原田先生のとっておきの話

GODIVAの名前の由来が衝撃! 裸で馬に乗った貴婦人と「のぞき魔」の英語 ― バレンタインに知りたい、チョコレートに隠された1000年の物語 ―

VALENTINE’S DAY × ENGLISH ORIGINS

GODIVAの名前の由来が衝撃!
裸で馬に乗った貴婦人と「のぞき魔」の英語

― バレンタインに知りたい、チョコレートに隠された1000年の物語 ―

🍫 バレンタインに読みたい「GODIVA」の超絶トリビア

今日はバレンタインデー。デパートやコンビニで誰もが目にする金色の箱「GODIVA」。あの馬に乗った女性のロゴ、実は「裸で街を駆け抜けた実在の貴婦人」がモデルだと知っていましたか? そしてこの逸話から、英語の超有名な慣用表現まで生まれているのです。

バレンタインデーといえばチョコレート。そしてチョコレートのブランドといえば、多くの人が真っ先に思い浮かべるのがGODIVA(ゴディバ)でしょう。

ところで、ゴディバの箱やパッケージには必ず、長い髪をなびかせた女性が馬にまたがる姿が描かれていますよね。あのロゴ、何だか優雅なイメージだな……とぼんやり見ていた方も多いと思いますが、実はとんでもない物語が隠されています。

あの女性は「全裸」で馬に乗っているのです。

🏰 11世紀イングランド ― ゴダイヴァ夫人の伝説

時は1043年、イングランド中部の小さな町コヴェントリー。この街を治めていたのは、マーシア伯爵レオフリック。彼は街を発展させるために次々と公共事業を進めましたが、そのために領民への税金をどんどん引き上げていきました。

重税に苦しむ民の姿を見て、心を痛めたのがレオフリックの妻、ゴダイヴァ夫人(Lady Godiva)でした。

夫人は何度も何度も夫に「税を下げてほしい」と訴えます。しかし夫は聞く耳を持ちません。ついに議論に疲れ果てた夫は、妻の慎み深い性格を知った上で、こう言い放ちます。

「おまえが一糸まとわぬ姿で馬に乗り、
町中を一周できたなら、税を下げてやろう」

まさか本当にやるわけがない ―― そう高をくくっていたレオフリック伯爵。ところが翌朝、ゴダイヴァ夫人は本当に実行に移します

夫人は町中の民に「窓を閉め、外を見ないように」と命じた上で、長い髪だけを全身のヴェールのようにまとい、馬にまたがって街を一周しました。領民たちは夫人への敬意と感謝から、全員が窓を閉めて見ないようにしました。

驚愕する夫のもとに戻った夫人。レオフリックは約束を守り、ついに税は引き下げられたのです。

👀 たった一人だけ覗いた男 ― 「Peeping Tom」の誕生

ここからが英語の授業です。

街の全員が窓を閉めてゴダイヴァ夫人の裸身を見ないようにした中、たった一人だけ、こっそり覗き見た男がいました。

仕立屋を営むトム(Tom)という男です。

伝説では、神罰によりトムはその場で失明したとされています。

Peeping Tom

= のぞき魔、盗み見をする人

覗き見をした仕立屋トムの名前から生まれた英語表現。
初出は1773年、コヴェントリー市の公式記録に登場。
現在も英語で「voyeur(のぞき魔)」の意味で広く使われている。

つまり、日本語で言う「出歯亀(でばがめ)」に相当する英語の俗語が、このゴダイヴァ伝説から生まれたのです。バレンタインのチョコレートの裏に、1000年前の「のぞき魔」の話が隠れているなんて、なかなかの衝撃ではないでしょうか。

🍫 ベルギーのチョコレート職人が、なぜ英国の伝説に感銘を受けたのか

さて、この伝説がどうやってチョコレートブランドになったのか。

1926年、ベルギーの首都ブリュッセルで、ピエール・ドラップス(Pierre Draps)という職人が自宅の工房でプラリネチョコレートを手作りし始めました。これがGODIVAの始まりです。

ピエールの死後、息子のジョセフが事業を引き継ぎます。第二次世界大戦後、自分の店を開こうと決意したジョセフは、ブランドにふさわしい名前を探していました。

GODIVAの名付け親は誰?

ジョセフの妻ガブリエルが「ゴディバはどう?」と提案。領民のために自らの名誉を犠牲にしたゴダイヴァ夫人の勇気・大胆さ・愛に感銘を受けた二人は、1945年に正式にブランド名を「Godiva」に決定しました。

こうして、11世紀イングランドの伝説の貴婦人の名を冠したチョコレートブランドが、ベルギーの地で誕生したのです。あの馬に乗った女性のロゴは、まさにゴダイヴァ夫人その人。ブランドの精神である「大胆さ、正しいことのために立ち上がること、先駆者の精神」は、すべてこの伝説に由来しています。

🎤 Queenも歌った「Lady Godiva」

ゴダイヴァ夫人の伝説は、英語圏では非常に有名で、音楽・文学・美術にも数え切れないほど登場します。

中でも日本人にもなじみ深いのが、Queenの大ヒット曲「Don’t Stop Me Now」(1978年)。この曲の歌詞に、ゴダイヴァ夫人が登場しています。

🎵 Don’t Stop Me Now – Queen

I’m a racing car passing by
like Lady Godiva
I’m gonna go, go, go
There’s no stopping me

「レーシングカーのように駆け抜ける、レディ・ゴダイヴァのように」

フレディ・マーキュリーが「止められない疾走感」の比喩として選んだのが、裸で馬を駆るゴダイヴァ夫人だったわけです。何にも遮られず、恐れず突き進むイメージ。なるほど、これ以上ない比喩ですね。

🔤 「ゴディバ」なのか「ゴダイヴァ」なのか ― 英語教師的に超面白い話

ここで英語教師として、どうしても触れたい話があります。

日本では「ゴディバ」と呼ばれるこのブランド。でも英語圏に行くと、「ゴディバ」では全く通じません。

言語 発音 理由
🇬🇧🇺🇸 英語 ゴダイヴァ(gəˈdaɪvə) 英語の “i” は「アイ」と読むルール
🇧🇪🇫🇷 フランス語 ゴディーヴァ フランス語の “i” は「イ」と読む
🇯🇵 日本語 ゴディバ ベルギー(フランス語圏)の発音に準拠

ベルギーはフランス語圏なので、創業の地の発音に従えば「ゴディヴァ」。一方、ブランド名の由来であるLady Godivaは英語の人物なので「ゴダイヴァ」。どちらも正しいのですが、面白いのは英語圏の人はベルギーの発音などお構いなしで、堂々と「ゴダイヴァ」と呼ぶこと。

これはIKEA(イケア)がアメリカでは「アイキィア」と発音されるのとまったく同じ現象です。英語話者は基本的に、スペルを英語のルールで読みます。「相手の国の発音に合わせる」という発想がないんですね。

💡 英語教師のワンポイント

アメリカやイギリスのチョコレート売り場で「ゴディバください」と言っても通じません。「ゴダイヴァ」と言いましょう。この知識だけで、海外のチョコレートショップでドヤ顔できます。

🤔 伝説は本当なのか? ― 歴史家たちの見解

さて、ここまで読んで「本当にあった話なの?」と思った方もいるでしょう。結論から言うと、ゴダイヴァ夫人は実在の人物ですが、裸の行進は「伝説」です。

📜 史実として確認されていること

✅ ゴダイヴァ夫人(990年頃〜1067年頃)は実在した

✅ マーシア伯レオフリックの妻だった

✅ 夫婦でコヴェントリーの修道院建設に寄進した記録がある

✅ 1086年のドゥームズデイ・ブック(国勢調査記録)に数少ない女性領主として記載

❌ 裸の行進に関する同時代の記録は一切ない

❌ 「ピーピング・トム」が文献に登場するのは18世紀以降

裸の行進の最古の記録は、事件から約200年後の13世紀に書かれた年代記です。歴史家の間では、後世の修道院の宗教家が付け加えた創作であるという見方が主流です。

また、当時のコヴェントリーは人口500人程度の小さな農村で、馬で豪快に走り回るような規模ではなかったという指摘もあります。さらに面白いことに、コヴェントリーの土地はレオフリックではなくゴダイヴァ夫人自身の所領だった可能性が高く、もしそうなら税を決めていたのは夫人本人ということになります。

しかし、伝説が事実かどうかはさして重要ではありません。大事なのは、この物語が1000年にわたって人々の心を動かし続け、英語表現を生み出し、世界的チョコレートブランドの名前にまでなったという事実です。

📰 GODIVAが日本に投じた「もうひとつの衝撃」

GODIVAと日本のバレンタインをめぐっては、もうひとつ忘れられないエピソードがあります。

2018年2月1日、日本経済新聞の朝刊に、ゴディバジャパンの全面広告が掲載されました。

「日本は、義理チョコをやめよう。」

― ゴディバジャパン代表取締役社長 ジェローム・シュシャン

チョコレート会社が「チョコを配るのをやめよう」と呼びかける ―― 一見矛盾するようなこの広告は、瞬く間にSNSで大拡散されました。

広告では、義理チョコの準備が負担になっている女性たちの声を代弁し、「バレンタインの主役はもらう人ではなく、あげる人ではないか」と訴えました。そして日経新聞という媒体を選ぶことで、メッセージの届け先を「もらう側の男性上司」に設定するという、極めて巧みなマーケティングでもありました。

これに対して、「一目で義理とわかるチョコ」でおなじみのブラックサンダー(有楽製菓)が公式Twitterで「よそはよそ、うちはうち。みんなちがって、みんないい」と応戦したのも、日本のバレンタイン史に残る名場面です。

ゴダイヴァ夫人が「民のために体を張った」ように、現代のGODIVAは「女性のために常識に切り込んだ」。奇しくもブランドの精神が、1000年の時を超えて一貫しているのが面白いところです。

📚 今日から使える!ゴダイヴァ伝説の英語表現

Peeping Tom

【意味】のぞき魔、盗み見をする人

【由来】ゴダイヴァ夫人を覗き見た仕立屋トム

例:”The police arrested a Peeping Tom outside the apartment building.”
(警察はアパートの外にいたのぞき魔を逮捕した。)

Lady Godiva

【意味】大胆不敵な人、裸の比喩

【読み方】レディ・ゴダイヴァ(/ɡəˈdaɪvə/)

※ロンドンの俗語(Cockney rhyming slang)では
“Lady Godiva” = “fiver”(5ポンド紙幣)の意味も!

voyeur / voyeurism

【意味】のぞき見する人 / のぞき見行為

【語源】フランス語の “voir”(見る)から

Peeping Tom が口語的表現なのに対し、voyeur はより正式・学術的な表現です。ニュース記事や法律用語でも使われます。

🌍 ゴダイヴァ伝説が生き続ける街・コヴェントリー

伝説の舞台コヴェントリーでは、現在もゴダイヴァ夫人は街のシンボルとして大切にされています。

🐴 街の中央広場ブロードゲイトには、1949年に除幕されたゴダイヴァ夫人の騎馬像が立つ

🎪 毎年「ゴダイヴァ・フェスティバル」が開催され、夫人に扮した人が行列に参加する

🪵 ショッピングセンターには「ピーピング・トム」のオーク材の木像が現在も展示されている

🎨 ジョン・コリアが1898年に描いた名画『ゴダイヴァ夫人』はコヴェントリーの美術館に所蔵

1000年前の伝説が、今も街の誇りとして、そして世界中で愛されるチョコレートの名前として、生き続けている。言葉と物語の力を、これほど鮮やかに示す例はなかなかありません。

✨ まとめ ― 今年のバレンタイン、チョコの箱を見る目が変わる

GODIVAの名前は11世紀イングランドの実在の貴婦人「ゴダイヴァ夫人」に由来

夫人は重税に苦しむ領民のために、全裸で馬に乗り街を一周したと伝えられている

この時覗き見した男が「Peeping Tom(のぞき魔)」という英語表現の語源になった

1926年、ベルギーでピエール・ドラップスがチョコレート工房を創業。息子ジョセフの妻ガブリエルの提案で「Godiva」と命名(1945年)

英語では「ゴダイヴァ」、日本では「ゴディバ」。ベルギー本社は「どちらでもOK」のスタンス

Queenの「Don’t Stop Me Now」にも「Lady Godiva」が登場する

2018年、ゴディバジャパンが日経新聞で「義理チョコをやめよう」広告を出し社会現象に

今日、誰かからGODIVAのチョコレートを受け取ったら ―― あるいは自分へのご褒美に金色の箱を開けたら ―― ぜひ思い出してください。あのロゴの女性は、民のために自分の恥じらいを捨てて馬に乗った、勇敢な貴婦人であることを。

そしてもし英語を勉強中なら、次にQueenの「Don’t Stop Me Now」を聴いたとき、“like Lady Godiva” のくだりで、きっとニヤリとできるはずです。

Happy Valentine’s Day! 🍫💛

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※ゴダイヴァ夫人の伝説は、現代の歴史家の間では史実ではないとする見方が主流です。本記事はブランド名の由来として広く伝わる伝説を紹介するものであり、歴史的事実として断定するものではありません。

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