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📕 読みもの

「単語帳なんて意味ない」論争に、研究が出した答え

「単語は文脈で覚えるもの。単語帳なんて意味ない」——本当でしょうか。読むだけで出会った単語が3か月後にいくつ残るのか、実際に数えた研究者がいます。

文:原田高志(現役高校英語教師)・読了 約11分

職員室で、今日もこの論争が始まる

「単語は文脈の中で覚えるものですよ。単語帳の丸暗記なんて意味がない」「でも、文脈で出会うのを待っていたら、入試に間に合いません」

英語の先生が何人か集まると、かなりの確率でこんな会話が始まります。生徒の側にも「単語帳派」と「洋書・多読派」がいて、どちらも自分のやり方を信じています。

研究の世界では、この対立にちゃんと名前があります。単語そのものを覚えようとして覚えるのは意図的学習(intentional learning)。読んだり聞いたりしているうちに、結果として覚えてしまうのは偶発的学習(incidental learning)。単語帳は前者の、多読は後者の代表選手です。

では、勝負の行方は? 結論を先に言うと、この論争は「どちらが正しいか」ではなく、「どちらも半分だけ正しい」で決着がつきつつあります。順番に見ていきましょう。

「読んでいれば自然に覚える」を、本当に数えた人たち

「文脈で覚える」派の主張を、まじめに測った研究があります。Waring & Takaki(2003)の実験では、日本人の中級以上の学習者15人が、段階別読み物『A Little Princess(小公女)』を読みました。400語レベルに書き直した版です。

工夫が細かいのです。物語の中から25語を選び、つづりを書き換えて「誰も知らない単語」にしておく。しかも1回しか出てこない語から15〜18回出てくる語まで、出現回数をばらしてあります。そのうえで、読んだ直後・1週間後・3か月後にテストしました。

結果は、なかなか厳しいものでした。単語は確かに偶発的に覚えられる。けれど、大半は覚えられていない。3か月後に意味を思い出せたのは、平均して25語中たった1語ほど。出会った回数が8回未満の単語は、3か月後には1つも意味が残っていませんでした。

さらに、26の研究(のべ1,918人)をまとめたで、「出会う回数」と「覚える量」の関係を調べたのが Uchihara, Webb & Yanagisawa(2019)です。答えは、「回数が多いほど、覚える量も多い」という中くらいの関係( r = .34)。回数は確かに効きます。ただし効き方は、条件で大きく変わることもわかりました。出会いの間隔、絵などの視覚的な助け、その単語にどれだけ深く関わったか、学習者がすでに知っている語彙の量などです(→偶発的語彙学習のメタ分析)。

文脈は、単語を「育てる」のは得意です。でも、ゼロから「植える」のは、とても遅い。

では、単語帳は無敵なのか

ここで単語帳派が勝ち誇るのは、まだ早いのです。

単語そのものを狙って覚える学習——単語カード、単語リスト、書いて覚える、穴埋め——の効果を調べたのが、Webb, Yanagisawa & Uchihara(2020)です。22の研究から集めた100のを分析しました。

学習直後のテストでは、英語を見て意味を思い出すテストで平均60.1%、意味から英語を思い出すテストで58.5%を習得していました。半分以上が一気に入る。これは偶発的学習にはまずまねできない速さです。

ところが、時間をおいたテストでは、それぞれ39.4%と25.1%まで落ちていました。著者たちはこの結果を、単語そのものを狙って覚えても習得は「保証からはほど遠い」とまとめています。しかも活動によって、成果は直後のテストで18.4%から77.0%まで大きくばらつきました。その中で、単語カードと単語リストは「比較的大きな伸びにつながった」とされ、書いて覚える・穴埋めは伸びが小さめでした。学習した場所や、「英語→日本語」「日本語→英語」のどちら向きに覚えたかでも結果が変わっています(→語彙指導のメタ分析)。

同じ3人は、のちに読む・聞く・見るで自然に覚える学習の研究24本もまとめました(Webb, Uchihara & Yanagisawa, 2023)。時間をおいたテストで残っていたのは、2割未満。単語帳側の約4割と比べると、差はかなり大きく見えます。ただし著者たちは、単語帳側の研究は何もしないグループと比べていないので、この差はうのみにしないでほしい、と注意しています。そのうえでの結論は、「どちらの学び方も、語彙学習に大きなプラスの効果がある」でした(→偶発的語彙学習の効果)。

つまり単語帳は「速いけれど、漏れやすい」。文脈派は「遅いけれど、出会いを重ねれば残る」。両者の言い分は、どちらも半分ずつ当たっていたのです。

「何語覚えればいいの?」に答える数字

それでも単語帳が必要になる理由は、目標の大きさにあります。

外国語で書かれた文章を辞書なしで十分に理解するには、出てくる語の98%を知っている必要がある。この目安を示して大きな影響を与えたのが、Hu & Nation(2000)の研究です。50語に1語しか知らない語がない状態です。

この98%を前提に計算したのが Nation(2006)です。イギリス英語の大規模(British National Corpus)から、よく出る順に1,000語族ずつのリストを作りました。答えは、書かれた英語なら8,000〜9,000語族、話された英語なら6,000〜7,000語族。「語族」は、use・used・useful のような仲間をひとまとめに数える単位です。

先ほどの Waring & Takaki(2003)の数字を思い出してください。1冊読んで、3か月後に残るのが1語前後。このペースだけで数千語族に届くには、気の遠くなる量を読む必要があります。著者たち自身も、語彙を増やすには膨大な量の多読が必要だと述べています。

ただし、98%は「法則」ではなく「目安」です。Kremmel ほか(2023)は、もとの研究がニュージーランドの大学生66人のデータにもとづいていたことを指摘しました。そこでスリランカの成人学習者104人でしたところ、元の研究を完全には再現できませんでした。数字を絶対視せず、「よく出る語から順に、たくさん」という方向性を受け取るのがよさそうです(→頻出語から学ぶ)。

研究どおりの単語帳の使い方

では、「漏れやすい」単語帳を、漏れにくくするには? ここで役に立つのが、日本人学習者を対象に重ねられてきた Nakata の一連の実験と、それを含む大規模なメタ分析です。

① 日を空ける。形は二の次。 外国語の学習で行われた48の実験(のべ3,411人)をまとめた Kim & Webb(2022)によると、間隔を空けて学ぶと、はっきりした効果がありました(研究の世界でいう“中〜大”くらい)。直後のテストでは間隔が短くても長くても同じくらいでしたが、時間をおいたテストでは間隔が長いほうが有利。一方、「だんだん間隔を広げる」か「同じ間隔で繰り返す」かは、はっきりした差がありませんでした(→間隔反復のメタ分析)。日本人大学生128人で実験した Nakata(2015)も、間隔を広げる方式がわずかに有利だとしつつ、それより「間隔を空けるかどうか」のほうが効果は大きいと結論しています(→拡張型 vs 均等間隔)。

② 1回の学習で、何度も思い出す。 Nakata(2017)は、日本人学習者98人に16組の英単語と日本語訳を、1回・3回・5回・7回のいずれかの回数だけ思い出させました。5回と7回のグループは、テストの時期にかかわらず1回・3回より高得点。ただし「かかった時間あたり」で比べると、1回のほうが効率がよいという結果も出ています。時間が限られているなら、1語に粘りすぎず、たくさんの語を回して、日を空けて戻ってくるのが現実的です。

③ 道具は、思い出しやすい形に。 Nakata(2008)では、日本の高校生226人が10語を単語リスト・単語カード・コンピュータのいずれかで学びました。時間をおいたテストで、コンピュータのグループがリストのグループを上回りました。カードは、どちらともはっきりした差がありませんでした。Nakata(2011)は、9つの単語カードソフトを17の観点で比べました。多くはよく設計されている一方、思い出す負荷を高めたり、単語を自分で使わせたりする機能は弱いと指摘しています(→語彙カード学習)。

どの道具を使うにしても、核にあるのは「答えを隠して思い出す」ことです(→検索練習)。

原田先生の結論

「単語帳か、多読か」は、実は「スコップか、じょうろか」を比べているようなものです。単語帳は種を植えるスコップ。多読・多聴は水をやるじょうろ。どちらか一方だけでは、花は咲きにくい。

単語帳で覚えた語に、文章の中で何度も出会い直す。それは偶発的学習の研究が示した「出会いの回数」を増やすことであり、同時に「間隔を空けた復習」にもなっています。二つの派閥は、実は最高のタッグを組めるのです。

単語帳の判定が「研究で支持」なのは、丸暗記を勧めているからではありません。思い出して、間を空けて、文脈でもう一度会う。そういう使い方をしたときの単語帳が、研究で支持されているのです。

今日からできること

  • 単語帳を「眺める」のをやめて、答えを隠して思い出す
  • 1日で10周するより、日を空けて何度か戻る
  • 1語に粘りすぎず、まとめて回して、また戻ってくる
  • 覚えた単語に、やさしい英文(多読)で出会い直す
  • 何から覚えるか迷ったら、よく出る語から

参考文献

  • Hu, M. H.-c., & Nation, P. (2000). Unknown vocabulary density and reading comprehension. *Reading in a Foreign Language, 13*(1), 403–430. https://hdl.handle.net/10125/66973
  • Kim, S. K., & Webb, S. (2022). The effects of spaced practice on second language learning: A meta-analysis. *Language Learning, 72*(1), 269–319. https://doi.org/10.1111/lang.12479
  • Kremmel, B., Indrarathne, B., Kormos, J., & Suzuki, S. (2023). Unknown vocabulary density and reading comprehension: Replicating Hu and Nation (2000). *Language Learning, 73*(4), 1127–1163. https://doi.org/10.1111/lang.12622
  • Nakata, T. (2008). English vocabulary learning with word lists, word cards and computers: Implications from cognitive psychology research for optimal spaced learning. *ReCALL, 20*(1), 3–20. https://doi.org/10.1017/S0958344008000219
  • Nakata, T. (2011). Computer-assisted second language vocabulary learning in a paired-associate paradigm: A critical investigation of flashcard software. *Computer Assisted Language Learning, 24*(1), 17–38. https://doi.org/10.1080/09588221.2010.520675
  • Nakata, T. (2015). Effects of expanding and equal spacing on second language vocabulary learning. *Studies in Second Language Acquisition, 37*(4), 677–711. https://doi.org/10.1017/S0272263114000825
  • Nakata, T. (2017). Does repeated practice make perfect? The effects of within-session repeated retrieval on second language vocabulary learning. *Studies in Second Language Acquisition, 39*(4), 653–679. https://doi.org/10.1017/S0272263116000280
  • Nation, I. S. P. (2006). How large a vocabulary is needed for reading and listening? *The Canadian Modern Language Review, 63*(1), 59–82. https://doi.org/10.3138/cmlr.63.1.59
  • Uchihara, T., Webb, S., & Yanagisawa, A. (2019). The effects of repetition on incidental vocabulary learning: A meta-analysis of correlational studies. *Language Learning, 69*(3), 559–599. https://doi.org/10.1111/lang.12343
  • Waring, R., & Takaki, M. (2003). At what rate do learners learn and retain new vocabulary from reading a graded reader? *Reading in a Foreign Language, 15*(2), 130–163. https://hdl.handle.net/10125/66776
  • Webb, S., Uchihara, T., & Yanagisawa, A. (2023). How effective is second language incidental vocabulary learning? A meta-analysis. *Language Teaching, 56*(2), 161–180. https://doi.org/10.1017/S0261444822000507
  • Webb, S., Yanagisawa, A., & Uchihara, T. (2020). How effective are intentional vocabulary-learning activities? A meta-analysis. *The Modern Language Journal, 104*(4), 715–738. https://doi.org/10.1111/modl.12671