見出しの気になる言葉スラング考現学 第25回
見出しに毎日出てくる「ドパガキ」――自虐のネットスラングが、教育や法律の記事にまで
原田英語がお届けします
火曜日のコーナー「見出しの気になる言葉」…英字ニュースや新聞の見出しに出てきた、気になるスラング・新語を深掘り。記者はなぜその言葉を選んだのか。元の見出しへのリンクつき。 コーナー一覧
火曜日は「見出しの気になる言葉」です。この1か月、日本のニュースサイトで「ドパガキ」という4文字を見ない日はほとんどありません。もとはSNSの自虐ネタだった言葉が、教育・法律・脳科学の記事の見出しに並ぶようになりました。英語圏の言い方ともくらべながら読んでいきます。
1教育、法律、子育て。どの棚にも同じ4文字
見出しを並べてみると、扱っている分野がばらばらです。教育現場の悲鳴、スマホを取り上げてよいかという法律の相談、小学2年生の娘の子育て漫画、脳の仕組みと海外の規制。どの記事も、話の入り口に「ドパガキ」を置いています。
ドパガキは「ドーパミン中毒のガキ」の略です。ショート動画やゲームのように、すぐに気持ちよくなれる刺激に慣れすぎて、長い動画や勉強に集中できなくなった状態を指します。医学の言葉ではなく、ネットスラングです。
10月2日に発表された渋谷の高校生200人への調査では、「今流行っている言葉」で2位に入りました。10月17日のラジオ番組では、ゲストの若い俳優が田中みな実さんにこの言葉を教え、田中さんが「どういう文脈で使うの?」と聞き返す場面もニュースになりました。
2もとは自分を笑う言葉だった
見出しを読むと深刻な社会問題のようですが、言葉の出どころはもっと軽いものです。広まるきっかけになったのは、Xで自分のことを「レベル100のドパガキ」と書いた投稿だったとされています。ドライヤーをかけている間もイヤホンで音楽を聞いてしまう、という告白に共感が集まりました。
つまりこの言葉は、他人をけなすためではなく、自分を笑うために生まれた言葉です。若い人どうしでは「ドパガキすぎて課題が進まん」のように、ちょっと反省しながら笑う場面で使われます。KBCの記事にも、「何してた?」「ドパってる」というやりとりが出てきます。
ところが、記事の見出しになると立場が変わります。大人が子どもを「ドパガキ」と呼ぶと、自虐ではなく心配や叱る気持ちが前に出ます。同じ4文字でも、誰が誰に言うかで重さがかなり変わる言葉です。「ガキ」が入っているので、人に向けて言うと見下す響きになることも忘れないでください。
3記者がこの言葉を選ぶ理由
見出しは短いほど目を引きます。「ショート動画に依存して集中力が続かない若者」と書くと長すぎますが、「ドパガキ」なら4文字で済みます。しかも読者の多くが「聞いたことはあるけれど、よく知らない」言葉なので、思わずタップしたくなります。
もうひとつの理由は、この言葉に「自分も当てはまるかも」と思わせる力があることです。KBCの記事が「若者だけではない」と見出しに入れたように、大人のほうがショート動画を止められないという話も増えています。子どもを責める言葉としてだけでなく、自分を振り返る言葉としても使える。だから、どの分野の記事にもなじむのです。
4英語では brain rot と doomscrolling
英語圏にも、同じ不安から生まれた言葉があります。いちばん有名なのはbrain rotです。rot は「腐る」で、くだらない動画を見すぎて頭がぼんやりした状態を言います。2024年にはオックスフォード英語辞典を出す出版社が「今年の言葉」に選びました。
やめられないスクロールそのものはdoomscrollingです。もとは暗いニュースを延々と読み続けることでしたが、いまはショート動画をだらだら見続けることにも使われます。タブレットばかり見て育った子どもを指すiPad kidという言い方もあり、こちらはドパガキの「ガキ」に近い、少しからかう響きがあります。
反対に、刺激を減らして生活を立て直すことはdopamine detoxと呼ばれます。ドパガキを英語で説明するなら、I'm addicted to short videos. My brain is fried.(ショート動画がやめられない、頭が完全にやられてる)あたりが自然です。fried は「揚がった」ではなく「疲れ切った・使い物にならない」という意味の口語です。
5「ドパ」は量産型の部品になった
ドパガキの「ドパ」の2文字は、いまや部品として独り歩きしています。ドーパミンに夢中になることを「ドパる」、濃い味しか受けつけない舌を「ドパ舌」、ドーパミン中毒そのものを「ドパ中」。秋の高校生調査では、最高に楽しいことを表すドパいが次に流行る言葉として挙がりました。
英語でも dopamine は日常の言葉になっています。I need a dopamine hit.(ちょっと気分が上がることがほしい)と言ったり、明るい色の服で気分を上げるdopamine dressingという言葉が生まれたりしました。日本語では「中毒」の側に、英語では「元気が出る」の側に寄って広がったと見ることもできます。
自分を笑うために生まれた言葉が、いつのまにか大人の心配を表す言葉になる。見出しを並べると、言葉の立場が動いていく様子がよく見えます。明日の水曜日は「今週の旬JK語」をお届けします。
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