月の裏側は、ずっと暗いわけではない
宇宙と地球No.160

月の裏側は、ずっと暗いわけではない

新月の夜、月の裏側は昼になっている。

ウソFALSE

この判定の対象「月の裏側は、ずっと暗い」

うなり度 読む時間9分 出典7件 確認した事実24件
もくじ
  1. 月の裏側にも昼と夜があり、新月の日は裏側の全面が昼になる
  2. 地球から裏側が見えないのは、月の自転と公転にかかる時間が同じだから
  3. 1959年、ソ連のルナ3号は月の裏側を撮り、宇宙でフィルムを現像して送った
  4. ルナ3号のフィルムは、ソ連に流れ着いたアメリカの偵察気球のものだった
  5. 人間が自分の目で裏側を見たのは、1968年のクリスマスイブ
  6. 深掘り講義
  7. まとめ
  8. 英語で読む(A2・4択5問)
  9. 出典・ウラ取り

月の裏側は、英語でよく「ダークサイド(暗い側)」と呼ばれます。いつも暗くて、太陽の光が届かない場所。そんなイメージをもつ人も多いでしょう。

でも、NASAはこの呼び方を「まぎらわしい」と書いています。月の裏側にも、ちゃんと昼と夜があるからです。それどころか、新月の日には、裏側の全面に日が当たっています。新月の日に暗いのは、地球に向いた表側のほうなのです。

では、なぜ私たちは、月の裏側を見ることができないのでしょう。そして、人類が裏側を初めて見たのは、いつだったのでしょう。

人類が初めて月の裏側を見たのは、1959年です。ソ連の探査機ルナ3号が、月の裏側の写真を撮り、宇宙でフィルムを現像して、地球へ送りました。そのフィルムは、もとはアメリカの偵察気球(敵の国を空から写すための気球)のものでした。

この記事では、まず月の裏側にも昼と夜があることと、地球から裏側が見えない理由を説明します。次に、ルナ3号とアポロ8号が、どうやって裏側を見たのかを紹介します。

01月の裏側にも昼と夜があり、新月の日は裏側の全面が昼になる

月は、太陽の光を受けて光っています。地球から見ると、月は満ちたり欠けたりします。これは、月の日が当たって明るい部分が、地球からどれだけ見えるかが、日によって変わるからです。

NASAの説明では、満月のとき、地球に向いた表側の全面に日が当たっています。このとき、裏側は夜です。反対に、新月のときは、裏側の全面に日が当たっています。表側が夜になるので、地球からは月が見えません。

つまり、裏側がまるごと夜になるのは、満月のころだけです。月の上の1か所に立つと、昼が約2週間、夜も約2週間つづきます。表側でも裏側でも同じです。

02地球から裏側が見えないのは、月の自転と公転にかかる時間が同じだから

月はまったく回っていない、と思う人もいるかもしれません。でも、月もちゃんと自転(自分でくるりと回ること)をしています。

NASAによると、月が1回自転するのにかかる時間は、地球の周りを1周する(公転する)時間と、ぴったり同じです。どちらも約27日です。NASAはこれを、ダンスの相手の周りを回りながら、いつも相手の方を向いているダンサーにたとえています。だから月は、裏側を地球に向けることがありません。

月のように、いつも同じ面を相手に向けている状態を、潮汐固定(ちょうせきこてい)といいます。潮汐固定は、珍しいことではありません。NASAによると、太陽系の大きな衛星(惑星の周りを回る星)は、どれも自分の惑星に、いつも同じ面を向けています。

月が生まれたころは、もっと速く自転していたと考えられています。地球の引力で、月はラグビーボールのように少し細長く伸びました。月が自転すると、この細長いふくらみの向きは、地球の方向からいつも少しずれていました。そのずれのせいで月の中で熱が生まれ、月の回る勢いが少しずつ失われました。そして、自転と公転の時間が同じになったところで、月の回る速さの変化が止まったのです。

031959年、ソ連のルナ3号は月の裏側を撮り、宇宙でフィルムを現像して送った

1959年10月4日、ソ連はルナ3号を打ち上げました。重さは278.5キロです。NASAの歴史書によると、全部の電気を太陽電池でまかなった、初めての探査機でした。

ルナ3号には、レンズが2つあるカメラがのっていました。1つは広く写すレンズ、もう1つは細かく写すレンズです。2つのレンズで同時に、35ミリのフィルムに写します。

10月7日、ルナ3号は、月から約6万5200キロの位置で写真を撮り始めました。約40分で29枚を撮りました。

ここからが大変です。フィルムは、探査機の中で自動的に現像され、乾かされました。次に、そのフィルムに細い光を当てて、写真を読み取りました。1枚の写真を最大1000本の線に分けて、1本ずつ読み取ったのです。そして、読み取った写真を、電波で地球に送りました。

電波を受けとったのは、クリミア半島のシメイズと、カムチャツカの基地でした。29枚のうち、使える画質だったのは17枚です。それでも人類は、初めて月の裏側の姿を見ることができました。

ルナ3号は、撮ったフィルムを探査機の中で現像して、地球に送った
ルナ3号は、撮ったフィルムを探査機の中で現像して、地球に送った

04ルナ3号のフィルムは、ソ連に流れ着いたアメリカの偵察気球のものだった

ルナ3号のフィルムには、アメリカとソ連が対立していた冷戦の時代ならではの、裏話があります。NASAの歴史書『ビヨンド・アース』は、冷戦が終わったあとに確かめられた話として、ルナ3号について書いた部分に、次のような話をのせています。

1950年代の終わりごろ、アメリカのCIAの偵察気球(ジェネトリクス計画)が、ソ連の国の中に流れ着きました。気球には、まだ使っていないフィルムが残っていました。そのフィルムは、レニングラード(今のサンクトペテルブルク)の軍の学校でしまわれていました。

ルナ3号のカメラを作っていた人たちが、このフィルムを見つけました。調べてみると、温度の変化にも放射線にも強いことが分かりました。宇宙で使うカメラに、ぴったりだったのです。こうして、アメリカがソ連を写すために用意したフィルムで、ソ連が月の裏側を初めて写すことになりました。

05人間が自分の目で裏側を見たのは、1968年のクリスマスイブ

ルナ3号の写真から9年後の、1968年12月24日。アメリカのアポロ8号が、月の裏側へ回りこみました。予定どおり、地球との通信が切れました。月が、電波をさえぎったのです。

NASAの記事によると、月の周りを回る軌道に入るためにエンジンを吹かす数分前、宇宙船の窓の中に、初めて月が入ってきました。3人の乗員は、月の裏側を自分の目で見た、最初の人間になりました。

アポロ8号は、約20時間、月の周りを回りました。1周約2時間のうち、45分は裏側にいて、地球と通信できませんでした。乗員たちは、月の表面をたくさん撮影しました。NASAによると、撮ったのは主に裏側です。そのとき、裏側のほうに日がよく当たっていたからでした。「暗い側」とは、正反対です。

2019年1月3日には、中国の嫦娥(じょうが)4号が、月の裏側への初めての着陸に成功しました。月の裏側からは、地球に電波が直接届きません。そこで中国は、前の年に、電波を中継する衛星「鵲橋(じゃっきょう)」を打ち上げ、地球から見て月の向こう側の軌道に置いていました。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

月の裏側には、表側に多い黒っぽい「海」がとても少ない

ルナ3号の写真は、科学者を驚かせました。NASAの歴史書によると、裏側には、表側で目立つ黒っぽい「海」が、とても少なかったのです。月の「海」は、水の海ではありません。とけた岩(溶岩)が流れ出て、平らに固まった場所です。この発見で、科学者たちは、月がどうやってできたかについての考えを見直すことになりました。

ルナ3号が月の近くを通る道すじは、くふうして決められていました。NASAの歴史書によると、写真に月の半分以上が写り、そのうち3分の1が表側になるように計画されていたのです。見なれた表側の地形が一緒に写っていれば、それを手がかりに、初めて見る裏側の地形の位置を決められます。知らない土地の地図を作るとき、知っている町を端に入れておくのと同じ考え方です。

2011年に、科学誌ネイチャーに、ユッツィ(Martin Jutzi)とアスファウグ(Erik Asphaug)の論文がのりました。この論文は、月の表側と裏側の違いを「月で一番目立つ地質の特徴」と呼んでいます。表側は低くて平らで、溶岩の海が広がります。裏側は山が多く、深いクレーターだらけです。

裏側に「海」が少ない理由は、まだ決まっていない

月の表側と裏側が違う原因は、まだ決着していません。2011年の論文は、これまでに出された説を、大きく2つに分けています。

1つは、月の内側に原因があるという説です。たとえば、地球の引力で、月の中の熱がかたよったという説があります。月の中で熱が運ばれる動きがかたよった、という説もあります。大昔、月の表面はとけた岩の海(マグマの海)におおわれていました。それが固まるときに、かたよりができた、という説もあります。

もう1つは、外からの出来事が原因という説です。たとえば、裏側の南のほうにある、とても大きなくぼ地(南極エイトケン盆地)をつくった衝突が原因だという説です。いん石が、表側か裏側のどちらかに多くぶつかった、という説もあります。

ユッツィとアスファウグは、新しい説を出しました。月ができたとき、直径約1200キロの「小さなもう一つの月」もできていたかもしれない。その小さな月は、数千万年のあいだ安定して漂っていた。そして、やがて月にぶつかって、裏側の山の多い土地をおおう厚い岩の層になった、という考えです。ただし、これも多くの説の一つです。

裏側からは地球に電波が届かないので、探査が難しい

月の裏側の探査が難しいのは、暗いからではありません。地球との電波が届かないからです。アポロ8号は、月を1周するたびに45分間、地球と話せなくなりました。月の周りを回る軌道に入るための最初のエンジン噴射も、地球との通信が切れたまま、裏側で行う必要がありました。

だから、嫦娥4号には中継衛星が必要でした。嫦娥4号が着陸したフォン・カルマン・クレーターは、直径186キロの丸いくぼ地です。このクレーターは、古くて深い南極エイトケン盆地の中にあります。NASAの紹介によると、月でもとくに古く、よく分かっていない地形がある場所です。

いつも同じ面を向ける「潮汐固定」は、宇宙ではよくある

月がいつも同じ面を地球に向けているのは、偶然ではありません。NASAは、大きな衛星はみんな潮汐固定になっていると説明しています。さらに、おたがいに潮汐固定になっている連星(2つで回り合う星)もあります。

太陽系の外の惑星にも、いつも同じ面を恒星(太陽のように自分で光る星)に向けているものが多いという証拠が、集まりつつあります。そうした惑星では、片側がずっと昼、反対側がずっと夜になります。本当の「暗い側」があるのは、むしろ、そうした惑星のほうなのです。

06まとめ

月の裏側は「暗い側」ではなく、地球から「見えない側」です。裏側にも昼と夜があり、新月の日には裏側の全面に日が当たっています。裏側が見えないのは、月が地球を1周するあいだに、ちょうど1回だけ自転しているからです。

1959年、その裏側を初めて写したルナ3号のフィルムは、アメリカの偵察気球から回収したものでした。次に新月の夜が来たら、「今、月の裏側は真昼だ」と思い出してください。

人に話すなら、こう言おう

月の裏側って「ずっと暗い側」じゃないんだって。新月の日は、裏側のほうに日が当たってるらしいよ。しかも裏側を初めて撮ったソ連の探査機のフィルムは、アメリカの偵察気球から回収したものだったんだって。
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英語で読む

The Side of the Moon We Never See

CEFR A2223 words4択 5問全訳つき
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英文をタップすると、その文の訳が出ます。

Some people call the far side of the Moon the dark side.月の裏側を「暗い側」と呼ぶ人がいます。 But NASA says that name is misleading.でもNASAは、その名前は誤解をまねくと言っています。 The far side has day and night, just like the near side.裏側にも、表側と同じように昼と夜があります。 At the time of a new moon, the whole far side is in sunlight.新月のときには、裏側の全体に日が当たっています。

So why can we never see it from Earth?では、なぜ地球からは裏側が見えないのでしょうか。 The Moon does spin, but very slowly.月はちゃんと回っていますが、とてもゆっくりです。 It turns around once in about 27 days.約27日で1回転します。 It also goes around Earth once in the same time.そして、同じ時間で地球のまわりを1周します。 Because of this, the same side always faces us.そのため、いつも同じ側が私たちの方を向いているのです。

In October 1959, a Soviet spacecraft called Luna 3 flew behind the Moon.1959年10月、ルナ3号というソ連の探査機が月の裏側へ飛んでいきました。 It took 29 pictures on film in about 40 minutes.約40分で、フィルムに29枚の写真を撮りました。 Then a machine inside developed the film, and the pictures were sent to Earth by radio.そして中の機械がフィルムを現像し、写真は電波で地球に送られました。 For the first time, people saw the far side.人々は初めて、月の裏側を見ました。

The film had a strange history.そのフィルムには、ふしぎないきさつがありました。 It came from an American spy balloon that had drifted into the Soviet Union.それは、ソ連に流れ着いたアメリカの偵察気球から来たものでした。 Soviet engineers found the film and saw that it was strong against heat and radiation.ソ連の技術者はそのフィルムを見つけ、熱や放射線に強いことに気づきました。 So they used it in their space camera.そこで、それを宇宙のカメラに使ったのです。

In 1968, the three Apollo 8 astronauts became the first people to see the far side with their own eyes.1968年、アポロ8号の3人の宇宙飛行士は、自分の目で裏側を見た最初の人間になりました。 They took many photos of it because it had more sunlight at that time.そのとき裏側のほうに日がよく当たっていたので、彼らは裏側の写真をたくさん撮りました。 The far side is not dark.裏側は暗くありません。 It is only hidden.ただ、かくれているだけなのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2How many pictures did Luna 3 take?

    ルナ3号は何枚の写真を撮りましたか。

  3. Q3Why do we always see the same side of the Moon?

    なぜ私たちはいつも月の同じ側を見ているのですか。

  4. Q4In paragraph 1, the word "misleading" is closest in meaning to ...

    第1段落の "misleading" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the Luna 3 film?

    ルナ3号のフィルムについて正しいのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • far side名詞
    (月の)裏側、遠い側

    We cannot see the far side of the Moon from Earth.

    地球からは月の裏側を見ることができない。

    💡 反対は near side(表側)。far は「遠い」。

  • misleading形容詞
    誤解をまねく

    The title of the news story was misleading.

    そのニュースの見出しは誤解をまねくものだった。

    💡 動詞 mislead(誤解させる)。mis- は「まちがって」。

  • spin動詞
    回る、回転する

    The wheel began to spin faster.

    車輪がより速く回り始めた。

    💡 過去形は spun。自転は spin、公転は go around で表せる。

  • spacecraft名詞
    宇宙船、探査機

    The spacecraft sent pictures of Mars.

    その探査機は火星の写真を送ってきた。

    💡 複数形も spacecraft。人が乗らない探査機にも使う。

  • develop動詞
    (フィルムを)現像する、発達させる

    My grandfather used to develop his own photos.

    祖父は昔、自分で写真を現像していた。

    💡 「開発する、発達する」の意味でもよく使う。名詞 development。

  • spy名詞
    スパイ、偵察

    The spy took secret photos of the base.

    スパイはその基地の秘密の写真を撮った。

    💡 a spy balloon で「偵察気球」。動詞で spy on 〜(〜をこっそり見はる)。

  • radiation名詞
    放射線

    Space has strong radiation from the Sun.

    宇宙には太陽から来る強い放射線がある。

    💡 radiate(放つ)の名詞形。

  • hidden形容詞
    かくれた、見えない

    We found a hidden door behind the shelf.

    私たちは棚のうしろにかくれたドアを見つけた。

    💡 hide(かくす)の過去分詞。hide-hid-hidden。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 24件)。

  1. Earth's Moon: Facts(NASA Science)science.nasa.gov
  2. Tidal Locking(NASA Science)science.nasa.gov
  3. Moon Phases(NASA Science)science.nasa.gov
  4. Siddiqi, A. A. (2018) Beyond Earth: A Chronicle of Deep Space Exploration, 1958–2016, NASA SP-2018-4041(NASA)nasa.gov
  5. Uri, J. (2018) 50 Years Ago: Apollo 8 in Lunar Orbit(NASA)nasa.gov
  6. APOD: 2019 January 5 – Yutu 2 on the Farside(NASA)science.nasa.gov
  7. Jutzi, M. & Asphaug, E. (2011) Forming the lunar farside highlands by accretion of a companion moon, Nature 476doi.org

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文章はすべて資料をもとに独自の言葉で書いています。画像はオリジナルのイメージです。誤りにお気づきの方は訂正窓口へ。

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