しかしあなたの体は無意識に──ペコリとお辞儀。
相手の手は宙に浮いたまま。気まずい沈黙が流れる。
──これ、海外に出た日本人の「あるある」です。
1お辞儀 vs 握手──挨拶の「起源」が真逆だった
日本人のお辞儀と、英語圏の握手。この二つの挨拶は、それぞれまったく異なる哲学から生まれています。そしてその起源を知ると、文化の本質が見えてきます。
お辞儀は、飛鳥〜奈良時代に仏教とともに中国から伝わったとされています。頭を下げることで「あなたに敵意はありません」「敬意を持っています」という意思を示す行為。つまり、自分を低くすることで相手を高めるという思想が根底にあります。
一方、握手の起源は紀元前5世紀のギリシャにまで遡ります。右手を差し出すことで「武器を持っていない」ことを証明する、平和のジェスチャーだったのです。中世ヨーロッパでは、騎士が相手の手を激しく振ることで「袖の中に隠したナイフを落とす」ための実用的な行為でもありました。
身体的接触なし。
角度と時間で敬意の深さを表現。
仏教の礼拝に由来する
謙虚さと敬意の表現
身体的接触あり。
握力とアイコンタクトで誠実さを表現。
武器を持たない証明に由来する
平等と信頼の表現
17世紀になると、イギリスのクエーカー教徒たちが「お辞儀やお帽子を取る行為」をやめ、より平等主義的な挨拶として握手を普及させました。つまり握手には「あなたと私は対等です」というメッセージが込められているのです。
面白いことに、お辞儀も握手も根本にある発想は同じ──「あなたに敵意はありません」。ただし、それを「自分を低くする」か「相手と物理的に触れ合う」かで表現するかが、まったく違うのです。
2英語圏で日本式お辞儀をすると何が起きるのか?5つのリアル反応
では実際に、アメリカやイギリスで初対面の人に日本式のお辞儀をしたら、相手はどう反応するのでしょうか?状況別に見ていきましょう。
最もポジティブなパターン。特に日本文化に興味がある人や、アジア圏の文化に馴染みがある人は、お辞儀を見て「この人は日本人(または日本文化に精通した人)なんだな」と即座に理解してくれます。アメリカでの実話として、ハーフの女性がお辞儀を繰り返していたところ「日本に長く住んでいたの?」と聞かれたエピソードがあります。
特にカジュアルな場面では、軽いお辞儀がチャーミングな仕草として受け取られることがあります。ただしこれは「子どもっぽい」というニュアンスを含むこともあるため、ビジネスシーンでは注意が必要です。
最も多いパターンがこれ。相手が握手のために手を差し出しているのに、こちらがお辞儀をすると、相手の手が宙に浮くという気まずい状況が発生します。英語圏ではこれを “awkward moment”(気まずい瞬間)と呼びます。
深いお辞儀をすると、英語圏の人は「自分が何か悪いことをしたのか」「この人は怒っているのか」と誤解することがあります。西洋文化では深いお辞儀には「服従」や「謝罪」のニュアンスが強いためです。
英語圏、特にアメリカではカジュアルさ=親しみやすさです。フォーマルなお辞儀は「この人は壁を作っている」と受け取られるリスクがあります。
イリノイ大学の研究チームが発表した論文によると、西洋人は東アジア人に比べて握手をより好意的に評価する傾向が確認されています。特に西洋の男性は、握手を「信頼と能力の証」として重視する傾向が強いことが分かっています。
3オバマ大統領の「深すぎるお辞儀」が大炎上した事件
「挨拶一つでこんなに騒ぎになるのか」と驚くかもしれません。しかし2009年、オバマ大統領が天皇陛下に深々とお辞儀をした一件は、アメリカ国内で大論争を巻き起こしました。
2009年11月、東京の皇居を訪問したオバマ大統領は、天皇陛下(当時・明仁上皇)に対して、握手をしながら腰から約90度の深いお辞儀をしました。
THE CONTROVERSY
アメリカ国内の反応は真っ二つに割れた──
当時のディック・チェイニー前副大統領は「アメリカ大統領が誰かにお辞儀をする理由はない」と批判しました。
Foxニュースの世論調査では、67%のアメリカ人が「よいことだった」と回答しています。
✅ 注目ポイント:最大の問題は「お辞儀したこと」ではなく、「握手とお辞儀を同時にやったこと」。これは日本の作法でもNG。
実はこの騒動、過去の大統領たちも同様の問題に直面していました。1994年にはクリントン大統領が天皇陛下に軽くお辞儀をして批判され、ホワイトハウスは「あれはbow-bow(お辞儀のお辞儀)ではありません」と弁明する事態に。
この事件が教えてくれるのは、挨拶は単なるジェスチャーではなく、権力関係・文化的価値観・国際政治が凝縮された行為だということです。
4「合掌+お辞儀」──外国人がやりがちな日本文化の誤解
ここで逆の視点も見てみましょう。外国人が日本人に対して「良かれと思って」やってしまう挨拶の誤解があります。
最も多いのが、手を合わせて(合掌して)お辞儀をするパターンです。2024年のパリオリンピックでも、日本人メダリストにメダルを授与する際、外国人プレゼンターが合掌スタイルでお辞儀をする場面がありました。
よくある誤解
この誤解は、欧米の人が「アジア=合掌」というステレオタイプを持っていることに起因します。日本人からすると悪意はないと分かっていても、少し複雑な気持ちになるもの。ちょうど、日本人が「欧米人」をひとくくりにしてしまうのと同じ構造です。
5世界の挨拶マップ──国ごとにこんなに違う!
お辞儀と握手だけではありません。世界には驚くほど多様な挨拶文化があります。
挨拶の形は違えど、世界中のすべての挨拶に共通するメッセージは一つ──「あなたを認識しています。あなたを尊重しています。あなたを信頼しています」。形が違うだけで、人間の根本は同じなのです。
6ビジネスシーンで絶対避けたい「お辞儀×握手」の同時やり
海外のビジネスシーンで日本人が最もやりがちなミスが、「握手をしながら同時にお辞儀をする」という行為です。
これは日本の作法としてもNG(お辞儀中は相手の顔が見えない)ですし、西洋の作法としてもNG(握手中は目を見るべき)。つまりどちらの文化の観点からも中途半端になってしまいます。
最強の方法:相手の動きを0.5秒観察してから合わせること。手が出てきたら握手、お辞儀をされたらお辞儀を返す。「相手のリードに合わせる」これが万国共通の正解です。日本在住の多くの外国人ビジネスパーソンもこの戦略を取っています。
7今日から使える!海外で好印象を与える英語挨拶フレーズ15選
お辞儀の代わりに(あるいはお辞儀と組み合わせて)使える、英語圏で自然な挨拶フレーズを場面別に紹介します。
🟢 初対面・カジュアル
初級
初級
初級
🔵 ビジネス・フォーマル
中級
中級
中級
🟡 日本文化を自然に伝える上級フレーズ
上級
上級
上級
8日本のお辞儀が「世界で称賛される」瞬間──スポーツ・接客の美学
ここまで「海外でお辞儀すると困ることもある」という話をしてきましたが、逆に日本のお辞儀文化が世界から絶賛される場面もたくさんあります。
称賛① スポーツ選手の礼儀
日本のスポーツ選手が試合前後にお辞儀をする姿は、世界中で「美しい」「スポーツマンシップの極み」と評価されています。柔道や空手はもちろん、サッカーやテニスでもこの姿勢は注目を集めます。
称賛② 接客業の「最敬礼」
日本のデパートやホテルの従業員が、お客様が見えなくなるまでお辞儀を続ける光景は、外国人観光客を感動させてやみません。新幹線の車掌が車両を出る際にお辞儀をする姿も、SNSで世界中に拡散されています。
称賛③ 「電話中のお辞儀」の奥深さ
日本人が電話で話しながら無意識にお辞儀をする──この行為は、海外メディアで「日本文化の象徴」として頻繁に紹介されます。相手が見ていなくても敬意を示す。この「形式ではなく心から発する礼儀」が、世界の人々の心を打つのです。
日本の大杉らの研究(2025年、Japanese Psychological Research)によると、お辞儀をする人はお辞儀をしない人に比べて「魅力的に見える」効果が確認されています。ただしこの効果は日本人では顕著に見られたものの、アメリカ・ブラジル・インドの参加者では限定的でした。つまりお辞儀の「魅力アップ効果」は文化依存であることが示唆されています。
まとめ──お辞儀も握手もできる日本人が最強
英語圏でお辞儀をしたら「変」なのではありません。
ただ、相手の文化に合わせた上で自分の文化も伝えられる人が、
真のグローバルコミュニケーターです。
握手で「対等な信頼」を伝え、
お辞儀で「深い敬意」を伝えられる。
この二刀流こそが、日本人だけが持てる最強の武器です。
