを使っています。アミノ酸だけでなく、糖などでも同じです。一方、生き物が生まれる前の世界では、2つの型はほぼ同じ量ずつあったと考えられています。
リュウグウの砂の、2つの型を持つアミノ酸を、型ごとに分けて量りました。すると、右手型と左手型がほぼ1対1でした。生き物が作ったアミノ酸なら、片方の型にかたよるはずです。研究チームは、2つの型が同じくらいあることから、これらのアミノ酸は生き物と関係のない化学反応でできたと考えました。

05地球の空気に触れたリュウグウの砂粒に、地球の微生物が住み着いた
リュウグウの砂は、JAXAで地球の空気に触れずに保管されていました。ところが、研究のために取り出した砂粒が、地球の微生物に住み着かれた例があります。
イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究チームが、2024年に論文を発表しました。チームが調べたのは、1回目の着地で集めた、大きさ約1ミリの砂粒です。粒は、窒素を入れた密閉容器に入れて研究チームに渡されました。チームは、粒を容器から取り出して樹脂に埋め、表面を磨きました。このとき、粒は地球の空気に触れました。そのあと、粒の表面を電子顕微鏡で何度も観察しました。
すると、粒の表面に、細い棒や糸のような形の有機物が見えてきました。形と大きさは微生物とよく似ていました。しかも、その数は時間とともに変わり、増えたあとで減っていきました。チームは、微生物が砂粒に住み着いて増え、その後に減っていったと考えました。数が2倍になるのにかかった時間は、約5.2日と計算されました。
研究チームは、この微生物は宇宙から来たものではなく、粒を磨く準備をしていた間に地球で入り込んだものだとしています。論文は、注意深く扱っても、地球の環境に触れると、宇宙の試料に地球の微生物がすぐ住み着くことがあると注意しています。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
地球に落ちた隕石では、地球の汚れを完全には見分けられない
宇宙から来た有機物は、これまで主に隕石で調べられてきました。でも、隕石は地球に落ちたあと、空気や水、地面の微生物にさらされます。インペリアル・カレッジなどの論文は、そのため隕石の中の微生物が地球のものでないと言い切れない、と書いています。
岡山大学などの2022年の論文も、同じ点に触れています。隕石から見つかる、たんぱく質に使われるアミノ酸は、地球での汚れではないかと疑われることがありました。論文は、汚れていない試料を地球に持ち帰る探査が大切だと書いています。
はやぶさ2の砂は、宇宙で集められ、閉じた容器のまま地球に届きました。論文によると、地球に着いたあとも容器の中は真空のままでした。容器の封は大気圏に入るときも保たれ、地球の物質は入っていませんでした。こうして、宇宙の物質を、地球の空気にさらさずに調べることができたのです。
地球の生き物は、鏡に映した2つの型のうち片方だけを使っている
右手型と左手型のアミノ酸は、含まれる原子の種類も数も同じです。違うのは、鏡に映したように、原子の並び方の向きが逆なことです。このような2つの型を「光学異性体」といいます。
ブラックモンド(Donna G. Blackmond)の総説(研究のまとめの論文)によると、生き物の糖やアミノ酸は、2つの型のうち片方だけでできています。そして、生き物が生まれる前の世界では、2つの型がほぼ同じ量ずつあったと考えられています。生き物がどうして片方だけを使うようになったのかは、今も研究が続いている問題です。
この性質は、宇宙の砂のアミノ酸が、生き物の作ったものかどうかを見分ける手がかりになります。名古屋大学の発表も、2つの型がほぼ1対1であることを、生き物と関係のない反応でできたしるしとしています。
リュウグウの砂の有機物は、水がかかわる反応でできたらしい
サイエンスの論文によると、リュウグウの砂の有機物は、イブナ型と呼ばれる種類の隕石の有機物によく似ていました。名古屋大学の発表によると、有機物の種類の分かれ方は、水の影響を強く受けた炭素の多い隕石のものと似ていました。
サイエンスの論文の研究チームは、リュウグウのもとになった天体の中で、水がかかわる反応によって、これらの有機物ができたと考えています。そして、こうした有機物は小惑星の表面でも壊れずに残り、太陽系のほかの天体に運ばれることがある、と書いています。
北海道大学などのチームは、ウラシルのような物質が、リュウグウのような炭素の多い小惑星で広くでき、昔の地球にも届いたと考えています。ただし、論文は、それが地球の生命の始まりにどれだけ役立ったのかまでは示していません。
06まとめ
はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウの砂は、約5.4グラムでした。その砂から、15種類のアミノ酸と、約2万種類の有機物が見つかりました。アミノ酸の量は、多くが10億分の数ほどと、とても少ないものでした。
見つかったアミノ酸は、鏡に映したような2つの型が、ほぼ同じ量ずつありました。地球の生き物なら片方にかたよるので、このアミノ酸は生き物と関係なくできたと考えられています。たんぱく質の材料になるアミノ酸が、リュウグウのもとになった天体の中で、生き物の力を借りない化学反応でできていたらしいのです。
人に話すなら、こう言おう
はやぶさ2が持ち帰った砂からアミノ酸が見つかったけど、生き物が作ったものじゃないらしいよ。アミノ酸には鏡に映したような2つの型があって、それがほぼ同じ量ずつ入っていたから分かるんだって。
英語で読む
Mirror Twins in Space Sand
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
On December 6, 2020, a small capsule landed in South Australia.2020年12月6日、オーストラリア南部に小さなカプセルが落ちてきました。 It came from the Japanese spacecraft Hayabusa2.それは、日本の探査機はやぶさ2から来たものでした。 Inside was black sand from an asteroid called Ryugu.中には、リュウグウという小惑星の黒い砂が入っていました。 In total, there were about 5.4 grams of sand.砂は、合わせて約5.4グラムありました。
Scientists kept the sand away from the air of Earth.科学者たちは、砂を地球の空気から遠ざけておきました。 They opened the container in a vacuum.容器は、真空の中で開けられました。 After that, they kept the sand only in a vacuum or in clean nitrogen gas.そのあとも、砂は真空の中か、きれいな窒素ガスの中だけに置かれました。
In 2023, a team reported 15 kinds of amino acids in the sand.2023年、ある研究チームが、砂の中に15種類のアミノ酸があったと発表しました。 Amino acids are the building blocks of proteins.アミノ酸は、たんぱく質の材料です。 Some of them, like glycine and alanine, are used by living things on Earth.その中のグリシンやアラニンなどは、地球の生き物が使っているものです。 But the amounts were very small.でも、その量はとても少ないものでした。 Many were only a few parts per billion.多くは、10億分の数ほどしかありませんでした。
Many amino acids come in two forms, like your right hand and your left hand.多くのアミノ酸には、右手と左手のように2つの型があります。 Each form is a mirror image of the other, so they do not fit on top of each other.それぞれの型はもう片方を鏡に映した形なので、ぴったり重なりません。 Living things on Earth use only one of the two forms.地球の生き物は、2つの型のうち片方だけを使います。 In the Ryugu sand, the two forms were almost equal.リュウグウの砂では、2つの型がほぼ同じ量でした。 So scientists think these amino acids were made without life.そのため科学者たちは、これらのアミノ酸は生き物と関係なくできたと考えています。
Later, a British team studied one tiny grain from Ryugu.その後、イギリスの研究チームが、リュウグウの小さな砂粒を1つ調べました。 The grain touched the air of Earth, and tiny living things from Earth grew on it.その粒は地球の空気に触れ、地球の小さな生き物がその上で増えました。 Their number doubled in about 5.2 days.その数は、約5.2日で2倍になりました。 The scientists warned that tiny life from Earth can move into space samples very quickly.研究者たちは、地球の小さな生き物が、宇宙から来た試料にとても早く入り込むことがあると注意しました。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:A Amino acids in Ryugu sand and how scientists think they were made
第3段落でアミノ酸が見つかったこと、第4段落で2つの型から生き物と関係なくできたと考えられることを述べているのでA。Bの探査機の作り方は本文に出てきません。Dの小さな生き物は第5段落の一部だけです。
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Q2How much sand did Hayabusa2 bring back in total?
はやぶさ2は、合わせてどれくらいの砂を持ち帰りましたか。
正解:B About 5.4 grams
第1段落4文目に「about 5.4 grams of sand」とあるのでB。Cの15はアミノ酸の種類の数で、重さではありません。
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Q3Why do scientists think the amino acids in the sand were made without life?
科学者たちは、なぜ砂のアミノ酸が生き物と関係なくできたと考えているのですか。
正解:D Because the two forms were almost equal
第4段落で、地球の生き物は片方の型だけを使うが、リュウグウの砂では2つの型がほぼ同じ量だった、だから(So)生き物と関係なくできたと考える、と述べているのでD。Cは第3段落の「量はとても少ない」と逆です。
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Q4In paragraph 3, the word "amounts" is closest in meaning to
第3段落の amounts という語に最も意味が近いものはどれですか。
正解:C quantities
amount は「量」という意味なので、quantities(量)のCが正解。第3段落4・5文目は、アミノ酸の量がとても少なかったという内容です。
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Q5Which is true about the story?
この話の内容について、正しいものはどれですか。
正解:B Tiny living things from Earth grew on a grain from Ryugu.
第5段落2文目に、地球の小さな生き物が粒の上で増えたとあるのでB。第4段落3文目で生き物は片方だけを使うとあるのでAは誤り。カプセルは2020年にオーストラリアに落ちたのでCも誤りです。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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capsule名詞カプセル
The medicine comes in a small capsule.
その薬は小さなカプセルに入っている。
💡 宇宙では、地球に戻ってくる小さな入れ物も capsule と呼ぶ。
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asteroid名詞小惑星
The team watched the asteroid with a big telescope.
チームは大きな望遠鏡でその小惑星を観察した。
💡 aster は「星」の意味。asterisk(*)も同じ仲間の語。
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vacuum名詞真空
There is no air in a vacuum.
真空の中には空気がない。
💡 vacuum cleaner は「掃除機」。空気を吸いこむ道具。
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amino acid名詞アミノ酸
Our bodies need many kinds of amino acids.
私たちの体は、たくさんの種類のアミノ酸を必要とする。
💡 acid は「酸」。発音は「アミーノウ・アシッド」に近い。
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protein名詞たんぱく質
Eggs and fish have a lot of protein.
卵や魚には、たんぱく質がたくさん含まれている。
💡 発音は「プロウティーン」に近い。
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mirror image名詞鏡に映した像
My left hand is a mirror image of my right hand.
私の左手は、右手を鏡に映した形だ。
💡 左右が逆になった形のこと。
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billion名詞10億
A billion is a thousand million.
10億は、1000の100万倍だ。
💡 parts per billion(ppb)は「10億分の1」を表す。
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sample名詞(調べるための)試料、見本
The doctor took a sample of my blood.
医者は私の血液の試料をとった。
💡 お店の「試供品」も sample。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 32件)。
- Naraoka, H. et al. (2023) Soluble organic molecules in samples of the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu, Science 379: eabn9033doi.org
- 炭素質小惑星(162173)リュウグウの試料中の可溶性有機分子(名古屋大学 2023年2月の発表資料)nagoya-u.ac.jp
- Yada, T. et al. (2022) Preliminary analysis of the Hayabusa2 samples returned from C-type asteroid Ryugu, Nature Astronomy 6: 214-220doi.org
- Oba, Y. et al. (2023) Uracil in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu, Nature Communications 14: 1292doi.org
- Genge, M. J. et al. (2024) Rapid colonization of a space-returned Ryugu sample by terrestrial microorganisms, Meteoritics & Planetary Science 60: 64-73doi.org
- Blackmond, D. G. (2019) The Origin of Biological Homochirality, Cold Spring Harbor Perspectives in Biology 11: a032540doi.org
- Nakamura, E. et al. (2022) On the origin and evolution of the asteroid Ryugu: A comprehensive geochemical perspective, Proceedings of the Japan Academy, Series B 98: 227-282doi.org
公式ページで見てみよう
- 名古屋大学の発表資料(リュウグウの試料の有機分子)nagoya-u.ac.jp
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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