ガリレオがピサの斜塔で球を落とした実験は、本当にあったのか
歴史のウソ・ホントNo.018

ガリレオがピサの斜塔で球を落とした実験は、本当にあったのか

斜塔の実験は、約60年後の記録にしか出てこない。

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この判定の対象「ガリレオは、ピサの斜塔から球を落とす実験をした」

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もくじ
  1. 斜塔の実験の話は、実験から60年以上あとに弟子が書いた
  2. ガリレオ本人の本には、「重い球が指2本分だけ先に着く」とある
  3. ガリレオより前に、オランダのステヴィンが球を落とす実験を記録していた
  4. 空気のない月面では、ハンマーと羽が同時に落ちた
  5. 深掘り講義
  6. まとめ
  7. 英語で読む(A2・4択5問)
  8. 出典・ウラ取り

1971年8月、月面。アポロ15号のデイヴィッド・スコット船長が、テレビカメラの前に立ちました。片手にハンマー、もう片方の手に1本の羽を持っています。手を離すと、2つは並んで落ち、同時に月の砂に着きました。

スコットは、こう言ったと記録されています。

「ガリレオ氏の発見は正しかった」

重い物も軽い物も、空気がなければ同じように落ちる。この考えを広めたのは、ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)です。その証拠としてよく語られるのが、「ピサの斜塔から重さの違う球を落とした」という話です。

ところが、この斜塔の実験を書いた記録をたどると、行き着くのは一つだけです。ガリレオが亡くなったあとに弟子が書いた伝記です。ガリレオ本人が書いた『新科学対話』にも、塔から落とした話は出てきません。そこに書かれていたのは、「重い球のほうが、指2本分だけ先に着く」という一文でした。

この記事では、まず斜塔の話を書いた弟子の伝記を見ます。次に、ガリレオ本人の本の「指2本分」の文を読みます。最後に、ガリレオより前に球を落としたオランダの学者と、月面での実験を紹介します。

01斜塔の実験の話は、実験から60年以上あとに弟子が書いた

斜塔の実験を書いたのは、ガリレオの最後の弟子ヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニ(Vincenzo Viviani)です。1654年にまとめた『ガリレオ伝』の中で、次のような内容を書いています。

同じ材料でできた、重さの違う物は、同じ速さで落ちる。ガリレオはこれを、ピサの鐘楼(斜塔のこと)の高さからくり返し実験して示した。その場には、ほかの教授や哲学者、そして学生全員がいた。

ヴィヴィアーニは、この実験を1590〜1591年のこととしています。伝記を書いた1654年までに、60年以上がたっていました。

イタリアには、科学の歴史を伝えるガリレオ博物館(Museo Galileo)があります。この博物館は、塔の実験が本当にあったかどうかは、かなり疑わしいと説明しています。博物館がつくった、ピサのガリレオゆかりの場所の案内でも、塔の実験は、確かめようのない伝説として紹介されています。

ヴィヴィアーニの伝記には、細かい点をめぐって研究者の意見が分かれた話が、ほかにもあります。ガリレオがピサ大聖堂のランプの揺れを見て、振り子の仕組みに気づいた、という有名な話です。歴史家ファヴァーロ(Antonio Favaro)は、この話を伝説とみなしました。いま大聖堂に下がっているランプは、ガリレオがピサを去ったあとに吊るされたものだと示したのです。ただし、その後の研究で、ガリレオの時代にも別のランプが下がっていたことが分かっています。そのランプは今、ピサの記念墓地に残っています。

02ガリレオ本人の本には、「重い球が指2本分だけ先に着く」とある

では、ガリレオ自身は何と書いたのでしょうか。

1638年、ガリレオの『新科学対話』が、オランダのライデンの出版社から出ました。3人の人物が話し合う形の本です。その中で、登場人物の1人サグレドがこう言います。

自分で試してみた。100ポンドや200ポンド、あるいはもっと重い砲弾と、たった半ポンドの小銃の弾を落としてみた。高さは200キュービット(腕の長さほどの昔の単位)だ。それでも砲弾は、手を広げた幅(スパン)ほども先には着かない。

サグレドのこの話には、塔の名前は出てきません。

続けて、サルヴィアティという人物が、実験で出た小さな差を正直に話します。サルヴィアティは、ガリレオの考えを代わりに語る役です。実際にやってみると、大きい球のほうが指2本分先に着く。でもアリストテレスの説では、100ポンドの鉄の球が100キュービット落ちるあいだに、1ポンドの球は1キュービットしか進まないはずだ。アリストテレスの説の99キュービットもの大きな間違いを、指2本分の小さなずれのかげに隠してはいけない、と。

サルヴィアティは、まず「2つは同時に着く」と言い切っています。そのうえで、空気の中で実際に落とせば、ほんの少し差が出ることも認めています。アリストテレスの説は、重さに比例して速く落ちるというものでした。その説の間違いに比べれば、指2本分の差は比べものにならないほど小さい、という主張でした。

03ガリレオより前に、オランダのステヴィンが球を落とす実験を記録していた

実は、重さの違う球を落とす実験には、ガリレオより前のはっきりした記録があります。オランダで活躍した学者、シモン・ステヴィン(Simon Stevin)の本です。

ステヴィンは、友人のヤン・コルネッツ・デ・フロート(Jan Cornets de Groot)と2人で、こんな実験をしたと書いています。

鉛の球を2つ用意する。一方は、もう一方より10倍大きく重い。それを30フィート(建物の3階ほど)の高さから、音がよく響く板の上に同時に落とす。すると、軽いほうは10倍も遅れたりしない。2つはほとんど同時に落ちて、音が1つに聞こえる。

オランダの科学史家ディクステルホイス(E. J. Dijksterhuis)によると、この実験は遅くとも1586年には行われていました。ヴィヴィアーニが書いたピサの実験(1590〜91年)より前です。

ステヴィンは、2つの球が板に当たる音が1つに聞こえたと書いた
ステヴィンは、2つの球が板に当たる音が1つに聞こえたと書いた

デ・フロートは、1591年から1595年までデルフトの市長を務めた人物です。その息子が、のちに名を知られる学者フーゴー・グロティウス(デ・フロート)でした。ディクステルホイスの論文の題名は『ステヴィンとグロティウス家』です。題名の「グロティウス家」とは、デ・フロートと、息子のフーゴー・グロティウスのことです。

デルフトの新教会は、公式サイトでこう紹介しています。2人は、この教会の塔から鉛の球を落とした、と。ただ、ステヴィン自身の文章にあるのは「30フィートの高さから」という数字だけです。

04空気のない月面では、ハンマーと羽が同時に落ちた

空気のある地球では、羽は鉄の球のようには落ちません。空気の抵抗を受けるからです。ガリレオが書いた「指2本分」の差も、空気の抵抗によるものと考えられます。

空気のない場所で実験したのが、1971年のアポロ15号でした。3回目の月面活動の最後に、スコット船長は2つの物を同時に落としました。1.32kgのアルミ製のハンマーと、ハヤブサの羽です。管制官ジョー・アレンは、報告書にこう書いています。2つは同じ加速度で落ち、同時に月面に当たった、と。

羽がハヤブサのものだったのにも、理由があります。アポロ15号の月着陸船の名前が「ファルコン(ハヤブサ)」だったのです。スコットは、われらがファルコンにふさわしい羽だ、と話しています。

LECTURE

深掘り講義

ここから先は、もう一段深く。しくみ・史料・論争まで踏み込みます。

師を尊敬する弟子が書いた伝記は、気をつけて読む必要がある

史料批判とは、古い記録がどこまで信用できるかを調べることです。ヴィヴィアーニは、晩年のガリレオのそばにいた弟子です。師を深く尊敬していた人が、師の死後に伝記を書く。そうした伝記には、どうしても「師を立派に描きたい」という気持ちが入ります。

しかも、ヴィヴィアーニは最後の弟子でした。60年以上前のピサ時代の出来事を、自分の目で見ていたとは考えにくいでしょう。書かれた内容は、晩年のガリレオから聞いた話か、ほかの人から伝わった話だと考えられます。大聖堂のランプの話のように、ヴィヴィアーニが書いたことの中には、本当かどうかについて研究者の評価が何度も揺れてきたものがあります。これも、伝記を慎重に読むべき理由です。

一方、ガリレオ本人の『新科学対話』は、登場人物の会話という形をとっています。サグレドの「自分で試した」という言葉は、ガリレオ自身の体験をもとにしている可能性があります。ただし、物語の中のせりふであることも忘れてはいけません。

斜塔の実験について、研究者の評価は分かれてきた

斜塔の実験の評価は、研究者のあいだで割れてきました。パドヴァ大学のファヴァーロは、ピサの実験がアリストテレス派の学問を打ち負かす決め手になったと評価しました。これに対し、オランダのボスハは、ステヴィンの記録のほうが早いと皮肉で応じました。ディクステルホイスも1942年の論文で、ピサの伝承を「価値の疑わしいもの」と位置づけています。

ただし、斜塔が実験の場として使われたこと自体は、記録があります。ガリレオ博物館によると、のちに学会「アカデミア・デル・チメント」の会員たちが、塔の高さを使って自分たちの理論を試しました。塔は「実験の場所」として知られていたのです。斜塔が実験の場所として知られていたことが、ガリレオの伝説をもっともらしく見せたのかもしれません。

空気がなければ、重い物も軽い物も同じように落ちるわけ

重い物は、地球から強く引っぱられます。でも同時に、重い物ほど「動かしにくい」性質も大きくなります。この性質を慣性と言います。重さが2倍になれば、地球が引っぱる力も、動かしにくさも、どちらも2倍になります。この2つの効果が、ちょうど打ち消し合います。だから空気がなければ、物は重さに関係なく、同じように速さを増しながら落ちていきます。

空気の中では話が変わります。落ちる物は、空気を押しのけなければなりません。その抵抗は、形や大きさ、速さによって変わります。羽のように軽くて面積の広い物は、抵抗の影響を強く受けます。鉄の球どうしでも、重さと大きさの比が違えば、わずかな差が出ます。ガリレオの「指2本分」は、この空気の抵抗による差だと考えられます。

頭の中の実験:重い石と軽い石をひもでつなぐと、どうなるか

ガリレオは『新科学対話』で、実験だけでなく「頭の中の実験」でもアリストテレスに反論しました。

速く落ちる重い石と、ゆっくり落ちる軽い石を、ひもでつないだとします。アリストテレスの説が正しいなら、軽い石は重い石の足を引っぱるはずです。すると2つ合わせた物は、重い石だけのときより遅く落ちることになります。ところが、2つを合わせた物は、重い石よりさらに重いのです。同じ説によれば、もっと速く落ちるはずです。1つの説から、正反対の答えが2つ出てしまいます。だから、重さで落ちる速さが決まるという説は間違っている、という論法です。

ひもでつないだ石の考え方は、塔に登らなくても、紙とペンだけで確かめられます。ガリレオの説を支えたのは、塔で人に見せる実験より、むしろこうした筋道の通った考えだった、と見ることもできます。

05まとめ

ピサの斜塔の実験を書いた記録は、60年以上あとに最後の弟子ヴィヴィアーニが書いた伝記だけです。ガリレオ本人の『新科学対話』には、塔は出てきません。代わりに「大きい球が指2本分先に着く」という、正直な一文がありました。

そして、重さの違う球を落とした記録として早いのは、オランダのステヴィンです。10倍重い鉛の球と軽い球を落とし、2つの音が1つに聞こえたと書きました。重い物と軽い物を同時に落としたら、着地の「音」に耳を澄ませてみてください。ステヴィンがやったのと同じ確かめ方です。

人に話すなら、こう言おう

ガリレオがピサの斜塔から球を落とした話って、60年以上あとに弟子が書いた伝記にしか出てこないんだって。しかもオランダのステヴィンが、それより前に鉛の球を落として「音が1つに聞こえた」って書いてるらしいよ。
READ IN ENGLISH

英語で読む

Two Balls, One Sound

CEFR A2228 words4択 5問全訳つき
0:00

英文をタップすると、その文の訳が出ます。

In August 1971, an astronaut stood on the Moon.1971年8月、ひとりの宇宙飛行士が月の上に立っていました。 His name was David Scott.彼の名前はデイヴィッド・スコットです。 He held a hammer in one hand and a feather in the other.彼は片手にハンマーを、もう片方の手に羽を持ちました。 He let them go, and they hit the ground together.手を離すと、2つは同時に地面に落ちました。 He said Galileo was right.彼は「ガリレオは正しかった」と言いました。

Many people know a famous story about Galileo.ガリレオについての有名な話を、多くの人が知っています。 He dropped two balls of different weights from the Leaning Tower of Pisa.彼がピサの斜塔から、重さの違う2つの球を落としたという話です。 But the only record of this comes from a biography by his last student, Vincenzo Viviani.でも、この話の記録は、最後の弟子ヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが書いた伝記しかありません。 Viviani wrote it in 1654, more than 60 years after the event.ヴィヴィアーニがそれを書いたのは1654年で、出来事から60年以上もあとでした。 Galileo's own book does not talk about the tower.ガリレオ自身の本には、塔の話は出てきません。

In his 1638 book, Galileo wrote something honest.1638年の本で、ガリレオは正直なことを書いています。 When you drop a big ball and a small ball, the big one lands a little earlier.大きい球と小さい球を落とすと、大きいほうが少しだけ先に着く、というのです。 The difference is only about two fingers.その差は、指2本分ほどしかありません。 The air probably causes this small difference.この小さな差は、おそらく空気のせいです。

Someone did a similar test even earlier.似た実験を、もっと早くにした人がいました。 In the Netherlands, by 1586, Simon Stevin and his friend Jan Cornets de Groot dropped two lead balls.オランダでは1586年までに、シモン・ステヴィンと友人のヤン・コルネッツ・デ・フロートが、2つの鉛の球を落としました。 One ball was ten times heavier than the other.一方の球は、もう一方より10倍重いものでした。 They fell from about 30 feet onto a board.球は30フィートほどの高さから板の上に落ちました。 The two balls hit the board at almost the same time, so the sounds seemed like one.2つの球はほとんど同時に板に当たったので、音は1つに聞こえました。

On the Moon there is no air, so even a feather falls like a hammer.月には空気がないので、羽でさえハンマーと同じように落ちます。 The feather came from a falcon, because the landing craft was named the Falcon.その羽はハヤブサの羽でした。月着陸船の名前が「ファルコン(ハヤブサ)」だったからです。

4択問題 Reading Quiz

  1. Q1What is this story mainly about?

    この話は主に何についてのものですか。

  2. Q2When did Viviani write about the tower test?

    ヴィヴィアーニが塔の実験について書いたのはいつですか。

  3. Q3Why did the big ball land a little earlier?

    大きい球が少しだけ先に着いたのはなぜですか。

  4. Q4In paragraph 3, the word "honest" is closest in meaning to

    第3段落の「honest」という語に最も意味が近いのはどれですか。

  5. Q5Which is true about the story?

    この話について正しいものはどれですか。

重要語 Key Words(タップで裏返る)

  • astronaut名詞
    宇宙飛行士

    She wants to be an astronaut in the future.

    彼女は将来、宇宙飛行士になりたいと思っている。

    💡 astro(星)+ naut(船乗り)。

  • feather名詞
    羽、羽毛

    The bird dropped a blue feather.

    その鳥は青い羽を1枚落とした。

    💡 as light as a feather(羽のように軽い)。

  • biography名詞
    伝記

    I read a biography of a famous scientist.

    私は有名な科学者の伝記を読んだ。

    💡 bio(人生)+ graphy(書くこと)。自分で書くと autobiography(自伝)。

  • honest形容詞
    正直な

    Thank you for your honest answer.

    正直に答えてくれてありがとう。

    💡 h は発音しない。an honest boy と an を使う。

  • difference名詞
    違い、差

    There is a small difference between the two pictures.

    2枚の絵には小さな違いがある。

    💡 different(違った)の名詞形。make a difference で「違いを生む」。

  • lead名詞
    鉛

    Old water pipes were sometimes made of lead.

    古い水道管は鉛でできていることがあった。

    💡 金属の「鉛」は [led] と発音。動詞 lead(導く)[li:d] と区別。

  • weight名詞
    重さ

    The two bags have the same weight.

    2つのかばんは同じ重さだ。

    💡 動詞は weigh(重さがある、重さを量る)。

  • drop動詞
    落とす

    Be careful not to drop the glass.

    コップを落とさないように気をつけて。

    💡 過去形は dropped(p を重ねる)。名詞で「しずく」の意味も。

SOURCES出典・ウラ取り

この記事の事実は、次の資料を実際に開いて確認しています(確認した事実 15件)。

  1. The Tower(Museo Galileo, Pisa: Following the Path of Galileo)brunelleschi.imss.fi.it
  2. Pisa: Following the Path of Galileo(Museo Galileo)brunelleschi.imss.fi.it
  3. Galilei, G. (1638/1914) Dialogues Concerning Two New Sciences, trans. H. Crew & A. de Salvio(トロント大学 所蔵本)archive.org
  4. Dijksterhuis, E. J. (1942) Stevin en de Grotii, De Gids 106(DBNL)dbnl.org
  5. Apollo 15 Hammer-Feather Drop(NASA NSSDC)nssdc.gsfc.nasa.gov
  6. 50 Years Ago: Apollo 15 on the Moon at Hadley-Apennine(NASA)nasa.gov

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