本文へスキップ
日刊原田英語 Harada Eigo Daily
IDIOMS 第57回 標準 読了 7分

pass the buck の意味は?ポーカーのナイフが由来

入試に出るイディオム|第57回

自分の責任を、ほかの人に回してしまう pass the buck。どこかで聞いた気がするときの That rings a bell.。ただのものは無い、と言うことわざ There's no such thing as a free lunch.。比喩表現と会話表現とことわざを1つずつ、由来から入試の出方まで見ていきます。

監修:原田高志(原田英語.com)

「責任を回す」ことを、英語では「バックを回す」と言います。このバックは、お金のことではありません。昔のポーカーで使われた、ある道具です。思い出しかけたときの一言と、タダの昼ごはんのことわざも合わせて、3つ紹介します。

pass the buck

パス・ザ・バック 責任逃れのことば

自分がとるべき責任を、ほかの人に回す

起源 ポーカーの卓で、ナイフが回ってくる

語句の由来を調べるサイト Phrase Finder によると、ここで回している buck は、ポーカーで使う道具です。

ポーカーは、19世紀の後半のアメリカで、とても人気がありました。プレイヤーは、ずるいカードの配り方をひどく警戒していました。そこで、カードを配る役を、順番に交代することにしたのです。

次に配る人の前には、目印が置かれました。この目印は、ナイフであることが多く、その柄はよく雄ジカ(buck)の角で作られていました。だから、目印そのものが buck と呼ばれるようになったのです。

配る番が終わると、その人は buck を隣へ回しました。これが pass the buck です。Phrase Finder が挙げる、文字どおりの意味のいちばん古い例は、1865年7月の新聞 Weekly New Mexican です。

いま 文化祭の準備が遅れた日

文化祭の前の日です。クラスの看板が、まだできていません。

先生に「どうして間に合わなかったの」と聞かれました。看板の係のあなたは、思わず「材料を買う係が遅かったからです」と答えます。材料の係は、「デザインが決まらなかったからです」と言います。

自分のところで止めずに、責任を次の人へ回していく。

これが pass the buck です。

pass the buck = 配る番の目印(buck)を隣へ回す。責任ごと回る。

こう使う

Don't pass the buck. It was your job to check the schedule.

責任を人に回さないで。予定を確かめるのは、あなたの仕事でした。

The coach didn't pass the buck. He said the loss was his fault.

監督は、責任を人に回しませんでした。負けたのは自分のせいだと言いました。

発音:強く読むのは、pass と buck の2つです。パス・ザ・バック。buck の u は、口を少し開けて短く「ア」と言います。book(ブック)と混ぜないでください。

入試 ここで差がつく
こう問われる
①下線部の言い換えで、He always passes the buck. の意味を、avoids taking responsibility / passes the exam / spends his money / gives a present の4つから選ばせる形。②空所補充で、Don't pass the ( ) to your teammates. の空所に buck を入れさせる形。③Truman 大統領の机の札にあった The buck stops here. の意味を問う形。
ここで外す
buck を「ドル(お金)」と読み、「お金を渡す」と訳す答案が定番です。buck には確かにドルの意味があります。けれども、この熟語の buck はポーカーの目印です。もう1つは、pass を「合格する」と読み、passes the exam の選択肢を選ぶ誤りです。
決め手
前後に「誰のせいか」「責任」「失敗」の話が出ていれば、pass the buck は「責任を回す」です。お金のやりとりや試験の話が前後に無いなら、buck をドル、pass を合格と読む選択肢は消せます。

When the project failed, the manager passed the buck to his team.

誤答
その計画が失敗したとき、部長は部下にお金を渡した。
正答
その計画が失敗したとき、部長はその責任を部下に押しつけた。

Before

pass the buck を「お金を渡す」と直訳していて、下線部の言い換えで、責任の話の選択肢を選べなかった

After

失敗や責任の話の中に出てきたら「責任を回す」と読める。The buck stops here. も、「責任はここで止まる、自分がとる」と、同じ絵で読める

pass the buck を教室で使う(5分)

ねらい: pass the buck の buck がお金ではなく、ポーカーで回した目印だと知り、「責任を回す」の意味を絵でつかませる

  1. ペンを1本持ち、「これを、配る番の目印にします。番が終わったら、隣へ回してください」と言って、前の列で3人ほど回させます
  2. 「この目印を、昔のポーカーでは buck と呼びました。回すことを pass the buck と言います」と言って板書します
  3. 「いまは、何を回すときに使うでしょう。ヒントは、悪いことが起きたときです」と聞き、「責任」を引き出します
  4. 「The buck stops here. は、どういう意味になりますか」と聞き、ペアで30秒話し合わせてから「責任は自分がとる」と確認します

出口チケット: pass the buck と The buck stops here. の意味を、日本語で1行ずつ書かせる

pass the buck をもっと深く(語源・こぼれ話・自分用の例文づくり)

That rings a bell.

ザット・リングズ・ア・ベル 記憶のことば

(名前や話を聞いて)どこかで聞いたことがある気がする

起源 パブロフの犬の鐘、ではなかった

語句の由来を調べるサイト Phrase Finder によると、That rings a bell. は、20世紀の前半に生まれた言い方です。

「鐘が鳴る」と聞くと、パブロフの実験を思い浮かべる人がいるかもしれません。鐘の音を聞いた犬が、えさが無くてもよだれを出すようになった、という実験です。

Phrase Finder も、そう考えたくなると書いています。けれども、パブロフの研究とこの言い方を結びつける証拠は、何も無いそうです。

記憶の意味で使われた早い例として、Phrase Finder は、アメリカの作家 Lee Thayer の1933年の小説 Counterfeit を挙げています。Why does that name ring a bell with you?(その名前に、なぜ聞き覚えがあるんだ)という文です。

いま 友だちが口にした、ある名前

休み時間です。友だちが「〇〇っていう先輩、知ってる?」と聞いてきました。

あなたは、その名前をどこかで聞いた気がします。でも、顔もどこで聞いたのかも、まだ思い出せません。

はっきりは思い出せないけれど、頭のどこかで小さく鐘が鳴った。

このときの一言が That rings a bell. です。まったく覚えがなければ、That doesn't ring a bell. と言います。

That rings a bell. = 名前を聞いたら、頭の鐘がチリン。まだ全部は思い出せない。

こう使う

Mr. Tanaka? That rings a bell. Did he teach at our school?

田中先生? 聞き覚えがあります。うちの学校で教えていましたか。

Sorry, that name doesn't ring a bell.

ごめんなさい、その名前には覚えがありません。

発音:強く読むのは、rings と bell の2つです。リングズ・ア・ベル。rings の最後は「ズ」と濁ります。a は軽く、ほとんど聞こえないくらいに読みます。

入試 ここで差がつく
こう問われる
①会話文の空所補充で、A: Do you know a singer called Aimi? B: ( ) Is she the one who sang at the festival? に入る応答を、That rings a bell. / I'll call you back. / The bell is ringing. / Let me ring you. の4つから選ばせる形。②下線部の言い換えで、The name rings a bell. の意味を、sounds familiar / is very loud / makes a phone call / is hard to say から選ばせる形。
ここで外す
ring を「電話をかける」と読み、Let me ring you. や I'll call you back. を選ぶ答案が定番です。イギリス英語の ring には「電話する」の意味があるので、迷いやすいところです。もう1つは、The bell is ringing. を選び、本物の鐘やチャイムの話だと読む誤りです。
決め手
主語が name や that(相手が言った名前・話)で、うしろに a bell が続けば、「聞き覚えがある」です。直後の発言が「〜の人ですよね」のように思い出しかけた内容なら、この意味で決まります。
Do you know a singer called Aimi? アイミという歌手を知っていますか。
( ) Is she the one who sang at the festival? (  )お祭りで歌っていた人ですか。
誤答
Let me ring you./ring を「電話する」と読んだ形です。思い出しかけている B の次の発言につながりません
正答
That rings a bell./「聞き覚えがある」で、そのあとの「お祭りの人ですか」と自然につながります

Before

ring を「鳴る」か「電話する」の意味でしか知らず、That rings a bell. が会話文に出ると、何の音の話なのか分からずに止まっていた

After

主語が名前や話なら「聞き覚えがある」と読める。That doesn't ring a bell. も同じ絵で「覚えがない」と分かり、会話文の応答を、すぐあとの発言から決められる

That rings a bell. を教室で使う(5分)

ねらい: That rings a bell. が、名前や話を聞いて記憶が少しよみがえるときの一言だと、場面で気づかせる

  1. 「Pavlov という名前を聞いたことがありますか」と聞き、聞き覚えがある人に手を挙げさせます
  2. 「聞き覚えがあるときは、That rings a bell. と言います」と言って板書し、全員で2回声に出して読ませます
  3. 「覚えがないときは、どう言うでしょう」と聞き、That doesn't ring a bell. を引き出して板書します
  4. ペアで、片方が有名人や地名を1つ言い、もう片方が That rings a bell. か That doesn't ring a bell. で答える練習を、役を替えて3回ずつやらせます

出口チケット: 「その名前には、聞き覚えがありません」を英語で書かせる

That rings a bell. をもっと深く(語源・こぼれ話・自分用の例文づくり)

There's no such thing as a free lunch.

ゼアズ・ノー・サッチ・シング・アズ・ア・フリー・ランチ 用心のことば

ただで手に入るものは無い。何かを得るには、どこかで誰かが代わりを払っている

起源 酒場の「無料の昼ごはん」

語句の由来を調べるサイト Phrase Finder によると、19世紀の半ばから、アメリカの酒場(saloon)には free lunch がありました。お酒を買った客に、食べ物を無料で出していたのです。

Phrase Finder は、1850年6月の Milwaukee の酒場の広告を挙げています。「毎日11時に、無料の昼食を出します」という文です。

けれども、客はお酒を頼まなければ、その昼食を食べられません。食べ物の分は、結局お酒の値段の中で払っていたのです。

このことわざを誰が作ったのかは、分かっていません。Phrase Finder が見つけた、今の形のいちばん古い例は、1943年10月の新聞 The Long Beach Independent の社説です。

いま 「無料」と書かれたアプリ

スマホで、新しいゲームアプリを見つけました。「完全無料」と書いてあります。

入れて遊んでみると、ときどき広告が流れます。名前やメールアドレスの登録も求められます。強いキャラクターは、課金しないと手に入りません。

お金は払っていなくても、時間や情報で、何かを払っている。

このことを、英語は There's no such thing as a free lunch. と言います。

There's no such thing as a free lunch. = タダの昼ごはんの代金は、お酒の値段に入っていた。

こう使う

The game is free, but you have to watch ads. There's no such thing as a free lunch.

そのゲームは無料ですが、広告を見なければなりません。ただのものは無いのです。

If an offer sounds too good, remember there's no such thing as a free lunch.

うますぎる話に聞こえたら、ただのものは無いということを思い出してください。

発音:強く読むのは、no と free と lunch です。ノー・サッチ・シング・アズ・ア・フリー・ランチ。thing の th は、舌先を歯に軽く当てて出します。

入試 ここで差がつく
こう問われる
①ことわざの意味を、You can't get something for nothing. / Lunch is always free. / You should eat lunch every day. / Free food is healthy. の4つから選ばせる形。②空所補充で、There's no such thing ( ) a free lunch. の空所に as を入れさせる形。③長文で、「無料」のサービスの話のあとに置かれ、筆者の言いたいことを選ばせる形。
ここで外す
no such thing as を「そのような物は無い」と切って読み、「昼食は無料ではない店がある」と食事の話に訳す答案が定番です。もう1つは、空所に like や of を入れて、no such thing like と書く誤りです。such とセットになるのは as です。
決め手
no such thing as A は「A というものは、どこにも無い」です。A が a free lunch なら、昼食の話ではなく、「ただで手に入るものは無い」と読みます。前後に「無料」「得をする」の話があれば、この意味で決まります。

The app is free, but it collects your data. There's no such thing as a free lunch.

誤答
そのアプリは無料だが、あなたのデータを集める。無料の昼食はどこにも売っていない。
正答
そのアプリは無料だが、あなたのデータを集める。ただで手に入るものなど、無いのだ。

Before

free lunch を文字どおり「無料の昼食」と訳していて、長文の「無料サービス」の話のあとに出てくると、急に食事の話になったと思って読み違えていた

After

「無料」の話の締めに出てきたら「ただのものは無い」と読める。no such thing as A の形も、「A というものは無い」と、ほかの名詞にそのまま当てはめられる

There's no such thing as a free lunch. を教室で使う(6分)

ねらい: There's no such thing as a free lunch. の由来を知り、身のまわりの「無料」に当てはめさせる

  1. 「無料のゲームアプリで、私たちは何を払っているでしょう」と聞き、隣の人と30秒相談させます
  2. 「昔のアメリカの酒場には、お酒を買った人だけが食べられる、無料の昼ごはんがありました」と説明します
  3. 「その昼ごはんの代金は、本当は誰が払っていたでしょう」と聞き、「お酒の値段の中で、客が払っていた」を引き出します
  4. There's no such thing as a free lunch. を板書し、全員で2回声に出して読ませます
  5. ペアで、身のまわりの「無料」を1つ挙げ、そこで何を払っているかを日本語で説明し合わせます

出口チケット: 身のまわりの「無料」を1つ挙げ、そこで代わりに払っているものを日本語で1行書かせる

There's no such thing as a free lunch. をもっと深く(語源・こぼれ話・自分用の例文づくり)

動画で見る

Former President Truman Discusses "The Buck Stops Here" (HarrySTrumanLibrary) 英語です。Truman の記念図書館の公式チャンネルが出している動画で、題のとおり、Truman 元大統領が The Buck Stops Here について話す回です。

よくある質問

pass the buck の buck は、ドルのことですか?

Phrase Finder によると、違います。19世紀のアメリカのポーカーで、次にカードを配る人の前に置いた目印です。目印はナイフであることが多く、柄が雄ジカ(buck)の角でできていたので、buck と呼ばれました。

That rings a bell. は、パブロフの犬の実験から来たのですか?

Phrase Finder によると、そう考えたくなるものの、パブロフの研究とこの言い方を結びつける証拠は何もありません。記憶の意味で使われた早い例は、1933年の小説 Counterfeit です。

There's no such thing as a free lunch. は、誰の言葉ですか?

Phrase Finder によると、誰が作ったのかは分かっていません。Milton Friedman がよく結びつけられますが、作った人ではありません。今の形のいちばん古い例として、1943年10月の新聞 The Long Beach Independent が挙げられています。