生のパイナップルを入れると、ゼリーが固まらない
ウラ取りライフハックNo.077

生のパイナップルを入れると、ゼリーが固まらない

パイナップルの酵素が、ゼリーのもとを分解する。

ホントTRUE

この判定の対象「生のパイナップルを入れると、ゼラチンのゼリーは固まらない」

うなり度 読む時間7分 出典9件 確認した事実24件
もくじ
  1. ゼリーは、ゼラチンのたんぱく質の鎖が網の目を作って固まる
  2. パイナップルの酵素ブロメラインは、ゼラチンの鎖を切ってしまう
  3. 缶詰のパイナップルは、加熱で酵素が働かなくなっているので固まる
  4. パイナップルの茎の酵素は、深いやけどの治療薬になった
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

2012年、茨城県立日立第一高校の生徒2人が、パイナップルの果汁で小さな実験をしました。果汁に、薄い過酸化水素水を混ぜて30分置きます。それからゼラチンの液と合わせて、1日置いておきます。普通なら、パイナップル果汁を入れたゼラチンは固まりません。ところが、この液はちゃんと固まりました。

この研究は、その年の日本農芸化学会の大会で、高校生の発表の賞に選ばれました。生徒たちは、「パイナップルでゼリーが固まらないのは、果汁の中の酵素のせいだ」と考えました。そして、その酵素の性質を調べたのです。

「生のパイナップルでゼリーを作ると固まらない」「缶詰なら固まる」。よく知られたこの話は本当です。この記事では、まず、ゼリーが固まるしくみを説明します。次に、パイナップルの酵素がゼリーを固まらなくする理由と、缶詰なら固まる理由を紹介します。最後に、同じ酵素がやけどの治療薬にも使われていることを紹介します。

01ゼリーは、ゼラチンのたんぱく質の鎖が網の目を作って固まる

まず、ゼリーが固まるしくみから見てみましょう。ゼラチンは、コラーゲンというたんぱく質から作られます。コラーゲンは、動物の体を支える結合組織(皮やすじなど)に含まれています。コラーゲンは、3本の鎖がよりあわさった、らせん形のたんぱく質です。

ゼラチンを熱いお湯に溶かすと、熱でらせんがほどけます。そして、鎖が1本ずつばらばらになります。冷やすと、その鎖どうしがまたくっつき合い、網の目を作ります。網の目の中に水が閉じこめられて、ぷるぷるのゼリーになるのです。

つまり、ゼリーが固まるには、長いたんぱく質の鎖が必要です。鎖が短く切られてしまうと、網の目を作れません。

02パイナップルの酵素ブロメラインは、ゼラチンの鎖を切ってしまう

パイナップルには、ブロメラインという酵素が含まれています。酵素とは、生き物が作る物質で、化学反応を助ける働きをします。ブロメラインは、たんぱく質の鎖を切る「ハサミ」の役目をします。

生のパイナップルをゼラチンの液に入れると、ブロメラインがゼラチンの鎖をあちこちで切ってしまいます。だから、冷やしても網の目ができず、ゼリーが固まらないのです。

ブロメラインがどれだけゼラチンを切るかは、この酵素の強さを測る基準にもなっています。2012年に、ブロメラインの研究をまとめた論文によると、ブロメラインの強さは、カゼイン(牛乳のたんぱく質)やゼラチンをどれだけ分解するかで表されます。ゼラチンを分解する力そのものが、強さの単位になっているのです。

ゼラチンの鎖が作る網の目に水が閉じこめられて、ゼリーになる。ブロメラインは、その鎖を切ってしまう
ゼラチンの鎖が作る網の目に水が閉じこめられて、ゼリーになる。ブロメラインは、その鎖を切ってしまう

03缶詰のパイナップルは、加熱で酵素が働かなくなっているので固まる

では、なぜ缶詰のパイナップルなら、ゼリーが固まるのでしょうか。理由は、缶詰を作るときの熱です。

酵素もたんぱく質でできています。熱を加えると形が壊れ、働かなくなります。2000年に、アメリカの学会誌に載った論文があります。この論文には、缶詰のパイナップルでは、品質を保つためにブロメラインを働かなくする必要がある、と書かれています。この研究では、パイナップル果汁を55℃から67℃の間のいくつかの温度で温めました。そして、ブロメラインが時間とともに力を失う速さを調べました。

生のパイナップルでゼリーを作りたいときも、考え方は同じです。果汁や実をしっかり加熱してから使えば、酵素は働きません。

一方、寒天を使えば、生のパイナップルでもゼリーが固まります。寒天は、紅藻という海藻からとれる多糖類(糖がたくさんつながったもの)です。たんぱく質ではないので、ブロメラインは寒天の鎖を切れません。

04パイナップルの茎の酵素は、深いやけどの治療薬になった

ブロメラインの話は、台所の外にも広がっています。

深いやけどをすると、皮ふの表面に死んだ組織がたまります。やけどを治すには、この死んだ組織を取りのぞく必要があります。普通は手術で切りとります。でも手術では、まだ生きている皮ふまで失いやすく、出血も多くなります。

そこで使われるようになったのが、パイナップルの茎からとった酵素の薬です。生きている組織をなるべく残しながら、死んだ組織を分解して取りのぞきます。この薬(NexoBrid)は、2012年にヨーロッパで、2022年にアメリカで承認されました。ただし、使うには条件があります。例えば、1回にぬれるのは体の表面の15%まで(小さな子どもは10%まで)です。痛みやアレルギーといった課題もあります。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

過酸化水素で酵素の「刃」の部分を変えると、ゼリーが固まった

たんぱく質を切る酵素を、プロテアーゼといいます。ブロメラインは、その中でも「チオールプロテアーゼ」という仲間です。ハサミの刃にあたる場所に、硫黄を含む「チオール基」という部分があります。ブロメラインは、そこでたんぱく質の鎖のつなぎ目を切ります。

日立第一高校の実験は、この刃の部分をねらったものでした。過酸化水素で刃の部分を変えると、酵素は働かなくなり、ゼリーが固まりました。刃をさびさせるようなイメージです。過酸化水素が濃いほど、できたゼリーは温めても溶けにくくなりました。

さらに、システイン(硫黄をもつアミノ酸)を加えると、ゼリーはまた固まらなくなりました。システインだけを入れたゼラチンは固まります。そのため、システインが酵素を「生き返らせた」と考えられます。

ただし、この発表をのせた雑誌『化学と生物』の編集委員会は、慎重な一文もそえています。本当にチオール基の変化で、酵素が働いたり止まったりするのか。そもそも、ゼラチンがブロメラインで分解されているのか。こうした点は、まだ結論を出すのは早い、としています。身近なゼリーの話でも、詳しいしくみには、まだ分かっていない部分が残っているのです。

ブロメラインは、温度が10℃上がると、熱で働かなくなる速さが30倍あまりになる

2000年の論文は、熱でブロメラインが働かなくなる速さを、温度ごとに測りました。酵素が働かなくなることを、失活(しっかつ)といいます。論文は、測った結果から「活性化エネルギー」を求めました。活性化エネルギーとは、反応の起こりにくさを表す数字です。その値は、1モル(モルは、物質の粒をまとめて数える単位)あたり約32万6000ジュール(ジュールはエネルギーの単位)でした。

この値から計算すると、55℃から65℃のように10℃上がるだけで、失活の速さは30倍あまりになります。温度と反応の速さの関係を表す式(アレニウスの式)を使った、計算の目安です。わずか10℃の温度の差が、30倍もの違いを生むのです。

ちなみに、植物の酵素をまとめた2022年の論文の表では、茎のブロメラインがよく働く温度は約70℃とされています。そのため、少し温めるだけでは、酵素を止めるには足りないと考えられます。

ほかの果物の酵素と、ゼラチンをわざと固まらなくする研究

たんぱく質を切る植物の酵素は、ほかにもあります。パパイヤのパパイン、イチジクのフィシン、キウイフルーツのアクチニジンなどです。どれも、肉や魚などのたんぱく質を分解する用途で使われてきました。

逆に、「ゼラチンを固まらなくする」ことを目的にした研究もあります。2026年の研究では、ゼラチンを酵素で分解すると、固まる力が弱まりました。ある酵素で分解したものは、まったく固まらなくなりました。この研究の目的は、液体の食品にゼラチンを使いやすくすることです。台所では失敗になる「固まらない」ことが、別の場面では目的になるのです。

実のブロメラインと茎のブロメラインは、別の酵素

ブロメラインには、実からとるものと茎からとるものがあり、成分が少し違います。普通「ブロメライン」というと、茎のものを指します。茎はブロメラインが多く、普段は食べずに捨てられる部分なので、安く取り出せます。実と茎のブロメラインは、酵素を整理する国際的な番号(EC番号)も別々についています。

やけどの薬も、茎の酵素から作られています。2000年の論文が果汁のブロメラインを調べたのは、それまでの熱の研究が、茎からとったものばかりだったからです。缶詰で問題になるのは、実の酵素のほうです。

05まとめ

生のパイナップルでゼリーが固まらないのは、酵素ブロメラインが、ゼラチンのたんぱく質の鎖を切ってしまうからでした。缶詰なら、加熱で酵素が働かなくなっているので固まります。たんぱく質ではない寒天なら、生のパイナップルを入れても固まります。

そして、パイナップルの茎からとった酵素は、深いやけどの死んだ組織を取りのぞく薬にもなりました。ゼリーを固まらなくする酵素の力が、病院ではやけどの治療に役立っているのです。

人に話すなら、こう言おう

生のパイナップルでゼリーが固まらないのは、ゼラチンを切る酵素が入っているからなんだって。缶詰なら加熱ずみで平気。茎からとった仲間の酵素は、やけどの治療薬にもなってるらしいよ。
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英語で読む

The Fruit That Cuts Jelly

CEFR A2213 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

If you put fresh pineapple in gelatin, the jelly will not set.生のパイナップルをゼラチンに入れると、ゼリーは固まりません。 But if you use pineapple from a can, it sets well.でも缶詰のパイナップルを使えば、ちゃんと固まります。 Why is there a difference?なぜちがいがあるのでしょうか。

Gelatin is a protein made from collagen.ゼラチンは、コラーゲンから作られるたんぱく質です。 In hot water, its long chains come apart.熱いお湯の中では、その長い鎖がばらばらになります。 When the water cools, the chains join again and make a net that holds water.お湯が冷えると、鎖がまたつながって、水を閉じこめる網を作ります。 This net is the jelly.この網がゼリーなのです。 So gelatin needs long chains to work.だからゼラチンには、長い鎖が必要なのです。

Fresh pineapple has an enzyme called bromelain.生のパイナップルには、ブロメラインという酵素があります。 An enzyme is a natural helper that makes chemical changes happen.酵素とは、化学の変化を起こす手助けをする、自然の物質です。 Bromelain works like scissors and cuts proteins into short pieces.ブロメラインはハサミのようにはたらき、たんぱく質を短く切ります。 Short pieces cannot make a net, so the jelly stays soft.短い切れはしでは網を作れないので、ゼリーはやわらかいままです。

Canned pineapple is heated, and heat stops the enzyme.缶詰のパイナップルは加熱されていて、熱が酵素を止めます。 Agar, a jelly made from seaweed, is not a protein, so fresh pineapple cannot cut it.海藻から作られる寒天はたんぱく質ではないので、生のパイナップルでも切れません。 In 2012, two high school students in Japan also mixed pineapple juice with a weak chemical.2012年には、日本の2人の高校生が、パイナップル果汁にうすい薬品をまぜる実験もしました。 The chemical stopped the enzyme, and the jelly set.その薬品が酵素を止め、ゼリーは固まりました。 This suggested that the enzyme was the cause.このことから、原因は酵素だと考えられました。

The same kind of enzyme now helps doctors.同じ仲間の酵素は、今では医師の役に立っています。 A medicine made from pineapple stems can remove dead skin from deep burns.パイナップルの茎から作られた薬は、深いやけどの死んだ皮ふを取りのぞくことができます。 Europe approved it in 2012, and the United States approved it in 2022.ヨーロッパは2012年に、アメリカは2022年にこの薬を承認しました。 So the fruit that ruins your jelly can also help people heal.ゼリーをだめにする果物は、人がけがを治す助けにもなるのです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did the United States approve the medicine?

    アメリカがその薬を承認したのはいつですか。

  3. Q3Why does canned pineapple not stop jelly from setting?

    缶詰のパイナップルが、なぜゼリーが固まるのをじゃましないのですか。

  4. Q4In paragraph 5, the word "ruins" is closest in meaning to ...

    第5段落の "ruins" に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話の内容と合っているのはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • fresh形容詞
    新鮮な、生の

    We bought fresh fish at the market.

    市場で新鮮な魚を買った。

    💡 fresh air で「新鮮な空気」。反対は stale(古くなった)。

  • set動詞
    (ゼリーなどが)固まる

    Put the jelly in the fridge until it sets.

    ゼリーが固まるまで冷蔵庫に入れておいて。

    💡 set にはたくさんの意味がある。料理では「固まる」。

  • protein名詞
    たんぱく質

    Meat and eggs are rich in protein.

    肉や卵はたんぱく質が豊富だ。

    💡 be rich in で「〜が豊富だ」。

  • enzyme名詞
    酵素

    Enzymes in our stomach help us digest food.

    胃の中の酵素は、食べ物の消化を助ける。

    💡 発音は「エンザイム」。

  • scissors名詞
    はさみ

    Can I use your scissors?

    はさみを借りてもいい?

    💡 いつも複数形。1丁は a pair of scissors。

  • seaweed名詞
    海藻

    Nori is a kind of seaweed.

    のりは海藻の一種だ。

    💡 sea(海)+ weed(雑草)。

  • burn名詞
    やけど

    Put cold water on a burn right away.

    やけどにはすぐに冷たい水をかけて。

    💡 動詞では「燃える、焼ける」。

  • approve動詞
    承認する、認める

    The teacher approved our plan.

    先生は私たちの計画を認めた。

    💡 名詞は approval(承認)。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 24件)。

  1. Pavan, R. ほか (2012) Properties and Therapeutic Application of Bromelain: A Review, Biotechnology Research Internationaldoi.org
  2. Sriwatanapongse, A., Balaban, M., Teixeira, A. (2000) Thermal inactivation kinetics of bromelain in pineapple juice, Transactions of the ASAE 43(6)doi.org
  3. タンパク質分解酵素の不活性化と再活性化(茨城県立日立第一高等学校、化学と生物 50(10)、日本農芸化学会、2012)katosei.jsbba.or.jp
  4. Kassa, T. ほか (2026) Review on Gelling and Foaming Agents in Food: Mechanism and Applications, Food Science & Nutritiondoi.org
  5. Troncoso, F. D. ほか (2022) Production of Plant Proteases and New Biotechnological Applications: An Updated Review, ChemistryOpendoi.org
  6. Wi, C. H. ほか (2026) Effects of Alcalase and Pepsin Hydrolysis on Gel Forming Behavior and Technological Properties of Porcine Skin Gelatin, Gelsdoi.org
  7. Bordeanu-Diaconescu, E.-M. ほか (2024) Bromelain in Burn Care: Advancements in Enzymatic Debridement and Patient Outcomes, European Burn Journal 5doi.org
  8. NexoBrid(欧州医薬品庁 EMA)ema.europa.eu
  9. BLA 761192 NexoBrid 承認通知(米国食品医薬品局 FDA、2022年12月28日)accessdata.fda.gov

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