
「ロボット」という言葉を考えたのは、作家の兄だった
ロボットの元は、チェコ語の「強制労働」。
もくじ
1933年12月24日、クリスマス・イブ。チェコスロバキアの新聞「リドヴェー・ノヴィニ(Lidové noviny)」の文化欄に、短い文章が載りました。書いたのは、作家カレル・チャペック(Karel Čapek)です。題は「ロボットという言葉について」。
その中でチャペックは、世界中に広まった「ロボット」という言葉について、こう打ち明けています。この言葉は、自分が発明したのではない。自分はただ、世に出しただけだ――。
本当の名付け親は、兄のヨゼフ・チャペック(Josef Čapek)でした。画家だったヨゼフは、筆を口にくわえたまま、名前に悩む弟にひと言で答えたのです。
この記事では、まずカレルが残した文章から、「ロボット」という名前が決まった場面をたどります。この文章は、ロボットが登場するカレルの劇『R.U.R.』が本になってから、13年後に書かれました。次に、もとになったチェコ語 robota の意味と、劇が世界に広まったようすを紹介します。
01作家チャペックが最初に考えたロボットの名前は「ラボジ」だった
カレルが新しい戯曲を書き始めたのは、1920年の初めです。主役は、人間の手で作られる「人造の労働者」たちです。その年のうちに、プラハの国民劇場で、世界で最初に上演する予定でした。
困ったのは、この人造人間を何と呼ぶかでした。ジャーナリストのヤロスラフ・ヴェイス(Jaroslav Veis)が、チェコ外務省のウェブサイトに記事を書いています。それによると、カレルが最初に思いついたのは「laboři(ラボジ)」。英語の labour(労働)や、ラテン語の labor(仕事、骨折り)から考えた言葉です。でもカレルは、どこか「紙くさい」と感じました。本の中でしか見ない言葉のようで、生き生きしていないと思ったのです。それで、満足できませんでした。
そこで相談したのが、兄のヨゼフでした。2人はそれまでにも、一緒に作品を書いたことがありました。カレルは、兄の意見を大事にしていました。
02画家の兄ヨゼフが「ロボティと呼べばいい」と答えて、名前が決まった
カレル自身の文章を見てみましょう。劇のアイデアを思いついたカレルは、思いついたばかりのうちにと、兄のもとへ駆けつけました。ヨゼフはイーゼルの前で、キャンバスに向かって絵を描いていました。カレルは劇の筋を話し、打ち明けました。人造の労働者の名前が決まらない。ラボジでは紙くさい。すると兄は筆をくわえたまま、もごもごと答えました。
「じゃあ、ロボティと呼べばいい」(カレル・チャペック「ロボットという言葉について」1933年より)
兄はそのまま絵を描き続けたそうです。カレルの文章では、兄のこのひと言で、名前はあっさり決まったことになっています。ロボティ(roboti)は、チェコ語の「ロボット」の複数形です。
ヨゼフが劇の文章づくりに関わったのは、この「ロボティ」という一語だけでした。アメリカのバージニア・コモンウェルス大学の文芸誌『Blackbird』も、こう紹介しています。本文へのヨゼフの貢献として認められているのは、この言葉の提案だけだ、と。ただし、1920年11月に出た『R.U.R.』の本の表紙は、ヨゼフの木版画で飾られました。
03もとになったチェコ語 robota は、「むりやりさせられる労働」という意味
ヨゼフが思いついたのは、チェコ語の robota(ロボタ)をもとにした言葉でした。メリアム・ウェブスター(Merriam-Webster)の辞書は、robota を「強制的な労働」と説明しています。
マリアーン・グラディシュ(Marián Gladiš)は、スロバキアのパヴォル・ヨゼフ・シャファーリク大学の研究者です。グラディシュは、ヨゼフが robota の歴史的な意味を頭に置いていたのだろうと述べています。むりやりさせられる、きつい、奴隷のような労働という意味です。robota は、もとをたどると rab(奴隷)という言葉につながるといいます。
つまり「ロボット」は、生まれたときから「自分の意思ではなく、むりやり働かされる者」という意味をもった名前でした。劇の中で、ロボットたちは人間に作られます。そして最後に、作り主である人間を滅ぼしてしまいます。

04チャペックの劇のロボットは、金属の機械ではなく人間そっくりの姿だった
今「ロボット」と聞くと、金属の腕や歯車を思い浮かべる人が多いでしょう。でも『R.U.R.(ロッサム・ユニバーサル・ロボット社)』のロボットは違いました。『Blackbird』は、彼らを「有機的だが、人工的に作られた労働者」と説明しています。有機的とは、ここでは生き物の体のような材料でできている、という意味です。
グラディシュによると、チャペックのロボットは人間そっくりの姿をしていました。ただし、動きや話し方はぎこちないものでした。顔には表情がなく、目はじっと一点を見つめています。ベルトをしめた麻の上着を着て、胸には真ちゅうの番号札をつけていました。
05チャペックの劇を世界で最初に上演したのは、地方のアマチュア劇団だった
『R.U.R.』については、あまり知られていない話がもう一つあります。『R.U.R.』の世界初演は、プラハの国民劇場ではありませんでした。
ヴェイスの記事によると、国民劇場での初演は延期されていました。そのあいだに、地方都市フラデツ・クラーロヴェーのアマチュア劇団が、先に上演してしまったのです。1921年1月2日のことでした。演出したのは、国鉄の検査官だったそうです。国民劇場での上演は、その3週間あまり後の1921年1月25日でした。国民劇場では、『R.U.R.』は6年間も演目(その劇場で上演する作品)に入っていました。切符が、正規の窓口以外でこっそり売り買いされるほどの人気でした。
そのあと、『R.U.R.』は一気に世界中で上演されるようになります。1921年にドイツのアーヘン、1922年にワルシャワ、ベオグラード、そしてニューヨーク(10月9日)。1923年にロンドン、ウィーン、ベルリン。その翌年には東京でも上演されました。1938年には、英国の BBC がテレビで放送しました。テレビで放送された、最初のSFドラマとされています。
深掘り講義
ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。
「兄が名付けた」という話は、チャペック本人の文章がもとになっている
「ロボットの名付け親は兄ヨゼフ」という話には、根拠があります。一番古い根拠は、カレル本人が1933年12月24日に、リドヴェー・ノヴィニに書いた文章です。劇の本が出てから13年後に、本人が思い出して書いたものです。
本人の証言は強い証拠です。でも、注意点もあります。13年前の会話を、そのまま覚えているとは限りません。文章として面白くまとめた部分が、あるかもしれません。それでも、この証言が重く見られるのには理由があります。作者が自分の手柄を減らす方向で書いているからです。自分を大きく見せたいなら、わざわざ兄の名前を出す必要はありません。歴史学では、語り手にとって不利な内容ほど信用しやすいと考えます。
なお、1933年の新聞の紙面そのものは、今回確認できていません。この記事では、次の3つの資料がそろって伝えている内容をもとに書いています。スロバキアの大学のプレスリリース、アメリカの大学の文芸誌、チェコ外務省の記事です。
「ロボット」と「アルバイト」は、もとをたどると親せきどうしの言葉
メリアム・ウェブスターは、チェコ語の robota が、古いドイツ語の arabeit(苦労)と親せき関係にある言葉だと説明しています。現代ドイツ語の Arbeit(労働、仕事)は、日本語の「アルバイト」の元になった言葉です。つまり「ロボット」と「アルバイト」は、遠い親せきどうしの言葉です。どちらの言葉にも、「骨の折れる仕事」という意味が残っています。英語に robot が現れた最初の記録は、1922年です。ニューヨークで劇が上演された年と重なります。
新しい名前は、古い学問の言葉を借りるか、ふだんの言葉を作り変えて作る
新しいものに名前をつけるとき、言葉の作り方には大きく2つの方法があります。一つは、ラテン語やギリシャ語のような古い学問の言葉から、部品を借りる方法です。テレビ(tele=遠く+vision=見ること)がその例です。カレルの最初の案 laboři も、ラテン語の labor を借りたこの型でした。
もう一つは、ふだん使われている自分の言語の言葉を作り変える方法です。ヨゼフの roboti は、チェコ語の robota を短くした、こちらの型でした。カレルが laboři を「紙くさい」と感じたのは、なぜでしょう。本の中でしか見ない、学問の言葉のように感じたからでしょう。一方の robota は、チェコ語を話す人なら誰でも、ふだん使っていて、つらい労働を思い浮かべる言葉でした。
結果として、チェコ語のふだんの言葉から作った roboti のほうが、世界中で使われる言葉になりました。ラテン語から作った laboři は、使われずに終わったのです。劇の題名そのものにも、roboti という語が入っていました。チェコ語の正式な題は『Rossumovi univerzální roboti』、英語では『Rossum's Universal Robots』です。
劇そのものより、「ロボット」という言葉のほうが広まった
研究者ウィリアム・ハーキンズによると、皮肉なことに、チャペック自身はこの戯曲を、自分の劇作品の中で一番好まなかったそうです。そしてSF作家アイザック・アシモフは、ヴェイスにこう語ったといいます。この劇から、大きな影響は受けていない、と。それでも「ロボット」という一語だけは、劇を離れて、世界中の言語に入りこみました。このように、一つの言葉が、もとの作品よりも広く使われるようになることがあるのです。
06英語で使ってみよう
- robot(ロボット):This robot can clean the floor.(このロボットは床をそうじできる)
- robotic(ロボットのような、機械的な):His voice sounded robotic.(彼の声は機械みたいに聞こえた)
- labor(労働):カレルの最初の案 laboři の元になった言葉。hard labor(重労働)
robot の発音は英語では「ロウバット」に近く、最初の o を強く読みます。
07まとめ
「ロボット」はチェコ語の robota(強いられた労働)から生まれた言葉です。広めたのは、1920年の戯曲『R.U.R.』の作者カレル・チャペックです。でも、名付けたのは画家の兄ヨゼフでした。弟は、最初の案「ラボジ」を紙くさいと感じていました。兄は筆をくわえたまま、「ロボティと呼べば」と答えたのです。そしてこの劇の世界初演は、国民劇場ではありませんでした。国鉄の検査官が演出した、アマチュア劇団の舞台でした。
人に話すなら、こう言おう
ロボットって言葉、チャペックっていう作家が考えたと思うでしょ。でも本当は画家のお兄さんが、絵を描きながら「ロボティって呼べば」って言ったんだって。劇の本が出た13年後に、作家本人が新聞で書いてるらしいよ。
英語で読む
The Brother Who Named the Robots
英文をタップすると、その文の訳が出ます。
In 1920, a Czech writer named Karel Čapek was writing a new play.1920年、カレル・チャペックというチェコの作家が新しい劇の台本を書いていました。 The play was about artificial workers made by humans.その劇は、人間が作った人工の労働者たちの話でした。 But he had a problem.しかし、彼には困ったことがありました。 He did not know what to call them.その労働者たちを何と呼べばいいのか、わからなかったのです。
His first idea was "labori," from the Latin word for work.彼の最初の案は、仕事を意味するラテン語から作った「ラボジ」でした。 But the word sounded dry, like a word from an old book.でもその言葉は、古い本の中の言葉のように味気なく聞こえました。 So he went to his older brother, Josef, a painter.そこで彼は、画家である兄のヨゼフのところへ行きました。 Josef was painting a picture with a brush in his mouth.ヨゼフは筆を口にくわえて絵を描いていました。 "Then call them roboti," he said, and he kept on painting.「じゃあ、ロボティと呼べば」と彼は言い、そのまま絵を描き続けました。
The new word came from the Czech word robota.この新しい言葉は、チェコ語の robota から来ていました。 It means hard work that people are forced to do.それは、人がむりやりさせられるきつい労働を意味します。 The robots in the play looked almost like people.劇に出てくるロボットは、ほとんど人間のような見た目でした。 They were not made of metal.金属でできてはいなかったのです。 At the end of the play, they destroy the humans who made them.劇の最後で、彼らは自分たちを作った人間を滅ぼしてしまいます。
The play first appeared as a book in November 1920.この劇は、1920年11月にまず本として出ました。 Its first show was not at the big National Theatre in Prague.最初の上演は、プラハの大きな国民劇場ではありませんでした。 An amateur group in another town played it first, on January 2, 1921.別の町のアマチュア劇団が、1921年1月2日に先に上演したのです。 Soon the play went to New York, London, Tokyo, and many other cities.やがてこの劇は、ニューヨーク、ロンドン、東京など、多くの都市へ広がりました。
For many years, people thought Karel made the word.長い間、人々はカレルがこの言葉を作ったと思っていました。 But on December 24, 1933, he wrote about it in a newspaper.しかし1933年12月24日、彼は新聞にそのことを書きました。 He said that his brother made it, not him.言葉を作ったのは自分ではなく兄だ、と彼は書いたのです。 He only brought the word into the world.自分はただ、その言葉を世に出しただけだ、と。
4択問題 Reading Quiz
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Q1What is this story mainly about?
この話は主に何についてのものですか。
正解:B How the word "robot" was born
第1〜2段落で名前を決めた場面、第3段落で語源、第5段落で本当の名付け親が語られているので正解はB。Cのヨゼフが画家になった理由は書かれていない。
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Q2When did Karel write about the word in a newspaper?
カレルがこの言葉について新聞に書いたのはいつですか。
正解:D On December 24, 1933
第5段落2文目に「on December 24, 1933」とあるので正解はD。1920年11月は本が出た時、1921年1月2日はアマチュア劇団の初演の日。
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Q3Why did Karel not use the word "labori"?
カレルはなぜ「ラボジ」という言葉を使わなかったのですか。
正解:A Because it sounded dry, like a word from an old book
第2段落2文目に、その言葉は古い本の言葉のように味気なく聞こえたとあるので正解はA。B・C・Dのような理由は本文に書かれていない。
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Q4In paragraph 3, the word "forced" is closest in meaning to
第3段落の「forced」に最も意味が近いのはどれですか。
正解:B made to do something you do not want to do
「hard work that people are forced to do」は、むりやりさせられるきつい労働という意味なので正解はB。Dの「休むことを許される」は反対の意味になる。
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Q5Which is true about the robots in the play?
劇に出てくるロボットについて正しいものはどれですか。
正解:C They looked almost like people.
第3段落3文目に、ロボットはほとんど人間のような見た目だったとあるので正解はC。次の文に金属ではなかったとあるのでAは誤り。最後に人間を滅ぼすのでBも誤り。
重要語 Key Words(タップで裏返る)
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play名詞劇、戯曲
Our class will do a play in March.
私たちのクラスは3月に劇をする。
💡 動詞 play には「(劇を)上演する、(役を)演じる」の意味もある。
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artificial形容詞人工の、人が作った
These are artificial flowers.
これらは造花だ。
💡 AI は artificial intelligence(人工知能)の略。反対は natural(自然の)。
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painter名詞画家
Monet was a famous French painter.
モネは有名なフランスの画家だった。
💡 paint(絵の具で描く)+ -er(〜する人)。
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brush名詞筆、ブラシ
I need a thin brush for this picture.
この絵には細い筆が必要だ。
💡 toothbrush(歯ブラシ)。動詞では「ブラシでみがく」。
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be forced to熟語むりやり〜させられる
They were forced to leave their homes.
彼らは家を離れることを強いられた。
💡 force(力ずくで〜させる)の受け身。have to より強い「強制」。
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metal名詞金属
This box is made of metal.
この箱は金属でできている。
💡 be made of 〜(〜でできている)とセットで覚える。
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amateur形容詞・名詞アマチュアの、しろうと
He is an amateur singer.
彼はアマチュアの歌手だ。
💡 反対は professional(プロの)。
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destroy動詞滅ぼす、こわす
The storm destroyed many houses.
嵐が多くの家をこわした。
💡 名詞は destruction(破壊)。
SOURCES出典・ウラ取り
この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 18件)。
- Veis, J.「Nejslavnější Čech robot slaví sté narozeniny!」(チェコ共和国外務省・在フランス大使館, 2021)mzv.gov.cz
- Slovo „robot" oslavuje storočnicu(パヴォル・ヨゼフ・シャファーリク大学 哲学部プレスリリース, 2020)upjs.sk
- The Čapek Brothers: Roboti(Blackbird, Virginia Commonwealth University, 2022)blackbird-archive.vcu.edu
- Český robot slaví 100. narozeniny(チェコ共和国外務省・在スロベニア大使館)mzv.gov.cz
- robot(Merriam-Webster Dictionary)merriam-webster.com
文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。
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サラリーの語源が「塩」なのは本当。
No.033英語で「検疫」を表す quarantine は、「40日」という意味の言葉
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