SPEAKING SKILL × SELF-RECORDING
「毎朝10分、自分を録画するだけ」で
話し方が劇的に変わる科学的理由
― Google研究者のバズったツイートを深掘りする ―
💬 26万回以上閲覧されたツイートの正体
「毎朝10分、自分を録画するだけ。誰にも送らなくていい。あとで自分で見るだけ。これだけで、想像しうるあらゆる欠点に気づく」――サイバーセキュリティ研究者LaurieWiredのこの投稿が、2026年2月にX(旧Twitter)で爆発的に拡散しました。話し方に悩む人に刺さったその内容は、実は科学的にも裏付けられた最強のトレーニング法でした。
英語では “public speaking”(パブリック・スピーキング)、つまり人前で話す力は、あらゆるスキルの中で最も恐れられている能力のひとつと言われています。アメリカの調査では「死ぬことより人前で話すほうが怖い」という結果が出ることすらあります。
そんな中、Googleのセキュリティ研究者であるLaurieWired(ローリー・ワイアード)さんが、あまりにもシンプルで、あまりにも効果的なテクニックをXに投稿しました。
🐦 @lauriewired — 2026年2月10日
“no one’s gonna believe me but becoming a good speaker is really easy — just record yourself for 10 minutes every day, first thing in the morning. don’t send it to anyone, just force yourself to watch it later. you’ll notice every possible flaw you can imagine.”
(誰も信じないだろうけど、話し上手になるのは本当に簡単。毎朝10分、自分を録画するだけ。誰にも送らなくていい。あとで自分で見ることを強制するだけ。想像しうるあらゆる欠点に気づくから。)
このツイートは瞬く間に26万回以上閲覧され、リプライ欄には「これは怖いけど本当に効くの?」「1000%効く。一日で最悪の時間だけど、めちゃくちゃ役に立つ(笑)」というやりとりが繰り広げられました。
では、なぜ「自分を録画して見返す」だけで
話し方が変わるのか?
🧠 「自己対面」― 心理学が50年前から知っていたこと
LaurieWiredさんのテクニックは、心理学では「Video Self-Confrontation(ビデオ自己対面)」として、1970年代から研究されてきた手法です。
この手法の核心はシンプルです。人間は、自分の行動を「客観的に見る」ことが苦手である。しかし、ビデオで自分を見ると、まるで他人を観察するように自分の振る舞いを評価できるようになる。この「視点の切り替え」が行動変容を引き起こす、という仕組みです。
アメリカ言語聴覚学会(ASHA)の研究では、自己録画と再生を実践した人は、3ヶ月以内に滑舌と自信が最大40%向上したという報告もあります。また、コミュニケーション障害学のジャーナルに掲載された縦断研究では、6週間の自己録画練習で「人前で話す際の自信が30%上昇した」と報告されています。
🎙️ なぜ自分の録画は「こんなに気持ち悪い」のか?
自分の録画を見返すとき、多くの人が感じる「うわ、自分ってこんな声だったの?」という衝撃。これには明確な科学的理由があります。
普段、自分の声を聞くとき、音は2つの経路で耳に届いています。
🔊 経路① 空気伝導(Air Conduction)
口から出た音が空気を振動させ、外耳道を通って鼓膜に届く。録音で拾えるのはこちらだけ。
🦴 経路② 骨伝導(Bone Conduction)
声帯の振動が頭蓋骨を通じて直接内耳に届く。低音が増幅され、声がより深く、豊かに聞こえる。
つまり、あなたが普段聞いている「自分の声」は、空気伝導+骨伝導のミックス版。でも録音は空気伝導だけの「他人が聞いているあなたの声そのもの」なのです。
💡 ここがポイント
あなたが「違和感」を感じるその録音こそが、
周りの人が毎日聞いている「本当のあなたの声」です
だからこそ、最初は気持ち悪い。でもこの「気持ち悪さ」こそが改善のスタート地点なのです。社会不安障害の認知療法に関する研究では、ビデオで自分を見た92〜96%の人が「自分が思っていたほど不安に見えなかった」と報告しており、客観視が自己評価のゆがみを修正する効果も確認されています。
📱 実践!「10分自撮りトレーニング」の完全ガイド
LaurieWiredさんのツイートと、リプライ欄の知見、そして研究成果を統合した実践ガイドです。
Step 1:朝イチで10分、カメラに向かって話す
テーマは何でもOK。昨日あったこと、読んだ記事の感想、好きな映画のプレゼン。LaurieWiredさんいわく「とにかく時間を埋める」ことが重要。このテクニックはプロのTwitch配信者から学んだもので、彼らが”dead air”(沈黙)をなくす訓練として使っていたそうです。
Step 2:その日のうちに見返す
ここが最もつらい(そして最も効果的な)パート。LaurieWiredさん自身も「一日で最悪の時間だけど、極めて有用」と語っています。見返すときは「フィラーワード(えーと、あのー)」「不自然な手の動き」「目線の泳ぎ」に注目しましょう。
Step 3(上級):3回×3通りで分析する
リプライ欄で紹介された「3×3メソッド」も強力です。①音声だけを聴く(声のトーン・テンポに集中)→ ②映像だけを見る(音を消してボディランゲージを観察)→ ③音声と映像を同時に確認。それぞれ単独で評価することで、改善点がクリアに見えます。
※ LaurieWiredさんのコメント:「言語脳のその部分を鍛えないと、すぐに錆びつく。また、気が散る手の動きにも気づけるようになる」
🎮 「沈黙が許されない世界」― 配信者たちの極限トレーニング
LaurieWiredさんがこのテクニックを学んだのは、プロのTwitch配信者からでした。Twitch(ゲーム実況プラットフォーム)の世界では、「dead air」(デッド・エア=沈黙)は致命的。視聴者は数秒の沈黙で離脱します。
配信者たちは、視聴者がゼロの部屋でもひたすら話し続ける訓練をします。ゲームの実況、自分の考えの独り言、食べ物の話、天気の話――テーマは何でもいいからとにかく口を動かし続ける。この「強制的なアウトプット」が、話し方の筋肉を鍛えるのです。
配信者の訓練法 → 日常に応用すると?
🎮 ゲーム実況で思考を言語化 → 料理中や散歩中に考えていることを声に出す
🎮 視聴者ゼロでも話し続ける → 聞き手がいなくてもカメラに向かって話す
🎮 VOD(録画)を自分で確認 → LaurieWiredメソッドそのもの!
ちなみに、LaurieWiredさん自身は「リアルではかなりの内向型」と告白しています。つまりこのメソッドは、生まれつき話し上手でない人にこそ効くのです。
🗣️ リプライ欄に集まった「実践者の声」
このツイートのリプライ欄には、実践者たちの貴重な証言が集まりました。
@arpophyllum(Michael Ashe)
「パブリックスピーキングのクラスで最初にやったのが自己紹介の録画。終わった瞬間にその場で録画を見ながらコーチと分析。3日間これを何度も何度も繰り返した。劇的に変わった」
@zoessterling(Zoe Sterling)
「私はこのメソッドのおかげで、話の筋を見失うたびに “困惑したラブラドール” みたいな顔をしていることに気づけた😂」
@ffaebi(Fabian 🇨🇭)
「期末プレゼンの練習では、不要な間(ま)を含め、ミスをするたびに最初からやり直した。時間はかかったけど、自分を修正できた」
@luongas
「自分の成果物を振り返って改善する、というこの方法は、学べるあらゆることに使える。でも99.999%の人はやりたがらない」
最後のコメントが本質を突いています。この方法が効かない唯一の理由は、「やらないから」なのです。
⚠️ ひとつだけ注意:「自己批判のループ」に陥らないこと
ここで大事な注意点をひとつ。最新の研究では、自己録画を「早すぎる段階で」始めると、逆効果になることがあると指摘されています。
特に初心者の場合、録画を見て「ここもダメ、あそこもダメ」と粗探しばかりすると、自信を失って話すこと自体が怖くなる可能性があります。教育心理学の研究レビューでも、自尊心を損なうようなフィードバックは効果が低いことがわかっています。
❌ やってはいけないこと
・すべてのミスを一度に直そうとする
・プロの話し手と自分を比較する
・「ダメだった点」だけに注目する
✅ 効果的なやり方
・一度に改善するのは1つだけ(今週はフィラーワード、来週はアイコンタクト)
・良かった点も必ず見つける(「ここの説明はわかりやすかった」)
・過去の録画と比較して「成長」を実感する
✅ 録画を見返すときの「7つのチェックポイント」
録画を見返すとき、漠然と見るのではなく、以下のポイントに注目すると改善が加速します。
| チェック項目 | 何を見る? | 英語で言うと |
| フィラーワード | 「えーと」「あのー」「まあ」の頻度 | filler words |
| 話すスピード | 早口すぎないか、単調すぎないか | pacing |
| アイコンタクト | カメラ(相手)の目を見ているか | eye contact |
| 手の動き | 気を散らす動きをしていないか | distracting gestures |
| 声のトーン | 抑揚があるか、単調でないか | voice inflection |
| 姿勢 | 猫背になっていないか、硬すぎないか | posture |
| 表情 | 自然な表情か、怒り顔になっていないか | facial expressions |
📚 今日の英語 ― LaurieWiredツイートから学ぶ表現
1. “No one’s gonna believe me but…”
(誰も信じないだろうけど…)
→ gonna = going to のカジュアル短縮形。SNSやカジュアルな会話で頻出。意外なことを言う前のフリとして使える定番パターン。
2. “first thing in the morning”
(朝一番に)
→ “first thing” で「真っ先に」という意味。”I’ll do it first thing tomorrow.”(明日の朝イチでやるよ)のように使える超便利表現。
3. “force yourself to…”
(自分に〜することを強制する)
→ 嫌なことでも自分を奮い立たせてやる、というニュアンス。”Force yourself to get out of bed.”(無理やりでもベッドから出ろ)のように使う。
4. “dead air”
(沈黙、無音時間)
→ もともとラジオ・放送用語で「放送事故レベルの沈黙」を意味する。配信やプレゼンで「間が空いてしまう」ことを指す業界用語。
5. “It outshines any other possible practice method”
(他のどんな練習法も圧倒する)
→ outshine = 〜より輝く、〜を凌駕する。out- の接頭辞は「〜を上回る」の意味を作る(outperform, outlast, outnumber…)。覚えると表現の幅が広がる便利パターン。
👩💻 そもそもLaurieWiredって何者?
今回のツイートの発信者、LaurieWired(本名:Laurie Kirk)さんは、現在Googleに勤務するサイバーセキュリティ研究者です。フロリダ州立大学でコンピュータサイエンスの学位を取得後、Microsoftでリバースエンジニアとしてマルウェア分析に従事。YouTubeチャンネル「LaurieWired」は23万人以上の登録者を持ち、DEF CONなどの国際的なセキュリティカンファレンスでも登壇しています。
Twitch配信も行っている彼女が「配信者から学んだ話し方トレーニング」を紹介したのは、まさに自分自身が実践して効果を実感してきたからこそ。「リアルではかなりの内向型(I’m pretty introverted irl)」と公言している点も、多くの人の共感を呼んだ理由でしょう。
✨ まとめ ― 明日の朝、スマホを立てかけてみよう
整理しましょう。
✔ 「毎朝10分の自撮り」は、心理学で50年以上研究されてきた「ビデオ自己対面」の最新・最簡単バージョン
✔ 自分の録画が「気持ち悪い」のは骨伝導の不在が原因。録音の声こそ他人が聞いているあなたの声
✔ Twitch配信者の「dead air撲滅トレーニング」が原型。話す筋肉は使わないと錆びる
✔ 「3×3メソッド」(音声のみ→映像のみ→両方)で分析すると改善点が明確になる
✔ ただし一度に全部を直そうとしない。1回に1つ。良い点も見つける
✔ 内向型でも効く。むしろ内向型にこそ効く
必要なものは、スマホ1台と10分の時間と、自分の録画を見返す「ちょっとした勇気」だけ。99.999%の人はやらない。だからこそ、やった人が圧倒的に差をつける。
明日の朝、コーヒーを入れたら、スマホを立てかけて録画ボタンを押してみてください。一日で最悪の10分が、あなたの話し方を変える最高の10分になるかもしれません。
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📌 参考:LaurieWired (@lauriewired) Xポスト 2026年2月10日 / American Speech-Language-Hearing Association (ASHA) / Journal of Communication Disorders / Educational Psychology Review (Video Feedback meta-analysis) / Imperial College London 骨伝導研究
