原田先生の英語とっておきの話

【出汁を英語で説明すると?】「チャーシュー抜きで」ヴィーガン外国人が一蘭で豚骨スープを完飲した話が2100万バズ ― 日本のラーメンに潜む”見えない動物性”の衝撃 ―

RAMEN × VEGAN × LOST IN TRANSLATION

「チャーシュー抜きで」
ヴィーガン外国人が一蘭で
豚骨スープを完飲した話

― 2100万人が見た”食文化ギャップ”の正体 ―

🍜 2100万人が思わず二度見したツイート

ラーメン屋でバイト中、外国人客に「Without chasyu? I’m ヴィーガン」と言われてチャーシュー抜きで提供。スープまで飲み干した食器を片付けながら、ふと気づく――バイト先は一蘭。スープは……豚骨。このツイートが2,184万表示を突破し、日本中に衝撃と笑いを広げています。

2026年2月24日、Xユーザーのさつきさん(@May_ayanest)が投稿した何気ないバイト時代のエピソードが、わずか一日で2,184万インプレッション、13万いいねという驚異的な数字を叩き出しました。

内容をあらためて整理しましょう。外国人のお客さんが「Without chasyu?」(チャーシュー抜きできる?)と聞き、「I’m ヴィーガン」と自己申告。投稿者はチャーシューを抜いてラーメンを提供した。お客さんはスープまで完飲して帰っていった――でも投稿者のバイト先は一蘭。一蘭といえば、天然とんこつラーメン専門店。つまりスープの正体は、豚の骨を何時間も煮込んで作った、100%動物性のスープだったわけです。

このツイートがこれほどバズった理由は、単に「面白い」からだけではありません。そこには、日本の食文化が世界と出会うときに必ず起きる構造的なすれ違いが凝縮されているのです。

https://x.com/May_ayanest/status/2026173917321433460?s=20

🤔 なぜヴィーガンは「スープ」に気づかなかったのか

ここで多くの日本人が疑問に思うはずです。「ヴィーガンなのに、なぜスープが豚骨だって気づかないの?」と。

実はこれ、外国人の無知ではなく、日本の食文化特有の”見えにくさ”が原因です。

欧米のスープ文化では、動物の骨から取ったスープは茶色く、肉の風味が明らか(ビーフブイヨンなど)。一方、豚骨スープは白くてクリーミー。見た目では動物性と判断しにくい

「チャーシュー=肉」は目に見えるので除去を頼んだ。しかしスープ自体が動物の骨でできているという発想が、多くの外国人にはない

日本語が読めないため、メニューに「天然とんこつ」と書いてあっても理解できない。「tonkotsu=pork bone(豚の骨)」という知識がなければ、そもそも問題に気づけない

つまりこの出来事は、「うっかりミス」ではなく、日本料理における「出汁(だし)」の概念が海外に正しく伝わっていないことの象徴なのです。

🍲 日本料理の”見えない動物性” ― 「出汁」という盲点

日本料理の最大の特徴は「出汁(だし)」にあります。昆布、鰹節、煮干し、豚骨、鶏ガラ――これらの素材を水で煮出して「うま味」を抽出する技術は、日本が世界に誇る食文化です。

しかしこの「出汁」こそが、ヴィーガンやベジタリアンの外国人にとって最大のトラップになっています。なぜなら――

料理 見た目 実は…
味噌汁 野菜と豆腐の汁物 🥬 鰹節(魚)出汁
うどん・そば シンプルな麺料理 🍜 鰹節・煮干し出汁
おでん 野菜の煮物風 🍢 鰹節・昆布出汁+練り物(魚)
とんこつラーメン 白いクリーミーなスープ 🥛 豚骨を18時間煮込んだ汁
お好み焼き 野菜のパンケーキ風 🥞 生地に鰹節粉、ソースに動物エキス

西洋料理では「動物性=目に見える肉」がほとんど。ステーキ、チキンソテー、ベーコン――見れば動物性だとわかります。しかし日本料理は「出汁」として動物性の成分を液体に溶かし込むため、見た目からは判断できないのです。

英語には「broth」(ブロス:肉や骨の煮出し汁)という概念はありますが、日本の「出汁」のようにほぼすべての料理のベースに動物性が使われているという食文化は、多くの外国人にとって想像の外にあります。

📊 数字で見る「ヴィーガン×日本」のリアル

この問題は、笑い話では済まされない規模になっています。

3,600万人

2024年の訪日外国人数
(過去最多)

約128万人

うちベジタリアン・ヴィーガンの
推計人数(2023年観光庁)

約609億円

その飲食費の推計規模

一蘭だけでも年間500万人以上の外国人客が来店するといいます。そのうちのどれだけの人が「とんこつ=豚骨=pork bone」だと正しく理解しているでしょうか?

ネット上の反応を見ても、「嘘松だ、外国人ヴィーガンが一蘭の豚骨を知らないわけがない」という声がある一方で、「いや、知らない外国人のほうが圧倒的に多い」という在日外国人からの証言も多数寄せられています。

🌏 世界から見た「日本のラーメン」の誤解

海外でラーメンがブームになっているからこそ、実は誤解も広がっています。

外国人が陥りがちな「ラーメンの誤解」

誤解 ① 「ラーメンのスープ=お湯+調味料」だと思っている → 実際は動物の骨や魚介を何時間も煮込んだ抽出液

誤解 ② 「肉を抜けばヴィーガン対応になる」と思っている → スープ自体が動物性なので、肉を抜いても意味がない

誤解 ③ 「tonkotsu」を店名や味の名前だと思っている → 実は「豚骨」=”pork bone”の意味

誤解 ④ 「白いスープ=豆乳ベース」だと思っている → 実はコラーゲンと脂肪が乳化した結果の白さ

特に③は深刻です。英語の「tonkotsu」はもはや固有名詞のように使われており、それが日本語で「豚の骨」という意味だと知らない外国人は少なくありません。「Teriyaki」が「照り焼き」だと知らない人が多いのと同じ構造です。

🏪 日本のラーメン業界、実はすごく頑張っている

ただし、この問題に日本のラーメン業界が無策なわけではありません。むしろ近年、驚くほどの進化を遂げています。

一蘭

なんば御堂筋店で「100%とんこつ不使用ラーメン」を提供。20年以上の研究を経て、鶏ベースで豚骨の重厚感を再現。通販では完全ヴィーガンラーメンも販売中

一風堂

「プラントベース赤丸」を開発。スープ・麺・トッピングすべて動物性不使用。2008年からの海外展開で多様な食文化への対応を実感したことがきっかけ

九州じゃんがら

原宿店限定だったヴィーガンラーメンを全店展開に拡大。五葷(にんにく・ネギ等)も不使用でオリエンタルベジにも対応

亀王(きおう)

JR新大阪駅にハラル対応店「牛骨の王」をオープン。餃子もすべてヴィーガン仕様に統一し、通常客にも違和感なく提供

豚骨ラーメンの本場・福岡の寿司店が「ヴィーガンOK豚骨風ラーメン」を開発するなど、日本全国で「多様な食」への対応が急速に進んでいます。

💬 ネットの反応が映し出す「日本人の本音」

このツイートに寄せられた反応も興味深いものでした。大きく分けると4つのパターンがあります。

🇯🇵「知らぬが仏」派 ― 「教えないのが優しさ」「知らなければノーカウント」という、いかにも日本的な反応

🐷「肉の勝利」派 ― 「植物じゃ出せないコクに脳が焼かれてスープ飲み干したんやろなぁ」という愉快犯的コメント

🤥「嘘松」派 ― 「外国人ヴィーガンが一蘭の豚骨を知らないわけがない」という懐疑派

🕌「宗教理解」派 ― 「イスラムでは”知らずに食べたものは罪にならない”という考え方がある」と文化理解を示す声

特に最後の反応は注目に値します。実際にイスラム教には、意図せず禁忌食品を摂取してしまった場合は罪に問われないという考え方があります。ヴィーガニズムは宗教ではなくライフスタイルの選択ですが、「知らなかった」場合にどこまで本人の責任かという問いは、普遍的に考える価値があります。

🗣️ 英語で「出汁」を説明できますか? ― 今日から使える英語表現

英語教師の視点から言わせてください。このバズツイートは、実は英語学習の絶好の教材でもあります。なぜなら「出汁」という概念を英語で正しく伝えることは、多くの日本人にとって最大の課題のひとつだからです。

英語表現 発音 意味・使い方
pork bone broth ポーク・ボーン・ブロス 豚骨スープ。tonkotsuの直訳
dashi (stock) ダシ(ストック) 日本の出汁全般。英語圏でも「dashi」で通じつつある
animal-derived ingredients アニマル・ディライヴド・イングリーディエンツ 動物由来の原材料。ヴィーガン対応の説明で必須
plant-based プラント・ベースド 植物性の。”vegan”より柔らかい表現として近年普及
hidden animal products ヒドゥン・アニマル・プロダクツ 隠れた動物性食品。まさに今回の話のキーワード
dietary restrictions ダイエタリー・リストリクションズ 食事制限。宗教・健康・信条すべてを含む

✏️ 実際に使える英語フレーズ

🗣 “The broth is made from pork bones, so it’s not vegan-friendly.”
(スープは豚骨から作られているので、ヴィーガン対応ではありません)

🗣 “Even if we remove the meat toppings, the soup itself contains animal-derived ingredients.”
(肉のトッピングを除いても、スープ自体に動物由来の成分が含まれています)

🗣 “In Japanese cuisine, most soups and broths are made with fish or pork stock.”
(日本料理では、ほとんどのスープや汁物は魚や豚の出汁で作られています)

もしあなたがラーメン屋でバイトしていて同じ状況になったら、この3つのフレーズのどれかひとつでも言えれば、あの外国人のお客さんは豚骨スープを飲まずに済んだかもしれません。

📝 英語の “broth” “stock” “soup” の違い、知ってますか?

ついでに、英語教師としてこの機会に伝えたいことがもうひとつ。日本語では「スープ」も「出汁」も「汁」もすべてごちゃ混ぜですが、英語では明確に区別されます。

Stock(ストック):骨を長時間煮込んだ出汁。味付けなし。→ 豚骨スープのベースはまさにこれ

Broth(ブロス):肉や野菜を煮込んだ、味付き・飲める汁。→ ラーメンのスープ全体はこちら

Soup(スープ):具材が入った完成品。→ ラーメン一杯まるごとはこれ

日本のラーメン店が「pork bone stock」と英訳すれば、外国人は一目で「豚の骨の出汁だ」と理解できます。しかし「tonkotsu soup」と書いてあるだけでは、”tonkotsu”が何を意味するか知らない限り伝わらない。翻訳のちょっとした工夫で、今回のような悲喜劇は防げるのです。

✨ まとめ ― 「おいしかった」で終わらせないために

もう一度、整理しましょう。

このバズツイートの本質は「面白い失敗談」ではなく、日本の食文化に潜む「見えない動物性」問題

日本料理の「出汁」文化は世界的にユニークで、外国人には理解しづらい構造がある

「tonkotsu=pork bone」という翻訳の壁が、多くの悲喜劇を生んでいる

一蘭・一風堂をはじめ、日本のラーメン業界は急速にヴィーガン・ハラル対応を進めている

私たち日本人にできることは、英語で「出汁は動物性」と説明できる力を持つこと

あのヴィーガンの外国人は、スープを飲み干しながら「This is amazing!」と思ったかもしれません。その感想は、ある意味では豚骨ラーメンの実力の証明でもあります。

でも、もし次に同じ状況に出くわしたら、「The broth is made from pork bones.」のひと言を伝えてあげてほしい。「おいしかった」は、お互いの文化を正しく理解した上でこそ、本物の「おいしかった」になるのだから。

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