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「英語は早いほどいい」は本当か:臨界期の“本当の話”と、親が知っておきたい研究

英語は小さいうちに始めないと手遅れ——。そう聞いて、あせった経験はありませんか。67万人のデータ、スペインやドイツの子どもたちを何年も追った研究が出した答えは、思っていたものと少し違いました。

文:原田高志(現役高校英語教師)・読了 約13分

親より先に、子どもが話しはじめる

家族で海外に引っ越すと、よく起きることがあります。数年たつと、子どもはまるで現地の子のように話しているのに、親はいつまでもなまりが抜けない。

この「子どもは言葉の天才」という実感を、研究として確かめた有名な実験があります。中国語か韓国語を母語とし、3歳から39歳までのいろいろな年齢でアメリカに来た46人に、英語の文を聞かせて「文法的に正しいか」を判断してもらったのです(Johnson & Newport, 1989)。アメリカに住んでいた年数は、平均で約10年でした。

結果ははっきりしていました。3〜7歳で来た人は、英語の母語話者とほぼ同じ点。8〜10歳、11〜15歳と、来た年齢が上がるほど点は下がっていきました。17歳以降に来た人は全体に点が低く、年齢との関係はほとんど見えなくなりました。

「やっぱり早いほうがいいんだ」。そう思った方は、少しだけ待ってください。この研究には、あまり知られていない“続き”があります。

「授業を始めた年齢」とは、はっきり結びつかなかった

同じ論文で、二人は別のことも調べていました。17歳以降に来た人たちが、母国で英語の授業を始めた年齢と、テストの点の関係です。

結果は、はっきりした関係は見られませんでした(23人の小さな分析で、授業を始めた年齢の幅もせまいものでしたが)。著者たちは、点と結びついていたのは、アメリカに来て英語にどっぷりつかった年齢のほうであり、「教室で早く始めること」は、早く英語の国で暮らすことと同じ有利さを持つとは限らない、と書いています。

つまり、「子どもは言葉の天才」という話の多くは、英語にどっぷりつかれる環境での話だったのです。

67万人のデータが示した「17.4歳」

では「」はあるのか。最大級のデータで調べたのが、Hartshorne, Tenenbaum & Pinker(2018)です。インターネット上の英文法クイズに答えた669,498人の結果を分析しました。

推定されたのは、文法を学ぶ速さが下がり始めるのは17.4歳ごろだということ。6歳や10歳ではありません。思われていたより、ずっと遅かったのです。

ただし、この研究は同時に、「文法でネイティブ並み」のレベルに届くには、10〜12歳ごろまでに始める必要があるとも推定しています。学ぶ速さが落ちる前に、たっぷり時間をかけて英語を浴びる必要があるからです。そしてこれは、主に英語の国で暮らした人たちのデータです。

この「17.4歳」にも異論があります。同じデータを分析し直した研究者たちは、学習者のタイプごとに分けると多くはゆるやかに下がっているだけで、折れ目が出たのは一部のグループ、しかもその時期は学校を卒業するころと重なる、と主張しました(van der Slik ほか, 2022)。アメリカの移民約230万人のデータでも、来た年齢とともに英語力はなだらかに下がり、ある年齢で急に扉が閉まるような折れ目は見られませんでした(Hakuta ほか, 2003)。

一方で、元の研究チームは約47万人分のデータを足して分析し直し、思春期の終わりごろに文法を学ぶ力が落ちるという結論を改めて支持しています(Chen & Hartshorne, 2021)。

研究者の間で「臨界期は〇歳」という合意はありません。7歳、12歳ごろ、15歳、17.4歳。研究によって、出てくる年齢はばらばらです。

授業だけなら、11歳で始めた子のほうが速く伸びた

では、日本の子どものように週に数時間の授業で英語を学ぶ場合はどうでしょうか。ここで、ぜひ知っておいてほしい研究があります。

スペインのバルセロナでは、学校の英語を始める年齢が、制度の変更で11歳から8歳に早まりました。研究者のカルメン・ムニョスたちは、この「8歳で始めた子」と「11歳で始めた子」を、授業を約200時間、416時間、726時間受けたところでそれぞれ比べました(Muñoz, 2006; 2008)。

結果は、多くの人の予想と逆でした。同じ授業時間数で比べると、11歳で始めた子のほうが速く伸びていたのです。726時間の時点まで追っても、8歳で始めた子が追い越す様子は見られませんでした。

ムニョスは、その理由をこう説明しています。子どもが得意なのは、たくさんの言葉を浴びて自然に身につける学び方です。でもそれには大量の英語が必要で、週に数時間の授業では足りません。教室でルールを理解して学ぶのは、むしろ年齢が上の子のほうが得意なのです。

ただし、同じ時間数で比べると、早く始めた子はテストのときに年齢が下です。年上の子のほうが点を取りやすいのは当然で、ムニョス自身もそう説明しています。「遅く始めたほうがいい」という意味ではありません。

ほかの国でも、似た結果が出ています。

  • スイス:5年遅れて英語を始めた子が、書く力で半年もしないうちに早く始めた子に追いつきました(Pfenninger, 2016)。
  • ドイツ:小1で始めた子は、5年生では小3で始めた子より上でした。ところが7年生で逆転されます(Jaekel ほか, 2017)。さらに同じチームが9年生まで追うと、また小1開始の子が上回っていました(Jaekel ほか, 2022)。ドイツの別の大規模調査でも、「差はごくわずか」という結果と「長く有利」という結果に分かれています。
  • 世界の研究42本をまとめた論文は、外国語として学ぶ環境では、年少で始めた子が有利だという確かな証拠は見つからなかった、と結論しています(Huang, 2016)。

「早く始めても意味がない」とは言えません。でも、「早く始めさえすれば有利」とも言えない。これが、今の研究の正直な姿です。

日本の小学校英語は、どれくらいの量?

日本では、2011年度から5・6年生で「外国語活動」が必修になりました。2020年度からは、3・4年生で外国語活動、5・6年生で教科「外国語」になっています。授業は年に35〜70単位時間(週1〜2コマ程度)です。

小学校の4年間の授業を足すと、35×2+70×2=210単位時間。小学校の1単位時間は45分なので(学校教育法施行規則)、約158時間です。バルセロナの研究で最初に比べた「約200時間」にも届きません。

日本でも、小学校英語の効果を調べた研究はあります。2009年に全国の中学2年生2,967人に行った調査のデータ(この生徒たちが小学校で受けたのは、必修化前の英語活動)を、二つの研究チームが分析しました。ただ、英語力は生徒自身の自己申告で、効果は見られても小さく、同じデータでも「小1・小2で始めた場合だけ効果の可能性がある」(豊永・須藤, 2017)、「早期化の効果には疑問がある」(寺沢, 2018)と、解釈が分かれています。

カギは「何歳から」より「どれだけ」と「だれと」

では、子どもの英語で本当に大事なのは何でしょうか。研究からは、二つのヒントが見えてきます。

一つめは「量」。 英語の授業をまだ受けていないベルギーの10〜12歳780人を調べた研究では、聞き取りで約4人に1人が、ヨーロッパの基準でA2レベルの力を持っていました(De Wilde ほか, 2020)。多くの子が、学校の外で英語の音楽や動画、ゲーム、SNSに毎日ふれていました(どれも7割台〜9割台)。ただしこれは一度に調べた調査で、ふれたから力がついたのか、力のある子がよくふれるのかは区別できません(→字幕つきの英語番組で育つ)。ただし、ベルギーの子の母語は英語に近い言葉で、知っている英単語の多くは母語と似た単語でした。日本語を話す子に、同じことがそのまま起きるとは言えません。

二つめは「人」。 赤ちゃんの研究では、中国語を話す人と実際に遊んだ赤ちゃんは中国語の音の聞き分けを保てたのに、同じ人を映像で見せただけでは効果がありませんでした(Kuhl ほか, 2003。→赤ちゃんに外国語DVDを見せる)。ベルギーの研究でも、英語力と強く結びついていたのは、ただ見る・聞くことより、SNSやゲーム、英語で話すことのように、やりとりがある活動でした。

原田先生の結論

「早く始めないと手遅れ」という言葉は、親の心をとてもあせらせます。でも研究をたどると、見えてくるのは別の姿でした。

英語の国で暮らすなら、早く始めた子は確かに有利です。でも、週に数時間の授業や習い事だけなら、始めた年齢だけで、はっきり差がつくとは限りません。そして「ネイティブそっくり」を目指さなければ、大人になってから始めても、英語で伝え合う力は身につけられます(→臨界期の判定)。

だから僕が親御さんに伝えたいのは、「何歳から」より「どれだけ、だれと、楽しく」です。年齢の数字であせるより、子どもが英語を好きでいられるかを見てあげてください。中学・高校で英語を本格的に学ぶとき、「英語って楽しい」という気持ちこそが、いちばんの貯金になります。

今日からできること

  • 「何歳から」ではなく「週に何時間、何年続けられるか」で考える
  • 英語の動画や歌は流しっぱなしにせず、親も一緒に見て、まねして口に出す
  • 絵本は読むだけでなく、絵を指さして単語を説明したり問いかけたりする(→英語の絵本の読み聞かせ)
  • 英語を話す人とじかにふれあう機会を、少しでもつくる
  • 子どもが英語を嫌がったら、無理に続けず休んでもいい

参考文献

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  • Chen, T., & Hartshorne, J. K. (2021). More evidence from over 1.1 million subjects that the critical period for syntax closes in late adolescence. *Cognition, 214*, 104706. https://doi.org/10.1016/j.cognition.2021.104706
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